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ヨクネ峠決死戦
ヨクネ峠決死戦
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「――全軍っ!、突撃ぃぃぃぃぃっ!」
――ワアァァァァァァァァァッ!!!!!!
「弓隊!、界気隊――!、放てぇぇぇぇぇっ!!!!!」
峠道を駆け上がって来る皇軍に、砦やその後方に陣取った南コクエ軍が遠距離から射掛ける展開で"ヨクネ峠攻防戦"の火蓋は切られた。
開戦当初、勢いに富んだ戦ぶり見せたのは――皇軍第一軍将、エリカが率いる部隊であった。
「皇様の御身を守る、一軍が武勇っ!、特と、南コクエが蛮兵にっ!!、見せつけてくれようぞぉっ!!!」
エリカの部隊は、迫る南コクエ軍から放たれた、矢や界気の雨霰に怯まず、猛然と峠道を駆け上がった。
「――へぇ?、皇軍と言えば、竹刀稽古ばかりの烏合の衆だなんて評判だったモンだが、ちゃんと肝の据わった連中も居るんじゃないかい!」
最前線で、射ち漏らした分の皇軍兵を迎え撃とうと待機しているスズは、エリカの奮戦を見やって、ペロッと舌なめずりをする。
「――姐さん、そろそろ出撃かい?
想定より、向こうの士気が高い――接敵の開始は早まりそうだ」
スズの副官――的な存在として、彼女の隣に居る猫族の女――シロは、冷静な面持ちで、そうスズに助言する。
「いや、まだだね。
アタシたちの仕事は、最前線での足止めだから……突っ込んでくる奴を待ってりゃ良い」
猛然と峠を駆け上がって来るエリカの姿を見据え、スズはそう注意して、逸るシロを制する。
「それにしても――随分と当たらない、"ヒョロヒョロ矢"ばっかだねぇ……
コッチの射手は、ちゃんと狙ってんのかい!」
――と、スズは、無数に射掛けられている割に、怯まずドンドン峠を上がって来る皇軍の勢いに、顔をしかめ、ヘタさが丸解りな、南コクエ側の弓矢隊を一瞥する。
「呆れるぐらい、錬度に乏しいからね……南コクの兵ってのは。
侍を常在させてねぇ国ってのも驚きだったが……この練度の低さには、輪を掛けて驚いたよ」
シロも、鼻で笑って射手たちを見やり、皮肉を込めた口調で南黒柄の方針を揶揄した。
表現上の便宜として『南コクエ軍』とは表記をしているが……正確には、かの国に"軍"と呼べる組織は、公式には存在していない。
『?』マークが付く文章ではあるが――解り易く言えば、戦う事や警備する事を、"専門に"担う者や組織が無いという意味だ。
南コクエが掲げる『共営社会』――それにおいては、社会運営上に欠かせない"苦渋な労役"は、各々皆々で分かち合い、その辛さを"平等に負担し合うべき"であると定められている。
その"苦渋な労役の極み"と言える、軍事に関わる労務には――厳格に定められた規準や規定の下、徴兵制が取られており、その徴用人数は、平時は少なく、有事の時は多く――と、時勢に因って大きく異なる。
つまり――南コクエでは、全ての民が事実上"強制的に"、常に予備役の義務を課せられている事となる。
その"有事"である、今回の侵攻に参戦しているのは……ほとんどが、有事で無ければ徴用されなかった様な、武器を持つ経験も必要も無い、農民や商人の類ばかり。
決められた訓練こそは施されているが、ハッキリ言って――"素人の集まり"でしかないのだ。
――さりとて、そんな連中なのに、士気だけはやたらと高く、正しくは南コクエ国民"ではない"、その共営思想に感化され、砦の簒奪に及ぶ民兵などが現れるのは、"平和と平等"という、人々が描く社会の"理想"を、徹底的に追求した、皆同志七人衆の考え方が――ある種の"媚薬"や"麻薬"の様に、香しく人々の心を魅了しているからであると言える。
「ところで――シロ?
本当に、タマは敵に加わってはいなかったんだね?」
スズは、エリカの周りにも目をやり、彼女の直衛の姿を見渡しながら、シロにタマの参戦の有無を確認する。
「ああ――物見をした限りじゃ、タマの姿は無かった。
オマケに……あのカオリっていう八傑の女も、都に温存してるナメっぷりさね!」
シロは、尋ねへの返答に加えて、コウオウ最強の勇士であるはずのカオリが、この場に参戦していない事への不満も口にした。
「なんだい姐さん?
