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聖なる都
美麗の大神官
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「一番隊――スグルが、報告致しますっ!」
御船板の館の門番へ向け、スグルは敬礼をし、高らかに声を張上げる。
「市街の警邏任務中、到着された刀聖様であると表す御方と出くわし、こちらへお連れ致しましたぁっ!」
「なに――っ!?」
スグルの活滑な報告を請け、門番は色めき立つ。
「――ども」
スグルの隣から、ぶっきら棒な様で出てきたソウタは、会釈をしながら、門番の前に立つ。
「ん~っと――まず、これが召喚状、それと……これが、コウオウから預かって来た書状ね。
どうぞ、お確かめを――」
「うっ、うむ……」
門番は緊張気味に、ソウタから2通の書状を受け取り――
「――確かに、封筒の印は、クリ社の公式文書の証、本物の召喚状と御見受け致す。
さりとて……門番一人の立場では、最終判断は出来ませぬ故――召喚状はクリ社、書状はコウオウの大使館へと、一旦回さなくて成らぬため、時を戴きたいのだが……」
――と、至極丁寧に、テンプレート回答をした。
「どうぞどうぞ。
でも……馬にも、土産を満載してるんで、早く荷を下してやりたいんだけど?」
「それについての、杞憂はござらん。
クリ社への荷の検めは、天警士団の役割ゆえ、横の厩舎へとお入れくだされ」
門番は、側にある簡素な小屋を指差し、ソウタにテンの入厩を促す。
「あそこは、門番方の休憩場にもなってっから、確認を待つのにも丁度良いぜ――ですよ」
補足しようとしたスグルは、思わず乱れた言葉使いを修正しようと、顔を引きつらせて、そう進言した。
「じゃっ、そうさせて貰うかぁ。
行くぞぉ、テン」
ソウタは、テンの手綱を引き、促された厩舎へ足を向ける。
「――では、私がご案内致しま……っ?!」
――と、追従しようとスグルが続くが、門番はいきなり、手持ちの長槍を彼に差し出した。
「いや――荷の検めもある故、私がお連れしよう。
すまぬがスグル殿、今は交替番が居らぬので、戻るまで門の守りを頼めぬか?」
「えっ……はっ、はいぃ~……承知しました、お任せください……」
スグルは、残念そうな声を挙げ、差し出された長槍を受け取る。
(ぷっ♪、サボろうとするからだよ)
ソウタは心中で、笑いながらそう呟く。
「――じゃあな、スグル。
用が済んだら、夜にでも落ち合おうぜ!」
ソウタは破顔を見せ、スグルへ向けて手を掲げる。
「おぅ、じゃあな……」
スグルは、受け取った長槍を横に振り、名残惜しそうに苦笑した。
「――スグル殿とは、お知り合いで?」
「ええ、同郷――でして」
門番の問いに、ソウタは少し、躊躇いを見せながら、そう答えた。
厩舎と同棟の門番の休憩所で、手続きが終わるのを待つソウタは、小気味良く感じるほどの音を発て、先程の門番に出された茶を啜っていた。
(随分と、扱いが上等だねぇ。
これも、一国の使者への応答だからか?)
ソウタは、そんな事を思いながら、更に茶を啜る。
(――っ?!)
