流れ者のソウタ

緋野 真人

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会談

強者たち

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天警本陣――大広間に集まった、数百人に上る人数の士団の面々は、目の前に座する刀聖の姿と、その刀聖と並んで座する、大神官の姿を粒さに凝視していた。


その最前列には、ショウを始めとした8名の隊長たちが列挙として座し――ソウタの身へと刺さる、値踏みをする様な目線は特に鋭く見える


この中で、ショウとイゾウを除いた6名の隊長というのが――先程、バルコニー上でもソウタの様子を観ていた6人だという事は、もはやバレバレではあるかもしれないが、6人の詳細を語る上で改めて述べておこう。


まず――見た目の年の頃からして、残りの6名の中でも、代表めいた貫録を醸すスキンヘッド親父――彼は、テンラク市街を担当する、一番隊の長――ジョウケイ。

隊長の中では、年齢も士団での職歴も、最も古参であり、大武会には4度出場し、一度の準優勝と四傑、八傑、十六傑が1回ずつという、大武会での最多勝利数の記録保持者で、これは以降の出場が不可となる優勝経験者には成せない、怪記録の持ち主でもある。


次は、何とも飄々とした物腰を覗かせているアフロ男――彼は、コウオウと境を接する、翼域東部を担当する三番隊の長……ヒロシ。

年齢は42歳、10代の頃から、士団に所属している古参の職歴を持ち、彼も、3度の大武会成績は――四傑1回、八傑2回という、ジョウケイに匹敵する武勇を誇る猛者だ。


続いて、スレンダーな人間部分の肢体が目を引く、狼族の女性――彼女の名は、ミスズ。

翼域北東部担当の六番隊長――29歳で、大武会十六傑歴こそは無いが、先の大武会では、バトルロイヤル方式の最終予選でカオリと対戦――結果、敗れはしたが、女性武人の中ではカオリと双璧を成す女傑と言って良い。


次に挙げるのは、狐族の男――ルイ。

歳は28歳、彼が隊長を勤めているのは、翼域南東部――南コクエやスヨウとの国境を守る七番隊。

大武会成績は、十六傑が一度のみだが、彼は武術の類ではなく、界気を用いた戦闘で十六傑入りを果たした事で有名であり――イゾウと同じく、士塾を経ていない"流者上がり"だ。


ソウタの事を、やたら貶していた若い男が――山賊が多く潜伏している翼域北西部担当、八番隊長のヤヒコ。

齢は二十歳と、ソウタとは同い年――大武会出場歴はまだ無いが、士団の中でも、来年行われる予定の次大会のホープとして期待されている。


ヤヒコに鋭いツッコミを入れていた少女は、担当地域を持たない遊撃隊という位置付けである、とお番隊長、ハル。

歳は、ヤヒコと同じく二十歳――彼女も、次世代のホープとして、今の立場に抜擢された逸材である。


この――八番隊と十番隊は、山賊や盗賊などを主な相手に取る、治安面での出動が多いので、実戦経験を多く積ませる意図で、10代の若い士団員が多く配されており、総じてその隊長も、ヤヒコやハルの様な若者が務める例が多い

ちなみに――8つの隊構成なのに、四番隊が無く、九番隊も存在せず、飛ばして十番隊というのは、四については言わずもがなだが、十番隊の方は、遊撃隊という特殊な役目を持つ事から、特別なその名を振られたのである。


――で、ソウタの訪問は、別に公的な式典だったりはしないのだが……急遽実現した刀聖の訪問に、これは既に有事の召集に匹敵する大事件おおごとだと、隊長たちは全員この場に集結していた。

それに続く様に、非番の者を中心に他の士団の面々も、この本陣へと集まり出した事で、この大所帯へと達したのである。


「"士団長"――ヨシノブ様が、間もなく参ります……刀聖様」

ソウタの側に座した、彼を招いた張本人であるショウは、拝礼しながら、そのヨシノブの出座を待つ。


間もなく――畳を足の裏で擦る音が聞こえ、ソウタは自分の背中に、ザワッとした違和感を感じた!


畳を擦る音を連れ、広間へと入場して来た、その違和感の根源と思しき中年の男――天警士団長、ヨシノブは威厳に満ちた面構えで、ソウタを見据える。

ソウタは、その視線を受け、ゴクッと一つ、生唾を呑んで――

(流石は――十九年前の"覇者"!、確かに……とんでもねぇプレッシャー圧迫感だ)

