流れ者のソウタ

緋野 真人

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血染めの秋分

篝火

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「――ふぅ、皆さん、準備は宜しいですか?」

同じ頃――場面は替わって、キセルから吸った煙を口から吐き、自分の周りに侍る皮具足を纏った者たちの顔を見渡しているのは、七番隊長――ルイである。


彼が、担当地域から秋分祭の警備のためとして召集した、そのざっと20名の者たちは、一様に無言のまま、ルイの問いに向け、小さく頷いてみせる。

そんな、部下たちの反応を見やり、ニヤッと牙を覗かせたルイは、今居る路地裏から見える――テンラク市街の中では、御船板の次に大きく、三階建てと最も高層な造りの建物である、ツクモ全報の本社へに向けて、大きく手を掲げた。


その掲げた手の平には、赤々と光る物質ではない塊――つまり、火の界気が詰まった、光沢が眩しい球体が輝いている!


「さあ――この、私が掲げている『自由への篝火』こそが、この世界の未来を照らし、人々のさがを解放へと導く、灯火ともなるのです……」

そう、ルイは呟き――三階付近に掛かっている、全報の看板へと向けて、その『自由への篝火』と評した火の界気の球体を、投げ放った!


ルイが放った火球は、全報の看板へと命中し、爆発と共に本社の建物の一部が崩れる音が、市街中に響き渡る。



「なっ、何の音ぉっ!?」

「なんだっ!?、何かの事故かぁっ?!」

「おいっ――!、全報の本社、燃えてるっ!」

「ヤバイっ!、建物が崩れかかってる!、逃げろっ!、建物に近づくなぁ!」

そんな怒声が辺りに起こり、秋分の宵を控えて賑わう市街は、混乱の坩堝を化した。



「皆さん――私たちが優先するべきは、全報本社の制圧です。

コチラの意図に刃向かう者や、逆らう者は……全て、殺してしまっても結構――本社の早期制圧と、情報漏洩の阻止に、心血を注いでくださいね?」

両手に、界気を練った光球を持ち、丁寧な口調でそう下知したルイに応え、七番隊士たちは、一斉に本社の正門へとなだれ込む。


「えっ?、今――火の界気を本社に放ったのって……ルイ隊長!?」

出先から戻ったらしき、書類の束を抱えた全報の職員は、ルイが本社に界気攻撃を行った事を目撃したらしく、驚きのあまりに震え、その場に立ち竦んでいた


――ボワァツ!


「!?、うわああぁぁぁぁっ!」

――ルイは、その職員の顔を見る事も、躊躇いも微塵すら無く、手に持っていた火球を職員に向けて投げ放ち、焼き殺してみせた。

「――これが、情報漏洩阻止の典型例です。

皆さん、解りましたね?」

ルイは、人差し指を立て、五番隊士たちに向けて、そんな教官地味た注意をした。



響き渡った轟音と怒声を聞き――ニヤッと不適な笑みを浮べたイゾウは、自分の周りを見渡し――

「へっ!、さあ――楽しい斬り合いの始まりだぁ♪

野郎どもっ!、抜かるなよぉっ!」

――と、叫んでから踵を返し、いかにもガラが悪そうな五番隊士たちを引き連れ、警邏に及んでいたはずの、混乱を極める市街ではなく、御船板の館へと進路を向けた。



「たっ、隊長っ!、何事でしょう!?」

轟音を聞いて色めき立つ、市街と街道の境の警備をしていた、若手主体の八番隊士たちは――隊長である、ヤヒコの判断を仰いだ。


「俺が――様子を観に行く。

みんなはとにかく、街道への出入りをガッチリ規制する様にっ!」

そう言って、慌てる様子で馬に跨ったヤヒコは、馬の横腹を叩いて駆け出させる――その鞍上の彼は、心中でほくそ笑んでいた。




「――どうした?」

轟音を聞き、本陣の執務室から出て来たヨシノブは、側近の隊士を呼び出して、状況を把握しようとする。


「団長――」

その呼び出しに応じた、遠目に見える隊士は――いつもの側近ではなく、隊長級を表す"右肩に白銀の肩当て"を着けた、細面の男――二番隊長、ショウであった。


「ショウか――何やら、市街の方から轟音が響いたが……!?」

ショウだと解る、格好とシルエットを見とめたヨシノブは、彼に状況を尋ね様としたが――"ある事"に気付いて、言葉を止め、顔付きを険しくして身構える。

その、"ある事"とは――ショウが、身の丈と同等の刃渡りを誇る程に長い、彼の愛刀を抜き放ち、その切っ先を自分に向けていたからだった。

「ショウ――何のつもりだ?」

ヨシノブは、ギラリと光る長刀の切っ先を見据え、落ち着き払った声音でそう問うた。

「ふふ……見れば、解るでしょう?

