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一旦の終幕
帰還路
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踏み固められた街道の土の地面に響く、馬蹄や草鞋を踏む足音が多数聞こえる。
コウオウの都――オウクヘと向う、無数の軍装の群れには、どこか、晴れ晴れとした雰囲気が漂っていた。
「いやぁ~っ!、めでたいっ!」
鞍上で、ニヤニヤと顔を綻ばせ、そんな言葉を幾度も吐いているのはカオリである。
彼女が何故、それほどご機嫌なのかというと――それは勿論、戦勝の帰路の途中である事に他ならない。
「ホントッ!、めでたいよねぇ~!」
カオリの馬に寄り添う様に歩いている、タマもまた、ニヤニヤとしながらカオリの言葉に同調する。
「――皆様のおかげで、我ら皇軍はスヨウの蛮行に屈せず、彼奴らを退かせる事が出来ました。
感謝しておりますぞ」
カオリは、戦勝の喜びから来たニヤけ顔から一転して、タマの相槌に唇を噛み締めてそう応える。
「いっ、いやだなぁ!、アタシたちはただ、傭兵としての仕事をしただけだよ」
タマは気恥ずかしそうに、猫耳の後ろをポリポリと掻く。
「最終的な動機が、給金であろうと、何だろうと――志を同じくして、戦ってくれた事実に変わりはございませぬ。
それこそ、それが"有志隊"の、意でございましょう?」
カオリはふと、後ろを振り返り、その有志隊の隊長である、自分につき従う様に前進する、500人に迫る義兵たちの隊列を見渡す。
その視線が動く最中、カオリは――同じく、鞍上の人として隊列に加わっている、若い男と目が合った。
「――っ!」
カオリは、急に表情を変え、口を真一文字に結んで彼から目を逸らし、一礼して畏まった。
若い男は、そのカオリの態度に少し、ムッとした様な表情を向けた。
「あ~っ!、カオリ……ソウタと目が合ったんでしょ?」
タマも、ムスッとした表情をカオリに向け、その変貌をの意味をそう邪推する。
「えっ、ええ……」
ご機嫌だったはずのカオリは、萎れた葱の様にうな垂れる。
「厳しく、畏怖のある眼差しでした――わっ、私の軽率な浮かれ様に、"刀聖様"は、お怒りに成られたのでしょうか?」
「う~ん……違うと思うよぉ~?」
タマは、呆れた様にそう言って目を細める。
「ソウタはさ、寧ろ態度を豹変させてるコトに、ムッとしてるんだと思うな。
終戦後に、ソウタは言ったでしょ?、"ただの流れ者だから、そーいうのはナシで"って。
だから、畏まったりせずに、いつもどおりにして欲しいんだよ」
タマは、偉そうに一言の度に人差し指を立て、カオリを諭す様に意見を並べた。
「仰ったとはいえ、実は刀聖様だと知ってしまっては――"これまでどおり"だと、非礼に当たると思うのが、ツクモに住まう者としては人情でございましょう?」
カオリは、明らかに年下であるタマの指摘を、素直に聞きながらも、その意見にはしっかり反論する。
「ヒトって、ホント面倒臭いよねぇ。
"本人が"、そう言ってるのにさ」
亜人種である猫族のタマは、カオリの反論を訝しげに聞き、不満気に口を尖らせる。
「――でも、ソウタが刀聖だとわかった時は、アタシも驚いたなぁ~!
だって、刀聖って、お伽絵草子の中の者だと思ってたモン!」
タマは、光刃現眼のシーンを思い起こし、若干コーフン気味に鞍上のカオリを見上げる。
「……だけど、指絵だとかでは大概、美形なのに、ソウタは割とフツーだよね?」
――と、続けて、そんな率直な感想も付け加えて、タマはカオリに同意を求めた。
カオリは思わず、呼吸の際に咽せながら――
「――!?、ゴホッ!、……なっ!、タッ!、タマさんっ!
きっ!、聞こえる距離ではないとはいえ――何たる不敬なっ?!」
――と、狼狽して、下句に入っては声を潜め、タマの失礼な物言いを叱る。
「だって、単に、イメージ崩れちゃったなぁ――ってだけだよ?