――と、雰囲気から滲み出る、ヨシノブの雄々しさに感嘆する。


「貴殿が――当世の刀聖様……」

ヨシノブは、ソウタの顔を見やり、寂しげな表情を現す。

「ふっ……どうしても、光刃を携えているのは、今もリョウゴ殿のはずだと言って、憚らずに居たが……継承者を眼前に迎えてしまうと、実に寂しいモノよ」

ヨシノブは目を瞑り、悔しげに溜め息を吐く。

「師――いえ、先世とは、何か由縁がお在りで?」

ヨシノブの一言に、疑問を抱いたソウタは、名乗る事も忘れてその理由を問う。

「リョウゴ殿とは――二十三年前の大武会、準決勝で刃を交えさせて頂いた。

ワシとしては、武の象徴とまみえられた至極と同時に、鎧袖一色に伏せられた、落胆の思い出よ。

それと――先の大戦に参じた折、遠目に姿を窺った程度かな?」

過ぎた日々を懐かしむ様な、寂しげな笑みを見せて、ヨシノブはリョウゴとの由縁を語った。


そう――先世の刀聖、リョウゴは23年前の大武会に出場していた。


もちろん、結果は優勝――彼は、6大会前の"覇者"でもある。

大武会の歴史上、刀聖が出場した前例は無く――これは、異例中の異例として語り草の大会で、刀聖リョウゴの名が、一般にまで知れ渡っている理由も……実はこの大会の影響だ。

何せ、彼の光刃現眼は――試合の占報中継中、言葉どおりの満座の前での出来事だったからで、これも前代未聞、異例中の異例である。


ちなみに――ソウタが、この出場の理由を尋ねた際のリョウゴの返答は――

「ちょっと、金が要り様になってな」

――であったが、大会後、ハクキの小さな孤児院に、優勝賞金と同額の寄付がされたという逸話もまた、有名な事実である。



「――おっと、名も名乗らず、昔話に興じてすまなんだ。

改めて――刀聖様、尊顔を拝し、祝着に存じまする――天警士団長、ヨシノブにございます」

ヨシノブは、ハッとなって身を正し、両手を突いてソウタへ拝礼する。


ザザッと、背後に聴こえた音は、大広間に集まった全員が一斉に拝礼した音である。


「いえ、お気になさらず――私も、名乗らずに応じてしまいましたからね。

さて、名をソウタと申します――士団長殿」

ソウタも、深く頭を下げ、ヨシノブへ礼を尽くす。

「ふふ――ワシとしては、二十三年越しの士団の悲願を成せた気持ちよ。

何せ、リョウゴ殿には、本陣への訪問を断わられていたのでな」

ヨシノブは腕組みをして、満足気に破顔を覗かせた。

「朝の内からの足労を願い、世話を掛け申した。

この、刀聖様を招いた誉れは、後の世まで伝わる、士団の慶事となりましょう」

ヨシノブは、もう一度拝礼し、重ね重ねの謝辞を表した。


「刀聖様――良ければ、士団の者たちに、先のコウオウ戦役での武勇譚などを語ってやって頂ければ、鍛錬への励みともなろうかと思いますので、この場で願えれば祝着に存じまする……」

「――お待ちください、士団長様」

――と、一種の講演を願ったヨシノブの意を、制止する様な発言をしたのは……ヤヒコである。


「――何じゃ?、八番隊長」

ご機嫌だったはずのヨシノブは、表情を曇らせ、ヤヒコに発言の意を問うた。


「はっ!、恐れながら申し上げます――我ら、天警が士、刀聖様に励みとする"何か"を所望致すなら――戦記語りよりも、刀聖様の武を直に目にする事も方が良いかと存じます」

ヤヒコは、伏したまま、得々とそう述べた。


「――なにぃ?」

ヨシノブは顔をしかめ、ジッとヤヒコを見据え――

「――では、刀聖様と、士団が何者いずれかとの"手合わせ"を観たい――そう、申しておるのか?」

――と、ヤヒコの発言から咀嚼した、彼の意図を邪推する。

「はい、その通りにございます」

「ふむ――刀聖様、この所望、如何にお思いかな?」

ヨシノブは、ソウタへと目線を移し、ヤヒコの意図を汲み取った結果を彼に伝える。

「俺と――ですか?、別に構いませんけど……」


――おおおおおっ!


ソウタの受諾に、士団員の中から、大きなどよめきが起こった。


「……そうか。

では、その相手には――」

ヨシノブは、ニヤリと笑みを浮かべ、広間に居る士団員たちに、値踏みの目線を送る。


「――重ね重ね申し上げます。

その『何者』が役目――つまり、刀聖様のお相手には、ぜひっ!、私を指名して頂きたいっ!」

値踏みの目線が行き渡るよりも早く、手を挙げて立候補したのは――手合わせを提案した張本人、ヤヒコであった。


「!?」

隊長連中を始め、広間中の目線が……一斉に、この若者の不敵な笑みへと集まる。


「ほぅ――刀聖様、よろしいですかな?」

若者の豪気な姿勢に、ヨシノブは嬉しそうに破顔を見せながら、ソウタに意思を問う。

「ええ、構いません。

歳が近い人の方が、俺もやり易そうですし」

ソウタは、ヨシノブの確認を快諾し、自分へと不敵な笑みを向けるヤヒコを見据えた。
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