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光刃現眼
開戦
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――時は、ほんの少しだけ戻って、ここは朝焼けが空に滲み出して来た頃の、有志隊の陣。
「う~ん♪、一仕事した後の朝ごはんは、美味しいねぇ~♪」
――と、その天幕の中で、満面の笑みを浮べて食事に興じているのはタマである。
「ホント、お前って、顔を見たら、必ずナニかを喰っている気がするぜ」
ソウタも、タマの様子に呆れはしながら、自分も朝食を摂っていた。
「ふっ、だが、タマの言う事は一理ある。
起き抜けに食う朝飯とは、段違いに上手く感じるさ」
二人と同じ様に、黙々と朝飯を咀嚼していたギンは、そう言って、タマの意見に賛同した。
敵飛翔部隊への夜襲に成功したソウタたち4人は、速やかに陣へと帰還していた。
本来なら、カツトシへの戦果報告が先なのが、当たり前だが――
『夜通し戦って、走って、急いで戻って来たら……お腹空いたよ~っ!
カオリぃ~!、先にご飯にしよぉ~?、皆も、ご飯の時間なんだしぃ~』
――と、タマが言い出したため、4人は、陣に残っていた他の義兵たちと共に、食事を行っていた。
他の、皇軍の者が聞いたら、また問題になりそうな行動である。
「ふぃ~!、美味しかったぁ~!
これで、昨夜寝てないから、グッスリと寝床に入れたら、サイコーなんだけどな~っ!」
食べ終えたタマは、天を仰ぎながら、ちょっとした望みを、カオリの方に振り向きながら言ってみる。
「あれ……?、カオリ?、ご飯、残ってるよ?」
タマの目線が、カオリの膳に及ぶと、物資方が用意した料理が、盛り付けられたままの状態で並んでいた。
その、タマの声を聞き、自分もカオリの膳を観たソウタは――
「カオリさん?、どうした?」
――と、カオリの肩に手を置いて尋ねる。
それに、ビクッと反応して、ハッとなったカオリは――
「――えっ?!、あっ!、すいません」
――と、答えに成らない生返事を返す。
「……どうした、食欲が無いのか?」
ギンも、心配そうに、カオリの顔を見やる。
一斉に注視されたカオリは、少し焦って――
「……いえ、そうではありません。
夜通しの戦闘だった故、少し、疲労で呆けてしまいましたかね、ははは……」
――と、取り繕うようなセリフと、乾いた笑い声で応じた。
「――"腹が減っては、なんとやら"と申しますし、こんな事ではいけませんなっ!」
そう言って、カオリは椀を手に取り、よそわれた飯を一気に掻き込んで見せる。
「はははっ!、それでこそ『皇軍の女傑』だぜっ!、隊長さん!、女伊達らに、良い喰いっぷりだぁ!」
カオリの飯を掻っ込む姿に、他の義兵からやんややんやと歓声が沸く。
「よぉ~しっ!、じゃあ、アタシもおかわり!、カオリぃ~!、どっちが早く平らげるか勝負だよ!」
――などと、タマは理由を付けて、おかわりを所望して、カオリに早食い合戦を申し出る。
そんな、カオリたちの様子を見やり、ソウタは――
(――なんか、わざとらしくて……イヤな予感がするねぇ。
カオリさんって、確か……昨夜が"本当の意味"での『初陣』、だしな)
――と、妙な胸騒ぎを覚え、そこまで頭を巡らせた……その時っ!
――ドン!、ドン!、ドン!
「――ウオオォォォォォツ~~~~~~!」
――という、音と声が、ホウリ平原中に響き渡った!
「――っ?!」
「えっ?!、なに?」
ソウタは、瞬時に顔色を変え、タマは持ち上げた椀を置き、怪訝とした表情で、音と声が響いた南の空を見上げる。
カオリも、ソウタと同じく、顔色を一変させ――
「――"三度の足踏み"!、『全軍総突撃』の布れ!」
――自分が聴いた音の意味を、確かめる様に復唱し、慌てて南方への天幕を潜って外へと走る!
