49 / 207
一旦の終幕
果ての地へ
しおりを挟む
少し、暑く感じるほどの陽光が、抜けた青空の下を照らしている。
そんな陽気の間を通る風には、潮の香りも混じっていた。
ここは、オウビの港――ヨクセ商会が私有する、貿易船専用の波止場だ。
そこに停泊する、巨大な帆船――名を『風聖丸』という貿易船の甲板に、潮風の香りを嗅ぎながら、遠い水平線を見据えている、旅装束のレンの姿があった。
その、レンの周りでは、慌しく動く水夫たちの姿がチラホラ――どうやら、この船は出航の準備を行っている様だ…
(この、オウビの街とも、今日でお別れかぁ……)
風聖丸の甲板に立つレンは、少し寂しそうに思いながら、広い海原を見渡していた。
(この船に、乗って行く所って、ソウタさんのお義母様が居る場所――なっ、何だか、そう思うと、緊張して来た!)
レンは、頬を紅潮させて、火照るそこを両手で覆う。
(それに、そのツツキという所は、父さんと母さんが、その息女様に付き従って、私が産まれる前に暮らしていた場所――何だか、因縁みたいなモノも感じちゃうなぁ)
レンが、そんな物思いにふけって居ると――
「――う~~んっ!、良い香りねぇ♪
当たり前だけど、海に近付いているっ!、実感があるわぁ」
――そう言って、レンに声を掛けて来たのは、盲目であるユキの手を引いたミツカだった。
「ふふ♪、ミツカさんったら、楽しそう」
ユキは、上品に口元を覆った手の平越しに、クスクスと笑い声を漏らした。
そんな二人の様子に、妙な違和感を一つ感じる――それは、ユキも旅装束に身を包んでいるからである。
風聖丸のオウビ帰還を待つ間に、再度集められた組合の寄り合いで、一つの懸念が持ち上がった。
あの屋敷への襲撃に関わった、オリエやリュウジ――そして、ユキも、スヨウ側のターゲットに追加されているのではないかという懸念だ。
同時に、還る場所を失った二人の"元"スヨウ軍の二人――ヨシゾウとサスケの処遇と、彼らもターゲットに入っている懸念も浮き出たのである。
自身を守る術がある、リュウジや侍二人は心配無いが――オリエやユキ(※例の"とっておき"は、レン以外知らない)の護衛をどうするかで、合議は紛糾した。
それで持ち上がったのは、2人もレンと一緒に、ツツキへ疎開させるという策だった。
オリエは、ツツキに行く事を固辞したが、ユキは――
「ええ、構いません。
ソウタさんの故郷ですから、興味もありますしね」
――と、快諾したので、ユキはレンの道中仲間となったのである。
「ミツカさん、ユキさんの付き添い、ご苦労様です」
二人の声に振り返ったレンは、軽く会釈をする。
「なぁに、ユキとは、しばらくの間、お別れになっちまうしねぇ……他のみんなも、船まで連れて行くのは、一番仲良いアタシが良いはずだなんて言うしさ」
ミツカは、握るユキの手を、名残惜しそうに見ながら言った。
「あっ、そうだ――お別れの前に、レンちゃんに頼みたいコトがあったんだよぉ」
ミツカは意味深にそう言うと、自分の着物の懐を弄り、何かを探す。
「あれ?、どこに、入れたっけ?」
……案の定、"キワどい恰好"のミツカが、そんな仕草をすると、レンの周りで働く大勢の水夫たちは、一斉に足や手を止め、目線釘付け状態でミツカの姿を見詰める。
「ミッ!、ミツカさん!、早く!」
矢の様な視線に参ったレンは、焦ってミツカを急がせる。
「あっ!、あったぁ~♪、はい、コレ!」
――と、ミツカが懐から取り出したのは、一部の新聞だった。
「おフミ婆さんがさぁ、ソウタの事が新聞に載ってるって言うから、アタシも一部買ったんだけど……よく考えたらアタシ、字が読めないんだよねぇ」
「――っ!?」
レンは、そのミツカの言葉を聞き、激しく動揺する。
「お仲間も同じく、学がない娘ばっかだしぃ、そうじゃないユキは、目が見えないと来るでしょ?
だから、出航前に、読んで聞かせて欲しいと思って――」
ミツカが、頼みを言い終える前に――
「――くっ!、くださいっ!」
――と、レンは奪う様に新聞を受け取る。
(……まさか、戦死者報に!?)
