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光刃現眼
争いの本質
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「――えっ?」
不思議そうに、再度、顔をしかめるシゲマルの前に、黒面軍師はまた何かを持ったフリをした、右の掌を差し出して――
「――その蜜味の粉餅が、翼域と皇領なのですよ、各国から見ればね」
――と、開いて見せて、その何も持っていない掌をヒラヒラと振る。
「そして、我らがスヨウの国は、その粉餅を食べて見せた友――ですから、どうしても、それが食べてみたい……いえ、翼域を侵してみたい。
そう思う各国は、皇様を御助けするという大義名分が無くとも、翼域という蜜味の粉餅の争奪戦を始めるという理屈です」
黒面軍師は、手品でも終えた様に両の掌を開き、首を傾げて道化のポーズをする。
「――バカなっ!
そんな、子供のわがままの様な理屈!、いくらなんでも、他国を愚弄し過ぎている!、何より!、その国の民たちが、それを許すワケは無かろう?!」
シゲマルは、黒面軍師へ向けて激昂し、言い過ぎな彼の言動を非難する。
「この"翼域"とは!、アマノツバサノオオカミ様が、ツクモの平和を維持するために築き上げた、神聖なる仕組み!
その恩恵を、数千年に渡って享受し、その仕組みを堅固してきたのが!、我らツクモの民なのだぞ?!、それを統べる立場にある者たちが、その様な幼稚な理屈で民を戦に導くなど!」
シゲマルは鼻息荒く、黒面軍師に掴みかかる様な勢いで、彼を睨む!
(そうよそうよ!、ダサい面を着けたヤツが、何を言うのよ!)
ハナは、すっかり、シゲマルのサポーターである。
「――ふっ!、アハハハハッ!、
はぁ~……シゲマル殿、それは、あなたが"スヨウ"という、"大戦後も、旧体制を固持した国に生まれ育った"、故の感性ですよぉ~!」
黒面軍師は、シゲマルを嘲笑い、彼を諭す様な言い方で――
「――ツクモの民の多くは、気付いてしまったはずです。
二十五年前の"大戦"で、我らに着けられた"枷"とは、意外と脆く、役に立たないモノだとね」
――仮面の下の読めない目線で、しっかりと正面を見据えながら言い放った。
――これまで"先の大戦"として表していた、25年前に勃発したスヨウとハクキの間で6年間続いた戦乱。
あえて、その大戦の仔細な原因については触れずにいたが、どうやら語る時が来た様である。
大戦が勃発する前年――ツクモは、世界規模の天候不順で、農作物は軒並み不作に陥り、それに因る大飢饉に襲われた。
それと同時に、星石採掘の主要鉱山だった山などでは、その悪天候に因る土砂災害が頻発し、採掘量は激減――ツクモ中が、未曾有の大不況に包まれてしまった。
その異常事態への対応として、当時の三大国は、民の食料確保のためにオウビ――つまり、流者への食料の横流しを規制する措置を行い、オウビに集う流者たちは収入源を失う結果に陥る。
それを受け、オウビを取り仕切る例の商工組合が打ち出した打開策は、クリ社に治外法権を認められた、オウビ周辺の土地――通称"流領の通行に、通行料を掛ける事だった。
その通行料を儲けるため、当時の商工組合長――タカフミが目を着けたのが、翼域最大のタブー……軍隊の通行をも認める事であった。
それに飛びついたのが、ハクキの国だった。
ハクキは、作物の生産力で劣る大陸北部を領地としていたため、飢饉の被害は他国より甚大――食料の確保、景気への刺激のため、莫大な通行料をオウビ商工組合に払ってでも、肥沃で温暖な気候から比較的、飢饉の被害を免れている、スヨウ東部へと侵攻し奪う事で、国守のヤスミツは局面打破を図ったのである!