それにぃ……別に、ソウタがブサイクだとは思ってないよぉ~!、開戦の前夜に告白しちゃったくらいだから、どっちかと言ったらタイプだしね♪」
タマはほんのりと赤面し、モジモジしながらボソボソとつぶやく。
「!!!!!?、告――っ!?、って、ええっ?!」
カオリは、更に動揺し、眼を丸くして鞍下へ首を伸ばす。
「えっへへ――とは言っても、"種間の禁忌"があるから、"諦める宣言"をした、だけだけどねぇ♪」
タマは快活に笑い、可愛らしい笑顔を見せてそう言う。
「――お気持ち、お察しします……」
――カオリは、気の毒な事を聞いてしまった体で、タマから目を逸らす。
「イヤだなぁ!
そんな顔は止めてよぉ~!、諦める理由は、禁忌の事だけじゃなくて、ソウタとサトコのイイ雰囲気に、勝てるワケが無いなぁ~……って、思ったからでもあるんだからぁ」
タマは手をヒラヒラと振るい、恥ずかしそうにそう言った。
「――あっ!、そういやさ……ソウタとサトコも、"禁忌のカンケイ"になっちゃうんでしょ?
"刀聖と皇は、結ばれてはならない間柄"って、草子で読んだモン」
タマは顔をしかめ、悲しそうに、オウクのある街道の果てを真っ直ぐ見やる。
「――その一節は、確か……"満月からの月明かりの下、御所の出窓で――"刀聖レイ様と、十三世皇様が、惜別の熱き抱擁をし合うシーンですなっ?!」
カオリは、ピッと人差し指をタマの顔前に立て、興奮気味に熱さのある弁を語る。
「――そうっ!、"皇の思い人は、志と使命を同じくする、刀聖だった――"『同じ、思いが故に』っ!!!、カオリも、読んだ事あるのっ?!」
タマは目を輝かせ、ズイッとカオリの顔に首を伸ばす。
「もちろんですともっ!
識字適う女子ならば、大概の者が読んでいると言っても過言ではなく、識字適わぬ者でも、旅芸人の芝居として、十八番となっている、"ツクモ三大悲恋"の一つ――誰もが知る名作でございますからな」
「うんうんっ!、アタシは専ら、お芝居や絵草子だったけど、キュンキュンしちゃったよぉ~~っ!」
二人が盛り上がっているのは、ツクモにおいて、不朽の名作と呼ばれている古典的恋愛小説の話題である。
二人が言う『同じ、思いが故に』とは、惹かれ合う刀聖と皇が、気持ちは通っているのに、己が立場の妙で結ばれる事を断念するという物語である。
これは、500年ほど前にあった実話だという説が有名で"皇の自由恋愛権の例外は、相手が刀聖の場合"という、暗黙の掟の逸話として、世に知られているのである。
「――でも、最近の説としては、刀聖様と結ばれてはならないなどという、掟は無いと、今生の皇様の母――二十三世皇様は、ツクモ全報での私的な会見で仰っていたと……」
カオリは、顎に手を置き、思い出す素振りをしながらそう呟く。
「えっ!?、じゃあ――あくまでも創作ってコトぉ~っ!?
なぁんだ、要らない心配だったんだね……うんっ!、良いコト、良いコトぉ~っ!、やぁっぱりっ!、ホントッ!、めでた……」
タマがまた、はしゃいで見せようと、今度は小さな身体を思いっきり反らして、太陽を見上げようとすると、そこには――
「――!?、へっ?!、ソウタっ!」
――鞍上から、自分を見下ろす、ソウタの顔があった。
「――タマ、それにカオリさん……」
ソウタは、明らかに呆れた表情で、二人に背後から声を掛けた。
「随分、大きな声のヒソヒソ話だねぇ~!、ほぼ、全部聞こえてるよ?」
「――?!」
「――?!」
ソウタの指摘に、二人は声を失い顔を硬直させる。
「あっ、あのっ!、刀聖さ――」
「――カオリさん」
弁明を図ろうとするカオリが、ソウタに声を掛け様とするが、彼は間髪入れずにその声掛けをカットし――
「俺、そう呼ばれても返事しないよ?、
俺は……今までどおり、接してくれって言ったよねぇ?、単に"光の刀を預かっている"だけの、しがないビンボー流れ者なんだからさ?」
――と、冷ややかな口調で論破する。
「ぐぅ、はいぃ~……」
カオリは、完敗の体でうな垂れた。
「それと――イケメンじゃなくて、悪かったねぇ!、だから、光刃を晒したくなかったんだよっ!」
ソウタは、こめかみをヒクヒクさせて、二人を凝視する。
「どこもかしこも、刀聖の挿絵は、色男ばっかり!
