流れ者のソウタ

緋野 真人

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聖なる都

大巫女

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(ほっ、本物だぁ……!)

それが、シオリを前にした時のソウタの心中である。


このシオリという仕女、実は知らぬ者――いや、特に知らぬ"男"は、ほとんど居ないと言っても過言ではない有名人なのだ。


その理由も、ショウと同じく、先の大武会――十六傑戦からは全ての試合を、大巫女が直に観戦する慣わしなのだが、その大巫女の様子を映す、界気鏡の映像の端に見え隠れする、大巫女の側に控える超絶美女仕女の存在が、ツクモ中(※特に男)の間で、大きな話題となった――それが、このシオリである。

その人気は、大会後に一気に爆発し、ツクモ全報が4面に渡って、特集とインタビューの模様を掲載したほどで、当時22歳の彼女は、ツクモ中せけんの衆目を、一点に集めたのである。


各言うソウタも、界気鏡越しにその美貌に見惚れた一人でもあるので、あの驚きは、ミーハー気質がモロに出た、実に素直な反応だ。

普段は――硬派な印象を気取っている彼とて、ちゃんと、美女に眉目を奪われる、健康な男子なのである。


ちなみに――ショウが、シオリの事を指して呼んだ『大神官』と、シオリが名乗った『神官頭』は、同じ意味の敬称であり、周りが呼ぶ俗称と、正式な場面で自ら名乗る場合との差でしかない。


(でも……本物を直に観ちゃうと、ちょっと拍子抜けだな。

なんか――キレイ過ぎて、人形か草子の挿絵でも観てるみてぇだ)

――と、赤面しながらも、冷静にシオリの姿を見やったソウタは、そんな感想を心中で呟いた。


「……刀聖様?」

シオリは、しばらく返答が無いソウタを再度心配し、自分を見詰めているソウタの瞳を覗く。

「ああ、すんません――ソウタです、よろしく」

ソウタは、慌てて返答を返し、着物の裾で軽く手を拭いてから、シオリに握手を求める。

「こちらこそ――隣地のコウオウからとはいえ、土産まで帯びての道中は、少々長めの旅路だったでしょう?」

シオリは握手に応え、微笑を浮べてソウタに労いの言葉を贈った。


握手から伝わる柔らかな感触と、優しい声音での労いを請けたソウタは、頬の筋肉を緩め、デレっとニヤけた面構えになる。


『なぁ~にが拍子抜けだよ!』

――と、ソウタの硬派気取りの言い草との相違には、語り手がツッコンでおこう。


「――では、お座りください」

シオリは、眼前に用意していた座布団に手を向け、ソウタに着座を促す。

ソウタがそれに従い、着座する事を確認してから、シオリも徐に座った。


その姿も――実に、気品を漂わす身のこなしで、"優雅"という表現が、良く似合う佇まいだ。


「して――此度の召喚は、先の『コウオウ戦役』において、刀聖様がスヨウの行いを"邪"として断じ、皇軍に参じた理由について……大巫女様が、仔細の説明を願いたいと申しております」

シオリが、召喚に関しての詳細を述べる中、ソウタは顔をしかめて――

「――"コウオウ戦役"?」

――と、聞き慣れない単語を聞き、思わず話の腰を折った。

「あっ!、申し訳ございません――先日、先の戦の事はそう呼称すると、大巫女様の名で布れを出しましたので」

「ああ、そう名付けられたのですね。

コッチこそすいません、ロクに、新聞も読まないタチなモンでね」

ソウタは無知な自分を恥じ、後頭部を掻いた。

「いえ、それで、ご足労を願った訳なのですが――何分、大巫女様は、御多忙な御方ゆえ、折角の刀聖様の訪問なれど、至極の非礼を承知で、しばらく会談の機会まで、お待ち頂きたいとの旨を、不肖、私が大巫女様から請けたまわり――こうして、刀聖様の御前にまかりこしてございます」

シオリは畏まって、ソウタに言上を述べた。


要は"呼び出しを請けて、折角来てもらったけど、忙しくて、直ぐには会えないんだよねぇ~!”という、断わり文句である。


「そう、ですか……」

言上の意を咀嚼したソウタは、腕を組み――

「まっ、そうなる事も、想定はしていましたから、"お気になさらずに"と、大巫女様にお伝えください」

――と、一応は畏まって、頭を垂らして会釈をする。


(――まあ、これでクリ社への恰好は着けられたし……テンの荷も片付いたから、宿でも取って……)