流石に……愛娘が敵側に居たんじゃ、調子が狂っちまうかい?」
――と、急にタマの事を口にしたスズに、シロは茶化す口調でそう尋ねた。
「へっ!、まさかだよっ!
あの子だってもう、修行中の身の上とはいえ、立派なコケツの傭兵――互いの請けた仕事に因っちゃあ、親娘でも堂々と殺し合うのが、ウチの掟だよ?
気にしたのは――あの勇ましく突っ込んで来てる女侍の後ろや周りに、あの娘ぐらいに戦える奴が居たなら、少々面倒になるかもって思っただけさ」
スズは鼻を鳴らしてそう返し、傭兵としての覚悟を説く。
「まっ、ウチの姐さんには、そんな心配は無用だとは思ってけどさ。
逆に……居ない事の方がガッカリなんじゃないかい?、面倒っていうより――タマが居りゃあ、グンと張り合いがある戦になって、戦い甲斐があるのにってさ?」
シロはまた茶化す様に、ニヤッと笑ってスズに笑みを見せる。
「へへ、違いないねぇ♪
ただでさえ、アタシが出来なかった八傑入りをしたっていう、皇軍の小娘とはやり合えなくなったからねぇ……つまらねぇ戦になりそうだよ」
スズは短槍を担ぎ、面を並べているシロを始めとした、仲間の面々を見渡す。
眼前には――駆け上がって来るエリカの部隊が、接敵を前に、改めて武器を構え直し、突撃して来ている!
スズは、この緊迫勘ある様にも、また、楽しげにニヤッと笑った。
「――さぁてぇっ!、みんなぁっ!!、出撃よぉっ!
アタシにぃ――続きなぁっ!!!!!」
そう、スズは号令と共に、先頭に立って駆け出し、迫るエリカの部隊に襲いかかった!
「たっ!、短槍の猫族だとぉ!?、もしや……"コケツのスズ"かぁっ?!」
目の前に姿を現したスズの姿を見て、エリカは、驚愕を込めた口調でスズに名乗りを求める。
「ああ!、そうだよっ!、威勢の良い女侍!」
スズは、武士風の名乗りを挙げるのではなく、認める形で自分の素性を明かした。
スズの最前線での登場に、エリカは一気に表情を曇らせ――
(タマ嬢の御母上――大将暗殺の任、だけではなかったという事か……
ふっ!、カオリをオウクに残したのは、トンだ失敗だったわね……我ら程度では、"短槍の美少女"とは勝負にならないもの――ならばっ!、せめて一矢報い、この聖なる皇領が土の上で、雄々しく堂々と果てようではないかっ!)
――と、直ぐに今度は、諦めと達観の意思が滲む表情へと変えて、スズに笑みを向けた。
(こいつ――っ!、死ぬ覚悟を決めたヤツの目に変わった!
厄介……いや!、面白いじゃないかいっ!)
エリカの微笑を見て、スズは彼女の内心を察して、同じく笑みで応じ――
「――さあっ!、まずは二人で、死合おうじゃないかっ!」
――と、短槍の鞘を側へと投げ捨て、そのままエリカの方へ突進する!
「――承知ぃっ!
我はっ!、皇軍第一軍将がエリカぁっ!、稀代の女傑と、戦場にてまみえられるは、女性が武人の端くれとして、至上の誉れなりっ!、いっ!、ざぁぁぁっ!」
エリカも、他には目もくれず、高らかに名乗りを挙げて刀を振り上げたっ!
エリカとスズの激突に端を発した、このコケツ衆による迎撃が、戦場の"空気"を変えた。
エリカの部隊を初めとした、後方からの射掛けの雨を抜けて来た皇軍の列挙を、コケツ衆は飲み込む体で戦場を蹂躙――脆くも、皇軍の前線は瞬く間に崩れ始めた。
「むうっ!、流石はコケツ衆――と言ったトコロか……」
その様を、後方から見渡すヨシミツは、コケツ衆に押し返され、完全に袋のネズミと化して、矢や界気の攻撃を浴びている、皇軍の惨状を観て思わずそう唸った。
「!?、むっ!、むふぅぅぅぅっ!!!」
スズの短槍が――エリカの胸に突き刺さり、そこから、夥しい鮮血が流れ堕ちる。
「"竹刀稽古ばかりの烏合の衆"ってのは、ホントに改めるべきだね。
腕も悪くは無いし、戦への覚悟も上等――大したモンだよ」
スズは、そんな言葉を呟きながら、短槍を刺し進め、エリカの胸を抉る。
「ふっ!、ふふふふ……コケツがスズとまみえ、腕を、誉められるわぁ……良い、冥土への、土産っ、にぃ……」
エリカは、血だらけの顔を綻ばせ、峠道の土の上で果てた。
スズが、エリカの身体から短槍を抜き、辺りの戦況に目を向けると――
「――おらぁっ!」
――遠くに見える、敵陣の奥の方で、シロが馬上の武者に斬撃を見舞って、鞍上から引き摺り下ろす光景が見えた。
「――ぬぉぉぉぉぉっ!、まだだっ!、まだ、我らは……」
引き摺り下ろされた武者――先程、突撃の下知を呼ばわっていた、大将代理であるトシイエは、すぐさま立ち上がって抜刀し、シロへと勇猛に斬りかかる。
「――るせぇっ!、くたばりなよぉっ!」
シロは、更に強烈な斬撃を、トシイエに袈裟懸けで浴びせるっ!