予期せぬ、翼域を超えての侵攻に、スヨウ軍はなす統べなく敗走――その後も、奪還を図っては敗れ続ける、消耗戦を繰り広げた結果、東部だけでは飽き足らず、スヨウは領地の6割をハクキに奪われ、ハクキ軍は首都オウザンの目前にまで侵攻した。
その戦況を、一変させたのが――刀聖、リョウゴのスヨウ軍への参戦だった。
リョウゴを加えたスヨウ軍は、次々と領地奪還に成功――更に、リョウゴは大巫女――ユリとの会談を行い、これまで不干渉の立場を取ってきた、クリ社をも動かそうとする。
そして、リョウゴとの会談を受けて、ユリは世界中に向けての占報を行い――
『――刀聖を戦場へと向わせた、乱れの元凶はハクキ。
それ即ち、今のハクキは、ツクモにとっての"邪"であるという事!』
――という演説をして、ハクキを断罪。
直轄の軍事組織である"天警士団"を、スヨウへの援軍として派兵し、それを受け、コクエもスヨウ側へと参戦――中立を貫くコウオウでさえ、皇の名の下に、ハクキを非難する声明を発表。
光の刀に因る、刀聖という圧倒的な武力――そして、大巫女ユリの演説や、皇の名の下の声明へと繋がって行った様は、刀聖伝承の偉大さを、まざまざと示した戦でもあったのである。
「――だってぇ~!、一人の流者が思いついたビジネスで、大金さえ払えば、たとえ軍隊でも翼域を通って、他国に侵攻出来る様になったのですから!、オウビの流者たちのおかげで!」
黒面軍師は、また大袈裟な芝居も交えて、アマノツバサノオオカミが敷いた平和への仕組みが、いかに脆く、いかにして瓦解して行ったかを、端的にシゲマルへ語った。
「それを知り、ガラリと国体までもが変わった、他国の民からすれば――シゲマル殿が仰る様な、敬虔な萬神道信仰などは、既に化石の様な古い思想。
そして今、それらの国家の主権を有するのは、大概、"国守"ではなく、大衆の方――国益に叶うとさえ思えば、翼域への侵攻を、大いに歓迎すると思いますよぉ~?」
明らかに、小馬鹿にされた黒面軍師の言葉に、シゲマルは口惜しそうに震えるが――
「――"商人上がり"が、民守とやらに任じられた、昨年の北コクエの選挙結果から――御家方様は、二十五年前の再来を危惧された……
『各々の私利私欲のために、下賤な国益第一で戦端を開き、ツクモの"あるべき秩序"を壊そうとする――そんな、"世界の膿"を、炙り出さねばならぬ!』
――そう、仰ってはいましたが、私は……そこまで、他国の民が愚かだとは思えない――いや、思いたくないのです」
――と、嘆きの声を挙げる。
「アマノツバサノオオカミ様も、仰っていたというではありませんか?、"人とて、争う本質を秘める獣の一種"と。
その獣が如き"争いの本質"とは、"我欲"、そのものなのですよ」
黒面軍師は、うって変わって落ち着いた声音で、哲学的な意見で前フリをしてから――
「――まっ、それもこれも、全てはこの戦の後に解るコトです♪
国守たるノブタツ様が、望んでヤマカキが民を贄とした――そんな苦汁の決断をしてまで戦鐘を鳴らした、この戦が持つ意味を」
――と、シゲマルとの会話をそう結んだ。
(?!、ノッ!、ノブタツ様が――やっ!、ヤマカキ村の民を贄としたぁ?!
それに、このヒトたちの話って、賢く聞こえるから……妙に、信憑性が出て――)
――ガサッ!
(――ヤバっ……!?)
シゲマルたちの意味深な会話に興奮したハナは、思わず、隠れている草むらを鳴らしてしまう!
「!?、ん?」
黒面軍師は、急に周囲を見渡す。
「軍師殿?」
黒面軍師の妙な反応に、シゲマルは不思議そうに応じる。
「いえ――草むらが揺れる音が聞こえたかと思ったのですが……」
「ああ、"野兎"が駆けた音では?
この辺りは、野兎の狩り場として有名ですし、丁度朝の時分ゆえ、起き抜けの餌でも探しているのでしょう」
――と、黒面軍師の疑念に、シゲマルはそう応じた。
「――そう、ですか……」
黒面軍師は、顎に手を当て、怪訝な表情を見せて黙り込む。
(ふぃ~……ウサギはウサギでも、亜人種の方ですけどねぇ。
勘違いしてくれてありがと!、ちょっとイケメンの彼!)
――と、ハナがニヤッと笑った、その時――
――ドン!、ドン!、ドン!
