流れ者のソウタ

緋野 真人

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刀聖、斯く語りき

勲章

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「皇様の、おな~りぃ~っ!」

衛士の、よく通る甲高い声が響き、主殿に通されたカツトシ以下、ホウリ平原の戦いに参じた皇軍の諸将が、各軍団ごと6列に並び、総勢約30名が粛々と拝礼して、サトコの出座を迎えた。


「――皆、無事で何より……苦労を掛けました」

サトコは深く、深く、皇軍の諸将に向けて頭を垂れ、感謝の意を表する。


「――勿体無き、お言葉でござります」

カツトシが、更に、更に深い拝礼で応じると、諸将もそれに習って更に深く拝礼する。


「――して、皇様。

我ら皇軍、領地を侵したるスヨウ軍と、ここより南方――ホウリ平原にて対陣せしめ、これを皇の名の下に打ち払いし事、この場にて、改めて、ご報告させて頂きます」

カツトシの言葉に続き、シュウイチが巻物状にされた書状を取り出し――

「――まず、この戦に殉じ、散り果てた我らが同胞の名を、お伝え致します.

第三軍団、一番小隊――ヒノオウ村、バンタ――」

――と、コウオウ軍における、戦死者の名前を呼び上げ始めた。


――これが、ツクモでは、戦の後に必ず行われる儀式である。


戦果の報告や、戦勝した場合の祝賀よりも、殉じ、果てた者たちへの弔いが先――それが、ツクモにおける戦に対する考え方なのだ。


「――義兵、有志隊、ゴスケ、以上、二百三十六名――」

正規の兵ではない、義兵部隊である有志隊での戦死者も、漏れなくしっかり伝え……シュウイチはまた、深々とサトコに対して拝礼し、報告を終えてカツトシの後ろへ下がる。


報告を、噛み締める様に聞き終え、サトコは辛そうに唇を真一文字に結び、小さく頷いて、スッと座から立ち上がる。

それに準ずる様に、皇軍の諸将もまた、全員が一斉に立ち上がる。


「――散り果てし、英霊となった同胞たちへ……黙祷を」

――そう、サトコが言って、黙祷を始めると、これにもまた皆、準じて黙祷を始める。


約30秒ほど――主殿は沈黙に包まれ、戦死者への弔いが終わった。


続いて、物資方として参陣していた、第五軍団将――フツナガから、物資の消費の詳細が述べられ、第三軍団将――ナリトモからは、撤退したスヨウ軍を追跡し、領内から出た事を確認した事などの報告も行われ――

「――次に、此度の戦においての、功勲の労いへと移りたく思います」

――と、一連の報告を聞き終え、口を開いたのは文官のトップにあたる宰相、ロクスケだった。


「総大将殿から、各勲等に当たる者についての議を請け、その者たちに渡す、勲を現す書状の準備は、整ってございます。

総大将殿、受勲者を主殿にお迎え下さい」

「――うむ、受勲を伝えし、誉れある五十七名、入りなさい」

カツトシのしゃがれた声が、主殿の外の廊下にまで響き渡り――それを聞いた、50有余の兵たちがゾロゾロと、一列に並んで入殿して来る。


その後方には、ギンやタマも居て、そして――シンガリに居るソウタの姿を見つけたサトコは、うっすらと笑みを浮べた。


「――まず、"勲銅等"、三十二名、皇様の前へ!」

ロクスケがそう言うと、入殿した受勲者の半分以上に加え、先に座していた面々からも、続々と前に出でて、横一列にサトコの前に並んだ。


"勲銅等"とは、三階級ある勲章の内、最下位の勲章である。

これは、ツクモの"統一通貨"に使われている硬貨には、3種の金属で造られている事に由来し、勲等の位は、その硬貨の価値から引用したモノだ。

下位からの順に、勲銅等、"勲銀等"、そして、"勲金等"がある――かと言って、現実世界で言うトコロの金や銀、銅などの鉱物が、ツクモにもあるワケではなく――あくまでも、それに似たモノ、匹敵するモノであり、表現上での意訳と解して頂けるのが適当である。