「――ぐぉうっ……!」、
続けて――今度は、その切り口を貫き、シロは傷口を拡げてやる。
「むっ!、ほうぁ……」
トシイエはふらふらと後退するが、鋭い眼光をシロに向けたまま――
「――なっ、ならぬぅ……わ、れらはぁ!、負け、てはぁ、ならぬの……じゃあっ!
皇国、の行く、末ぇとぉ、皇、様のぉ……御身はぁ、我らの、双、肩にぃ……」
トシイエは、そこまで言って、そのままうつ伏せに倒れ込み――絶命した。
その様を視認したスズは、短槍を頭上に掲げ――
「もうっ!、将倒れ、戦の大勢は決したぁっ!
諦めた奴はっ!、その場に座ってんなら、命は獲らないよぉ!」
――と、降伏勧告を呼ばわりながら、激戦の中を駆け出した。
その勧告の後も――矛を退き、降るコウオウの兵は僅かしか現われず、戦は数時間に亘って続いた。
完全に決した時には――夥しい数のコウオウ兵を中心とした遺体が、峠道を満足には下りれなくなる程に満ちていたという……
こうして、"ヨクネ峠攻防戦"――いや、後には"ヨクネ峠決死戦"とも揶揄される事となる、この合戦は南コクエ軍の勝利と終わった。
その五日後、皇――サトコは、宣戦を布告して来たコクエ共生共和国に対し、事実上の全面降伏を受諾する旨を、占報を用いて、ツクモ中に伝える事となる――
――ワアァァァァァァァァァッ!!!!!!
「弓隊!、界気隊――!、放てぇぇぇぇぇっ!!!!!」
峠道を駆け上がって来る皇軍に、砦やその後方に陣取った南コクエ軍が遠距離から射掛ける展開で"ヨクネ峠攻防戦"の火蓋は切られた。
開戦当初、勢いに富んだ戦ぶり見せたのは――皇軍第一軍将、エリカが率いる部隊であった。
「皇様の御身を守る、一軍が武勇っ!、特と、南コクエが蛮兵にっ!!、見せつけてくれようぞぉっ!!!」
エリカの部隊は、迫る南コクエ軍から放たれた、矢や界気の雨霰に怯まず、猛然と峠道を駆け上がった。
「――へぇ?、皇軍と言えば、竹刀稽古ばかりの烏合の衆だなんて評判だったモンだが、ちゃんと肝の据わった連中も居るんじゃないかい!」
最前線で、射ち漏らした分の皇軍兵を迎え撃とうと待機しているスズは、エリカの奮戦を見やって、ペロッと舌なめずりをする。
「――姐さん、そろそろ出撃かい?
