流れ者のソウタ

緋野 真人

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秘密

祝宴

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――場面は転じ、ココは御所の主殿から1階降りたフロアにある、国賓相手の晩餐などにも使われる大広間だ。

「……」

「……」

その大広間の隅で、膳を向かい合わせにして、黙々とチビチビ呑んでいるのは、ソウタとギンである。


戦勝の祝宴が、この大広間を会場に催され、周りは無礼講の大騒ぎ――

「タッ!、タマさん!、いけませんっ!、齢十八まで酒は御法度――」

「えっ~?、良いじゃなぁ~いっ♪、めでたい席なんだからぁ~♪

それに、ヒトの法律ほーりつは、猫族には、カンケ~な~しっ!」

――などと、カオリとタマが、飲酒に関して一悶着をしていたり、皆、楽しげに、宴に興じて居る中で、黙ったままの男が二人……この一角は、実に珍妙で異質である。


「――良いのか?、俺と、こうして黙りこくっていて」

沈黙に耐えかねたワケではないであろうが、心配そうに、先に口を開いたのはギンの方だった。

「良いんだよ。

俺、酒席こーいうのは、大嫌いでな……逆に、お前が居てくれて助かってるよ、黙ったまま時間が潰せてさ」

ソウタは、そう返答して、茶碗の中身をあおる。

「そういえば――お前は、何時も酒宴や食事は、皆の輪から外れて過ごすよな……何故だ?」

ギンも、猪口の中身を喉元へとあおりながら、続けてそう問う。

「単に、嫌なだけだよ。

それに、今は光の刀のコトを、バラしちまっただろ?

やたらと『刀聖様』とか言って来て、酌をされたりするのが――」

「――ギン殿と、刀……いや、ソウタ殿」

二人の問答に割って入って来たのは、御銚子を片手にやって来た、カツトシだった。

「――面倒臭いからだって、言おうとしてたワケよ」

ソウタは、小声でそうギンに囁き――

「――大将、どうも」

――と、続けて、カツトシに会釈をする。

「おっ、おう……祝宴、楽しんでおりますかな?、さあ、まずは一献――」

カツトシは、緊張した面持ちで、銚子を差し出す。

「あっ、俺、酒は……」

――が、ソウタは『待った』の体で手を出し、それを遮って、手に持った茶碗の中身――茶を指し示す。

「これは失礼――てっきり、剣と共に、酒の方も豪の者であろうと思っていたが……」

カツトシは、バツ悪そうに、銚子を膳に置く。

「俺は、子供ガキの頃から、酔っ払いっていう人種が大嫌いでね。

てめぇがそうなりたくないから、絶対に酒は呑まねぇと、心に決めているんですよ」

ソウタは、苦笑いを見せながら、茶碗を膳に置く。

「ほぉ、それは何故で?」

カツトシは置いた銚子から、手酌で猪口を満たしながら、ソウタにそう尋ねる。

「――実の両親を殺した夜盗ってのが、酒のニオイをプンプンさせてたヤツでね。

それが、脳裏に強烈に残ってるんですよ――両親おやの顔は覚えてねぇのに、それだけは鮮明に覚えてる……だから酒は、ニオイだけでも受け付けない――」

ソウタも、説明しながら茶碗を持ち、飲む素振りを見せて――

「――酒席は、正直ぶっちゃけ、側で呑んでる連中を、全員斬り殺してぇ衝動との戦いでね?

特に、酔っ払ったのが、変に絡んで来たりすると……」

――そう、前置きをして、腰の鞘へと目線を向ける。


「!?」

「?!」

ソウタの側で酒を呑んでいる、ギンとカツトシの顔色は急に青ざめ、銚子や猪口をそっと膳に置いた。


「はは♪、冗談っスよ、冗談!