スヨウの陣の方へと目を凝らすと、整列した歩兵が、一斉に丘へと向って進軍する様子が見えた。
「――有志隊将!、カオリ様!」
――と、敵の進軍を確認したのと同時に、カツトシの手勢が叫びながら走って来た!
「緊急招集であります!、早急に、本陣へ来られたしとの事!」
その一言だけを言って、その手勢は一礼をして走り去った。
「――承知!、マタザ殿!、ご苦労でござった!」
カオリは、"本物の"マタザに、礼を言って見送る。
「……カオリさん」
ソウタの真剣な眼差しを受け、カオリは黙って頷き――
「――大将の元へ、行って参ります!」
――とだけ言って、本陣へと駆け出した。
「――手筈は?」
スヨウ軍の本陣で、3度ごとに刻む足音を聞きながら、マサノリは側に控えるリノに現状を尋ねる。
「はい、歩兵五千が既に進攻を開始――続いて、弓兵一千、界気兵五百が追従、軍議どおりに進んでいます」
リノは、行進を始めた前線を見やりながら、的確に応じて見せた。
「――よろしい、それと陣ぶれは?、ワシの考えどおりに配してくれたか?」
「それも、抜かりはありません。
大武会八傑のカオリが率いているという、敵義兵部隊と対する左翼の部隊は――手薄に写る数に留めよとのお達しも、仰せのとおり――」
――リノは、マサノリの問いに淡々と答えながらも、怪訝とした表情で――
「――でも、どうして?、一人で数十人と渡り合えるっていう、大武会十六傑以上――その中でも『皇軍の女傑』とまで呼ばれてて、有名なカオリさんが相手じゃ、人数を割かないと危ないんじゃないの?」
――と、不満そうに問い返す。
「これっ!、言葉使いが緩んでおるぞ?」
マサノリは、急に普段のフランクな態度に戻した、義娘のリノを諭す。
「だって、今、周りで聞いてるのは、子供の頃から知ってる顔ばっかりだもん!
ただでさえ、総攻め中でキンチョーしてるのに、言葉使いまでを気にしてたら疲れちゃうから、皆も大目に観てよ!」
リノは開き直って、周りを固めている勝手知ったる義父の手勢を見渡す。
「はははっ!、リノの言うとおりですぞ、三軍将様」
手勢の兵たちは、笑いながらそう応じる。
リノも、皆に合わせる様に笑みを造り、にこやかに陣内を見渡した。
その様子に、マサノリもニヤッと笑って――
(――こやつ、一言で、陣の張り詰めた空気を変えおったわい!
自分で、"緊張している"と言うてはいたが、自分――ではなく、陣の空気を感じて言うたのじゃろう。
我が娘ながら、真に、こやつは"将の器"じゃわい!)
――と、リノの判断に感服し、ふうっと小さな溜め息を吐く。
「あの、カオリが率いる、義兵隊相手に、兵を割かんのは何故かと問うたな?」
マサノリは人差し指を立て、それをリノへと向けながら言う。
「うん、やる事、逆じゃないかと思っちゃう」
――と、リノは素直に感想を吐露する。
「件のカオリの様に、武勇を誇る者がおる隊とはなぁ――マジメには戦わんのが一番じゃ、というコトじゃよ」
マサノリは真剣に、また素直に、疑問をぶつけたリノを、嘲笑うかの様にキッパリとそう言った!