そんな、ありえない心配を膨らませながら、レンが慌てて一面を開くと、そこには――
『――光刃現眼、ホウリ平原にて成る!』
――という、ツクモ全報の大見出しが記されていた。
「!!!!!、皇軍が――ソウタさんが、戦に勝ったと書いています!」
レンは、ホッとした表情を浮べて、新聞を丸めて抱き締める様に抱えた。
「まあ!、良かったわぁ~!」
「えっ!?、ホント!!、なんて書いているのか、詳しく読んでよぉ!」
同じく、喜びを爆発させた、ユキもニコッと笑って歓喜し、ミツカはすがる様にレンに詳細を聞きたいと囃す。
「え~っと――"スヨウ軍、勇んで狼煙上げるも、肝入りと思しき策、実らず。
皇軍、一気呵成に陣を席巻――因って、スヨウ軍敗走す所、一騎の勇士が追す。
勇士、草原に立てし一刀から、光刃現眼せしめ、敗走すスヨウ軍目掛け、草原に光刃の軌跡示す。
スヨウ、三軍将マサノリ、大義無しと刀聖に断じられし事、不服と宣し、無謀なる一騎打ちを刀聖に挑むが、刀聖、これを一刃の元に斬り伏せし"――ですって!」
レンは興奮気味に記事を音読し、ワナワナと震えを催す。
「――凄いね、それが、私たちの知る、ソウタさんがした事だなんて……」
冷静に聞いていたユキは、記事が伝える事実を、噛み締める様にそう言った。
「う~んっ!、やっぱり!、アタシのオトコを見る目は正しかったわぁ~!
でも、流石に、それがお伽話で聞いた"刀聖様"だってのには、そりゃあ驚いたけどね♪」
ミツカは、舌をペロッと小さく出し、読めない字が羅列している、レンが持つ新聞を眺めた。
「あら?、ミツカさん――"アタシの"じゃなく"アタシたちの"の間違いでしょ?
みんなもう、その刀聖様を、心より慕っているんですから♪」
ユキは、ミツカに負けじと、火照る頬を隠しながら、楽しそうにそう言う。
「レンちゃんも……でしょ?」
――と、ユキはレンに同意を求めた。
「えっ?!、わっ、私はぁ――」
レンは、妙にうつむき、恥ずかしそうに目を二人から逸らす。
そんな、煮え切らない態度に、ミツカはパンッ!と、派手な打撃音と共に、両手でレンの頬を抱え、真っ直ぐにレンの瞳を凝視する。
「――レンちゃん、もう、バレバレなのに……そーいう態度は、"逃げ"でしかないよ?」
キッパリとミツカに否定されたレンは、憑き物が落ちた様にスッとした表情に変わり――
「――そうですね。
私も、ソウタさんの事がっ!、好きでぇ~すっ!」
――と、声高に叫んだ。
『――ソウタさんの事がっ!、好きでぇ~すっ!』
――という、レンの叫びが漏れ聞こえる、波止場の乗り込み口に居たサスケは、胸に矢が刺さる思いで、その胸を抑えながら、うな垂れていた。
「――サスケ」
ヨシゾウは、哀れみの眼差しをサスケに向け、見ていられないと言った体で目を逸らす。
「――隊長、気にしないでください……昨夜、先に"玉砕"していた分、多少楽ですから」
「!?、玉砕っておま……っ!、彼女に、想いを告げたのかぁ?!」
予想外のサスケの言動に、ヨシゾウは目を見張った。
「ほっ、他に、想い人が居る……と、キッパリ言われ、それに――」
「――"兄の様な存在だとは思っていましたが、男性としては……"って、レンも結構、エグるわよねぇ♪」
サスケの顛末語りに割って入る様に、オリエは、レンのものまね付きで、サスケの説明を後押しした。
「頭領、聴いていたんですか……」
サスケは、恨み節を語る様に、オリエへ向けてそう言った。
「あの狭い寮じゃ、そりゃあ聞こえるわよ。
それに丁度、アタシの部屋の前で話してたんだし」
オリエは、そう言い訳をしてはいるが、明らかに態度は面白がっている体だ。
ちなみに――行き場を失ったヨシゾウとサスケは、とりあえず、オリエたちも仮の居を置いている、ヨクセ本店の寮で厄介になっている。
「――まっ、恋敵が天下の刀聖サマじゃあ、諦めも簡単でしょ?