「――ウオオォォォォォツ~~~~~~!」
――と、大地を大きく踏み鳴らし、大勢の兵士が鬨の声を挙げる音が、スヨウの陣から聞こえた。
不思議そうに、再度、顔をしかめるシゲマルの前に、黒面軍師はまた何かを持ったフリをした、右の掌を差し出して――
「――その蜜味の粉餅が、翼域と皇領なのですよ、各国から見ればね」
――と、開いて見せて、その何も持っていない掌をヒラヒラと振る。
「そして、我らがスヨウの国は、その粉餅を食べて見せた友――ですから、どうしても、それが食べてみたい……いえ、翼域を侵してみたい。
そう思う各国は、皇様を御助けするという大義名分が無くとも、翼域という蜜味の粉餅の争奪戦を始めるという理屈です」
黒面軍師は、手品でも終えた様に両の掌を開き、首を傾げて道化のポーズをする。
「――バカなっ!
そんな、子供のわがままの様な理屈!、いくらなんでも、他国を愚弄し過ぎている!、何より!、その国の民たちが、それを許すワケは無かろう?!」
シゲマルは、黒面軍師へ向けて激昂し、言い過ぎな彼の言動を非難する。
「この"翼域"とは!、アマノツバサノオオカミ様が、ツクモの平和を維持するために築き上げた、神聖なる仕組み!
その恩恵を、数千年に渡って享受し、その仕組みを堅固してきたのが!、我らツクモの民なのだぞ?!、それを統べる立場にある者たちが、その様な幼稚な理屈で民を戦に導くなど!」
シゲマルは鼻息荒く、黒面軍師に掴みかかる様な勢いで、彼を睨む!
(そうよそうよ!、ダサい面を着けたヤツが、何を言うのよ!)
ハナは、すっかり、シゲマルのサポーターである。
「――ふっ!、アハハハハッ!、
はぁ~……シゲマル殿、それは、あなたが"スヨウ"という、"大戦後も、旧体制を固持した国に生まれ育った"、故の感性ですよぉ~!」
黒面軍師は、シゲマルを嘲笑い、彼を諭す様な言い方で――
「――ツクモの民の多くは、気付いてしまったはずです。
二十五年前の"大戦"で、我らに着けられた"枷"とは、意外と脆く、役に立たないモノだとね」
――仮面の下の読めない目線で、しっかりと正面を見据えながら言い放った。
――これまで"先の大戦"として表していた、25年前に勃発したスヨウとハクキの間で6年間続いた戦乱。
あえて、その大戦の仔細な原因については触れずにいたが、どうやら語る時が来た様である。
大戦が勃発する前年――ツクモは、世界規模の天候不順で、農作物は軒並み不作に陥り、それに因る大飢饉に襲われた。
それと同時に、星石採掘の主要鉱山だった山などでは、その悪天候に因る土砂災害が頻発し、採掘量は激減――ツクモ中が、未曾有の大不況に包まれてしまった。
その異常事態への対応として、当時の三大国は、民の食料確保のためにオウビ――つまり、流者への食料の横流しを規制する措置を行い、オウビに集う流者たちは収入源を失う結果に陥る。
それを受け、オウビを取り仕切る例の商工組合が打ち出した打開策は、クリ社に治外法権を認められた、オウビ周辺の土地――通称"流領の通行に、通行料を掛ける事だった。
その通行料を儲けるため、当時の商工組合長――タカフミが目を着けたのが、翼域最大のタブー……軍隊の通行をも認める事であった。
それに飛びついたのが、ハクキの国だった。
ハクキは、作物の生産力で劣る大陸北部を領地としていたため、飢饉の被害は他国より甚大――食料の確保、景気への刺激のため、莫大な通行料をオウビ商工組合に払ってでも、肥沃で温暖な気候から比較的、飢饉の被害を免れている、スヨウ東部へと侵攻し奪う事で、国守のヤスミツは局面打破を図ったのである!