「え~っ!?」
リノは、まさかの敬遠策に呆れ、口を大きく開ける。
「あんなバケモノみたいな輩に、兵を割いたら、死人が増えてしまうだけじゃからな。
戦線の維持に徹して、あーいう輩が他の陣に食い込んで来ないように、壁役だけを据えるのが得策なんじゃよ」
マサノリは、微かに見える、有志隊の陣を見据えながら、そう言った。
「それに、戦い慣れない皇軍は、その突出した武力たるカオリと、戦慣れしとるはずの義兵に、頼りきった布陣となると見るのが妥当――それは逆に、敵の他勢に狙いを絞る方が、戦果として良いというコトだ。
それに、ワシは、あの義兵隊に蹂躙される"フリ"をせい、とも対義兵部隊に言うておる」
マサノリはそう言って、得意気に笑みを造る。
「えっ?!、どうしてよ?」
対してリノは、得意気な義父の態度に、ちょっと苛立つ素振りで尋ねる。
「義兵隊には、前に出てきて欲しいんじゃよ――即座に、本陣へは戻れぬぐらいの位置にな」
そこまで聞いて、リノはハッと何かに気付く。
「――そっか!、飛翔部隊が、一方的に本陣を攻めれるように?」
「ご名答じゃ!、頼りの義兵部隊が、我らの左翼を切り崩したとなれば――弓隊や界気隊も丘の下へと、前に押し出し、たたみ掛けようとするのが上策――だが、それは逆に、本陣が孤立する事を意味するのじゃ!」
マサノリはニッタリと笑い、見事に答えを当てて見せたリノを褒める。
「――これが、ワシが辿り着いた必勝の策。
皇軍よ、破れるモノなら破って見せい……よし!、馬引けぇい!、我らも陣を引き払い前進する!」
――と、マサノリは立ち上がり、兜を被って丘上の金糸で龍が描かれた旗を睨んだ。
その、"必勝の策"が、既に破られているとは――彼らはまだ、気づいていない。
スヨウ軍の総突撃が迫り、対する皇軍が緊急軍議に因って取った策は――マサノリの読みどおり、有志隊を右翼(※スヨウ側から観ると左翼)の前線に置いた、力押しの策だった。
「まっ、そうなるよねぇ~」
――と、ソウタは間延びした口調で、カオリから伝えられた陣ぶれに対し、テンの鞍上から、進軍しているスヨウ軍を見据え、そんな独り言をつぶやいた。
「ええ!、我らの武勇で圧倒してこそ!、暴国に示すべき、皇の名の下の意義!
皆様ぁっ!、よろしいなぁっ!!!?」
ソウタの隣で、同じく馬首を並べたカオリは、独り言に答える様にそう叫んで、自慢の藍色の柄の長槍を掲げ、位置に着いた、有志隊の面々を見渡す。
「――ウオオォォォォォツ~~~~~~!」
――と、叫びに応じて、先程のスヨウ軍のモノに劣らない、鬨の声が響き渡る!
それを聞き、一つの役目を終えた体のカオリは、隣のソウタに――
「――ソウタ殿は、随分良い馬をお持ちですな」
――と、よっぽど余裕があるのか、おもむろに雑談を振ってきた。
有志隊の義兵が駆る馬は、大概、義兵が自ら連れて来た私有の一頭である。
(なんだよ、初めて人を殺したコトに、"アテられちまった"のかと心配してたら、随分と余裕じゃないの。
俺の、勝手な杞憂だったかぁ?)
ソウタが、先の夜襲を終えて以来、少し様子がおかしい、カオリの事を気にしていたのは――そういう杞憂からだった。
("飯が食えない"ってのは、典型的な反応だったんだが……流石は"皇軍の女傑"ってか?)
そう、心中で杞憂を決着させ、ソウタは――
「――良い馬って、こいつ、買った馬じゃなくて、元々は畑を荒らしてた野良馬ですよ?
丁度、旅をしてても、馬貸しの賃料はバカにならねぇと思ってたから、こいつを捕まえる仕事の給金の代わりに、肉屋に売るつもりだった、雇い主に譲って貰ったんです」
――と、カオリからの"フリ"にそう答え、テンを所有した経緯を話した。
ちなみに――"馬貸し"とは、現実に準えれば、街道を行く旅人に、レンタカーの要領で馬を貸し出す商売である。
「とても良い馬ですよ。
それこそ、私の実家は馬貸しを生業としていたので、よく解ります――筋肉の着き方や、そのハリ、毛艶……"名馬"と呼ばれて申し分ない一頭ですよ」
カオリは、自分の出自を交えて、テンの首筋を撫でて褒める。
「へぇ、お前、そんな風に褒められるの、初めてじゃねぇのかぁ~?」
ソウタは、朗らかな笑みを見せて、テンのタテガミをわしゃわしゃと撫でた。
「――構ぁ~っえっ!」
――と、弓隊の射程距離に、敵兵が入ったコトを指す掛け声が、丘の上から聞こえた。
「よぉ~しっ!、弓隊の矢から逃れた者が迫ったら、私が頃合いを見て合図します!
