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血染めの秋分
旧友
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「騒ぎ――収まりませんね」
「……そうね」
外の轟音を聞き、用心して儀式の支度部屋に留まっていたミユとユリは、鎮静成った気配が無い外の喧噪に、募る不安を覚え始めていた。
「ユリちゃん――部屋ん中、居るかぁ?」
――その時、しゃがれ気味の野太い声が、部屋へと聞こえてきた。
「……ジョウケイ殿?、ええ!、居ますよ!」
その特徴的な声と、自分への呼び方に聞き覚えがあったユリは、声の主を察して応えた。
「そうか――何でも、全報の本社で、火の手が上がったらしい。
――んでもって、どうにもキナ臭い報告も入って来てっから、しばらくは御神具の"守"を敷いて、ココから動かないでくれるか?」
市街の治安を護る天警一番隊、その長であるジョウケイは、今、外で起こっている事を、非常時だと匂わす文言を並べてユリに伝えた。
「解りました、ミユ――よろしいですね?」
ユリが、側に居るミユに同意を求めると、彼女は無言で頷く。
「――おっと、近習役の嬢ちゃんも居たのか?
大巫女様を『ちゃん付け』だなんて、こいつぁ、トンだ不敬を聞かれちまったな」
――と、部屋の中でのやり取りを聞き、襖の外のジョウケイは苦笑し、剃り上げられた自分のスキンヘッドを、気まずそうに撫でた。
「ふふ……当人の大巫女が、不敬に感じていないのですから、お気になさらず。
寧ろ――少女の頃から、変わらない態度で接してくれる、貴方の屈託無き姿勢は、とてもありがたいのですから」
ユリは、口元を抑え、そう言って上品に笑うと――
「――へへ、あんがとよぉ、ユリちゃん」
――と、ジョウケイは照れ臭そうに、またスリスリと自分の頭頂部を撫でる。
「私が仕女見習いで、ジョウケイ様は神官見習い――それに、士塾生だったヨシノブ様と、流者であったものの、士団に誘われた"ハヤト"――あの、互いのうら若き日の思い出は、私にとっての宝物なのです」
ユリは、懐かしむ眼差しを、襖を挟んだジョウケイへと向ける。
ジョウケイは――当初、士団員ではなく、神官を目指していたのだが、萬神に奉仕したいという彼の志とは別に、その粗暴気味な気性が災いして、神官を断念するコトになった。
そこに、根っからの腕っぷしの強さが、士団の目に留まり……彼は、士団員へと転じる決意をしたのである。
ちなみに――ジョウケイの髪型がスキンヘッドなのは、神官見習いの少年は皆、剃髪を義務付けられており、彼はその名残でこの髪型を続けている――決して、頭髪が乏しいワケではない。
「――ハヤト、か……アイツは今頃、何をやってんだかなぁ?」
ジョウケイも、ユリの口から出た人物の名を聞き、彼も懐かしむ表情を見せる。
二人が懐かしむ"ハヤト"という男は、以前、サスケの戦闘スタイルに触れた際、二刀流の達人として名を挙げていた人物、その人の事を指している。
彼も、23年前――つまり、先の大戦時には、天警士団に所属しており、その代表の一人として、リョウゴと決勝で刃を交えた、士団の英雄の様な存在なのだが――
「――まあ、アイツを見つけたら、士団は、アイツをとっ捕まえて、牢にぶち込まなきゃならねぇんだけどよ」
――と、ジョウケイは悔しそうに、そして、呆れた様な口調で苦笑を交えた。
「何せ――大巫女を拉致した大罪人。
いんや……ホントのトコは、ユリちゃんと"駆け落ち"しようとした、大馬鹿者だからな」
――そう続けて、ジョウケイはニヤッと笑い、ふぅっと小さな溜め息を吐く。
ジョウケイが言う、ハヤトとユリの駆け落ち騒動というのは――大戦の最中という局面の影に隠れた、大事件の事である。
刀聖を相手に奮闘し、大武会準優勝の栄誉を得たハヤトが――突如、大巫女であるユリを拉致して、オウビの街までの逃避行を敢行!
10日間の逃亡の果て、結局は二人とも発見、捕縛保護されたのだが――その動機として、ハヤトが挙げたのが、ユリとかつて交わしたという、結婚の約束だったのである。
「――ふえっ!?」
ジョウケイが言った、ユリの意外なロマンス劇に――ミユは、思わず驚きの声を挙げる。
「もう――ジョウケイ殿!
そのコトに触れられては、少々不敬に思ってしまいますよ?、若気の至りを蒸し返し、そのコトを知らない世代の者に聞かせるのは!」
ユリは、少し頬を赤らめ、そう言ってジョウケイに釘を刺す。
「かっかっかっ♪、
悪りぃ悪りぃ――まっ、あの頃は、ユリちゃんも色々あって、大変だったからなぁ……アイツとリョウゴ殿に、連れ出して欲しいと言った気持ちはよく解る。
だから、俺とヨシノブは、脱獄したアイツをあえて追わなかった……」
ジョウケイはそう呟き、今度は懐かしみながらも同情を混ぜた表情をする。
ジョウケイが触れた"色々~"というのは、アキノリに因る士団の要請拒否の事を指し――ヨシノブやジョウケイが動いたのも、駆け落ち騒動がキッカケなのである。
ちなみに――これも、"オマケ"の様に触れていた、リョウゴの駆け落ち騒動への関与については、二人の逃避行を助けたのは他ならぬリョウゴで、ソウタとの会談時にユリが触れていた、盛っ切り酒の逸話の由来でもある。
「それに――ぶっちゃけ、マジで惚れてたんだろ?
アイツには――今でも、よそよそしい『殿付け』は、しねぇものよな」
――と、ジョウケイはユリの本心を見透かした様に、ユリの言葉尻を突いてそう言う。
「――ええ、好きでした。
"契りの約束"も……戯れ言や酔狂ではなく、偽りでもない本当の事。
大巫女なのに、何も出来ない――傀儡でしかない、自分の無力さに嫌気が指して、この聖地から連れ出して、只の女として、ひっそりと共に暮らして欲しい――そう、言ったのです」
ユリが、照れ臭そうに呟く様を見やり、ミユも頬を紅色に染めて恥ずかしがる。
「――さて、一大事だってのに、少々長話をしちまったな。
ユリちゃんとサシで話すのは、久し振りだからよぉ……つい、口の滑りが良くなっちまった」
そう言って、ジョウケイはまた気まずそうに、頭頂部をスリスリと撫でた。
「――"じゃあな"、ユリちゃん――ぜってぇ、護ってやっからよ。
そこで、黙って待っててくれや」
「はい――ジョウケイ殿、"ご武運を"」
ジョウケイは片手を挙げ、ニヤッと笑って振り向き――ユリは小さく俯き、彼の武運を祈って見せた。
顔も、目線も、互いに合わす事は出来ない――"襖越し"の、旧知の友との談議を終えて。
「――では、守を敷きますよ?、ミユ」
「はい」
襖の隙間から光が漏れ、紫珠輪の発動を、横目に確認したジョウケイは、小さく頷いて駆け出す。
「――ジョウケイ隊長!」
そこに、一番隊の者と思しき、士団員が駆けて来た。
「御船板正門にて、イゾウ隊長率いる五番隊員たちが、館を制圧しようと暴れております!
隊長級相手では、我らだけでは歯が立たず――死傷者は多数っ!」
駆けて来た士団員は、跪いて畏まり、悲痛な報告を述べる。
「――解ったぁ!、俺が自ら出る!、付いて来いっ!」
ジョウケイは、そう下知をすると、壁に立てかけて居た彼の武器――大柄な彼の身長とほぼ同等の長い棒を、肩越しに担いで歩き出した。
「……そうね」
外の轟音を聞き、用心して儀式の支度部屋に留まっていたミユとユリは、鎮静成った気配が無い外の喧噪に、募る不安を覚え始めていた。
「ユリちゃん――部屋ん中、居るかぁ?」
――その時、しゃがれ気味の野太い声が、部屋へと聞こえてきた。
「……ジョウケイ殿?、ええ!、居ますよ!」
その特徴的な声と、自分への呼び方に聞き覚えがあったユリは、声の主を察して応えた。
「そうか――何でも、全報の本社で、火の手が上がったらしい。
――んでもって、どうにもキナ臭い報告も入って来てっから、しばらくは御神具の"守"を敷いて、ココから動かないでくれるか?」
市街の治安を護る天警一番隊、その長であるジョウケイは、今、外で起こっている事を、非常時だと匂わす文言を並べてユリに伝えた。
「解りました、ミユ――よろしいですね?」
ユリが、側に居るミユに同意を求めると、彼女は無言で頷く。
「――おっと、近習役の嬢ちゃんも居たのか?
大巫女様を『ちゃん付け』だなんて、こいつぁ、トンだ不敬を聞かれちまったな」
――と、部屋の中でのやり取りを聞き、襖の外のジョウケイは苦笑し、剃り上げられた自分のスキンヘッドを、気まずそうに撫でた。
「ふふ……当人の大巫女が、不敬に感じていないのですから、お気になさらず。
寧ろ――少女の頃から、変わらない態度で接してくれる、貴方の屈託無き姿勢は、とてもありがたいのですから」
ユリは、口元を抑え、そう言って上品に笑うと――
「――へへ、あんがとよぉ、ユリちゃん」
――と、ジョウケイは照れ臭そうに、またスリスリと自分の頭頂部を撫でる。
「私が仕女見習いで、ジョウケイ様は神官見習い――それに、士塾生だったヨシノブ様と、流者であったものの、士団に誘われた"ハヤト"――あの、互いのうら若き日の思い出は、私にとっての宝物なのです」
ユリは、懐かしむ眼差しを、襖を挟んだジョウケイへと向ける。
ジョウケイは――当初、士団員ではなく、神官を目指していたのだが、萬神に奉仕したいという彼の志とは別に、その粗暴気味な気性が災いして、神官を断念するコトになった。
そこに、根っからの腕っぷしの強さが、士団の目に留まり……彼は、士団員へと転じる決意をしたのである。
ちなみに――ジョウケイの髪型がスキンヘッドなのは、神官見習いの少年は皆、剃髪を義務付けられており、彼はその名残でこの髪型を続けている――決して、頭髪が乏しいワケではない。
「――ハヤト、か……アイツは今頃、何をやってんだかなぁ?」
ジョウケイも、ユリの口から出た人物の名を聞き、彼も懐かしむ表情を見せる。
二人が懐かしむ"ハヤト"という男は、以前、サスケの戦闘スタイルに触れた際、二刀流の達人として名を挙げていた人物、その人の事を指している。
彼も、23年前――つまり、先の大戦時には、天警士団に所属しており、その代表の一人として、リョウゴと決勝で刃を交えた、士団の英雄の様な存在なのだが――
「――まあ、アイツを見つけたら、士団は、アイツをとっ捕まえて、牢にぶち込まなきゃならねぇんだけどよ」
――と、ジョウケイは悔しそうに、そして、呆れた様な口調で苦笑を交えた。
「何せ――大巫女を拉致した大罪人。
いんや……ホントのトコは、ユリちゃんと"駆け落ち"しようとした、大馬鹿者だからな」
――そう続けて、ジョウケイはニヤッと笑い、ふぅっと小さな溜め息を吐く。
ジョウケイが言う、ハヤトとユリの駆け落ち騒動というのは――大戦の最中という局面の影に隠れた、大事件の事である。
刀聖を相手に奮闘し、大武会準優勝の栄誉を得たハヤトが――突如、大巫女であるユリを拉致して、オウビの街までの逃避行を敢行!
10日間の逃亡の果て、結局は二人とも発見、捕縛保護されたのだが――その動機として、ハヤトが挙げたのが、ユリとかつて交わしたという、結婚の約束だったのである。
「――ふえっ!?」
ジョウケイが言った、ユリの意外なロマンス劇に――ミユは、思わず驚きの声を挙げる。
「もう――ジョウケイ殿!
そのコトに触れられては、少々不敬に思ってしまいますよ?、若気の至りを蒸し返し、そのコトを知らない世代の者に聞かせるのは!」
ユリは、少し頬を赤らめ、そう言ってジョウケイに釘を刺す。
「かっかっかっ♪、
悪りぃ悪りぃ――まっ、あの頃は、ユリちゃんも色々あって、大変だったからなぁ……アイツとリョウゴ殿に、連れ出して欲しいと言った気持ちはよく解る。
だから、俺とヨシノブは、脱獄したアイツをあえて追わなかった……」
ジョウケイはそう呟き、今度は懐かしみながらも同情を混ぜた表情をする。
ジョウケイが触れた"色々~"というのは、アキノリに因る士団の要請拒否の事を指し――ヨシノブやジョウケイが動いたのも、駆け落ち騒動がキッカケなのである。
ちなみに――これも、"オマケ"の様に触れていた、リョウゴの駆け落ち騒動への関与については、二人の逃避行を助けたのは他ならぬリョウゴで、ソウタとの会談時にユリが触れていた、盛っ切り酒の逸話の由来でもある。
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――と、ジョウケイはユリの本心を見透かした様に、ユリの言葉尻を突いてそう言う。
「――ええ、好きでした。
"契りの約束"も……戯れ言や酔狂ではなく、偽りでもない本当の事。
大巫女なのに、何も出来ない――傀儡でしかない、自分の無力さに嫌気が指して、この聖地から連れ出して、只の女として、ひっそりと共に暮らして欲しい――そう、言ったのです」
ユリが、照れ臭そうに呟く様を見やり、ミユも頬を紅色に染めて恥ずかしがる。
「――さて、一大事だってのに、少々長話をしちまったな。
ユリちゃんとサシで話すのは、久し振りだからよぉ……つい、口の滑りが良くなっちまった」
そう言って、ジョウケイはまた気まずそうに、頭頂部をスリスリと撫でた。
「――"じゃあな"、ユリちゃん――ぜってぇ、護ってやっからよ。
そこで、黙って待っててくれや」
「はい――ジョウケイ殿、"ご武運を"」
ジョウケイは片手を挙げ、ニヤッと笑って振り向き――ユリは小さく俯き、彼の武運を祈って見せた。
顔も、目線も、互いに合わす事は出来ない――"襖越し"の、旧知の友との談議を終えて。
「――では、守を敷きますよ?、ミユ」
「はい」
襖の隙間から光が漏れ、紫珠輪の発動を、横目に確認したジョウケイは、小さく頷いて駆け出す。
「――ジョウケイ隊長!」
そこに、一番隊の者と思しき、士団員が駆けて来た。
「御船板正門にて、イゾウ隊長率いる五番隊員たちが、館を制圧しようと暴れております!
隊長級相手では、我らだけでは歯が立たず――死傷者は多数っ!」
駆けて来た士団員は、跪いて畏まり、悲痛な報告を述べる。
「――解ったぁ!、俺が自ら出る!、付いて来いっ!」
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