仕事を終えた気持ちのソウタは、面を上げながら、今後の方針を頭に巡らす。


「――大神官様、大体の公務の予定としては、会談はいつ頃となる思案ですかな?」

――そう、本来なら、ソウタが聞かなければならない事柄を、先に尋ねたのは、同席していたショウだった。

「天警士団としては、ぜひ一度、刀聖様には"本陣"を御訪問して頂ければと、思うて居るのですが……」

ソウタの表情を横目に見やり、ショウは刀聖ソウタに"本陣"――つまり、天警士団の本部への訪問を願い出た。

「へっ?、俺に――ですか?」

ショウに、不意を突かれる態で、この後の事などを考えていたソウタは、面を喰らった様で応じる。

「ええ、それとも――会談が決まるまで、何か用がお有りですかな?」

「いえ、特には無いので、聖地の物見遊山でも――そう、思っていた程度でしたから、構いませんよ」

ソウタは、快諾した恰好で、ショウの申し入れを請け入れた。


「あっ……そうでした。

会談の期日が決まるまでの、ご滞在に関してなのですが……」

二人のやり取りを聞き、シオリは思いついた様に、ソウタに声を掛けた。


しっかりした、事務方の人間に見えるシオリも、刀聖との相対には、流石に緊張したらしく、言上の後は呆けてしまった様だった。


「あっ、街で宿でも取ろうかと、思案していたトコロだったのですが?」

ソウタが、シオリが言わんとする前に、自分の考えを伝えた――その時。


「――シオリ、当世の刀聖様は、まだ居られますか?」

――と、3人が座る隣の間から、誰かがシオリを呼び止める声が聞こえた。


「――!?、大巫女様!」

――と、大巫女の声音を知る、ショウとシオリは急に身を正し、声がした方の襖に向けて畏まる。


「はい……刀聖様は、まだ、この場におられます」

シオリは、低頭したまま、大巫女らしい者の問いに応えた。


「そうですか、では――」

大巫女らしき声の主は、そう前置きして、ゆっくりと襖を引き開ける。


襖の奥から、三人の居る間へと入って来たのは――紫の仰々しい神職着に身を包んだ、年の頃は40代ぐらいの女性。

彼女が――当世の大巫女、ユリである。


襖を引き開けたユリは、敷居を跨ぐと、すぐさまに膝を折り、正座をして畏まって――

「――当世の刀聖様、お初に御目に……おや?」

――と、言上を述べながら低頭し、面を上げが…ソウタの顔を観ると、急に言上を止めた。


「……あなたは、確か――」

「――!?、もしや、覚えて……おいでなのですか?」

驚いた様で、ソウタを見詰めるユリの反応に、思うところがあったソウタは、目を見張ってユリに尋ねる。

「ええ――"お初"、ではありませんね?、リョウゴの小屋に居た子よ」

ユリは、ニコッと微笑み、にじり寄ってソウタの手を握る。

「はい、御目に掛かるのは、二度目にございます――大巫女様。

ツツキ巡行の折、先世を訪ねられた際、一度お会いしております」

ソウタは、ユリに優しく握られた手をままに、笑みを返して会釈した。


――まだ、ソウタがツツキの地で、リョウゴともに暮らしていた5年前。

ユリは、ツツキへの巡行を敢行し、先世刀聖リョウゴが逗留している事を、蟄居の労務として、領主を務めているアヤコに告げられ、ユリが小屋を訪ねて来た事があった。

二人の面識とは、その時の事である。


「そう――やはり、あなたが継承者だったのですね」

ユリは深く頷き、もう一度笑みを見せ、一旦身を退いた。

「ふぅ……では、すっかり、アヤコやリョウゴには、騙されたのですねぇ、私は。

"継承者なの?"という私の問いを、二人揃って、はぐらかしていただなんて」

ユリは、頬に手を当て、不満気に口を尖らせる。


「さて――ほんの少しだけ、相対が叶う時が出来たので、刀聖様の御顔だけでもと思い、まかりこしたのですが……シオリ、事情の説明はどこまで?」

「はい、公務の都合で、直ぐには正式な御会談は出来ないという旨までを」

シオリの説明にも、ユリは黙って数度頷き、ソウタの前に座り、彼の顔を見詰めて――

「ごめんなさい――折角、訪ねて貰ったというのに。

申し訳ないのだけれども、待っていてくれないかしら?」

――そう、ユリは実にフランクに言って、ソウタの肩を掴んだ。

「勿論にございます、大巫女様」

ソウタから快諾の旨を聞き、ユリはまた、ニコッと笑みを見せた。

「ありがとう――このシオリに、歓待についてを任せているので、ゆるりと――待たせてはダメよね?、うふふ♪」

ユリは、そんな天然ボケも噛まして、スッと立ち上がる。

「では、お願いね?、シオリ。

貴女そなたの居宅に、逗留して頂くのですから、粗相無き様――」

ユリはシオリに、歓待の旨を念押しして、場を後にした。


(――へっ?、今……"居宅に逗留"って、言ったか?)

ソウタは、ユリの捨て台詞が気に掛かり、シオリの方を見る。

「刀聖様、途中に終わった、御滞在先についてなのですが――」

目線の意味を察したシオリは、少しだけバツ悪そうに、俯いて見せてから――

「――歓待の意思として、クリ社こちら滞在先それを御用意するのが、本来の礼儀なのですが……現在、迎賓の施設は改装中でして……」

――と、顔をしかめて、頭を下げた。

「――かと言って、刀聖様を、民者の宿へと追いやるは、クリ社にとっては恥ずべき事だと、大巫女様は申しております――でっ!、ですのでぇ……」

シオリは急に、恥ずかしそうに頬を赤らめ――

「――まっ!、まことに、非礼ではありますがっ!、わっ……"私の居宅"に、ごっ!、御滞在、願えぬかと……」

――と、モジモジと手を合わせ、ソウタの顔を上目遣いに見ながら言った。


要は――ソウタは、シオリが暮らす家へと、招かれたのである。


「……」

ソウタは、そのシオリからの申し出を、数秒掛けて咀嚼し、彼女の言葉の意味を、しっかりと噛み締めた、彼が――

「――えっ!?、えぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!!!!!!!?」

――と、稀代の美女からの"お泊り"の願いに、大口を開けて驚いたのは言うまでも無い。
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