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一旦の終幕
凱旋
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オウクの街は、いつも以上に賑わっていた。
その理由はただ一つ――スヨウとの戦で勝利した、皇軍の凱旋が今日に迫っていたからである。
どこで、その情報を仕入れたのかは知らないが、広場へと繋がる大通りには、沢山の人々が集まり、その群集の懐を狙ってか、飲み物や食べ物の屋台、露店が軒並み寄り集まっている。
一言で言うなら、お祭り騒ぎの様相だ。
人の波が、続々とその喧騒に吸い込まれていく中――それに逆らう様に、一人の女性が袋包みを抱え、広場とは逆方向に大通りを歩んでいる。
女性は、少し、周りを気にしながら、ある旅籠へと入っていった。
「――どうも、少し、遅れました」
女性が、旅籠の引き戸を開け、中へ入ると――そこには、主に若い男女が数十名集まって居り、彼女は、それらに軽く会釈をして、その集団の中へ加わる。
旅籠の中は、明らかに外の浮かれた雰囲気とは一線を画し、神妙な面持ちの若者たちが放つ、独特で張り詰めた空気に包まれていた。
「――皆さん」
その張り詰めた一団が、一斉に、その声に応じて目線を向ける。
そこに居るのも、やはり若者と呼べる風体の、短髪の女性だった。
短髪の女性は、集まった人々へ向けて両手を広げ――
「コチラに至るまでの光景――どの様な思いで、皆さんは通って来たでしょうか?」
――優しい声音と口調で、語り始めた。
「今のこの街は、戦勝という"媚薬"に酔っております――しかしながら、皆さんはその香しい媚薬に背を向け、私が皆さんにお伝えしたい事を、聴きに来てくださいました――感謝に、耐えません」
短髪の女性は目を伏せ、目尻に涙を浮べる。
「聴きに来て、下さったという事は――皆さんも、私が抱く今回の不条理な物事の進行への、疑念や疑問を持っているからなのでしょう」
短髪の女性は、更にそう前置きしてから、彼方を見据える様に天井を見上げ――
「私の家族は、先のコクエ内戦の戦火から逃れ、このオウクの街へと移り住みました――まだ、子供だった私が聞いた限りでは、両親がこの街を選んだ理由は、コウオウは"絶対に戦をしない国"、"戦が起きない国"だからだと言っていました」
――と、そんな思い出話を語ると、目線をキリっと一変させ、場の全員を見やる。
「私の両親と、同じ思いで、この地に居を置いた方は、少ない人数ではないでしょう――でも、その思いを踏み躙る様に、此度の戦は行われました。
これは、民の思いを無視した、由々しき事態のはず――なのに!、人々はただ!、何故に!、その勝利に浮かれているのか!、そう思っているのが、ココに集まった皆さんなのだと思います」
短髪女性の語りは熱を帯び、なんだか演説染みて来た……
「――平和で、皆が幸せだったはずのツクモは今、混沌の最中に居ります。
その理由は、人々を導くべき存在である、各国の君主の怠慢のせいだと語る人が増えました――かつての三大国の内、ハクキとコクエの二か国の国体が瓦解、変容したのも、そんな人々の思いの"うねり"が成した業――つまり!、ツクモは!、生まれ変わろうとしている最中でもあるのです!」
短髪女性は、握り締めた拳を震わせて――
「この混沌は、言わば産みの苦しみなのです――"新時代"を、迎えるためのっ!」
――と、興奮気味に言い放つと、一人の少年を自分の隣に呼び寄せる。
「――彼は、識字が叶いません……でも、幼少の頃から病弱なために、非力である事から肉体労働も叶わず、今は、私たちの援助で暮らして居ります。
これが、今のツクモの――いいえ、あえて言いましょう!、"旧時代"の弊害なのです!」
短髪女性はまた、涙を浮べて、少年を抱き締めた。
「多くの人が"自由度が高く、能力や適正、志に端を発する身分制度"と、今のツクモの現状を褒め称えますが、それは言わば――個人への丸投げっ!
力も、知恵も無い者は!、勝手にのたれ死ね!、そう言っているのと同意なのです!、これが――人々を導く、見守る君主が言う"幸せ"なのです!」
短髪女性は、ボロボロと涙を溢し、それを恥じてまた、目を伏せた。
「皆さん――新時代を座して待っていては、この混沌に呑み込まれてしまうのです。
だから!、皆で!、行動を起こすべきなのです!