それに、いざとなったら……ウチの娼街に行きな!、きっと、慰めて貰えるから!」
「頭領~!、自分がレンに抱いていたのは、そういう軽薄な思いではなくぅ……」
オリエとサスケが、ケラケラと軽口に興じている側で、ヨシゾウは腕を組んで――
「――頭領、ツクモ全報、ご覧になりましたか?」
――と、いたってマジメなトーンで、オリエに問うた。
「ああ、ソウタのやつ……随分と、格好付けた事をやらかしてさ」
オリエは、ニヤニヤと笑い、ホウリ平原がある西の空を見やる。
「スヨウの策謀は、刀聖様の光刃により、水泡に帰したかに思えるかもしれませんが――私はどうも、別の胸騒ぎを覚えてならないのです」
ヨシゾウは胸を抑え、口を真一文字に結んだ。
「そいつぁ……アタシも同じさね。
新聞が売り出されてから、ツツキ行きを辞めようかとも思ったが――それは、ちょいとヤバいと思う気もするのよ」
「ええ、ツクモ全報も、記事をこう結んでいますしね――"スヨウ、敗戦も、講和に向ける動きは見せず"と」
ヨシゾウは、軽く歯軋りをして、自分の刀の柄に残る鳳凰紋を見据えた。
「――だから、とりあえずレンたちは、予定どおりツツキへと向わせて……その上で、情勢をじっくり探るのが懸命さね」
次にオリエは、オウザンのある南の空を見上げた…
「ええ、ツツキの地は、この世界の"果て"とも言える僻地――更に、旧ハクキ一軍直属の、手だれの暗衆がゴロゴロ居り、各国五軍筋では"暗衆泣かせ"とも言われる場。
故に、忍ぶ暗衆は皆無――かの地の情報収集は、半ば諦めているぐらいですから、レンさんの身を隠すには、絶好の場所だと推察出来ます」
ヨシゾウは端的に、ツツキに関する裏事情を述べた。
「アイツも……んな絶好なトコなら、最初からソッチに連れて行きゃあ良いのに……まあ、よっぽど帰りづらい理由があるのかもね」
オリエは不満気に、口を尖らせてソウタへの苦情を漏らした。
そんな陽気の間を通る風には、潮の香りも混じっていた。
ここは、オウビの港――ヨクセ商会が私有する、貿易船専用の波止場だ。
そこに停泊する、巨大な帆船――名を『風聖丸』という貿易船の甲板に、潮風の香りを嗅ぎながら、遠い水平線を見据えている、旅装束のレンの姿があった。
その、レンの周りでは、慌しく動く水夫たちの姿がチラホラ――どうやら、この船は出航の準備を行っている様だ…
(この、オウビの街とも、今日でお別れかぁ……)
風聖丸の甲板に立つレンは、少し寂しそうに思いながら、広い海原を見渡していた。
(この船に、乗って行く所って、ソウタさんのお義母様が居る場所――なっ、何だか、そう思うと、緊張して来た!)
レンは、頬を紅潮させて、火照るそこを両手で覆う。
(それに、そのツツキという所は、父さんと母さんが、その息女様に付き従って、私が産まれる前に暮らしていた場所――何だか、因縁みたいなモノも感じちゃうなぁ)
レンが、そんな物思いにふけって居ると――
「――う~~んっ!、良い香りねぇ♪
当たり前だけど、海に近付いているっ!、実感があるわぁ」
――そう言って、レンに声を掛けて来たのは、盲目であるユキの手を引いたミツカだった。
「ふふ♪、ミツカさんったら、楽しそう」
ユキは、上品に口元を覆った手の平越しに、クスクスと笑い声を漏らした。
そんな二人の様子に、妙な違和感を一つ感じる――それは、ユキも旅装束に身を包んでいるからである。
風聖丸のオウビ帰還を待つ間に、再度集められた組合の寄り合いで、一つの懸念が持ち上がった。
あの屋敷への襲撃に関わった、オリエやリュウジ――そして、ユキも、スヨウ側のターゲットに追加されているのではないかという懸念だ。
同時に、還る場所を失った二人の"元"スヨウ軍の二人――ヨシゾウとサスケの処遇と、彼らもターゲットに入っている懸念も浮き出たのである。