我らも、彼奴らに突貫を仕掛け、迎え撃ちますぞ!」
カオリはまた叫んで、足を速めて突撃体勢となった、敵が敷く最前線を見やって言い放つ!
「――放て~~~~~~~ぇぇぇぇぇっ!」
二千名を悠に超える、皇軍の弓隊が放った矢が、突進してくるスヨウ軍の歩兵に向けて、一斉に放たれた!
「――ぐぅっ!」
放たれた矢の半分は、草原の草むらに突き刺さり、もう半分は、突進する歩兵を捉え、矢を喰らった歩兵たちの呻き声が、草原中に木霊する。
矢を免れた歩兵や、刺さっても"お構い無し"という、豪気な歩兵は、まったく歩を緩めず――丘のふもとに居る、有志隊へと迫る!
「――ウオオォォォォォツ~~~~~~!」
鬼気迫る、生死を賭けた凄まじい形相で、一心不乱に目の前の敵だけを見据え、鬨の声を挙げながら、スヨウの歩兵たちは草原を駆けた。
「――っ!!!!!」
――その、スヨウ兵が放つ気迫を感じて、カオリは……昨夜の、最後の一人の姿を思い出す。
それと同時に、初めて人の肉を斬った時の刃の感触、骨を割った時の音もまた、脳裏へと甦る。
「――突撃ぃぃぃぃっ~!!!!!!」
中央、左翼の皇軍には号令が掛かり、歩兵部隊が一斉に突進を始めた!
(おいおい?!、コッチの合図は?、最前線は有志隊なんだぞ?)
ソウタは、他の部隊の突進を見やり、完全に遅れた形となっている事を不審に思って、隣――カオリの方へと、顔を向けると――
「――?!、カオリさん!?」
――彼女は、顔色を、鎧の色と遜色ないほどに蒼く染め、ガタガタと身体を震わせていた。
「う~ん♪、一仕事した後の朝ごはんは、美味しいねぇ~♪」
――と、その天幕の中で、満面の笑みを浮べて食事に興じているのはタマである。
「ホント、お前って、顔を見たら、必ずナニかを喰っている気がするぜ」
ソウタも、タマの様子に呆れはしながら、自分も朝食を摂っていた。
「ふっ、だが、タマの言う事は一理ある。
起き抜けに食う朝飯とは、段違いに上手く感じるさ」
二人と同じ様に、黙々と朝飯を咀嚼していたギンは、そう言って、タマの意見に賛同した。
敵飛翔部隊への夜襲に成功したソウタたち4人は、速やかに陣へと帰還していた。
本来なら、カツトシへの戦果報告が先なのが、当たり前だが――
『夜通し戦って、走って、急いで戻って来たら……お腹空いたよ~っ!
カオリぃ~!、先にご飯にしよぉ~?、皆も、ご飯の時間なんだしぃ~』
――と、タマが言い出したため、4人は、陣に残っていた他の義兵たちと共に、食事を行っていた。
他の、皇軍の者が聞いたら、また問題になりそうな行動である。
「ふぃ~!、美味しかったぁ~!