世界が――人々の古い考えが、生まれ変わる日は近く、戦勝という媚薬に酔った、この空気こそが!、それを成す好機なのです!」
短髪女性の演説は、得々と続くが――微かに、外に漏れるその声は、お祭り騒ぎの喧騒に呑み込まれて行った。
「はぁ~……」
御所の主殿に座すサトコは、一通の書状を読み返し、大きな溜め息を吐いた。
この書状は、昨日――ホウリ平原へと出陣していたカツトシから届いた、戦勝と凱旋の予定を伝えるモノだった。
そんな、めでたいはずの書状を前に、何故、サトコが溜め息を吐いているのかというと――言わずもがな、旧友であり、実は求婚までしている相手、ソウタが実は"刀聖"であった事が解ったという件を読んだせいだ。
「――ソウタが、刀聖……」
このセリフを、書状が届いた昨日から数えて――27回、悲壮なトーンで呟いている。
「――"また"、ですか?」
27回も側で聞かされている、御付きの侍女であるキヨネは、ついに呆れたトーンで応じた。
「今生のツクモを見守る、皇様のご決断は、ツクモの"武"を司る、刀聖様のお墨付き――そうなったのですから、寧ろ、喜ばしい事なのでは?」
キヨネは、諭す様に、そうサトコに声を掛けた。
「ええ、"政治としては"ね。
私が思い、悩んでいるのは……その事ではありません」
「ああ、やっぱり、皇様と刀聖様が恋仲なのは、芳しくない――の方ですかぁ……」
キヨネは、サトコの言葉に間髪入れずに、悩みの原因の推測を被せた。
「――ゴホッ!」
その、絶妙な返しに、護衛としてキヨネの反対側に控える、コウオウ第一軍団将、エリカは思わず咽た。
「――ハッキリ、言ってくれますねぇ……」
サトコは、流石に、眉間へシワを寄せて、キヨネを睨む。
「皇様が、刀聖――いえ、ソウタ殿の事をお慕いしているのは、コウオウの者ならば、誰が見ても明らかですもの……左手の、金糸龍の指輪で。
そんな御仁が、実は刀聖様だったとなれば、お悩みの原因は簡単に推察出来ます」
キヨネは、人差し指を立てて、ニヤッと笑って見せる。
「"例の悲恋譚"の件――ですな?」
咳き込み終えたエリカが、キヨネの言葉に相槌を入れる。
「でも、あの逸話は、ただの古人の創作に過ぎないと、先世様が皆に明かしたはず――何故、それほど嘆く必要があるのです?」
エリカは、不思議そうにサトコの表情を覗き見て、率直に疑問をぶつけた。
サトコはまた、大きく溜め息を吐いてから――
「確かに――"皇と刀聖が婚いではならない"、などという掟はありません……ですが、両者の婚姻は、コウオウ一国の君主が、武の象徴である刀聖の、絶対的な武力を独占する――という結果となる。
そうなってしまっては、他国が脅威を感じて反発するは必至――ツクモの安寧を望むべき皇が、それを成す事は出来ない。
その寸前にまで至ったのが、十三世様と刀聖レイの時代なのです」
――と、悲壮感に満ちた表情で、逸話の真相を語った。
「では、"掟"ではないにしろ、"事実上"は、お二人が結ばれる事はあってはならない――なのですね」
エリカは、哀れに満ちた口調でそう言った。
「――そうです。
私が、皇の座を退かない限り……」
「!?、まさか皇様!、それを御企みしているのではないでしょうね?!」
サトコが、さりげなく付け加えた、退位を仄めかす件にキヨネは過敏に反応する。
「――私とて、それほど愚かではありません。
現在、皇位を継ぐ者が、一人も居ない事は――重々、解っておりますから……」
皇の継承は原則、皇が産んだ女子――例外の場合も、女系血族の女性からしか、皇位継承は許されない。
だが、現在のサトコの血族は、十五歳に成る弟のアキトのみなのだ。
「だから、溜め息ぐらいは許してくださいっ!
想い人と添えない悲しみは、同じ女子のあなたたちだって、よ~く解るでしょう?」
サトコは、臣下に対しているコトも忘れ、懇願して見せる。
「――解りました。
ですが、凱旋の際は、出窓に出て皇軍を迎え、労うのでしょう?
民に、悲しそうなお顔を見せる事は、謹んでくださいね?」
「ええ、それは、無論――」
「――申し上げますっ!」
サトコの言葉を遮る様に、一人の一軍の女武士が、慌てて主殿にやって来た。
「――如何がしました?」
「はっ!、皇軍、オウク内街下に凱旋っ!
