流れ者のソウタ

緋野 真人

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聖なる都

美麗の大神官

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「一番隊――スグルが、報告致しますっ!」

御船板の館の門番へ向け、スグルは敬礼をし、高らかに声を張上げる。

「市街の警邏任務中、到着された刀聖様であると表す御方と出くわし、こちらへお連れ致しましたぁっ!」

「なに――っ!?」

スグルの活滑な報告を請け、門番は色めき立つ。


「――ども」

スグルの隣から、ぶっきら棒な様で出てきたソウタは、会釈をしながら、門番の前に立つ。

「ん~っと――まず、これが召喚状、それと……これが、コウオウから預かって来た書状ね。

どうぞ、お確かめを――」

「うっ、うむ……」

門番は緊張気味に、ソウタから2通の書状を受け取り――

「――確かに、封筒の印は、クリ社の公式文書の証、本物まことの召喚状と御見受け致す。

さりとて……門番一人わたくしの立場では、最終判断は出来ませぬ故――召喚状はクリ社、書状はコウオウの大使館へと、一旦回さなくて成らぬため、時を戴きたいのだが……」

――と、至極丁寧に、テンプレート回答をした。


「どうぞどうぞ。

でも……馬にも、土産を満載してるんで、早く荷を下してやりたいんだけど?」

「それについての、杞憂はござらん。

クリ社への荷の検めは、天警士団われらの役割ゆえ、横の厩舎へとお入れくだされ」

門番は、側にある簡素な小屋を指差し、ソウタにテンの入厩を促す。

「あそこは、門番方の休憩場よりばにもなってっから、確認を待つのにも丁度良いぜ――ですよ」

補足しようとしたスグルは、思わず乱れた言葉使いを修正しようと、顔を引きつらせて、そう進言した。

「じゃっ、そうさせて貰うかぁ。

行くぞぉ、テン」

ソウタは、テンの手綱を引き、促された厩舎へ足を向ける。

「――では、私がご案内致しま……っ?!」

――と、追従しようとスグルが続くが、門番はいきなり、手持ちの長槍を彼に差し出した。

「いや――荷の検めもある故、私がお連れしよう。

すまぬがスグル殿、今は交替番が居らぬので、戻るまで門の守りを頼めぬか?」

「えっ……はっ、はいぃ~……承知しました、お任せください……」

スグルは、残念そうな声を挙げ、差し出された長槍を受け取る。


(ぷっ♪、サボろうとするからだよ)

ソウタは心中で、笑いながらそう呟く。

「――じゃあな、スグル。

用が済んだら、夜にでも落ち合おうぜ!」

ソウタは破顔を見せ、スグルへ向けて手を掲げる。

「おぅ、じゃあな……」

スグルは、受け取った長槍を横に振り、名残惜しそうに苦笑した。


「――スグル殿とは、お知り合いで?」

「ええ、同郷――でして」

門番の問いに、ソウタは少し、躊躇いを見せながら、そう答えた。




厩舎と同棟の門番の休憩所で、手続きが終わるのを待つソウタは、小気味良く感じるほどの音を発て、先程の門番に出された茶を啜っていた。

(随分と、扱いが上等だねぇ。

これも、一国の使者への応答だからか?)

ソウタは、そんな事を思いながら、更に茶を啜る。


(――っ?!)


その時――ザワッと背に悪寒が奔り、尋常ではない圧迫感プレッシャーを感じたソウタは、湯呑みを口から放し、周辺を警戒する。


「貴公が――自らを、当世刀聖と名乗られた方かな?」

「!?」

その、圧迫感を感じた方から聞こえた声に対し、ソウタは険しい表情で振り向く。


そこに居たのは――スグルと同じ、浅黄色の羽織りを着た、直ぐに天警士団の者だと解る風体の若い男。

スグルと違うのは、その身から放つ圧迫感と、右肩に着けた"白銀"の肩当てぐらい――それと、顔立ちが細面で、正に、いわゆる美形イケメン風情な、優男であるコトだろうか。


(――なぁるほど、圧迫感が在っても、納得だ)