これで、昨夜寝てないから、グッスリと寝床に入れたら、サイコーなんだけどな~っ!」
食べ終えたタマは、天を仰ぎながら、ちょっとした望みを、カオリの方に振り向きながら言ってみる。
「あれ……?、カオリ?、ご飯、残ってるよ?」
タマの目線が、カオリの膳に及ぶと、物資方が用意した料理が、盛り付けられたままの状態で並んでいた。
その、タマの声を聞き、自分もカオリの膳を観たソウタは――
「カオリさん?、どうした?」
――と、カオリの肩に手を置いて尋ねる。
それに、ビクッと反応して、ハッとなったカオリは――
「――えっ?!、あっ!、すいません」
――と、答えに成らない生返事を返す。
「……どうした、食欲が無いのか?」
ギンも、心配そうに、カオリの顔を見やる。
一斉に注視されたカオリは、少し焦って――
「……いえ、そうではありません。
夜通しの戦闘だった故、少し、疲労で呆けてしまいましたかね、ははは……」
――と、取り繕うようなセリフと、乾いた笑い声で応じた。
「――"腹が減っては、なんとやら"と申しますし、こんな事ではいけませんなっ!」
そう言って、カオリは椀を手に取り、よそわれた飯を一気に掻き込んで見せる。
「はははっ!、それでこそ『皇軍の女傑』だぜっ!、隊長さん!、女伊達らに、良い喰いっぷりだぁ!」
カオリの飯を掻っ込む姿に、他の義兵からやんややんやと歓声が沸く。
「よぉ~しっ!、じゃあ、アタシもおかわり!、カオリぃ~!、どっちが早く平らげるか勝負だよ!」
――などと、タマは理由を付けて、おかわりを所望して、カオリに早食い合戦を申し出る。
そんな、カオリたちの様子を見やり、ソウタは――
(――なんか、わざとらしくて……イヤな予感がするねぇ。
カオリさんって、確か……昨夜が"本当の意味"での『初陣』、だしな)
――と、妙な胸騒ぎを覚え、そこまで頭を巡らせた……その時っ!
――ドン!、ドン!、ドン!
「――ウオオォォォォォツ~~~~~~!」
――という、音と声が、ホウリ平原中に響き渡った!
「――っ?!」
「えっ?!、なに?」
ソウタは、瞬時に顔色を変え、タマは持ち上げた椀を置き、怪訝とした表情で、音と声が響いた南の空を見上げる。
カオリも、ソウタと同じく、顔色を一変させ――
「――"三度の足踏み"!、『全軍総突撃』の布れ!」
――自分が聴いた音の意味を、確かめる様に復唱し、慌てて南方への天幕を潜って外へと走る!
スヨウの陣の方へと目を凝らすと、整列した歩兵が、一斉に丘へと向って進軍する様子が見えた。
「――有志隊将!、カオリ様!」
――と、敵の進軍を確認したのと同時に、カツトシの手勢が叫びながら走って来た!
「緊急招集であります!、早急に、本陣へ来られたしとの事!」
その一言だけを言って、その手勢は一礼をして走り去った。
「――承知!、マタザ殿!、ご苦労でござった!」
カオリは、"本物の"マタザに、礼を言って見送る。
「……カオリさん」
ソウタの真剣な眼差しを受け、カオリは黙って頷き――
「――大将の元へ、行って参ります!」
――とだけ言って、本陣へと駆け出した。
「――手筈は?」
スヨウ軍の本陣で、3度ごとに刻む足音を聞きながら、マサノリは側に控えるリノに現状を尋ねる。
「はい、歩兵五千が既に進攻を開始――続いて、弓兵一千、界気兵五百が追従、軍議どおりに進んでいます」
リノは、行進を始めた前線を見やりながら、的確に応じて見せた。
「――よろしい、それと陣ぶれは?、ワシの考えどおりに配してくれたか?」
「それも、抜かりはありません。
大武会八傑のカオリが率いているという、敵義兵部隊と対する左翼の部隊は――手薄に写る数に留めよとのお達しも、仰せのとおり――」
――リノは、マサノリの問いに淡々と答えながらも、怪訝とした表情で――
「――でも、どうして?、一人で数十人と渡り合えるっていう、大武会十六傑以上――その中でも『皇軍の女傑』とまで呼ばれてて、有名なカオリさんが相手じゃ、人数を割かないと危ないんじゃないの?」
――と、不満そうに問い返す。
「これっ!、言葉使いが緩んでおるぞ?」
マサノリは、急に普段のフランクな態度に戻した、義娘のリノを諭す。
「だって、今、周りで聞いてるのは、子供の頃から知ってる顔ばっかりだもん!