予期せぬ、翼域を超えての侵攻に、スヨウ軍はなす統べなく敗走――その後も、奪還を図っては敗れ続ける、消耗戦を繰り広げた結果、東部だけでは飽き足らず、スヨウは領地の6割をハクキに奪われ、ハクキ軍は首都オウザンの目前にまで侵攻した。
その戦況を、一変させたのが――刀聖、リョウゴのスヨウ軍への参戦だった。
リョウゴを加えたスヨウ軍は、次々と領地奪還に成功――更に、リョウゴは大巫女――ユリとの会談を行い、これまで不干渉の立場を取ってきた、クリ社をも動かそうとする。
そして、リョウゴとの会談を受けて、ユリは世界中に向けての占報を行い――
『――刀聖を戦場へと向わせた、乱れの元凶はハクキ。
それ即ち、今のハクキは、ツクモにとっての"邪"であるという事!』
――という演説をして、ハクキを断罪。
直轄の軍事組織である"天警士団"を、スヨウへの援軍として派兵し、それを受け、コクエもスヨウ側へと参戦――中立を貫くコウオウでさえ、皇の名の下に、ハクキを非難する声明を発表。
光の刀に因る、刀聖という圧倒的な武力――そして、大巫女ユリの演説や、皇の名の下の声明へと繋がって行った様は、刀聖伝承の偉大さを、まざまざと示した戦でもあったのである。
「――だってぇ~!、一人の流者が思いついたビジネスで、大金さえ払えば、たとえ軍隊でも翼域を通って、他国に侵攻出来る様になったのですから!、オウビの流者たちのおかげで!」
黒面軍師は、また大袈裟な芝居も交えて、アマノツバサノオオカミが敷いた平和への仕組みが、いかに脆く、いかにして瓦解して行ったかを、端的にシゲマルへ語った。
「それを知り、ガラリと国体までもが変わった、他国の民からすれば――シゲマル殿が仰る様な、敬虔な萬神道信仰などは、既に化石の様な古い思想。
そして今、それらの国家の主権を有するのは、大概、"国守"ではなく、大衆の方――国益に叶うとさえ思えば、翼域への侵攻を、大いに歓迎すると思いますよぉ~?」
明らかに、小馬鹿にされた黒面軍師の言葉に、シゲマルは口惜しそうに震えるが――
「――"商人上がり"が、民守とやらに任じられた、昨年の北コクエの選挙結果から――御家方様は、二十五年前の再来を危惧された……
『各々の私利私欲のために、下賤な国益第一で戦端を開き、ツクモの"あるべき秩序"を壊そうとする――そんな、"世界の膿"を、炙り出さねばならぬ!』
――そう、仰ってはいましたが、私は……そこまで、他国の民が愚かだとは思えない――いや、思いたくないのです」
――と、嘆きの声を挙げる。
「アマノツバサノオオカミ様も、仰っていたというではありませんか?、"人とて、争う本質を秘める獣の一種"と。
その獣が如き"争いの本質"とは、"我欲"、そのものなのですよ」
黒面軍師は、うって変わって落ち着いた声音で、哲学的な意見で前フリをしてから――
「――まっ、それもこれも、全てはこの戦の後に解るコトです♪
国守たるノブタツ様が、望んでヤマカキが民を贄とした――そんな苦汁の決断をしてまで戦鐘を鳴らした、この戦が持つ意味を」
――と、シゲマルとの会話をそう結んだ。
(?!、ノッ!、ノブタツ様が――やっ!、ヤマカキ村の民を贄としたぁ?!
それに、このヒトたちの話って、賢く聞こえるから……妙に、信憑性が出て――)
――ガサッ!
(――ヤバっ……!?)
シゲマルたちの意味深な会話に興奮したハナは、思わず、隠れている草むらを鳴らしてしまう!
「!?、ん?」
黒面軍師は、急に周囲を見渡す。
「軍師殿?」
黒面軍師の妙な反応に、シゲマルは不思議そうに応じる。
「いえ――草むらが揺れる音が聞こえたかと思ったのですが……」
「ああ、"野兎"が駆けた音では?
この辺りは、野兎の狩り場として有名ですし、丁度朝の時分ゆえ、起き抜けの餌でも探しているのでしょう」
――と、黒面軍師の疑念に、シゲマルはそう応じた。
「――そう、ですか……」
黒面軍師は、顎に手を当て、怪訝な表情を見せて黙り込む。
(ふぃ~……ウサギはウサギでも、亜人種の方ですけどねぇ。
勘違いしてくれてありがと!、ちょっとイケメンの彼!)
――と、ハナがニヤッと笑った、その時――
――ドン!、ドン!、ドン!
「――ウオオォォォォォツ~~~~~~!」
――と、大地を大きく踏み鳴らし、大勢の兵士が鬨の声を挙げる音が、スヨウの陣から聞こえた。
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