総大将カツトシ殿を先頭に、御所へと向っておりますっ!」
女武士は満面の笑みを浮べて、サトコに報告する。
その吉報に、主殿の3人の頬が一斉に綻ぶ。
「解りました、出窓へと出る故、近衛を宜しく、お願い致します」
サトコは、エリカに目配せをして、主殿から出る事を申し渡す。
「はっ!、近衛一軍は出窓へと集まる様にと、一軍将が号令す!、皆、心得てかかれっ!」
エリカは険しく、真剣な表情で女武士に命じる。
「――はっ!」
エリカの号令に、サトコの周りは慌しく動き始めた。
――ワァァァァァァァァッ~~~~~~!
オウクの街の大通りは、興奮の坩堝と化していた。
その大通りを行く、皇軍の大行列は街の衆の歓声に、手を振って応える。
――ワァァァァァァァァァァァッ~~~~~~~~~!
街中の興奮は、更に騒ぎが増した御所の確認御所の出窓に、サトコが姿を現したからだ。
街の衆は、行列へ向けて手を振るの事を一旦止め――皆、一斉に出窓へと拝礼する者、中には合掌して、両手の平を震わせている老婆までが居た。
皇軍の列も、大通りを歩む事を一旦止め――皆、一斉に出窓へと拝礼する。
中には、タマの様に、ヒトの風習に慣れない亜人種の義兵も居た。
そこが、有志隊の列だと悟ったサトコは、目を凝らして、その列を見据え――愛しい、想い人の姿を探す。
その目線を感じたのか、栃栗毛の牡馬に跨ったソウタが、スッと人差し指に金糸龍の指輪が光る、左手を大きく掲げた。
(――!?、ソウタぁっ!)
サトコは、思わず涙ぐみ――口元を抑えて、その栃栗毛の鞍上から伸びる腕へと向けて手を振る。
「おっ!、おいっ……義兵の中に、後の皇夫様が居るのかぁ!?」
観衆の一人が、指輪に気付いて思わず叫ぶと――
――ウォォォォォォォォッ……、ワァァァァァァァァァァァッ~~~~~~~~~!
――大きなどよめきの後、ソウタのその軽はずみな行為で、更に観衆が沸き立つ。
(!?、やべぇ、例の指輪――外してねぇの忘れてた!)
ソウタは、バツが悪そうに、左手を下げて恥ずかしんで俯く。
その様子を、微笑ましく眺めている、サトコの横顔を見て、キヨネは――
(――どうにか、ならないのかしら?
このまま、御二人が結ばれずに終わるのは、酷すぎるわ……)
――と、二人の今後を哀れんで、歓喜に沸く出窓の中で一人、険しく唇を結んでいた。
その理由はただ一つ――スヨウとの戦で勝利した、皇軍の凱旋が今日に迫っていたからである。
どこで、その情報を仕入れたのかは知らないが、広場へと繋がる大通りには、沢山の人々が集まり、その群集の懐を狙ってか、飲み物や食べ物の屋台、露店が軒並み寄り集まっている。
一言で言うなら、お祭り騒ぎの様相だ。
人の波が、続々とその喧騒に吸い込まれていく中――それに逆らう様に、一人の女性が袋包みを抱え、広場とは逆方向に大通りを歩んでいる。
女性は、少し、周りを気にしながら、ある旅籠へと入っていった。
「――どうも、少し、遅れました」
女性が、旅籠の引き戸を開け、中へ入ると――そこには、主に若い男女が数十名集まって居り、彼女は、それらに軽く会釈をして、その集団の中へ加わる。
旅籠の中は、明らかに外の浮かれた雰囲気とは一線を画し、神妙な面持ちの若者たちが放つ、独特で張り詰めた空気に包まれていた。
「――皆さん」
その張り詰めた一団が、一斉に、その声に応じて目線を向ける。
そこに居るのも、やはり若者と呼べる風体の、短髪の女性だった。
短髪の女性は、集まった人々へ向けて両手を広げ――
「コチラに至るまでの光景――どの様な思いで、皆さんは通って来たでしょうか?」
――優しい声音と口調で、語り始めた。
「今のこの街は、戦勝という"媚薬"に酔っております――しかしながら、皆さんはその香しい媚薬に背を向け、私が皆さんにお伝えしたい事を、聴きに来てくださいました――感謝に、耐えません」
短髪の女性は目を伏せ、目尻に涙を浮べる。
「聴きに来て、下さったという事は――皆さんも、私が抱く今回の不条理な物事の進行への、疑念や疑問を持っているからなのでしょう」
短髪の女性は、更にそう前置きしてから、彼方を見据える様に天井を見上げ――
「私の家族は、先のコクエ内戦の戦火から逃れ、このオウクの街へと移り住みました――まだ、子供だった私が聞いた限りでは、両親がこの街を選んだ理由は、コウオウは"絶対に戦をしない国"、"戦が起きない国"だからだと言っていました」