ちなみに――"統一通貨"という言葉どおり、ツクモの通貨は"それらのみ"で……各国政府には、通貨の発行権限は無く、通貨の発行権はクリ社のみが持っている。

更に、統一通貨には紙幣も無く、その3種の硬貨に大小を加えた6種があり、貨幣価値を現実世界の日本円に準えるとすると――小銅貨一枚が1円、大銅貨一枚が10円、小銀貨が100円、大銀貨が1000円、小金貨が1万円、大金貨が10万円――と言ったところか。


眼前に居並ぶ、受勲者たちにサトコは…

「――ご苦労様でした」

「良き、働きでした――」

「ありがとう……」

――などと、一人一人に、必ず労いの一言を掛け、勲章の証となる書状を手渡して行く。


「――ねぇ?、コレって……あの紙をくれる儀式なの?」

タマは小さな声で、隣りに立つソウタに、今、行われているコトの理由を問うた。

「ああ、戦で手柄を立てた人にな」

その言葉を聞き、タマは少し、ふくれっ面を見せて…

「なぁ~んだ……ご褒美をくれるって聞いたから、ナニをくれるのかと思ったら、紙切れ一枚だなんて、サトコって結構ケチ――もごっ?!」

――と、愚痴を一息吐こうとしたが、ソウタとは反対隣から伸びた、筋肉質の手に口を塞がれた!


「――いくら、モノゴト知らずの亜人種いなかものだからって、タマ……それには、ちょっと呆れるぞ?」

――と、口を塞いだ張本人であるギンが、諭す様に言った。

「確か、国が出した勲章は、望めば……その場で換金出来ると聞いたが?」

「――そうだ。

今、渡しているのは、勲章を造り終えるまでの仮のモノで、完成品を貰ってからにはなるが、銅勲章なら――確か、大金貨十枚に換金出来たはずだ」

ギンの問いかけに、ソウタがそう答えると、タマの大きな目が、驚いて瞬きを繰り返す。

「だっ、大金貨十枚ぃ~?!、そんな大金、見たコト無いよぉ……」

タマは、啞然として、口をあんぐりと開ける。

「まあ、勲章を受け取るのは、大方、公者だから勲章の価値は、金じゃなくて名誉の方――換金する者は、ほとんど居ないがな」

ソウタは、補足情報を付け加えて囁く。

「流者、つまり、正規兵でもない、俺たちにまで――勲章を渡すというのは、珍しいのだろう?

今、前に出ている者にも、有志隊の者が多いし……タマが言うのとは逆に、随分と太っ腹なコトを言い出すな、スメラギとは」

ギンは、大層関心して、サトコの顔を遠めに凝視する。


「――最後に、勲金等、四名、前へ!」

そんな会話を、囁く程度の声でしていると、いつのまにか、残ったのはソウタたちと、その呼び声を聞いて立ち上がった、カオリを加えた4名だった。


「――さっ、行くぞタマ。

ちなみに――勲金等は、大金貨三十枚分な」

ソウタがからかう様な口調で、タマへそう呟くと、彼女は案の定、あんぐりと口を開けて、サトコへ向けて、大きく目を見張った。


「――勲金等、義兵、有志隊、ギン」

ロクスケが、式次第を読み上げ、ギンに前に出るように促す。

タマに、獲物を見る様に凝視されている事には気付かず、サトコがゆっくりとギンの前に立つ。


(しまったな……ヒトが、どの様な作法で受け取っているのかを、観察しておくのを忘れてしまった)

ギンは、戸惑った素振りを見せ、ぎこちなくサトコへ会釈をする。

その態度を観て、目敏くギンの戸惑いを察したサトコは、うっすらと微かに笑みを浮べて――

「――受け取り方などは、お気遣いされなくとも良いのです。

これは、私からの敬意と感謝の贈り物――どうか、お気になさらず」

――そう、小声で囁いて、手を伸ばし、側に侍るキヨネから書状を受け取る。

「戦の行方を左右した局面で、活躍されたとの事――本当に、ありがとう」

サトコは、書状をギンに手渡しながら、そう言ってギュッとギンの無骨な掌を握った。


続いて――

「――義兵、有志隊、タマ」

サトコは、一歩前に出たタマの前に立つ。

(うわぁ……改めて、近くで観たら、ホントにキレイな女性ヒトだなぁ)