その時――ザワッと背に悪寒が奔り、尋常ではない圧迫感を感じたソウタは、湯呑みを口から放し、周辺を警戒する。
「貴公が――自らを、当世刀聖と名乗られた方かな?」
「!?」
その、圧迫感を感じた方から聞こえた声に対し、ソウタは険しい表情で振り向く。
そこに居たのは――スグルと同じ、浅黄色の羽織りを着た、直ぐに天警士団の者だと解る風体の若い男。
スグルと違うのは、その身から放つ圧迫感と、右肩に着けた"白銀"の肩当てぐらい――それと、顔立ちが細面で、正に、いわゆる美形風情な、優男であるコトだろうか。
(――なぁるほど、圧迫感が在っても、納得だ)
何故か、その美形優男の顔に覚えがあるソウタは、ゴクリと生唾を呑んで、美形優男を凝視する。
「私は――天警士団、"二番隊隊長"、ショウという者にござる」
ショウと名乗った美形優男は、スッと手を伸ばして握手を求める。
「……」
――だが、ソウタはそれに応じず、警戒を強くしたまま、ショウを見やる。
「――おっと、これは失礼を致した……
当世の刀聖様と思しき方と会える事となり、気持ちが逸ってしまい――客人に対し、覇気を放って相対してしまうとは、お恥ずかしい限りにござる」
ハッとなり、身から放つ圧迫感を、慌てて解いたショウは、ソウタに深く頭を下げる。
「いや――握手を無視した、私の方も良くはないです」
ソウタも警戒を解き、改めてショウと握手を交わし――
「――前回の大武会覇者と、お会い出来て光栄です、ショウ殿」
――と、笑顔を見せて、堅くショウの手を握った。
そう――このショウが、先程挙げた天警士団に所属する、大武会優勝経験者――二名の内の一人だ。
ショウはその中でも、3年前に行われた前回大会の優勝者で、大会当時は24歳の若輩の身ながら、破竹の勢いで大武会を征した、直近の覇者なのである。
「やれやれ――界気鏡で、先の大武会をご覧になっておられたのかな?」
ショウは照れ臭そうに、軽く怪訝な表情を見せ――
「初対面のはずの方にまで、この様な顔を知ら占める――界気鏡とは、あまり良い技術だとは思えませぬよ、私は」
――そう、苦笑を漏らして、ツクモ中に映像を送れる、界気鏡の存在に向けて愚痴を溢す。
4年に一度行なわれる大武会は――政治的、宗教的な重大発表以外で唯一、界気鏡での占報が許されているイベントだ。
大武会の十六傑戦――つまり、ベスト16以降は、現実世界に準えれば、いわゆる"ゴールデンタイム"――20時~21時ぐらいの時間帯に催され、煌々と松明が焚かれた下、2人の戦士が一対一でまみえるという趣向である。
その様子は、ツクモ中の界気鏡へと放送されるため、十六傑に入った戦士は、一夜にして世界中が知る英雄となるのだ。
「これはこれは――オウビの界気鏡で、貴殿の雄姿を観ていたからとて、私も少々、非礼でしたね」
ソウタは、申し訳無さそうに頭を下げた。
「いや、慣れっこでござる故、お気になさらず。
――して、コウオウからの書状によれば、ソウタ殿……でしたな」
ショウは破顔を見せ、そう前置きして彼の名を呼ぶ。
「はい」
「では――早速ではござるが……光刃を、抜いて見せて頂きたいが、よろしいか?」
ショウは、ソウタの反応をしたり顔で見た後、顔を引き締めて光刃現眼を願った。
「――わかりました」
ソウタは、手慣れた手付きで、鞘から柄を外し――光の刀を抜いた。
「おぉぉぉぉぉっ……」
光刃を目の当たりにしたショウは、思わず口をあんぐりと開け、その様を見詰めたまま、しばらく立ち尽くして、その後、休憩場の土間に平伏した。
「間違う事無き、光刃の荘厳な光――検める様な非礼を、お許し頂きたくございます、刀聖様」
「いや、トーゼンでしょ?、こんなアヤしい風体ですし」
今度は、ソウタが照れ臭そうに、軽く怪訝な表情を見せた。
「それにしても――大武会覇者の貴殿が、わざわざ、俺のお検めに来るとはね」
ソウタは腕を組み、天警士団の予想外の対応を勘繰り始める。
「召喚状を出す折、八人の隊長格の誰かが応じると、内々で決めていたのですよ」
ショウは笑みを浮かべ、その辺りの事情を話し始めた。
――天警士団の組織構成は、主に8つの隊へと分けられる。
その分割は、他の軍事組織で言う『第○軍』の様な、役割分担で分かつ方式ではなく――天警士団の各隊は、翼域内の担当地域別に分けられており、ショウが率いる二番隊は、テンラクの周辺地域の担当だ。
その隊長格たちは、基本、このテンラク――御船板の館に常駐している。
地域別に振り分けているのに、隊長がそこに居ないというのは、かなり面妖だが――翼域は、特区的な存在のコウオウやオウビ、最北端の僻地であるツツキを除けば、早馬を飛ばせば、小見一日で駆けつける事が可能な距離なので、こういう編成を採用しているのである。
ちなみに――8人中5人が、大武会十六傑を経験している、ほぼ全員がカオリ相当のツワモノ揃いでもある。
「――その中で、たまたま今、手が空いていたのが、私だっただけでござるよ」
ショウは、ワナワナと手を震わせて――
「これも、運の神――バクテンノカミ様の、お導きでしょう。
一番に、光刃を拝眼させて頂く誉れに出会たのは」
――胸元に光る、数珠の様な首飾りをギュッと握った。
この、数珠状の首飾りは、自身の煩悩を戒める意思を示すという、宗教上の謂れが在り――クリ社及び、天警士団に属する者は皆、首にこれを着けている。
「では、ソウタ殿――クリ社の方が控えている場へと、ご案内致します」
ショウは、休憩場から館へと通じている渡り廊下へと手を掲げ、ソウタに奥へ向かう事を促した。
――
――――
――――――
「――"大神官"様、刀聖様をお連れ致しました」
館の中を、しばらく進む内に出くわした、豪奢な紙が張られた引き戸の前で、ショウは畏まり、その中に居るらしい人物に声を掛けた。
「どうぞ――中へ、お通しください」
中から聴こえた返答の声は、落ち着きのある女の声――が、口調こそは落ち着きを感じるが、その声色は若さを感じる、活き活きとした雰囲気も醸している。
(――へ?、今……"大神官"って、言ったか?)