ただでさえ、総攻め中でキンチョーしてるのに、言葉使いまでを気にしてたら疲れちゃうから、皆も大目に観てよ!」
リノは開き直って、周りを固めている勝手知ったる義父の手勢を見渡す。
「はははっ!、リノの言うとおりですぞ、三軍将様」
手勢の兵たちは、笑いながらそう応じる。
リノも、皆に合わせる様に笑みを造り、にこやかに陣内を見渡した。
その様子に、マサノリもニヤッと笑って――
(――こやつ、一言で、陣の張り詰めた空気を変えおったわい!
自分で、"緊張している"と言うてはいたが、自分――ではなく、陣の空気を感じて言うたのじゃろう。
我が娘ながら、真に、こやつは"将の器"じゃわい!)
――と、リノの判断に感服し、ふうっと小さな溜め息を吐く。
「あの、カオリが率いる、義兵隊相手に、兵を割かんのは何故かと問うたな?」
マサノリは人差し指を立て、それをリノへと向けながら言う。
「うん、やる事、逆じゃないかと思っちゃう」
――と、リノは素直に感想を吐露する。
「件のカオリの様に、武勇を誇る者がおる隊とはなぁ――マジメには戦わんのが一番じゃ、というコトじゃよ」
マサノリは真剣に、また素直に、疑問をぶつけたリノを、嘲笑うかの様にキッパリとそう言った!
「え~っ!?」
リノは、まさかの敬遠策に呆れ、口を大きく開ける。
「あんなバケモノみたいな輩に、兵を割いたら、死人が増えてしまうだけじゃからな。
戦線の維持に徹して、あーいう輩が他の陣に食い込んで来ないように、壁役だけを据えるのが得策なんじゃよ」
マサノリは、微かに見える、有志隊の陣を見据えながら、そう言った。
「それに、戦い慣れない皇軍は、その突出した武力たるカオリと、戦慣れしとるはずの義兵に、頼りきった布陣となると見るのが妥当――それは逆に、敵の他勢に狙いを絞る方が、戦果として良いというコトだ。
それに、ワシは、あの義兵隊に蹂躙される"フリ"をせい、とも対義兵部隊に言うておる」
マサノリはそう言って、得意気に笑みを造る。
「えっ?!、どうしてよ?」
対してリノは、得意気な義父の態度に、ちょっと苛立つ素振りで尋ねる。
「義兵隊には、前に出てきて欲しいんじゃよ――即座に、本陣へは戻れぬぐらいの位置にな」
そこまで聞いて、リノはハッと何かに気付く。
「――そっか!、飛翔部隊が、一方的に本陣を攻めれるように?」
「ご名答じゃ!、頼りの義兵部隊が、我らの左翼を切り崩したとなれば――弓隊や界気隊も丘の下へと、前に押し出し、たたみ掛けようとするのが上策――だが、それは逆に、本陣が孤立する事を意味するのじゃ!」
マサノリはニッタリと笑い、見事に答えを当てて見せたリノを褒める。
「――これが、ワシが辿り着いた必勝の策。
皇軍よ、破れるモノなら破って見せい……よし!、馬引けぇい!、我らも陣を引き払い前進する!」
――と、マサノリは立ち上がり、兜を被って丘上の金糸で龍が描かれた旗を睨んだ。
その、"必勝の策"が、既に破られているとは――彼らはまだ、気づいていない。
スヨウ軍の総突撃が迫り、対する皇軍が緊急軍議に因って取った策は――マサノリの読みどおり、有志隊を右翼(※スヨウ側から観ると左翼)の前線に置いた、力押しの策だった。
「まっ、そうなるよねぇ~」
――と、ソウタは間延びした口調で、カオリから伝えられた陣ぶれに対し、テンの鞍上から、進軍しているスヨウ軍を見据え、そんな独り言をつぶやいた。
「ええ!、我らの武勇で圧倒してこそ!、暴国に示すべき、皇の名の下の意義!
皆様ぁっ!、よろしいなぁっ!!!?」
ソウタの隣で、同じく馬首を並べたカオリは、独り言に答える様にそう叫んで、自慢の藍色の柄の長槍を掲げ、位置に着いた、有志隊の面々を見渡す。
「――ウオオォォォォォツ~~~~~~!」
――と、叫びに応じて、先程のスヨウ軍のモノに劣らない、鬨の声が響き渡る!