恋敵サトコを、目の前にしてタマは、先程とは違う意味で、ジッとサトコの顔を凝視する。


サトコは、それにも笑みで返し――

「――失礼を、承知で申しますが……カツトシからの論功を告げる手紙ふみには、"齢十六の女性にょしょうに、金等の勲を"とあって、何かの間違いかと思ってしまいました」

――と、正直な感想を吐露した。

「細に聞けば、コケツ衆との事で納得もしましたが、この様に、可愛らしい容姿を目にすると、再度の驚きです」

サトコは、口元を抑えて苦笑もする。

「えへへ♪、可愛いだなんて、照れちゃうなぁ~」

タマは、照れ臭そうに、頭部の猫耳の裏を掻く。

「うふふ♪、本当にありがとう」

サトコは、そのタマの愛らしい素振りに微笑み、にこやかな笑みのまま書状を手渡した。


続いて――

「――ぎっ、義兵、有志隊……ソウタっ!」

ロクスケは少し、呼び方に躊躇しているのが解る、ぎこちない口調で読み上げると、ついに、ソウタの前にサトコは立つ。


「……」

「……」

サトコが、ジッとソウタの瞳を見詰めると、彼も、それに応じる様に、黙って彼女の瞳を見据え――二人は、見詰め合う恰好となる。


(おぉぉっ?!、もっ、もしや……!?)

(えっ!?、こっ、この場でぇ……キス接吻とか、しちゃう雰囲気ぃ~っ!?)

ソウタの両隣に居る、興味深々のカオリとタマは、横から妙な視線を二人に送る。


「……んっ!、ううっんっ!」

――だが、ソウタが先に……いや、狙ったかの様なタイミングで咳払いをすると、サトコはハッとなった素振りで、急にあの熱い目線を外して――

「――必ず、相当な武勲を挙げてくれると思っていました。

それに、あなたからの報せのおかげで、我らコウオウは歩むべき道へと踏み出す事が出来ました――公民を代表した君主として、厚く礼を申します……ありがとう」

そう言って目を閉じ、少しうつむきながら、キヨネから受け取った書状を手渡す。


その一連の流れの途中――お互いの顔が最も近付いた時に、サトコはソウタが腰に提げた鞘を凝視して――

「――光刃こしのものの事に関しては、この後、タップリと語って貰いますからねっ?!」

――と、小声で囁く様な音量ではあるが、ちょっと怒っている様な強い口調で、引きつった笑顔を造って、ソウタへと呟く。


「ああ、解ってる……」

ソウタは、バツの悪そうな表情で、同じく囁く様な音量で応じた。


「最後に――第一軍団、近衛筆頭、有志隊将、カオリっ!」

最後の受勲者、カオリの名前が読み上げられ、カオリがサトコの前に立つ。

「我が国が誇る剛の者として、更に、義兵を束ねる将としての働き、共に見事であったとの事。

正に、貴女の存在は、皇軍の鑑です」

サトコが、我が事の様に、胸を張ってそう評すると、カオリは――

「――御言葉、身に余る……誉れにございます!」

――その場に跪き、涙ぐみながら、改めて深い拝礼をする。

「苦労を掛けました、本当に……ありがとう」

サトコは、カオリに向けて微笑み、ゆったりと書状を手渡す。


一連の儀式を終え、サトコは上座へ戻ると、主殿に集った皆を見据え――

「この、民を戦火に晒してしまう選択をした、愚かな皇の命に応え、戦ってくれた事を、論功に限らず、礼を申します……ありがとう」

サトコは、全員に向けて深々と頭を垂れ、ポタポタと涙を足元に溢した。
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