斬り殺してぇってのは、流石に嘘っ!、そこまで大人気ねぇワケじゃないです」

ソウタは笑いながら、茶を啜る。

「肝が、冷えましたぞぉ……年寄りを、あまり驚かさないでくだされ」

カツトシは、冷や汗を額に滲ませながら、もう一度、猪口を手に取り、酒を喉元へとあおる。

「しかし――どうして、他の者が、この膳に近寄れずに居るのかが、よう解り申した。

今のソウタ殿は……人を遠ざける様な気配を放っておるもの」

カツトシは顔をしかめて、ソウタの姿を見据える。

「そりゃあ――俺が"刀聖"なんていう、ややこしいヤツだと知っちまったからでしょう?

それがイヤだから――ただの義兵、ただの流者だと、思ってくれって言っても、だぁ~れもそうしてくれねえ……」

――と、ソウタは素面の筈なのに、目の前の二人に絡む。

「それは、仕方ないかと思うがのぉ?

相手の"腰の物"が、伝承にある光の太刀となれば――絡み酒で怒らせて、もし抜かれでもしてはと、思うてしまうわい」

カツトシは苦笑いをしながら、ソウタの鞘を指差して言う。

「そうやって、大将みたく、変わらぬ態度で接してくれりゃあ、俺は良いんだがねぇ……」

ソウタはそう吐露して、笑顔で肴を抓んで見せる。

「こうやって、片隅から動かぬから皆、余計に、お主を怖がってしまうのだよ」

カツトシも、ソウタが抓んだ肴を一口運んでみせた。


「――ところで、有志隊は明日で解散じゃが……ソウタ殿は、これから如何なさるつもりかな?」

抓んだ肴を、酒で流し込んだカツトシは、真剣な顔付きで、ソウタにそう尋ねる。

「……なんスか?、急に」

「ん?、単純な興味――では、少々嘘になるな。

では、率直に言おう――皇軍の特別顧問として……いや、流者風に申せば、"用心棒"としてでも構わぬから、しばらく、御逗留願えぬか?」

カツトシは身を正し、真っ直ぐに見詰めて、ソウタの返事に応じた。

「――これは、"刀聖様"への願いではなく、勲金等の"義兵"への要請。

現に、ギン殿とタマ嬢にも、先程、この旨を伝えておる」

ソウタの断わり文句を予期した様に、カツトシは間髪入れずにそう前置きをし、側で酒を呑むギンへ目線を向ける。

「――ああ」

ギンは、二人とは目線も合わせずに、それだけを言う。

「今回の戦で、皇軍は、弓隊の精度の悪さが露見した――そこで、ギン殿には、弓隊の修練の教授を願いたく思ってのう」

カツトシの言葉に、ギンは黙ったまま頷き――

「所詮、生業としての粗弓術――とは言ったのだが、是非にと大将は退かんでな。

どうせ、急いて戻る理由が無いのは変わらぬから、話を請ける事にした」

――ボソっと、呟く様に言う。

「それに、此度の敗戦と、相手方こちらへの刀聖様の参戦で、スヨウは表立った軍事行動がし難くなったはず――何か、別の一手を打って来るとすれば、宰相殿の暗殺や、皇様の御身にも危害が及び兼ねない手ではないかと、ワシはそう思うておる――」

潜めた声での、カツトシの思わぬ発言に、ソウタは表情を険しくさせて、茶碗へと伸ばした手を止める。

「――故に、タマ嬢には近衛一軍と共に、皇様の護衛に加わって頂きたいと申した。

これは、筆頭たるカオリの推挙でな――飛翔部隊への奇襲の折を例に挙げ、近衛の戦法とも相性が良いと言うておった。

これも、タマ嬢からは快諾を得ておる」

したり顔で見詰めるカツトシの眼に、ニヤっと苦笑してソウタは――

「キッチリ、外堀を埋めてからかよ。

流石は、戦上手の『閂のカツトシ』様だ」

――と、皮肉を言って、茶を一口啜った。

「――だけど、俺は、それでは追い込めねぇぜ?