想定より、向こうの士気が高い――接敵の開始は早まりそうだ」
スズの副官――的な存在として、彼女の隣に居る猫族の女――シロは、冷静な面持ちで、そうスズに助言する。
「いや、まだだね。
アタシたちの仕事は、最前線での足止めだから……突っ込んでくる奴を待ってりゃ良い」
猛然と峠を駆け上がって来るエリカの姿を見据え、スズはそう注意して、逸るシロを制する。
「それにしても――随分と当たらない、"ヒョロヒョロ矢"ばっかだねぇ……
コッチの射手は、ちゃんと狙ってんのかい!」
――と、スズは、無数に射掛けられている割に、怯まずドンドン峠を上がって来る皇軍の勢いに、顔をしかめ、ヘタさが丸解りな、南コクエ側の弓矢隊を一瞥する。
「呆れるぐらい、錬度に乏しいからね……南コクの兵ってのは。
侍を常在させてねぇ国ってのも驚きだったが……この練度の低さには、輪を掛けて驚いたよ」
シロも、鼻で笑って射手たちを見やり、皮肉を込めた口調で南黒柄の方針を揶揄した。
表現上の便宜として『南コクエ軍』とは表記をしているが……正確には、かの国に"軍"と呼べる組織は、公式には存在していない。
『?』マークが付く文章ではあるが――解り易く言えば、戦う事や警備する事を、"専門に"担う者や組織が無いという意味だ。
南コクエが掲げる『共営社会』――それにおいては、社会運営上に欠かせない"苦渋な労役"は、各々皆々で分かち合い、その辛さを"平等に負担し合うべき"であると定められている。
その"苦渋な労役の極み"と言える、軍事に関わる労務には――厳格に定められた規準や規定の下、徴兵制が取られており、その徴用人数は、平時は少なく、有事の時は多く――と、時勢に因って大きく異なる。
つまり――南コクエでは、全ての民が事実上"強制的に"、常に予備役の義務を課せられている事となる。
その"有事"である、今回の侵攻に参戦しているのは……ほとんどが、有事で無ければ徴用されなかった様な、武器を持つ経験も必要も無い、農民や商人の類ばかり。
決められた訓練こそは施されているが、ハッキリ言って――"素人の集まり"でしかないのだ。
――さりとて、そんな連中なのに、士気だけはやたらと高く、正しくは南コクエ国民"ではない"、その共営思想に感化され、砦の簒奪に及ぶ民兵などが現れるのは、"平和と平等"という、人々が描く社会の"理想"を、徹底的に追求した、皆同志七人衆の考え方が――ある種の"媚薬"や"麻薬"の様に、香しく人々の心を魅了しているからであると言える。
「ところで――シロ?
本当に、タマは敵に加わってはいなかったんだね?」
スズは、エリカの周りにも目をやり、彼女の直衛の姿を見渡しながら、シロにタマの参戦の有無を確認する。
「ああ――物見をした限りじゃ、タマの姿は無かった。
オマケに……あのカオリっていう八傑の女も、都に温存してるナメっぷりさね!」
シロは、尋ねへの返答に加えて、コウオウ最強の勇士であるはずのカオリが、この場に参戦していない事への不満も口にした。
「なんだい姐さん?
流石に……愛娘が敵側に居たんじゃ、調子が狂っちまうかい?」
――と、急にタマの事を口にしたスズに、シロは茶化す口調でそう尋ねた。
「へっ!、まさかだよっ!
あの子だってもう、修行中の身の上とはいえ、立派なコケツの傭兵――互いの請けた仕事に因っちゃあ、親娘でも堂々と殺し合うのが、ウチの掟だよ?
気にしたのは――あの勇ましく突っ込んで来てる女侍の後ろや周りに、あの娘ぐらいに戦える奴が居たなら、少々面倒になるかもって思っただけさ」
スズは鼻を鳴らしてそう返し、傭兵としての覚悟を説く。
「まっ、ウチの姐さんには、そんな心配は無用だとは思ってけどさ。
逆に……居ない事の方がガッカリなんじゃないかい?、面倒っていうより――タマが居りゃあ、グンと張り合いがある戦になって、戦い甲斐があるのにってさ?」
シロはまた茶化す様に、ニヤッと笑ってスズに笑みを見せる。
「へへ、違いないねぇ♪
ただでさえ、アタシが出来なかった八傑入りをしたっていう、皇軍の小娘とはやり合えなくなったからねぇ……つまらねぇ戦になりそうだよ」
スズは短槍を担ぎ、面を並べているシロを始めとした、仲間の面々を見渡す。
眼前には――駆け上がって来るエリカの部隊が、接敵を前に、改めて武器を構え直し、突撃して来ている!
スズは、この緊迫勘ある様にも、また、楽しげにニヤッと笑った。
「――さぁてぇっ!、みんなぁっ!!、出撃よぉっ!
アタシにぃ――続きなぁっ!!!!!」
そう、スズは号令と共に、先頭に立って駆け出し、迫るエリカの部隊に襲いかかった!
「たっ!、短槍の猫族だとぉ!?、もしや……"コケツのスズ"かぁっ?!」
目の前に姿を現したスズの姿を見て、エリカは、驚愕を込めた口調でスズに名乗りを求める。
「ああ!、そうだよっ!、威勢の良い女侍!」
スズは、武士風の名乗りを挙げるのではなく、認める形で自分の素性を明かした。
スズの最前線での登場に、エリカは一気に表情を曇らせ――
(タマ嬢の御母上――大将暗殺の任、だけではなかったという事か……
ふっ!、カオリをオウクに残したのは、トンだ失敗だったわね……我ら程度では、"短槍の美少女"とは勝負にならないもの――ならばっ!、せめて一矢報い、この聖なる皇領が土の上で、雄々しく堂々と果てようではないかっ!)