ショウに付いて歩く事に、神経が入っていたソウタは、中の人物の素性を、ふいに失念してしまった。
「――では、失礼致します」
ショウは腰を下ろし、ゆっくりと戸を引き開けた…
そこに居たのは――頭巾で頭を覆い、正座をして畏まり、深く低頭した女性。
その身なりから、クリ社に属する仕女である事が推測出来る。
仕女とは――俗世での生活を捨て、萬神道の教えへと帰依した、女性神職の総称である。
その呼び名は"神々に仕える女性"を意味し、ツクモにおいての尼僧や修道女と連想するのが、最も適当であろう。
ちなみに――男性神職の総称はコレと言って無く、単に神官と呼ばれるのが一般的だ。
仕女という、言葉の醸す雰囲気に、差別的な呼び名に読めるかもしれないが――決してそうではなく、立場は神官と同等……いや、要職に就いている比率は、寧ろ仕女――女性の方が多いぐらいである。
これもツクモが、女神を最高神に置く、萬神道を尊んでいる故の風習であろう。
「――刀聖様、此度は召喚の申し出を請け入れて頂き、クリ社の者として、厚く御礼を申し上げます」
目の前の仕女は、低頭したまま、そう言上を挙げると、ゆっくりと面を上げ、頭巾を外しながら――前に立つ、ソウタに向かって、真っ直ぐに身を正した。
「!!!!!!、うへぇっ!?」
――と、その仕女の姿を見て、ソウタは実に素っ頓狂な、驚きの声を挙げてしまった。
その声の理由は――眼前の仕女の容姿にあった。
頭巾を外した、眼前の仕女は――黒々として、サラサラな長髪を背に垂らし、顔を構成する肌は、ツクモ人らしい薄橙色をベースに、透き通ったヴェールを被っている様に色白で、顔立ちはまさに、"美女"の理想に限りなく近い、神掛かったレベルのバランスで構築されている。
正座をしている上に、ゆったりとした神職風の恰好なので、定かではないが――スタイルの方も、しっかりと"出るべきトコロが出ている"フォルムだと、推測出来る。
「――刀聖様?、如何なさいました?」
ヘンな声を口走った、ソウタの事を心配し、美人仕女は顔をしかめ、サッと立ち上がり、優しくソウタの頬に触れた。
「!?、いやっ!、あっ!、あのぉ……」
眼前に迫る、その整い過ぎな美麗な顔を前に、ソウタは真っ赤に赤面して、激しく狼狽する。
そんな、ソウタと美人仕女とのやり取りを、隣で横目に見やるショウは、微かに微笑を漏らしていた。
「なっ!、なんでもないっス!」
「……そうですか?、では――」
――と、美人仕女は、ソウタの返答に怪訝とした表情を浮べたまま、一歩下がって、また正座をし直す。
この、僅かな動きからでも、この女性がスラっとした中背で、露出の少ない神職着の上からでも、微かな色気が漂う――推測どおりの、美しい肢体を持っているフォルムだと解る。
「――改めまして、刀聖様。
クリ社仕女衆、神官頭を勤めさせております、シオリにございます」
美人仕女――シオリは、再度深く低頭し、ソウタの前に平伏した。
御船板の館の門番へ向け、スグルは敬礼をし、高らかに声を張上げる。
「市街の警邏任務中、到着された刀聖様であると表す御方と出くわし、こちらへお連れ致しましたぁっ!」
「なに――っ!?」
スグルの活滑な報告を請け、門番は色めき立つ。
「――ども」
スグルの隣から、ぶっきら棒な様で出てきたソウタは、会釈をしながら、門番の前に立つ。
「ん~っと――まず、これが召喚状、それと……これが、コウオウから預かって来た書状ね。
どうぞ、お確かめを――」
「うっ、うむ……」
門番は緊張気味に、ソウタから2通の書状を受け取り――
「――確かに、封筒の印は、クリ社の公式文書の証、本物の召喚状と御見受け致す。
さりとて……門番一人の立場では、最終判断は出来ませぬ故――召喚状はクリ社、書状はコウオウの大使館へと、一旦回さなくて成らぬため、時を戴きたいのだが……」
――と、至極丁寧に、テンプレート回答をした。
「どうぞどうぞ。
でも……馬にも、土産を満載してるんで、早く荷を下してやりたいんだけど?」
「それについての、杞憂はござらん。
クリ社への荷の検めは、天警士団の役割ゆえ、横の厩舎へとお入れくだされ」
門番は、側にある簡素な小屋を指差し、ソウタにテンの入厩を促す。
「あそこは、門番方の休憩場にもなってっから、確認を待つのにも丁度良いぜ――ですよ」
補足しようとしたスグルは、思わず乱れた言葉使いを修正しようと、顔を引きつらせて、そう進言した。
「じゃっ、そうさせて貰うかぁ。
行くぞぉ、テン」
ソウタは、テンの手綱を引き、促された厩舎へ足を向ける。
「――では、私がご案内致しま……っ?!」
――と、追従しようとスグルが続くが、門番はいきなり、手持ちの長槍を彼に差し出した。
「いや――荷の検めもある故、私がお連れしよう。
すまぬがスグル殿、今は交替番が居らぬので、戻るまで門の守りを頼めぬか?」
「えっ……はっ、はいぃ~……承知しました、お任せください……」
スグルは、残念そうな声を挙げ、差し出された長槍を受け取る。
(ぷっ♪、サボろうとするからだよ)
ソウタは心中で、笑いながらそう呟く。
「――じゃあな、スグル。
用が済んだら、夜にでも落ち合おうぜ!」
ソウタは破顔を見せ、スグルへ向けて手を掲げる。
「おぅ、じゃあな……」
スグルは、受け取った長槍を横に振り、名残惜しそうに苦笑した。
「――スグル殿とは、お知り合いで?」
「ええ、同郷――でして」
門番の問いに、ソウタは少し、躊躇いを見せながら、そう答えた。
厩舎と同棟の門番の休憩所で、手続きが終わるのを待つソウタは、小気味良く感じるほどの音を発て、先程の門番に出された茶を啜っていた。
(随分と、扱いが上等だねぇ。
これも、一国の使者への応答だからか?)
ソウタは、そんな事を思いながら、更に茶を啜る。
(――っ?!)