それを聞き、一つの役目を終えた体のカオリは、隣のソウタに――
「――ソウタ殿は、随分良い馬をお持ちですな」
――と、よっぽど余裕があるのか、おもむろに雑談を振ってきた。
有志隊の義兵が駆る馬は、大概、義兵が自ら連れて来た私有の一頭である。
(なんだよ、初めて人を殺したコトに、"アテられちまった"のかと心配してたら、随分と余裕じゃないの。
俺の、勝手な杞憂だったかぁ?)
ソウタが、先の夜襲を終えて以来、少し様子がおかしい、カオリの事を気にしていたのは――そういう杞憂からだった。
("飯が食えない"ってのは、典型的な反応だったんだが……流石は"皇軍の女傑"ってか?)
そう、心中で杞憂を決着させ、ソウタは――
「――良い馬って、こいつ、買った馬じゃなくて、元々は畑を荒らしてた野良馬ですよ?
丁度、旅をしてても、馬貸しの賃料はバカにならねぇと思ってたから、こいつを捕まえる仕事の給金の代わりに、肉屋に売るつもりだった、雇い主に譲って貰ったんです」
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ちなみに――"馬貸し"とは、現実に準えれば、街道を行く旅人に、レンタカーの要領で馬を貸し出す商売である。
「とても良い馬ですよ。
それこそ、私の実家は馬貸しを生業としていたので、よく解ります――筋肉の着き方や、そのハリ、毛艶……"名馬"と呼ばれて申し分ない一頭ですよ」
カオリは、自分の出自を交えて、テンの首筋を撫でて褒める。
「へぇ、お前、そんな風に褒められるの、初めてじゃねぇのかぁ~?」
ソウタは、朗らかな笑みを見せて、テンのタテガミをわしゃわしゃと撫でた。
「――構ぁ~っえっ!」
――と、弓隊の射程距離に、敵兵が入ったコトを指す掛け声が、丘の上から聞こえた。
「よぉ~しっ!、弓隊の矢から逃れた者が迫ったら、私が頃合いを見て合図します!
我らも、彼奴らに突貫を仕掛け、迎え撃ちますぞ!」
カオリはまた叫んで、足を速めて突撃体勢となった、敵が敷く最前線を見やって言い放つ!
「――放て~~~~~~~ぇぇぇぇぇっ!」
二千名を悠に超える、皇軍の弓隊が放った矢が、突進してくるスヨウ軍の歩兵に向けて、一斉に放たれた!
「――ぐぅっ!」
放たれた矢の半分は、草原の草むらに突き刺さり、もう半分は、突進する歩兵を捉え、矢を喰らった歩兵たちの呻き声が、草原中に木霊する。
矢を免れた歩兵や、刺さっても"お構い無し"という、豪気な歩兵は、まったく歩を緩めず――丘のふもとに居る、有志隊へと迫る!
「――ウオオォォォォォツ~~~~~~!」
鬼気迫る、生死を賭けた凄まじい形相で、一心不乱に目の前の敵だけを見据え、鬨の声を挙げながら、スヨウの歩兵たちは草原を駆けた。
「――っ!!!!!」
――その、スヨウ兵が放つ気迫を感じて、カオリは……昨夜の、最後の一人の姿を思い出す。
それと同時に、初めて人の肉を斬った時の刃の感触、骨を割った時の音もまた、脳裏へと甦る。
「――突撃ぃぃぃぃっ~!!!!!!」
中央、左翼の皇軍には号令が掛かり、歩兵部隊が一斉に突進を始めた!
(おいおい?!、コッチの合図は?、最前線は有志隊なんだぞ?)
ソウタは、他の部隊の突進を見やり、完全に遅れた形となっている事を不審に思って、隣――カオリの方へと、顔を向けると――
「――?!、カオリさん!?」
――彼女は、顔色を、鎧の色と遜色ないほどに蒼く染め、ガタガタと身体を震わせていた。
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「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
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