流れ者のソウタ

緋野 真人

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決意

託された望み

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「ふあぁぁぁっ……退屈、だねぇ」

昼下がりのテンラクの中にある、行きかう人々は疎らどころか、ほぼ皆無な裏路地の一角。

そこに座っているタマは、そんな愚痴を溢しながら、摘んだ薄で小石を突いたり、その薄を鼻の下に挟んだりしていた。


「そう愚痴るな、これもハヤトとの約束の一環だぞ?」

共に居るギンは、タマをそうやって宥め、自分は弓の弦を張り直したりして、暇を潰しているのが明らかな素振りである。


ハヤトが、ユリの私室へと繋がる抜け穴へと姿を消してから、二人はこう言った拍子で、この抜け穴の見張り役を請け負っていた。

場所の様子を大まかに説明すると、そこは御船板館の側にある水路へと繋がる、格子状の門の前である。


「ここが、オッサンの『昔の女』の居る場所に忍び込むための『秘密の抜け穴』の入り口って――ホント、"秘密のナンチャラ"が、好きなオッサンだよね」

タマは、今度は薄をタバコのように噛んで、フラフラと揺らしながら、格子状の門を眺めた。

「何でも――あのフジというヒトの話では、その昔の女は"やんごとなき立場"の女性らしい。

そんな恋人との逢引のために、ハヤトはこの抜け穴を使っていたそうだ」

ギンは、弦の張り具合を吟味しながら、フジに聞いたというハヤトの若い頃の話を口にした。

「何だか――今のソウタとサトコみたいだねぇ。

あのオッサンも、若い頃は"スケコマシ"だったってコトかぁ……」

タマは、ふっと薄を吐き出し、それを水路の流れへと乗せた。

「……あれ?」

その刹那――タマは突然、ピクッと猫耳を震わせ、上部に見える御船板へと続く道を見上げた。


この耳の震えは――何らかの異変を感じた証である。


「何だか……急に、騒がしくなったな?」

「うん――さては、何かやらかしたのかな?、あのオッサン……」

同じ様に異変を感じたギンも、険しい表情で、辺りに拡がり始めた慌しい人の動きを見やり、タマは顔をしかめ、ほぐれていた体勢を正し始める。




「手配書で見慣れているはずの"八字背渡し"――『二刀烈警』ですっ!

見つけたら、決して功に逸らず……直ぐに!、隊長級わたしたちへ知らせなさいっ!」

館の正門の前では、ハヤトの捜索に動員した連中に、ルイは厳しくそう下知をして、彼らを送り出すと、自分も数人の手勢を率いて、街中の道を駆け出す――

(――ん?)

――その途中、彼も亜人種ならではの感覚で、辺りの様子に何らかの違和感を感じたルイは、手勢に合図をして、行進を止める。

(……血のニオイ?、士団員われわれ以外の、戦いに通じた者のニオイと気配か?

一体……どこからだ?)

ルイは、周辺一帯へと感覚を研ぎ澄まし、その違和感の正体を探ろうとする。

(――下水路の方に、誰か、居る気配がする!

逃走路としても、適当と言え……)

ルイは、眼下に見える水路の流れを、少しずつ目で追い――

「――居たっ!、そこな二人っ!、そんな所で何をしているのですっ!?」

――と、タマたちの姿を微かに視認し、急いで二人に向けて叫んだ。


「――なあに?、狐族さん。

アタシたちは、ココで待ち合わせをしてるんだけど?」

グングンと近付いて来るルイに、タマは、ブスッとした表情でそう答え、隣のギンも続いて頷く。

「待ち合わせ……ちょっと、不自然に過ぎる場所ではありませんか?

天警士団――七番隊長のルイと申します、少し、お話を聞かせてください」

タマたちに険しい表情を向け、ルイは役職込みの丁寧な名乗りを挙げて、二人に職務質問を求める。


(士団の七番隊長――よもや、謀反の中核のお出ましとはな)

ギンは、近付いて来る者の素性を察し、何時、戦闘になっても良い様に、弓を握る手に力を込める

「狼族の貴方、その私への殺気――何のつもりですかな?」

ギンの動きを、聡く感じ取ったルイは、ギンの弓を握る手を指差して彼を睨む。

「ふっ……見た目どおり、田舎者の狩人なのでな。

近付いて来るモノには、どうしても、な?」

適当な理由を付けて、疑いをやり過ごそうとしたギンは、不敵な笑みを見せて、敵意ではないと弓をぶらぶらと振るう。


「――ふぃ~っ!、よぉ、待たせたな……って、んっ?」

――と、そこに、水路の奥から飄々と現われたのは、この状況を知らずに姿を現した、ハヤトであった……


「あっ……」

「……あっ!」

その登場の仕方と、そのタイミングの悪さに、タマたちを始め、その場に居る者全てが、呆気に取られて固まった。


「――にっ!、二刀烈警!」

ハヤトの登場に、ルイたちは動揺しながらも的確に動き、ルイは後方へと下がり、得意の火の界気を両手に込め、手勢の数人は、ルイを守る様に前に出る。

「――ちっ!」

一方、ギンの舌打ちが合図となって、3人もギンが下がって後方で弓を構え、タマは最前線で無手の『型』を造り、ハヤトは、その直ぐ後ろで二刀揃って抜刀する。


ハヤトたちは、3人での戦闘は初めてのはずなのだが、阿吽の呼吸よろしく、実に堂に入った連携を見せている。


「ギン――なるべく早く、"とんずら"を決め込みてぇ。

おめぇの弓で牽制して、何とかやり過ごせねぇか?」

ハヤトは、小声でそう言い、焦りの色を滲ませる。

「……どうした?、やり合えない相手や数ではないぞ?