その時――ザワッと背に悪寒が奔り、尋常ではない圧迫感を感じたソウタは、湯呑みを口から放し、周辺を警戒する。
「貴公が――自らを、当世刀聖と名乗られた方かな?」
「!?」
その、圧迫感を感じた方から聞こえた声に対し、ソウタは険しい表情で振り向く。
そこに居たのは――スグルと同じ、浅黄色の羽織りを着た、直ぐに天警士団の者だと解る風体の若い男。
スグルと違うのは、その身から放つ圧迫感と、右肩に着けた"白銀"の肩当てぐらい――それと、顔立ちが細面で、正に、いわゆる美形風情な、優男であるコトだろうか。
(――なぁるほど、圧迫感が在っても、納得だ)
何故か、その美形優男の顔に覚えがあるソウタは、ゴクリと生唾を呑んで、美形優男を凝視する。
「私は――天警士団、"二番隊隊長"、ショウという者にござる」
ショウと名乗った美形優男は、スッと手を伸ばして握手を求める。
「……」
――だが、ソウタはそれに応じず、警戒を強くしたまま、ショウを見やる。
「――おっと、これは失礼を致した……
当世の刀聖様と思しき方と会える事となり、気持ちが逸ってしまい――客人に対し、覇気を放って相対してしまうとは、お恥ずかしい限りにござる」
ハッとなり、身から放つ圧迫感を、慌てて解いたショウは、ソウタに深く頭を下げる。
「いや――握手を無視した、私の方も良くはないです」
ソウタも警戒を解き、改めてショウと握手を交わし――
「――前回の大武会覇者と、お会い出来て光栄です、ショウ殿」
――と、笑顔を見せて、堅くショウの手を握った。
そう――このショウが、先程挙げた天警士団に所属する、大武会優勝経験者――二名の内の一人だ。
ショウはその中でも、3年前に行われた前回大会の優勝者で、大会当時は24歳の若輩の身ながら、破竹の勢いで大武会を征した、直近の覇者なのである。
「やれやれ――界気鏡で、先の大武会をご覧になっておられたのかな?」
ショウは照れ臭そうに、軽く怪訝な表情を見せ――
「初対面のはずの方にまで、この様な顔を知ら占める――界気鏡とは、あまり良い技術だとは思えませぬよ、私は」
――そう、苦笑を漏らして、ツクモ中に映像を送れる、界気鏡の存在に向けて愚痴を溢す。
4年に一度行なわれる大武会は――政治的、宗教的な重大発表以外で唯一、界気鏡での占報が許されているイベントだ。
大武会の十六傑戦――つまり、ベスト16以降は、現実世界に準えれば、いわゆる"ゴールデンタイム"――20時~21時ぐらいの時間帯に催され、煌々と松明が焚かれた下、2人の戦士が一対一でまみえるという趣向である。
その様子は、ツクモ中の界気鏡へと放送されるため、十六傑に入った戦士は、一夜にして世界中が知る英雄となるのだ。
「これはこれは――オウビの界気鏡で、貴殿の雄姿を観ていたからとて、私も少々、非礼でしたね」
ソウタは、申し訳無さそうに頭を下げた。
「いや、慣れっこでござる故、お気になさらず。
――して、コウオウからの書状によれば、ソウタ殿……でしたな」
ショウは破顔を見せ、そう前置きして彼の名を呼ぶ。