悪ぃが俺は、近々にコウオウから発つと決めてる――つーか、あんまり長居してるワケには、いかんのよ」

ソウタは、何とも言い難い、申し訳指さそうな笑顔をして、そう言う。

「他国との兼ね合いを思うと、刀聖っていう絶対的、圧倒的な武力を――いつまでも、一国が抱えているワケには行かねぇと、皇様は俺に言った――だから、サッサと旅に戻れって意味で、求婚の件も破談ににされたしねぇ~♪」

金糸龍の指輪を二人に示し、ソウタは照れ臭そうに破顔する。

「なっ……!?」

「――ほぉ?」

カツトシは、顔を引きつらせて驚き、ギンも、驚いた様でソウタの顔を凝視する。

「なんだよぉ~っ!、フラれた男の情けない顔を肴にして、もう一杯って魂胆かい?」

ソウタは、嫌味ったらしくそう呟き、茶碗を端に寄せる。

「――なっ!、何ゆえでござるっ?!

刀聖様は、世の乱れを察して!、皇軍われらに御力を貸してくれただけ!、他国に、何かを言われる筋合いは――」

急に、声を荒げたカツトシの怒号に、大広間の目線は片隅の膳に集中する。


その時、主賓として場の中央に座るサトコは、スッと立ち上がり、スタスタとソウタたちの側へと歩き出し――

「――それが有るのですよ、カツトシ」

――辛そうな、寂しそうな眼差しを、ソウタに向けながら言う。


「すっ、皇様……」

「刀聖を抱えるは、世界を滅ぼす事すら出来る、比類なき究極の『矛』を持つと同じ――コウオウ一国がそれを持つは、世界の『武』の均衡を崩してしまう……あなたなら、その意味は解るでしょう?」

サトコは、そうカツトシを諭し、唇を強く噛む。

「……世界を征する事も容易となる矛を有した一国が、世界の中心に鎮座する――それは、他国から観れば、脅威そのものでしかない……」

カツトシは、ハッとなってサトコの言葉を察し、それだけを言って押し黙る。


「――ですが!、ココは皇様のお膝元たる、永世中立のコウオウが国!

我らはっ!、皇様と、その民を守るためだけの、専守を本分とする皇軍!!、他を侵すもやむなしとする他軍とは、明らかに存在意義が違うっ!!!」

そう――声高く叫んで立ち上がった、長身の威丈婦はカオリである。


サトコは、左手を差し出し、カオリを宥める様に振って――

「カオリ、あなたの言うとおりです。

――ですが、私たちにその意が無くとも、他国から見れば、そう勘ぐられても説すは難――それが、次々と疑念を呼び、また新たな戦が始まる――その繰り返しで、私たちは邪と成り果て、光刃に滅される道を辿るでしょう」

――優しい口調であり、実に極論ではあるが……サトコの言葉には、説得力と重みがあった。


それを聞き、皆、一斉に言葉を失う……


「――ふぅ……せっかくの祝宴に、水を挿してしまいましたね、ごめんなさい」

サトコは苦笑し、皆を見渡して頭を下げる。

「そっ!、そのような……取り乱してしまったのは、我が不徳……」

カツトシは、慌てふためいて、サトコの前に畏まる。

「ふふ♪、良いのです――さあ、皆、祝宴を再開致しましょう!

特に――刀聖とは、先の短い付き合いとなるでしょうから……存分に!、語りを交わす、数少ない好機ですよ!」

サトコがそう言い触らすと、皆がゾロゾロと隅の膳へと群がり始めた。

「――えっ!?、おいおい……」

「うふふ♪、ではまず、私が――さあ、ソウタ~!、茶ではなく、果汁などはいかがです?、私は、コレが大好きで~♪」

ソウタの困惑した表情を他所に、サトコは彼の隣りに座り、ジュースが入った透明な銚子と猪口を、ソウタの膳に置いた。
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