――と、そんな思い出話を語ると、目線をキリっと一変させ、場の全員を見やる。
「私の両親と、同じ思いで、この地に居を置いた方は、少ない人数ではないでしょう――でも、その思いを踏み躙る様に、此度の戦は行われました。
これは、民の思いを無視した、由々しき事態のはず――なのに!、人々はただ!、何故に!、その勝利に浮かれているのか!、そう思っているのが、ココに集まった皆さんなのだと思います」
短髪女性の語りは熱を帯び、なんだか演説染みて来た……
「――平和で、皆が幸せだったはずのツクモは今、混沌の最中に居ります。
その理由は、人々を導くべき存在である、各国の君主の怠慢のせいだと語る人が増えました――かつての三大国の内、ハクキとコクエの二か国の国体が瓦解、変容したのも、そんな人々の思いの"うねり"が成した業――つまり!、ツクモは!、生まれ変わろうとしている最中でもあるのです!」
短髪女性は、握り締めた拳を震わせて――
「この混沌は、言わば産みの苦しみなのです――"新時代"を、迎えるためのっ!」
――と、興奮気味に言い放つと、一人の少年を自分の隣に呼び寄せる。
「――彼は、識字が叶いません……でも、幼少の頃から病弱なために、非力である事から肉体労働も叶わず、今は、私たちの援助で暮らして居ります。
これが、今のツクモの――いいえ、あえて言いましょう!、"旧時代"の弊害なのです!」
短髪女性はまた、涙を浮べて、少年を抱き締めた。
「多くの人が"自由度が高く、能力や適正、志に端を発する身分制度"と、今のツクモの現状を褒め称えますが、それは言わば――個人への丸投げっ!
力も、知恵も無い者は!、勝手にのたれ死ね!、そう言っているのと同意なのです!、これが――人々を導く、見守る君主が言う"幸せ"なのです!」
短髪女性は、ボロボロと涙を溢し、それを恥じてまた、目を伏せた。
「皆さん――新時代を座して待っていては、この混沌に呑み込まれてしまうのです。
だから!、皆で!、行動を起こすべきなのです!
世界が――人々の古い考えが、生まれ変わる日は近く、戦勝という媚薬に酔った、この空気こそが!、それを成す好機なのです!」
短髪女性の演説は、得々と続くが――微かに、外に漏れるその声は、お祭り騒ぎの喧騒に呑み込まれて行った。
「はぁ~……」
御所の主殿に座すサトコは、一通の書状を読み返し、大きな溜め息を吐いた。
この書状は、昨日――ホウリ平原へと出陣していたカツトシから届いた、戦勝と凱旋の予定を伝えるモノだった。
そんな、めでたいはずの書状を前に、何故、サトコが溜め息を吐いているのかというと――言わずもがな、旧友であり、実は求婚までしている相手、ソウタが実は"刀聖"であった事が解ったという件を読んだせいだ。
「――ソウタが、刀聖……」
このセリフを、書状が届いた昨日から数えて――27回、悲壮なトーンで呟いている。
「――"また"、ですか?」
27回も側で聞かされている、御付きの侍女であるキヨネは、ついに呆れたトーンで応じた。
「今生のツクモを見守る、皇様のご決断は、ツクモの"武"を司る、刀聖様のお墨付き――そうなったのですから、寧ろ、喜ばしい事なのでは?」
キヨネは、諭す様に、そうサトコに声を掛けた。
「ええ、"政治としては"ね。
私が思い、悩んでいるのは……その事ではありません」
「ああ、やっぱり、皇様と刀聖様が恋仲なのは、芳しくない――の方ですかぁ……」
キヨネは、サトコの言葉に間髪入れずに、悩みの原因の推測を被せた。
「――ゴホッ!」
その、絶妙な返しに、護衛としてキヨネの反対側に控える、コウオウ第一軍団将、エリカは思わず咽た。
「――ハッキリ、言ってくれますねぇ……」
サトコは、流石に、眉間へシワを寄せて、キヨネを睨む。
「皇様が、刀聖――いえ、ソウタ殿の事をお慕いしているのは、コウオウの者ならば、誰が見ても明らかですもの……左手の、金糸龍の指輪で。
そんな御仁が、実は刀聖様だったとなれば、お悩みの原因は簡単に推察出来ます」
キヨネは、人差し指を立てて、ニヤッと笑って見せる。
「"例の悲恋譚"の件――ですな?」
咳き込み終えたエリカが、キヨネの言葉に相槌を入れる。