「はい」
「では――早速ではござるが……光刃を、抜いて見せて頂きたいが、よろしいか?」
ショウは、ソウタの反応をしたり顔で見た後、顔を引き締めて光刃現眼を願った。
「――わかりました」
ソウタは、手慣れた手付きで、鞘から柄を外し――光の刀を抜いた。
「おぉぉぉぉぉっ……」
光刃を目の当たりにしたショウは、思わず口をあんぐりと開け、その様を見詰めたまま、しばらく立ち尽くして、その後、休憩場の土間に平伏した。
「間違う事無き、光刃の荘厳な光――検める様な非礼を、お許し頂きたくございます、刀聖様」
「いや、トーゼンでしょ?、こんなアヤしい風体ですし」
今度は、ソウタが照れ臭そうに、軽く怪訝な表情を見せた。
「それにしても――大武会覇者の貴殿が、わざわざ、俺のお検めに来るとはね」
ソウタは腕を組み、天警士団の予想外の対応を勘繰り始める。
「召喚状を出す折、八人の隊長格の誰かが応じると、内々で決めていたのですよ」
ショウは笑みを浮かべ、その辺りの事情を話し始めた。
――天警士団の組織構成は、主に8つの隊へと分けられる。
その分割は、他の軍事組織で言う『第○軍』の様な、役割分担で分かつ方式ではなく――天警士団の各隊は、翼域内の担当地域別に分けられており、ショウが率いる二番隊は、テンラクの周辺地域の担当だ。
その隊長格たちは、基本、このテンラク――御船板の館に常駐している。
地域別に振り分けているのに、隊長がそこに居ないというのは、かなり面妖だが――翼域は、特区的な存在のコウオウやオウビ、最北端の僻地であるツツキを除けば、早馬を飛ばせば、小見一日で駆けつける事が可能な距離なので、こういう編成を採用しているのである。
ちなみに――8人中5人が、大武会十六傑を経験している、ほぼ全員がカオリ相当のツワモノ揃いでもある。
「――その中で、たまたま今、手が空いていたのが、私だっただけでござるよ」
ショウは、ワナワナと手を震わせて――
「これも、運の神――バクテンノカミ様の、お導きでしょう。
一番に、光刃を拝眼させて頂く誉れに出会たのは」
――胸元に光る、数珠の様な首飾りをギュッと握った。
この、数珠状の首飾りは、自身の煩悩を戒める意思を示すという、宗教上の謂れが在り――クリ社及び、天警士団に属する者は皆、首にこれを着けている。
「では、ソウタ殿――クリ社の方が控えている場へと、ご案内致します」
ショウは、休憩場から館へと通じている渡り廊下へと手を掲げ、ソウタに奥へ向かう事を促した。
――
――――
――――――
「――"大神官"様、刀聖様をお連れ致しました」
館の中を、しばらく進む内に出くわした、豪奢な紙が張られた引き戸の前で、ショウは畏まり、その中に居るらしい人物に声を掛けた。
「どうぞ――中へ、お通しください」
中から聴こえた返答の声は、落ち着きのある女の声――が、口調こそは落ち着きを感じるが、その声色は若さを感じる、活き活きとした雰囲気も醸している。
(――へ?、今……"大神官"って、言ったか?)