そうなんだから、外見も継承者を選ぶ基準に入れとけよってんだっ!、あの師匠も!」
ソウタは、グチグチと文句を垂らしながら、青空を見上げる。
(いやぁ……アタシを、惚れさせたり――)
(――あの聡明な皇様を、メロメロにさせているのだから……あなたも充分、色男なのでは?)
――順に、タマとカオリは、心中でそう呟き、しっかりツッコンでもいた。
カオリとタマは、この後――今夜の野営地に着くまで、ソウタの刀聖に選ばれてしまった故の愚痴を、散々聞かされたのだった……
コウオウの都――オウクヘと向う、無数の軍装の群れには、どこか、晴れ晴れとした雰囲気が漂っていた。
「いやぁ~っ!、めでたいっ!」
鞍上で、ニヤニヤと顔を綻ばせ、そんな言葉を幾度も吐いているのはカオリである。
彼女が何故、それほどご機嫌なのかというと――それは勿論、戦勝の帰路の途中である事に他ならない。
「ホントッ!、めでたいよねぇ~!」
カオリの馬に寄り添う様に歩いている、タマもまた、ニヤニヤとしながらカオリの言葉に同調する。
「――皆様のおかげで、我ら皇軍はスヨウの蛮行に屈せず、彼奴らを退かせる事が出来ました。
感謝しておりますぞ」
カオリは、戦勝の喜びから来たニヤけ顔から一転して、タマの相槌に唇を噛み締めてそう応える。
「いっ、いやだなぁ!、アタシたちはただ、傭兵としての仕事をしただけだよ」
タマは気恥ずかしそうに、猫耳の後ろをポリポリと掻く。
「最終的な動機が、給金であろうと、何だろうと――志を同じくして、戦ってくれた事実に変わりはございませぬ。
それこそ、それが"有志隊"の、意でございましょう?」
カオリはふと、後ろを振り返り、その有志隊の隊長である、自分につき従う様に前進する、500人に迫る義兵たちの隊列を見渡す。
その視線が動く最中、カオリは――同じく、鞍上の人として隊列に加わっている、若い男と目が合った。
「――っ!」
カオリは、急に表情を変え、口を真一文字に結んで彼から目を逸らし、一礼して畏まった。
若い男は、そのカオリの態度に少し、ムッとした様な表情を向けた。
「あ~っ!、カオリ……ソウタと目が合ったんでしょ?」
タマも、ムスッとした表情をカオリに向け、その変貌をの意味をそう邪推する。
「えっ、ええ……」
ご機嫌だったはずのカオリは、萎れた葱の様にうな垂れる。
「厳しく、畏怖のある眼差しでした――わっ、私の軽率な浮かれ様に、"刀聖様"は、お怒りに成られたのでしょうか?」
「う~ん……違うと思うよぉ~?」
タマは、呆れた様にそう言って目を細める。
「ソウタはさ、寧ろ態度を豹変させてるコトに、ムッとしてるんだと思うな。
終戦後に、ソウタは言ったでしょ?、"ただの流れ者だから、そーいうのはナシで"って。
だから、畏まったりせずに、いつもどおりにして欲しいんだよ」
タマは、偉そうに一言の度に人差し指を立て、カオリを諭す様に意見を並べた。
「仰ったとはいえ、実は刀聖様だと知ってしまっては――"これまでどおり"だと、非礼に当たると思うのが、ツクモに住まう者としては人情でございましょう?」
カオリは、明らかに年下であるタマの指摘を、素直に聞きながらも、その意見にはしっかり反論する。
「ヒトって、ホント面倒臭いよねぇ。
"本人が"、そう言ってるのにさ」
亜人種である猫族のタマは、カオリの反論を訝しげに聞き、不満気に口を尖らせる。
「――でも、ソウタが刀聖だとわかった時は、アタシも驚いたなぁ~!
だって、刀聖って、お伽絵草子の中の者だと思ってたモン!」
タマは、光刃現眼のシーンを思い起こし、若干コーフン気味に鞍上のカオリを見上げる。
「……だけど、指絵だとかでは大概、美形なのに、ソウタは割とフツーだよね?」
――と、続けて、そんな率直な感想も付け加えて、タマはカオリに同意を求めた。
カオリは思わず、呼吸の際に咽せながら――
「――!?、ゴホッ!、……なっ!、タッ!、タマさんっ!
きっ!、聞こえる距離ではないとはいえ――何たる不敬なっ?!」
――と、狼狽して、下句に入っては声を潜め、タマの失礼な物言いを叱る。
「だって、単に、イメージ崩れちゃったなぁ――ってだけだよ?