俺たちに、"一暴れ"を望んだ、アンタのセリフとは思えんな?」

「そうそう――それに、連れ出すって言ってた、オッサンのカノジョはどうしたのさ?」

ギンの応答に加え、タマは想定外なハヤト一人での帰還を、訝しげに思って尋ねた。


「へっ!、隊長格を前にして、"やり合えねぇ相手じゃねぇ"とは――俺は、とんでもねぇ奴らを誘ったみてぇだな♪

状況と目的が、大きく変わっちまってな……それに関しても、ちゃんと話てぇからの"とんずら"だ――頼む」


ハヤトの願いと同時に、二人は無言のまま、ギンは弓に矢を番え始め、タマはルイの手勢に向かって駆け出すっ!


「!!!!、ぐほぉ――っ?!」

タマのボディーブローが、手勢の一人に見事に決まり、その手勢がうつ伏せに倒れ込む所に、ルイの火球が間髪入れず、タマへと向かって飛んでくるっ!

「!?」

「――タマぁ!、伏せろっ!」

不意に迫る火球に対し、反応が遅れたタマは、思わず動きが止まったが……ギンの声に反応して、サッと伏せると、白く光る風の界気を纏わせた矢を放ち、火球を相殺した!

「くっ!、やるぅっ!?」

ルイが悔しげに舌を鳴らし、火球の煙が掃われた後の眼前には――既に、3人の姿は無かった。

「ちいっ!、まだ近くに居るはずっ!、なんとしても探し出すのですっ!」

ルイは、苛烈な下知を振るい、手勢たちに逃げられた3人を追わせた。




「?!、オッサンのカノジョ――自殺、しちゃったの?」

逃走の最中――ハヤトから聞かされた潜入の顛末に、タマは哀れむ眼差しを、ハヤトの横顔へ向ける。

「ああ、俺が来たおかげで、逆に決心が着いたなんて言ってよ……へへっ、助け出すどころか――トンだ死神だったな、俺は」

ハヤトは、悔いと悲しみが混じる複雑な表情を見せた後、彼らしい不敵なな笑みも覗かせて、二人にそう話した。


「助け出す相手が亡くなっては、それを援護するつもりの俺たちはお役御免――というコトか」

並んで駆けながらギンは、自分の顎に手を当てて渋い顔をする。

「いんや、別口で――アンタらに頼みてぇコトが出来た」

ハヤトは、そんな前口を打ちながら、懐をまさぐり――

「これを――ツツキに向かってるっていう、"大神官の嬢ちゃん"に渡して欲しいってのが、アイツの最後の望みなんでな」

――ユリから託された、紫珠輪を二人に見せた。


そう――ユリが撰んだ、紫珠輪の継承者……つまり、"次の大巫女"に指名されたのは、シオリなのである!


「その大神官の嬢ちゃんは今、アンタらが探してる、刀聖サマと一緒に居るってんだろ?

だから――よっ!」

――と、ハヤトは紫珠輪と花押の印象、そして、一通の封筒をタマたちに投げ渡し、急に踵を返して立ち止まる。


「追っ手はっ!、このオッサンが引き受けっからよっ!、刀聖んトコに行く"ついでに"渡してやってくれやっ!」

ハヤトは、抜刀しながらそう言うと、先ん出た二人に目掛けて片手を挙げ、ニヤッとまた不敵な笑みを見せた。


「え~~~~~っ?!、カノジョの頼みを、アタシたちに丸投げしちゃうのぉ~~~っ?」

タマは半身で振り向き、呆れた素振りで顔をしかめ――

「良いのか?、故人の頼みは――"お前に"という事なのだろう?」

――と、ギンも冷静にそう諌めて、表情を曇らせた。


謀反一派あいつらが、血眼になって探してるのは俺で……その俺が、紫珠輪そいつを持ってると思ってるはずだ――てぇこたぁ、俺は囮に最適で、紫珠輪そいつを誰かに任せた方が得策だろ?」

ハヤトは、遠目に追っ手を視認し、二刀の刃を返してニヤッと笑う。


「いっ!、居たぞっ!、二刀烈警だぁっ!」

ハヤトが思惑を説明している間に、彼の姿を視認した追っ手が、ワラワラと一団になって近付いて来る。

「――さあ、行けぇっ!!!、刀聖サマと大神官によろしくなぁっ!」

ハヤトは、振り向かないままそう叫んで、追っ手の一団へと突撃した!


戦闘へと突入するハヤトの後ろ姿を、頼みへの返答をする合間も無く見送った、タマとギンは――

「――ギン!」

「ああっ!」

――渡された物を懐に仕舞い込み、頷き合って駆け出した。
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