流れ者のソウタ

緋野 真人

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会談

若気

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士団員たちは、座する場所を替え、大広間の一角を武舞台に見立てた空間を構築した。

その空間の真ん中に立つのは、これから相まみえるソウタとヤヒコ――武器えものとして、用意された竹刀を片手に、互いの一挙手一投足を見据え合っていた。


「では、勝負は一本――不肖、私が有効打を見極めさせて頂きます」

二人の間に割って入ったのは、審判役を買って出たショウである。


(へっ!、なぁ~にが刀聖だ。

そんなモン、所詮はお伽話の風説――満座の前で、化けの皮を剥いでやるぜ)

ヤヒコは、相変らず不敵な笑みを浮かべ――

(刀聖様……)

――と、ヨシゾウの隣に座して勝負を見守っている、シオリの顔を見やり頬を赤らめる。


そう――このヤヒコは、言わずもがなかもしれないが、シオリに惚れている。

彼にとって、シオリはいわゆる、隣に勤めている憧れの"キレイなお姉さん"――そんな、初恋の相手なのだ。

このヤヒコの勝負の申し出の意図とは、珍しく本陣にやって来たそのキレイなお姉さんと、妙に仲が良いソウタへの嫉妬と、シオリに良いトコロを見せたい気持ちとが、彼の中で捻じ曲がった結果なのである。


「ホント……アイツは、バカだわ」

――と、観戦を決め込む、他の隊長たちの中――十番隊長ハルは、呆れ気味にそう呟いた。

「あら?、手厳しいわねぇ」

その呟きを聞いていた、六番隊長ミスズは、ニヤッと笑って相槌を打つ。

「隊長をやらせて貰ってる者が、相手の力量ぐらい一目で把握出来ないと、士団員なかまを死なすコトに繋がるってのに……」

「――そうね、彼は、手柄に目が眩んで、あの刀聖様の力量を測り間違えている。

少なくとも、他の隊長わたしたちは皆、そう観ているわね」

ハルの指摘を支持したミスズは、牙を晒して破顔し、哀れみの視線をヤヒコに送った。


「おい――やらせて、良かったのかぁ?

ヘタにこっ酷くやられちまったら、潰れちまうぜ?」

シオリとは逆側の、ヨシノブの隣に座っているジョウケイは、眉間にシワを寄せて、ソウタたちの対峙を観ながら、そう呟く。

「刀聖様には、それとなく、あしらってくれれば結構と申しておいた――その心配は杞憂であろうよ?

それに、奴はまだまだ、血気に逸る面がある……コレが、良いお灸となって貰えれば、寧ろありがたい」

ヨシノブは、楽しげに口元を緩め、ジッと勝負が始まるのを待つ。


士団長であるヨシノブと、こんな砕けた口調で話せている、ジョウケイとの仲とは――長年、共に戦場を駆け、大武会決勝では、優勝も争った仲。

言わば、腐れ縁なカンケイである事が、第一の理由として言って良いであろう。


(――さぁ~って、あしらうだけで良いとは言われたけど、俺も御所での軟禁やら、喰う寝るに困らねぇゆとり道中、それに加えて、絶世の美女の家にお泊りと、最近はすっかり怠けた暮らしをしてたからねぇ……

相手が、天警の隊長級となりゃあ、ちいとは気合いを入れねぇと――トンだ恥じを掻いちまうな)

ソウタは、竹刀を軽く振るって、10年以上ぶりの竹刀の感覚を味わいながら、心中で堕落した最近の振る舞いの反省の弁を並べ――

「――ふぅ~~~~~~~~っ!」

――と、大きく息を吐き、眼光を鋭くして、ヤヒコを睨む!


「――っ!?」

ソウタの眼光を観た瞬間、隊長級以上は言うに及ばず、大勢の士団員の背に、ザワッとした氷の如く冷たい緊張が奔った!


だが――その悪寒の意味も、今のヤヒコには解すコトが出来ず、ただただ、沸き立つ血気に身を委ね続けている……



「では――始めっ!」


「――やぁぁぁぁぁっ!」

審判役のショウから、開始の号令が掛かると、ヤヒコは裂帛の気合いを込め、青眼の構えで突進し、猛然と上段から竹刀を振り被る!


(おっ!、やっぱ……速ぇっ!)

強烈な打ち込みを、難なく受け止めたソウタは――

(うん、力もしっかり篭ってるし――流石だねぇ)

――と、相手の力量を測りながら、受け流す余裕も見せる。


「ずああああ――っ!」

ヤヒコは、連続で打ち込みを始めるが、ソウタは、これも難なく受け留め続ける。


「――どこかで、そして、何やら懐かしい光景じゃな?」

ジョウケイは、隣のヨシノブを横目に、そんな軽口を叩く…

「ああ、アレが、"刀聖の戦い方"――ワシも、アレにやられたわい。

急くなヤヒコよ、急くなよ……この勝負、急いた時こそが、最悪な隙を晒す結果に……」

――と、ヨシノブは苦笑して、リョウゴとの対戦を思い出して見せる。


(くそぉ!、ナメた戦い方しやがってぇ!」

ヤヒコも、流石に相手を嘲笑うかの様なソウタの戦い方に、強い苛立ちを起こす。

(――ならっ!、そんな態度!、出来ねぇ様に、してやんよぉ!)

その決意と共に、ギアを一つ上げた様な態で、ヤヒコの剣筋は大振りとなり、一撃一撃の重さも増し始める。


(う~ん……"あしらう"、だけなら、そろそろかね?)

ソウタは、その一撃一撃を受け止めながら、勝負を決める頃合いを伺い、ほんの僅かなヤヒコの隙に気付いたらしく、初めて攻勢に転じる兆しを見せる。

(力――強めちゃうと、ソコ、空いちゃうよねぇ~!)

ソウタは、中段から振り被り、胴払いを仕掛けた!


(――!?)

それに気付いたヤヒコは、竹刀を構え直して防御を整える!


「ああ、フツーならそれ、正解――だぁけどぉ!」

ソウタは、思わず心中を吐露してしまい、そんな指導めいたコトを呟きながら、強烈な殺気が篭った胴払いを放つ!


「――!?!?!?、ぐほぉあっ!」

ソウタの胴払いは、ヤヒコの竹刀を圧し折り――そのまま、彼のみぞおちを捉え、一瞬でその意識も奪った。


「ふぅ……今は一旦退いて、避けるべきだったね。

それぐらいの間は――って、もう、聞こえねぇか?」

ソウタは、竹刀を肩に担ぎ、指導めいた解説を続けながら、白めを向いて倒れ込んでいるヤヒコを見下ろした。


「いっ、一本っ!」

ソウタが見せた、怒涛の打撃を目の当たりにし、毒気の抜かれた気分で絶句する皆の耳に、ショウの決着を告げる声が響き渡った。
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