何故か、その美形優男の顔に覚えがあるソウタは、ゴクリと生唾を呑んで、美形優男を凝視する。


「私は――天警士団、"二番隊隊長"、ショウという者にござる」

ショウと名乗った美形優男は、スッと手を伸ばして握手を求める。

「……」

――だが、ソウタはそれに応じず、警戒を強くしたまま、ショウを見やる。


「――おっと、これは失礼を致した……

当世の刀聖様と思しき方と会える事となり、気持ちが逸ってしまい――客人に対し、覇気を放って相対してしまうとは、お恥ずかしい限りにござる」

ハッとなり、身から放つ圧迫感を、慌てて解いたショウは、ソウタに深く頭を下げる。

「いや――握手を無視した、私の方も良くはないです」

ソウタも警戒を解き、改めてショウと握手を交わし――

「――前回さきの大武会覇者と、お会い出来て光栄です、ショウ殿」

――と、笑顔を見せて、堅くショウの手を握った。


そう――このショウが、先程挙げた天警士団に所属する、大武会優勝経験者――二名の内の一人だ。

ショウはその中でも、3年前に行われた前回大会の優勝者で、大会当時は24歳の若輩の身ながら、破竹の勢いで大武会を征した、直近げんざいの覇者なのである。


「やれやれ――界気鏡で、先の大武会をご覧になっておられたのかな?」

ショウは照れ臭そうに、軽く怪訝な表情を見せ――

「初対面のはずの方にまで、この様な顔を知ら占める――界気鏡とは、あまり良い技術だとは思えませぬよ、私は」

――そう、苦笑を漏らして、ツクモ中に映像を送れる、界気鏡の存在に向けて愚痴を溢す。


4年に一度行なわれる大武会は――政治的、宗教的な重大発表以外で唯一、界気鏡での占報が許されているイベントだ。


大武会の十六傑戦――つまり、ベスト16以降は、現実世界に準えれば、いわゆる"ゴールデンタイム"――20時~21時ぐらいの時間帯に催され、煌々と松明が焚かれた下、2人の戦士が一対一でまみえるという趣向である。

その様子は、ツクモ中の界気鏡へと放送されるため、十六傑に入った戦士は、一夜にして世界中が知る英雄ヒーローとなるのだ。


「これはこれは――オウビの界気鏡で、貴殿の雄姿を観ていたからとて、私も少々、非礼でしたね」

ソウタは、申し訳無さそうに頭を下げた。

「いや、慣れっこでござる故、お気になさらず。

――して、コウオウからの書状によれば、ソウタ殿……でしたな」

ショウは破顔を見せ、そう前置きして彼の名を呼ぶ。

「はい」

「では――早速ではござるが……光刃を、抜いて見せて頂きたいが、よろしいか?」

ショウは、ソウタの反応をしたり顔で見た後、顔を引き締めて光刃現眼を願った。

「――わかりました」

ソウタは、手慣れた手付きで、鞘から柄を外し――光の刀を抜いた。

「おぉぉぉぉぉっ……」

光刃を目の当たりにしたショウは、思わず口をあんぐりと開け、その様を見詰めたまま、しばらく立ち尽くして、その後、休憩場の土間に平伏した。

「間違う事無き、光刃の荘厳な光――検める様な非礼を、お許し頂きたくございます、刀聖様」

「いや、トーゼンでしょ?、こんなアヤしい風体ですし」

今度は、ソウタが照れ臭そうに、軽く怪訝な表情を見せた。


「それにしても――大武会覇者の貴殿あなたが、わざわざ、俺のお検めに来るとはね」

ソウタは腕を組み、天警士団の予想外の対応を勘繰り始める。

「召喚状を出す折、八人の隊長格の誰かが応じると、内々で決めていたのですよ」

ショウは笑みを浮かべ、その辺りの事情を話し始めた。


――天警士団の組織構成は、主に8つの隊へと分けられる。


その分割は、他の軍事組織で言う『第○軍』の様な、役割分担で分かつ方式ではなく――天警士団の各隊は、翼域内の担当地域別に分けられており、ショウが率いる二番隊は、テンラクの周辺地域の担当だ。

その隊長格たちは、基本、このテンラク――御船板の館に常駐している。

地域別に振り分けているのに、隊長がそこに居ないというのは、かなり面妖だが――翼域は、特区的な存在のコウオウやオウビ、最北端の僻地であるツツキを除けば、早馬を飛ばせば、小見一日で駆けつける事が可能な距離なので、こういう編成を採用しているのである。

