流れ者のソウタ

緋野 真人

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聖なる都

意味深

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「――くしゅんっ!」

「あれ?、サトコ……風邪?」

――場面は替わって、ココはオウクの御所。

執務中、急にくしゃみをしたサトコに、警護をしているタマは、彼女の体調を気遣った。


「いえ――"そろそろ、ソウタはテンラクに着いた頃かしら?"などと、ふと思ったら、急に……」

サトコは恥ずかしそうに、懐のちり紙を取り出して鼻を拭いた。


「あ~!、きっと、ソウタは今頃、テンラクでまた、キレイな女のヒトを侍らせてたりるんじゃないのぉ~?」

タマは天を仰ぎ、顔をしかめてソウタをディスる。

「うふふ♪、そうかもしれませんね。

私たちの"想い人殿"は――『意外と』モテて、それが、尽きない運を持っていそうですから」

そう、サトコは面白可笑しく言って、楽しそうに笑う。


「そういや――確か、クリ社にはすんごい美人が居るって、酒場でおっちゃんたちが話していた事があったけど……」

タマは顎に手をやり、記憶を手繰る様を見せる。

「ああ、きっとそれは、大神官シオリの事でしょう。

彼女は――女性の私から見ても、溜め息が出るほどの美貌の持ち主ですから」

タマの疑問に、サトコは推測も含めて答えた。

「ふぅ~ん……じゃあ、ソウタもクリ社に行くってハナシだから、その凄い美人も――ソウタの"あの"得体の知れない魅力に、やられちゃうのかなぁ?」

「う~ん……大巫女様のお話と、直に会った印象としては、シオリは敬謙な萬神道信徒で、神職の役目に骨の髄までをも捧げた様な、色恋沙汰とは無縁な女性――噂では、還俗しての求婚を断わった数は、夜空の星の数すら凌ぐと言われ、その鉄壁ぶりから、女色ではないかという話もあるぐらいですから、指物ソウタでも難しいと思いますけど……」

サトコは得々とそう語り、ソウタがシオリを惚れさせるのは、困難であろうと嘯く。

「ふぅ~ん……会ってみたいなぁ、そのシオリってヒト」

タマは、シオリの事に興味を示し、天京がある東へ向けて天を仰いだ。



「――では、刀聖様、参りましょうか?」

場面はまた――御船板の館へと戻り、その門の前で、シオリは緊張気味に、ソウタを居宅へと繋がる方へと誘った。


「はっ、はいぃ……」

対するソウタは、そのシオリよりも緊張した様で、彼女の後ろへ追従した。


ソウタからすれば――ある意味、憧れのアイドルに、自宅へと誘われた様な状況……緊張するのは当然であろう。


「刀聖様、明日、大神官公邸へと迎えを向かわせます故――本陣へのご訪問、よしなにお願い致します」

門を抜け、帰宅の途に着こうとする二人の背に、そう声を掛けたのはショウだ。

「えっ、ええ……解りました。

こちらこそ、よろしくお願いします」

気が気ではない素振りのソウタは、半ば生返事で応じた。

「では、刀聖様、大神官様――また、明日みょうにちに」

ショウは深く礼をして、二人の姿が見えなくなるまで見送った。


「だっ!、大神官様が男連れで……珍しい光景を見ちまったなぁ」

「うっ、うらやまし過ぎるぜぇ、あの男!」

「相手は、刀聖様らしい――立派なご公務なんだから、茶化すモノではないよ」


ショウが、館内に戻る道すがら聞こえた、任務中の天警士団員や、執務中のクリ社の公者たちの話声うわさばなしは、そんな声で持ちきりだった。


「――よぉ、どうだったぁ?、刀聖ってのは」

そんな声の中に割って入った、ショウへ向けたその声は――しゃがれた低い声で、この公的な施設の中には似合わない、少々下品な口調である。

「イゾウ殿――戻られておりましたか」

ショウは目の前に立った、士団の羽織りと着物を乱雑に着た、散切り頭の男へ向けてそう言った。


この散切り男は、天警士団五番隊長――イゾウである。


五番隊の担当は翼域南東部で、北コクエの国境と接している、戦略上の重要地域だ。

そんな場所を任されているぐらいなので、武勇は折り紙付き――そして、公者には似合わない、下品な口調のカラクリも、その武勇にある。

イゾウは、育成機関である"士塾"の出身ではなく、その武勇を見込まれて登用された、流者の一人なのだ。

彼は、流者の身の上のまま――3年前の大武会に出場し、準決勝でショウと対戦。

結果的に敗れはしたが、その荒削りな剛剣の冴えを買われ、天警士団へと誘われ、空位と成る寸前だった五番隊長の任と共に、鳴り物入りで入団した経緯がある。

そんな、対戦した縁もあり、ショウとイゾウは交流も多く――イゾウのあんな口調も、互いの仲で許されているのである。


「刃を――交えた訳ではありませんが、光刃の事を差し引いても、相当な手だれと思うのが妥当でしょう」

ショウは、ソウタとの対面を思い返し、こめかみに少し冷や汗を滲ませる。

「へぇ……てめぇに、ソコまで思わせるたぁ、とんでもねぇ野郎ってワケか」

イゾウは目を見張り、ニヤリと笑う。

「――明日、本陣にお迎えする手筈となりましたから、あなたも間近で直に接すれば、私の態度の意が解ると思いますよ?」

イゾウの笑みに、嘲笑いを感じたショウは、少し苛立ちを見せてそう応えた。


「へへ♪、おめぇの眼力を、疑ってるワケじゃねぇよ。

ただ、そんなのが"今、ココに居られちゃあ――面倒じゃねぇのか"って、ハナシよ」

イゾウは、両手をヒラヒラと振り、ショウの機嫌を取る。

「イゾウ殿、その話題は――」

――だが、どうやらイゾウは余計な事を口走った様で、ショウは眉間にシワを寄せる。

「へへ♪、周りに、誰も居ねぇのは確認済みよ。

刀聖が居るままでも、予定どおりに"例の計画"をおっ始めるのかぁ?」

「――コホン!、居なくなるまで……予定を後ろ倒すのが賢明でしょうね。

彼を、一時でも抑え様とするなら――最低でも、直衛を七名は付けた、私やあなたと同等の猛者でもなければ、ムダに命を散らすだけでしょうし」

――と、イゾウとショウは、何やら良からぬ計画を匂わせたセリフを口にした。


「――ったく、刀聖ってのも、余計な時に召喚に応じてくれたモンだ。

いや、元を正せば、面倒なタイミングで戦をおっ始めた、スヨウとコウオウのせいか?」

イゾウは口を尖らせ、そう不満気に嘯く。

「とりあえず、早々に去って貰える事を願うのみでしょう。

後の事を思うと、刀聖とまで、コトを構えるのは、得策ではありませんからね」

ショウは、腰に挿した刀の鍔を撫で、歯軋りをして苛立ちを覗かせた。
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