それにぃ……別に、ソウタがブサイクだとは思ってないよぉ~!、開戦の前夜に告白しちゃったくらいだから、どっちかと言ったらタイプだしね♪」
タマはほんのりと赤面し、モジモジしながらボソボソとつぶやく。
「!!!!!?、告――っ!?、って、ええっ?!」
カオリは、更に動揺し、眼を丸くして鞍下へ首を伸ばす。
「えっへへ――とは言っても、"種間の禁忌"があるから、"諦める宣言"をした、だけだけどねぇ♪」
タマは快活に笑い、可愛らしい笑顔を見せてそう言う。
「――お気持ち、お察しします……」
――カオリは、気の毒な事を聞いてしまった体で、タマから目を逸らす。
「イヤだなぁ!
そんな顔は止めてよぉ~!、諦める理由は、禁忌の事だけじゃなくて、ソウタとサトコのイイ雰囲気に、勝てるワケが無いなぁ~……って、思ったからでもあるんだからぁ」
タマは手をヒラヒラと振るい、恥ずかしそうにそう言った。
「――あっ!、そういやさ……ソウタとサトコも、"禁忌のカンケイ"になっちゃうんでしょ?
"刀聖と皇は、結ばれてはならない間柄"って、草子で読んだモン」
タマは顔をしかめ、悲しそうに、オウクのある街道の果てを真っ直ぐ見やる。
「――その一節は、確か……"満月からの月明かりの下、御所の出窓で――"刀聖レイ様と、十三世皇様が、惜別の熱き抱擁をし合うシーンですなっ?!」
カオリは、ピッと人差し指をタマの顔前に立て、興奮気味に熱さのある弁を語る。
「――そうっ!、"皇の思い人は、志と使命を同じくする、刀聖だった――"『同じ、思いが故に』っ!!!、カオリも、読んだ事あるのっ?!」
タマは目を輝かせ、ズイッとカオリの顔に首を伸ばす。
「もちろんですともっ!
識字適う女子ならば、大概の者が読んでいると言っても過言ではなく、識字適わぬ者でも、旅芸人の芝居として、十八番となっている、"ツクモ三大悲恋"の一つ――誰もが知る名作でございますからな」
「うんうんっ!、アタシは専ら、お芝居や絵草子だったけど、キュンキュンしちゃったよぉ~~っ!」
二人が盛り上がっているのは、ツクモにおいて、不朽の名作と呼ばれている古典的恋愛小説の話題である。
二人が言う『同じ、思いが故に』とは、惹かれ合う刀聖と皇が、気持ちは通っているのに、己が立場の妙で結ばれる事を断念するという物語である。
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カオリは、顎に手を置き、思い出す素振りをしながらそう呟く。
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なぁんだ、要らない心配だったんだね……うんっ!、良いコト、良いコトぉ~っ!、やぁっぱりっ!、ホントッ!、めでた……」
タマがまた、はしゃいで見せようと、今度は小さな身体を思いっきり反らして、太陽を見上げようとすると、そこには――
「――!?、へっ?!、ソウタっ!」
――鞍上から、自分を見下ろす、ソウタの顔があった。
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「随分、大きな声のヒソヒソ話だねぇ~!、ほぼ、全部聞こえてるよ?」
「――?!」
「――?!」
ソウタの指摘に、二人は声を失い顔を硬直させる。
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「――カオリさん」
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俺は……今までどおり、接してくれって言ったよねぇ?、単に"光の刀を預かっている"だけの、しがないビンボー流れ者なんだからさ?」
――と、冷ややかな口調で論破する。
「ぐぅ、はいぃ~……」
カオリは、完敗の体でうな垂れた。
「それと――イケメンじゃなくて、悪かったねぇ!、だから、光刃を晒したくなかったんだよっ!」
ソウタは、こめかみをヒクヒクさせて、二人を凝視する。
「どこもかしこも、刀聖の挿絵は、色男ばっかり!
そうなんだから、外見も継承者を選ぶ基準に入れとけよってんだっ!、あの師匠も!」
ソウタは、グチグチと文句を垂らしながら、青空を見上げる。
(いやぁ……アタシを、惚れさせたり――)
(――あの聡明な皇様を、メロメロにさせているのだから……あなたも充分、色男なのでは?)
――順に、タマとカオリは、心中でそう呟き、しっかりツッコンでもいた。
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