ショウに付いて歩く事に、神経が入っていたソウタは、中の人物の素性を、ふいに失念してしまった。
「――では、失礼致します」
ショウは腰を下ろし、ゆっくりと戸を引き開けた…
そこに居たのは――頭巾で頭を覆い、正座をして畏まり、深く低頭した女性。
その身なりから、クリ社に属する仕女である事が推測出来る。
仕女とは――俗世での生活を捨て、萬神道の教えへと帰依した、女性神職の総称である。
その呼び名は"神々に仕える女性"を意味し、ツクモにおいての尼僧や修道女と連想するのが、最も適当であろう。
ちなみに――男性神職の総称はコレと言って無く、単に神官と呼ばれるのが一般的だ。
仕女という、言葉の醸す雰囲気に、差別的な呼び名に読めるかもしれないが――決してそうではなく、立場は神官と同等……いや、要職に就いている比率は、寧ろ仕女――女性の方が多いぐらいである。
これもツクモが、女神を最高神に置く、萬神道を尊んでいる故の風習であろう。
「――刀聖様、此度は召喚の申し出を請け入れて頂き、クリ社の者として、厚く御礼を申し上げます」
目の前の仕女は、低頭したまま、そう言上を挙げると、ゆっくりと面を上げ、頭巾を外しながら――前に立つ、ソウタに向かって、真っ直ぐに身を正した。
「!!!!!!、うへぇっ!?」
――と、その仕女の姿を見て、ソウタは実に素っ頓狂な、驚きの声を挙げてしまった。
その声の理由は――眼前の仕女の容姿にあった。
頭巾を外した、眼前の仕女は――黒々として、サラサラな長髪を背に垂らし、顔を構成する肌は、ツクモ人らしい薄橙色をベースに、透き通ったヴェールを被っている様に色白で、顔立ちはまさに、"美女"の理想に限りなく近い、神掛かったレベルのバランスで構築されている。
正座をしている上に、ゆったりとした神職風の恰好なので、定かではないが――スタイルの方も、しっかりと"出るべきトコロが出ている"フォルムだと、推測出来る。
「――刀聖様?、如何なさいました?」
ヘンな声を口走った、ソウタの事を心配し、美人仕女は顔をしかめ、サッと立ち上がり、優しくソウタの頬に触れた。
「!?、いやっ!、あっ!、あのぉ……」
眼前に迫る、その整い過ぎな美麗な顔を前に、ソウタは真っ赤に赤面して、激しく狼狽する。
そんな、ソウタと美人仕女とのやり取りを、隣で横目に見やるショウは、微かに微笑を漏らしていた。
「なっ!、なんでもないっス!」
「……そうですか?、では――」
――と、美人仕女は、ソウタの返答に怪訝とした表情を浮べたまま、一歩下がって、また正座をし直す。
この、僅かな動きからでも、この女性がスラっとした中背で、露出の少ない神職着の上からでも、微かな色気が漂う――推測どおりの、美しい肢体を持っているフォルムだと解る。
「――改めまして、刀聖様。
クリ社仕女衆、神官頭を勤めさせております、シオリにございます」
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