自身を守る術がある、リュウジや侍二人は心配無いが――オリエやユキ(※例の"とっておき"は、レン以外知らない)の護衛をどうするかで、合議は紛糾した。
それで持ち上がったのは、2人もレンと一緒に、ツツキへ疎開させるという策だった。
オリエは、ツツキに行く事を固辞したが、ユキは――
「ええ、構いません。
ソウタさんの故郷ですから、興味もありますしね」
――と、快諾したので、ユキはレンの道中仲間となったのである。
「ミツカさん、ユキさんの付き添い、ご苦労様です」
二人の声に振り返ったレンは、軽く会釈をする。
「なぁに、ユキとは、しばらくの間、お別れになっちまうしねぇ……他のみんなも、船まで連れて行くのは、一番仲良いアタシが良いはずだなんて言うしさ」
ミツカは、握るユキの手を、名残惜しそうに見ながら言った。
「あっ、そうだ――お別れの前に、レンちゃんに頼みたいコトがあったんだよぉ」
ミツカは意味深にそう言うと、自分の着物の懐を弄り、何かを探す。
「あれ?、どこに、入れたっけ?」
……案の定、"キワどい恰好"のミツカが、そんな仕草をすると、レンの周りで働く大勢の水夫たちは、一斉に足や手を止め、目線釘付け状態でミツカの姿を見詰める。
「ミッ!、ミツカさん!、早く!」
矢の様な視線に参ったレンは、焦ってミツカを急がせる。
「あっ!、あったぁ~♪、はい、コレ!」
――と、ミツカが懐から取り出したのは、一部の新聞だった。
「おフミ婆さんがさぁ、ソウタの事が新聞に載ってるって言うから、アタシも一部買ったんだけど……よく考えたらアタシ、字が読めないんだよねぇ」
「――っ!?」
レンは、そのミツカの言葉を聞き、激しく動揺する。
「お仲間も同じく、学がない娘ばっかだしぃ、そうじゃないユキは、目が見えないと来るでしょ?
だから、出航前に、読んで聞かせて欲しいと思って――」
ミツカが、頼みを言い終える前に――
「――くっ!、くださいっ!」
――と、レンは奪う様に新聞を受け取る。
(……まさか、戦死者報に!?)
そんな、ありえない心配を膨らませながら、レンが慌てて一面を開くと、そこには――
『――光刃現眼、ホウリ平原にて成る!』
――という、ツクモ全報の大見出しが記されていた。
「!!!!!、皇軍が――ソウタさんが、戦に勝ったと書いています!」
レンは、ホッとした表情を浮べて、新聞を丸めて抱き締める様に抱えた。
「まあ!、良かったわぁ~!」
「えっ!?、ホント!!、なんて書いているのか、詳しく読んでよぉ!」
同じく、喜びを爆発させた、ユキもニコッと笑って歓喜し、ミツカはすがる様にレンに詳細を聞きたいと囃す。
「え~っと――"スヨウ軍、勇んで狼煙上げるも、肝入りと思しき策、実らず。
皇軍、一気呵成に陣を席巻――因って、スヨウ軍敗走す所、一騎の勇士が追す。
勇士、草原に立てし一刀から、光刃現眼せしめ、敗走すスヨウ軍目掛け、草原に光刃の軌跡示す。
スヨウ、三軍将マサノリ、大義無しと刀聖に断じられし事、不服と宣し、無謀なる一騎打ちを刀聖に挑むが、刀聖、これを一刃の元に斬り伏せし"――ですって!」
レンは興奮気味に記事を音読し、ワナワナと震えを催す。
「――凄いね、それが、私たちの知る、ソウタさんがした事だなんて……」
冷静に聞いていたユキは、記事が伝える事実を、噛み締める様にそう言った。
「う~んっ!、やっぱり!、アタシのオトコを見る目は正しかったわぁ~!
でも、流石に、それがお伽話で聞いた"刀聖様"だってのには、そりゃあ驚いたけどね♪」
ミツカは、舌をペロッと小さく出し、読めない字が羅列している、レンが持つ新聞を眺めた。
「あら?、ミツカさん――"アタシの"じゃなく"アタシたちの"の間違いでしょ?