――と、直ぐに今度は、諦めと達観の意思が滲む表情へと変えて、スズに笑みを向けた。
(こいつ――っ!、死ぬ覚悟を決めたヤツの目に変わった!
厄介……いや!、面白いじゃないかいっ!)
エリカの微笑を見て、スズは彼女の内心を察して、同じく笑みで応じ――
「――さあっ!、まずは二人で、死合おうじゃないかっ!」
――と、短槍の鞘を側へと投げ捨て、そのままエリカの方へ突進する!
「――承知ぃっ!
我はっ!、皇軍第一軍将がエリカぁっ!、稀代の女傑と、戦場にてまみえられるは、女性が武人の端くれとして、至上の誉れなりっ!、いっ!、ざぁぁぁっ!」
エリカも、他には目もくれず、高らかに名乗りを挙げて刀を振り上げたっ!
エリカとスズの激突に端を発した、このコケツ衆による迎撃が、戦場の"空気"を変えた。
エリカの部隊を初めとした、後方からの射掛けの雨を抜けて来た皇軍の列挙を、コケツ衆は飲み込む体で戦場を蹂躙――脆くも、皇軍の前線は瞬く間に崩れ始めた。
「むうっ!、流石はコケツ衆――と言ったトコロか……」
その様を、後方から見渡すヨシミツは、コケツ衆に押し返され、完全に袋のネズミと化して、矢や界気の攻撃を浴びている、皇軍の惨状を観て思わずそう唸った。
「!?、むっ!、むふぅぅぅぅっ!!!」
スズの短槍が――エリカの胸に突き刺さり、そこから、夥しい鮮血が流れ堕ちる。
「"竹刀稽古ばかりの烏合の衆"ってのは、ホントに改めるべきだね。
腕も悪くは無いし、戦への覚悟も上等――大したモンだよ」
スズは、そんな言葉を呟きながら、短槍を刺し進め、エリカの胸を抉る。
「ふっ!、ふふふふ……コケツがスズとまみえ、腕を、誉められるわぁ……良い、冥土への、土産っ、にぃ……」
エリカは、血だらけの顔を綻ばせ、峠道の土の上で果てた。
スズが、エリカの身体から短槍を抜き、辺りの戦況に目を向けると――
「――おらぁっ!」
――遠くに見える、敵陣の奥の方で、シロが馬上の武者に斬撃を見舞って、鞍上から引き摺り下ろす光景が見えた。
「――ぬぉぉぉぉぉっ!、まだだっ!、まだ、我らは……」
引き摺り下ろされた武者――先程、突撃の下知を呼ばわっていた、大将代理であるトシイエは、すぐさま立ち上がって抜刀し、シロへと勇猛に斬りかかる。
「――るせぇっ!、くたばりなよぉっ!」
シロは、更に強烈な斬撃を、トシイエに袈裟懸けで浴びせるっ!
「――ぐぉうっ……!」、
続けて――今度は、その切り口を貫き、シロは傷口を拡げてやる。
「むっ!、ほうぁ……」
トシイエはふらふらと後退するが、鋭い眼光をシロに向けたまま――
「――なっ、ならぬぅ……わ、れらはぁ!、負け、てはぁ、ならぬの……じゃあっ!
皇国、の行く、末ぇとぉ、皇、様のぉ……御身はぁ、我らの、双、肩にぃ……」
トシイエは、そこまで言って、そのままうつ伏せに倒れ込み――絶命した。
その様を視認したスズは、短槍を頭上に掲げ――
「もうっ!、将倒れ、戦の大勢は決したぁっ!
諦めた奴はっ!、その場に座ってんなら、命は獲らないよぉ!」
――と、降伏勧告を呼ばわりながら、激戦の中を駆け出した。
その勧告の後も――矛を退き、降るコウオウの兵は僅かしか現われず、戦は数時間に亘って続いた。
完全に決した時には――夥しい数のコウオウ兵を中心とした遺体が、峠道を満足には下りれなくなる程に満ちていたという……
こうして、"ヨクネ峠攻防戦"――いや、後には"ヨクネ峠決死戦"とも揶揄される事となる、この合戦は南コクエ軍の勝利と終わった。
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ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
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