あなたを、討ちに来たのです」

ショウは、そうやってヨシノブを嘲笑い、切っ先を彼の鼻先へと向け――

「――何時でも、私の挑戦を請けると言ったのは、あなたの方でしょう?」

――冷ややかな笑みを口元に寄せ、ヨシノブを睨み付ける。

「それとも……あれは、あなたに"怨恨ある"私を、士団に誘うための詭弁でしたか?」

ショウは、そう言うと、何かを思い出したかの様に顔をしかめ、口内ではギリギリと歯軋り鳴らす。

「詭弁などではない――あの宣言に、もちろん偽りは無い。

だが、今は市街に、妙な轟音が木霊した有事とも受け取れる状況――何時でもと申していたとはいえ、聖地を警す士としては、時と場合が――」

ヨシノブは、そこまでを言って、ハッとした表情へと替え――

「――いや、"だから"、か?」

――と、彼の表情は更に転じ、悲哀と憤怒が混じった表情をする。


ショウが言う、"ヨシノブへの怨恨"と、それを見透かした様な、ヨシノブ自身の物言い。

この二人の間に渦巻く、浅からぬ因縁とは――ショウが、士団に入団するよりずっと前、ショウがまだ、5歳の幼子だった23年前にまで遡る。


当時――大巫女ユリと、刀聖リョウゴの会談に因り、大巫女を頭に置くクリ社から士団に、スヨウへの援軍として、ハクキへの派兵要請が入った。

しかし、当時の士団長――アキノリは、この前例の無い要請に対し――

『テンラク様と、翼域を警する事が、士団の唯一無二の本分。

諸外国の戦に首を突っ込むのは、たとえ相手が、刀聖様が断じた邪なれど、我らの役目では無いと心得申す』

――という、不服の声を挙げ、派兵の下知は直ぐには下らなかった。


クリ社と大巫女は、懸命にアキノリとの交渉に及んだが――彼は、頑なに主張を固辞。

だが、大巫女が出馬してまでのクリ社――いや、他ならぬ大巫女ユリの『本気度』を受け、士団内にはアキノリに対する不協和音が鳴り始める。


その矢面に立ったのが、その年の大武会で四傑入りし、その功から、当時の十番隊長に任じられたばかりのヨシノブだった。


『文』の象徴たる、ユリの要請に対して、アキノリが余りに頑なな姿勢をとっている事に、違和感を感じたヨシノブは、十番隊の同僚であるジョウケイと共に、アキノリの身辺を調べ上げ、彼がハクキの暗衆と通じている事を知り、それをユリへと暴露――士団長の最終人事権を有す彼女は、史上初めてそれを行使し、アキノリを更迭。

彼は、邪に加担し、大巫女に背いた外道の烙印を押される形で、シンパの者たちや家族諸共、蟄居の処分が課せられた。

その蟄居に同道したアキノリの家族――その中でも、末息子こそが、他ならぬショウなのである。


蟄居処分と大戦終結から10年――アキノリは既に蟄居先で歿し、それに因り、ショウたち家族は放免となった。


しかし、父にヨシノブへの怨恨を、散々と聞かされたショウの心には、父が植えつけた強烈な怨気が根を張る事となり、15歳となったショウはあろうことか、今や"覇者"の称号をも得て、士団内でも士団長へと上り詰めていたヨシノブに、たった一人で夜襲を敢行。

結果はもちろん、ショウの襲撃をヨシノブは一蹴したのだが、その際、ヨシノブはショウの太刀筋と、その際に放った気迫に、類希な剣才を感じ――

「――アキノリ様の息子よ。

その怨気の刃で、ワシを討ちたければ――士団へと入り、研鑽に励む事を薦める。

ワシは何時でも、そなたの挑戦を請ける覚悟ゆえな」

――と、なんと、ショウを士団へと勧誘したのだった。


その後――ショウが、直近の"覇者"へと駆け上がった事を思えば、彼が心根に秘める怨気の力の凄まじさとは、わざわざ言葉にせずとも、想像に難くないであろう。



「――父殿が言った、天警の士の本分に背く事を、ワシへの"当て付け"としたか?

そして、我一人への怨恨のために――この聖地の平穏を、揺るがす様な何事かを謀ったのか?」

ヨシノブの表情からは悲哀が薄れ、憤怒の表情が濃くなる。

あなた一人?、笑わせないでください!

私に言わせれば、あなたと共に、分を穿き違えた今生の大巫女が、独善的に造り替えた、今の悪しき士団そのものでしょう?!」

「――っ!」


ショウがそこまでを口にした瞬間、ヨシノブは猛烈な勢いで抜刀し、神速に等しい襲歩でショウに斬りかかったっ!


一気に、懐を侵して来たヨシノブの居合いを、ショウは寸での所で抑える。

「貴様――その物言い、大巫女様への不敬ぞ?」

――まさに、"鬼の形相"と表するのが、最も適当と言える、憤怒の激情に満ちた表情で、ヨシノブはショウと鍔を競り合う。

「ふふ……躊躇いを、微塵をも見せずに、我が長刀の間合いに飛び込むとは――流石ですね」

ショウは、その鍔競り合いを喜ぶ様な、不敵な笑みを見せ――

「――しかし、"初恋かつての想い人"を、貶されて怒る様は――"覇者"であっても、凡人と変わりは――」

「――!!!!」

ヨシノブは、ショウの腹に前蹴りを決め、彼の五体を前方へ吹き飛ばす。

「ワシへの殺意うらみや、ワシが謀った謀反の類については、是非に及ばぬ――貴様は、父親にそれを刷り込まれて、生きてきたのだからな。

――だが、更なる大巫女様への不敬とあっては、もはや貴様は、このツクモに生きる資格は無いっ!、ワシが、この場で引導を渡してくれよう!」

ヨシノブは、倒れ込んだショウに、侮蔑の眼差しで見下し――

「――ふっ、ふはははははっ!、先程から、不敬不敬とはよく言ってくれるぅ!

あの大巫女おばさんは、所詮、先の大巫女に気に入られただけの、孤児の小娘であろうが?!

その小娘への、幼き頃からの恋惑に溺れ――その卑しき大巫女の子飼いと成り果てるだけの、下賤な士団を造り上げた、貴様らしい物言いよなぁ!?」

ショウは、仰向けに倒れたままそう叫ぶと、一気に立ち上がって刀を構え直す。

「さあ、"覇者"と"覇者"――どちらの覇者が、士団を統べるに相応しいか……」

「――ふん、頭乗るなぁっ!、若造っ!」

ショウが言い終わる前に、ヨシノブはまたも神速の襲歩を用い、裂帛の気合い込めた斬撃を放った!
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