ちなみに――8人中5人が、大武会十六傑を経験している、ほぼ全員がカオリ相当のツワモノ揃いでもある。


「――その中で、たまたま今、手が空いていたのが、私だっただけでござるよ」

ショウは、ワナワナと手を震わせて――

「これも、運の神――バクテンノカミ様の、お導きでしょう。

一番に、光刃を拝眼させて頂く誉れに出会たのは」

――胸元に光る、数珠の様な首飾りをギュッと握った。


この、数珠状の首飾りは、自身の煩悩を戒める意思を示すという、宗教上の謂れが在り――クリ社及び、天警士団に属する者は皆、首にこれを着けている。


「では、ソウタ殿――クリ社の方が控えている場へと、ご案内致します」

ショウは、休憩場から館へと通じている渡り廊下へと手を掲げ、ソウタに奥へ向かう事を促した。

――

――――

――――――

「――"大神官"様、刀聖様をお連れ致しました」

館の中を、しばらく進む内に出くわした、豪奢な紙が張られた引き戸の前で、ショウは畏まり、その中に居るらしい人物に声を掛けた。


「どうぞ――中へ、お通しください」

中から聴こえた返答の声は、落ち着きのある女の声――が、口調こそは落ち着きを感じるが、その声色は若さを感じる、活き活きとした雰囲気も醸している。


(――へ?、今……"大神官"って、言ったか?)

ショウに付いて歩く事に、神経が入っていたソウタは、中の人物の素性を、ふいに失念してしまった。


「――では、失礼致します」

ショウは腰を下ろし、ゆっくりと戸を引き開けた…


そこに居たのは――頭巾で頭を覆い、正座をして畏まり、深く低頭した女性。

その身なりから、クリ社に属する仕女つかえめである事が推測出来る。


仕女とは――俗世での生活を捨て、萬神道の教えへと帰依した、女性神職の総称である。

その呼び名は"神々に仕える女性"を意味し、ツクモにおいての尼僧や修道女と連想するのが、最も適当であろう。


ちなみに――男性神職の総称はコレと言って無く、単に神官と呼ばれるのが一般的だ。

仕女という、言葉の醸す雰囲気に、差別的な呼び名に読めるかもしれないが――決してそうではなく、立場は神官と同等……いや、要職に就いている比率は、寧ろ仕女――女性の方が多いぐらいである。

これもツクモが、女神を最高神に置く、萬神道を尊んでいる故の風習であろう。


「――刀聖様、此度は召喚の申し出を請け入れて頂き、クリ社の者として、厚く御礼を申し上げます」

目の前の仕女は、低頭したまま、そう言上を挙げると、ゆっくりと面を上げ、頭巾を外しながら――前に立つ、ソウタに向かって、真っ直ぐに身を正した。

「!!!!!!、うへぇっ!?」

――と、その仕女の姿を見て、ソウタは実に素っ頓狂な、驚きの声を挙げてしまった。


その声の理由は――眼前の仕女の容姿にあった。


頭巾を外した、眼前の仕女は――黒々として、サラサラな長髪を背に垂らし、顔を構成する肌は、ツクモ人らしい薄橙色をベースに、透き通ったヴェールを被っている様に色白で、顔立ちはまさに、"美女"の理想に限りなく近い、神掛かったレベルのバランスで構築されている。

正座をしている上に、ゆったりとした神職風の恰好なので、定かではないが――スタイルの方も、しっかりと"出るべきトコロが出ている"フォルムだと、推測出来る。


「――刀聖様?、如何なさいました?」

ヘンな声を口走った、ソウタの事を心配し、美人仕女は顔をしかめ、サッと立ち上がり、優しくソウタの頬に触れた。

「!?、いやっ!、あっ!、あのぉ……」

眼前に迫る、その整い過ぎな美麗な顔を前に、ソウタは真っ赤に赤面して、激しく狼狽する。


そんな、ソウタと美人仕女とのやり取りを、隣で横目に見やるショウは、微かに微笑を漏らしていた。


「なっ!、なんでもないっス!」

「……そうですか?、では――」

――と、美人仕女は、ソウタの返答に怪訝とした表情を浮べたまま、一歩下がって、また正座をし直す。


この、僅かな動きからでも、この女性がスラっとした中背で、露出の少ない神職着の上からでも、微かな色気が漂う――推測どおりの、美しい肢体を持っているフォルムだと解る。


「――改めまして、刀聖様。

クリ社仕女衆つかえめしゅう神官頭しんかんがしらを勤めさせております、シオリにございます」

美人仕女――シオリは、再度深く低頭し、ソウタの前に平伏した。
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