みんなもう、その刀聖様を、心より慕っているんですから♪」
ユキは、ミツカに負けじと、火照る頬を隠しながら、楽しそうにそう言う。
「レンちゃんも……でしょ?」
――と、ユキはレンに同意を求めた。
「えっ?!、わっ、私はぁ――」
レンは、妙にうつむき、恥ずかしそうに目を二人から逸らす。
そんな、煮え切らない態度に、ミツカはパンッ!と、派手な打撃音と共に、両手でレンの頬を抱え、真っ直ぐにレンの瞳を凝視する。
「――レンちゃん、もう、バレバレなのに……そーいう態度は、"逃げ"でしかないよ?」
キッパリとミツカに否定されたレンは、憑き物が落ちた様にスッとした表情に変わり――
「――そうですね。
私も、ソウタさんの事がっ!、好きでぇ~すっ!」
――と、声高に叫んだ。
『――ソウタさんの事がっ!、好きでぇ~すっ!』
――という、レンの叫びが漏れ聞こえる、波止場の乗り込み口に居たサスケは、胸に矢が刺さる思いで、その胸を抑えながら、うな垂れていた。
「――サスケ」
ヨシゾウは、哀れみの眼差しをサスケに向け、見ていられないと言った体で目を逸らす。
「――隊長、気にしないでください……昨夜、先に"玉砕"していた分、多少楽ですから」
「!?、玉砕っておま……っ!、彼女に、想いを告げたのかぁ?!」
予想外のサスケの言動に、ヨシゾウは目を見張った。
「ほっ、他に、想い人が居る……と、キッパリ言われ、それに――」
「――"兄の様な存在だとは思っていましたが、男性としては……"って、レンも結構、エグるわよねぇ♪」
サスケの顛末語りに割って入る様に、オリエは、レンのものまね付きで、サスケの説明を後押しした。
「頭領、聴いていたんですか……」
サスケは、恨み節を語る様に、オリエへ向けてそう言った。
「あの狭い寮じゃ、そりゃあ聞こえるわよ。
それに丁度、アタシの部屋の前で話してたんだし」
オリエは、そう言い訳をしてはいるが、明らかに態度は面白がっている体だ。
ちなみに――行き場を失ったヨシゾウとサスケは、とりあえず、オリエたちも仮の居を置いている、ヨクセ本店の寮で厄介になっている。
「――まっ、恋敵が天下の刀聖サマじゃあ、諦めも簡単でしょ?
それに、いざとなったら……ウチの娼街に行きな!、きっと、慰めて貰えるから!」
「頭領~!、自分がレンに抱いていたのは、そういう軽薄な思いではなくぅ……」
オリエとサスケが、ケラケラと軽口に興じている側で、ヨシゾウは腕を組んで――
「――頭領、ツクモ全報、ご覧になりましたか?」
――と、いたってマジメなトーンで、オリエに問うた。
「ああ、ソウタのやつ……随分と、格好付けた事をやらかしてさ」
オリエは、ニヤニヤと笑い、ホウリ平原がある西の空を見やる。
「スヨウの策謀は、刀聖様の光刃により、水泡に帰したかに思えるかもしれませんが――私はどうも、別の胸騒ぎを覚えてならないのです」
ヨシゾウは胸を抑え、口を真一文字に結んだ。
「そいつぁ……アタシも同じさね。
新聞が売り出されてから、ツツキ行きを辞めようかとも思ったが――それは、ちょいとヤバいと思う気もするのよ」
「ええ、ツクモ全報も、記事をこう結んでいますしね――"スヨウ、敗戦も、講和に向ける動きは見せず"と」
ヨシゾウは、軽く歯軋りをして、自分の刀の柄に残る鳳凰紋を見据えた。
「――だから、とりあえずレンたちは、予定どおりツツキへと向わせて……その上で、情勢をじっくり探るのが懸命さね」
次にオリエは、オウザンのある南の空を見上げた…
「ええ、ツツキの地は、この世界の"果て"とも言える僻地――更に、旧ハクキ一軍直属の、手だれの暗衆がゴロゴロ居り、各国五軍筋では"暗衆泣かせ"とも言われる場。
故に、忍ぶ暗衆は皆無――かの地の情報収集は、半ば諦めているぐらいですから、レンさんの身を隠すには、絶好の場所だと推察出来ます」
ヨシゾウは端的に、ツツキに関する裏事情を述べた。
「アイツも……んな絶好なトコなら、最初からソッチに連れて行きゃあ良いのに……まあ、よっぽど帰りづらい理由があるのかもね」
オリエは不満気に、口を尖らせてソウタへの苦情を漏らした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる