流れ者のソウタ

緋野 真人

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血染めの秋分

往生

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「へへ♪、やっと出てきやがったか」

御船板正門――数十人に及ぶ一番隊員たちと立ち回ったイゾウの周りには、倒れた死傷者が無造作に転がり、飛び散った鮮血が彼の着物を汚していた。

そのイゾウが、笑みを浮べながら見ているのは、正門へと出張ってきた一番隊長、ジョウケイの姿である


そして、2人の周囲では、謀反人たちと一番隊の、激しい攻防が繰り広げられていた。


「イゾウよ――何故、この様な事を起した?」

ジョウケイは険しく、そして、困惑した顔付きで、血だらけのイゾウを睨む。

「ふん、警備や稽古ばっかの士団の暮らしに、飽き飽きしてたトコによぉ……ショウの野郎から、斬り合いが出来そうな計画しごとの誘いがあるって聞いてな?、そいつにノッたのよ」

イゾウは、血塗れた刀身の峯を、自分の肩に担ぎながら、アッサリと謀反計画の概要を吐露した。

「首謀者はショウか……」

ジョウケイは、チラリと本陣の建物――士団長執務室がある3階を見据える。

「――なら、合点が行く。

ショウの怨みに、てめぇが一枚噛んだってコトか」

「へっ!、噛んだのは俺だけじゃねぇよ。

狐野郎と、八番隊の助平若造エロガキ――何より、でっけぇ出資者金づるも付いたんだとさ」

納得したジョウケイの言葉を他所に置き、イゾウは、饒舌に尋ねても居ない事までも口走る。

「ルイと、ヤヒコもか――なぁるほどな、確かに、それなら祭りの警備に召集した人数で、ココを牛耳るに足りる兵力だ。

只でさえ、十番隊を使節団に割いてる分、おめぇらは数で勝る――オマケに、虚も突ける分だけ、奇襲になって有利にコトを運べるはずだ」

そう呟くと、ジョウケイはパチパチと、拍手を始めた。

「――恐れ入ったぜぇ~!、大方、ルイの立てた策なんだろうが、見事なモンだ」

ジョウケイは破顔し、ニヤっとイゾウに笑い掛ける。

「……だがな、まだ本陣も、御船板も落ちてはいねぇってこたぁ、この謀反いくさ――」

ジョウケイは、武器えものである長い棒を、軽々と下段に振り被り、弾丸の様な勢いで駆け出すっ!

「――まだ、おめぇらの勝ちじゃぁねぇ!」

その勢いのまま、界気が篭った棒による一撃をイゾウに見舞う!

「――うはぁっ!、重ぇっ!、そんで硬ぇっ!

はっはっはっ♪、ホントにソレ、ただの木の棒切れかぁっ?!」

ジョウケイの一撃を受け止めたイゾウは、ギリギリとジョウケイの棒と自分の刀で競り合いながら、嬉しそうに笑みを浮べる。


尋常ならざる量の界気を纏わせば――只の棒切れでも、名刀を凌ぐ矛へと変わり、故に軽い分だけ、その一撃は無手に近い、速さと鋭さを持ち合わせる!

大武会のレジェンドと化している、ジョウケイの強さの秘密とは、界気に因る武器強化という、戦闘スタイルの真髄へと行き着いた様なこの戦法あってのモノだ。


「ふん!、まだ口を回す余裕があるか――ほんじゃあ、ドンドンいくぞぉっ!、おらあっ!」

ジョウケイは巧みに、そして、猛然と木の棒を振るい、その強烈な攻撃が次々とイゾウを襲うっ!

「うほぉっ!、ほぅあっ!」

イゾウは、実に楽しそうに、まるでダンスを踊る様に、ジョウケイの攻撃を捌いて見せる。

「へへ、確かに、とんでもねぇ界気量――だがなぁっ!」

イゾウは歩法ステップのテンポを微妙に変え、ジョウケイの攻撃のタイミングを、ほんの少しだけずらし、ジョウケイの姿勢に僅かな隙を創り出す!

「!」

ジョウケイはそれに気付き、一旦、棒を退いて守勢に転じる――その、コンマ一秒にも満たない瞬間に、イゾウは不敵な笑みを浮べながら、諸手で振り被った胴払いを、ジョウケイのみぞおちへ目掛けて放つ!

自分の隙に気付いているジョウケイは、棒を構えて胴払いを受け――

「――!?」

――流そうとした時に起きた、ミシッという鈍い音を聞き、ジョウケイは目を見張る。

続けて、バキッという乾いた音の後、界気を纏わせたはずの木の棒が圧し折れ、ジョウケイの視野に飛散した木屑が写る。

そうして、棒を圧し折ったイゾウの斬撃は、そのままジョウケイのみぞおちに、鋭利な斬撃を見舞った。

「――ぐうぅっ!」

「へっ、間一髪、直撃を避けやがったか」

振り切った切っ先を、肩に担ぐ態で退かせ、イゾウは、その刀身から垂れた鮮血を、ペロッと舐めてみせる。

「だが、内臓なかまで届いた手応えはあった――その痛みと、そっからの出血で、思う様には動けねぇだろ?」

そのイゾウの問いに、ジョウケイは苦悶の表情のまま――

「――界、気をっ、それほど込めた、様子ではなかったはず……」

――と、傷口を押さえながら、喉元まで上がって来た血反吐を地面へと吐き、イゾウの取った戦法を不思議がる。

「教えて貰ったんだよ、エロガキと刀聖の、"あの立会い"にな。

広く纏わせた界気ちからを破るには、一点に集めた界気ソレをぶつけるのが一番だってな」


イゾウは――ジョウケイの攻撃を受ける中、ソウタがヤヒコの竹刀を圧し折った瞬間を咄嗟に思い出していた。

あの時、ヤヒコは、竹刀全体に力を込め、ソウタの一撃を捌こうとし……それに対し、ソウタはインパクトの瞬間『だけ』に力を込めていた事にイゾウは気付き、その戦法に感じた有用性を、この実戦で試したのである。


「ふっ、ふふはは!

惜しいな……一戦の一合だけで、その真髄を見抜く――その類希な素養が、謀反勢に味方くみする事になったのは」

ジョウケイは、不適な笑みを見せ、腹から血を垂らしながら、閉じた正門に凭れ掛かる。

「……ちっ!

手負いで武器ナシのおっさんを斬っても、面白くねぇなぁ――おい、おめぇら、後は任せる。

もう――興醒めだ!」

イゾウは刀を振るい、刀身を垂れる鮮血を地面へと吹き飛ばし、踵を返して正門に背を向け、その場に胡座を掻く。


「ヒャッハァ!、隊長級を殺った手柄――早いモン勝ちだぁっ!」

そのイゾウの号令を聞いた、他の謀反人たちは、ライオンの食べかすに群がるハイエナの如く、一斉にジョウケイに襲い掛かり、次々と正門に凭れた彼の身体に刃を突き立てる。

「――ぐぅっ!!!」

ジョウケイは、更に口内を血反吐で満たし、熾烈な痛みを堪える。

「へへ――えっ?」

数本の刀が、ジョウケイの腹に刺さった瞬間――その数本の一つを持つ、一人の首に違和感が生じた。

「――おらあっ!!!!!」

ジョウケイは、その者の首をむんずと掴み、一息に身体ごと放り投げて正門の柱へとぶつけ、脳天をかち割って絶命させる。

「ふふふふふっ!、おらぁ……ユリちゃんと、約束したんだ。

ぜってぇ、護ってやっからって!」

――ジョウケイは、もはや狂気に堕ちた眼差しで、謀反人たちを見渡す。

「うっ――うわあぁぁぁぁぁっ!」

その様子に、謀反人たちから余裕は消え、彼らは無我夢中で、ジョウケイに襲い掛かった。
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