「でも、あの逸話は、ただの古人の創作に過ぎないと、先世様が皆に明かしたはず――何故、それほど嘆く必要があるのです?」
エリカは、不思議そうにサトコの表情を覗き見て、率直に疑問をぶつけた。
サトコはまた、大きく溜め息を吐いてから――
「確かに――"皇と刀聖が婚いではならない"、などという掟はありません……ですが、両者の婚姻は、コウオウ一国の君主が、武の象徴である刀聖の、絶対的な武力を独占する――という結果となる。
そうなってしまっては、他国が脅威を感じて反発するは必至――ツクモの安寧を望むべき皇が、それを成す事は出来ない。
その寸前にまで至ったのが、十三世様と刀聖レイの時代なのです」
――と、悲壮感に満ちた表情で、逸話の真相を語った。
「では、"掟"ではないにしろ、"事実上"は、お二人が結ばれる事はあってはならない――なのですね」
エリカは、哀れに満ちた口調でそう言った。
「――そうです。
私が、皇の座を退かない限り……」
「!?、まさか皇様!、それを御企みしているのではないでしょうね?!」
サトコが、さりげなく付け加えた、退位を仄めかす件にキヨネは過敏に反応する。
「――私とて、それほど愚かではありません。
現在、皇位を継ぐ者が、一人も居ない事は――重々、解っておりますから……」
皇の継承は原則、皇が産んだ女子――例外の場合も、女系血族の女性からしか、皇位継承は許されない。
だが、現在のサトコの血族は、十五歳に成る弟のアキトのみなのだ。
「だから、溜め息ぐらいは許してくださいっ!
想い人と添えない悲しみは、同じ女子のあなたたちだって、よ~く解るでしょう?」
サトコは、臣下に対しているコトも忘れ、懇願して見せる。
「――解りました。
ですが、凱旋の際は、出窓に出て皇軍を迎え、労うのでしょう?
民に、悲しそうなお顔を見せる事は、謹んでくださいね?」
「ええ、それは、無論――」
「――申し上げますっ!」
サトコの言葉を遮る様に、一人の一軍の女武士が、慌てて主殿にやって来た。
「――如何がしました?」
「はっ!、皇軍、オウク内街下に凱旋っ!
総大将カツトシ殿を先頭に、御所へと向っておりますっ!」
女武士は満面の笑みを浮べて、サトコに報告する。
その吉報に、主殿の3人の頬が一斉に綻ぶ。
「解りました、出窓へと出る故、近衛を宜しく、お願い致します」
サトコは、エリカに目配せをして、主殿から出る事を申し渡す。
「はっ!、近衛一軍は出窓へと集まる様にと、一軍将が号令す!、皆、心得てかかれっ!」
エリカは険しく、真剣な表情で女武士に命じる。
「――はっ!」
エリカの号令に、サトコの周りは慌しく動き始めた。
――ワァァァァァァァァッ~~~~~~!
オウクの街の大通りは、興奮の坩堝と化していた。
その大通りを行く、皇軍の大行列は街の衆の歓声に、手を振って応える。
――ワァァァァァァァァァァァッ~~~~~~~~~!
街中の興奮は、更に騒ぎが増した御所の確認御所の出窓に、サトコが姿を現したからだ。
街の衆は、行列へ向けて手を振るの事を一旦止め――皆、一斉に出窓へと拝礼する者、中には合掌して、両手の平を震わせている老婆までが居た。
皇軍の列も、大通りを歩む事を一旦止め――皆、一斉に出窓へと拝礼する。
中には、タマの様に、ヒトの風習に慣れない亜人種の義兵も居た。
そこが、有志隊の列だと悟ったサトコは、目を凝らして、その列を見据え――愛しい、想い人の姿を探す。
その目線を感じたのか、栃栗毛の牡馬に跨ったソウタが、スッと人差し指に金糸龍の指輪が光る、左手を大きく掲げた。
(――!?、ソウタぁっ!)
サトコは、思わず涙ぐみ――口元を抑えて、その栃栗毛の鞍上から伸びる腕へと向けて手を振る。
「おっ!、おいっ……義兵の中に、後の皇夫様が居るのかぁ!?」
観衆の一人が、指輪に気付いて思わず叫ぶと――
――ウォォォォォォォォッ……、ワァァァァァァァァァァァッ~~~~~~~~~!
――大きなどよめきの後、ソウタのその軽はずみな行為で、更に観衆が沸き立つ。
(!?、やべぇ、例の指輪――外してねぇの忘れてた!)
ソウタは、バツが悪そうに、左手を下げて恥ずかしんで俯く。
その様子を、微笑ましく眺めている、サトコの横顔を見て、キヨネは――
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