流れ者のソウタ

緋野 真人

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継承

継承(後編)

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「本当に――良いのですね?」

「……はい」

「――全部、見られてしまう……かもしれないのですよ?」

「かっ!、構いませんっ!」

 裸をソウタに晒す決意をしたシオリに、しつこいぐらいにアヤコは何度も意思を確認する。


 継承者――いや、"契約者"の生死が最も重要な要素である紫珠輪は、首にはめて契約する際、その者の首の血管から心臓へと、生死を判別するためのセンサーの様な種子を埋め込むのだ。

 それが無事、成ったかどうかを判断するため、紫珠輪の継承には全裸――正確には、上半裸が見える状態で挑むのが通例である。

 ――とはいえ、パンツやスカートなどの洋装が無く、和服よろしく、総じてワンピース状のモノを強いられるこのツクモでは、否応なしに全裸と等しい姿を晒す事になるのだ。


「そうですか――少し、意外です。

 清廉で潔癖な印象を持っていたので、もっと、躊躇うと思っていたのですが」

 シオリのすんなりとした合意にアヤコは、拍子抜けした体で頷いた。

「では、脱ぎましょうか――手伝います」

 アヤコはそう言って、シオリの着物の帯に手を伸ばす。


 ――シュルッ、シュルシュルシュル……


 ――帯が解かれ、その生地が擦れる音が、部屋中に響く。


「くぅ……」

 ――と、二人には背を向けて、その音に耳を欹てているソウタは、苦しそうに謎の呻きを挙げる。

「あらあらぁ~?、随分苦しそうねぇ……大丈夫かしら?」

「だっ!、大丈夫っスよ!、気にしないでっ!」

 チヨのわざとらしいツッコミに、ソウタは眉間にシワを寄せて嫌な顔をした。


「ふふ♪、こうして……裸身を晒す決意を後押ししたのは、大任を担う責任感かしら?

 それとも――"見られても構わない"と思える、秘めた恋心かしら?」

「――えっ!?、」

 どんどんと剥かれて行くシオリの側で、アヤコはその潔さを感服する様にそう尋ねると、シオリは驚いて硬直する。

「ふふ♪、戯れた独り言です――さて、終わりました。

 ソウタ、振り向いても構いませんよ?」

 丁度、シオリの脱衣が済んだトコロで、アヤコは話を切り、ソウタに準備が整った事を告げた。


「はっ!、はいぃぃっ!」

 ソウタは、震えた奇妙な声で応じ、振り向くと彼は、驚きのあまりに思わず息を呑んだ。


 その、眼前に現われたのは、一糸すら纏わぬシオリの裸身。

 その姿は、まるで絵画や彫刻で表される、女神の類の様な完璧なフォルムだった。


「あっ……」

 驚いた表情で自分の裸身に見入っている、ソウタの真っ直ぐな視線に――シオリは、羞恥を覚えて身を捩り、手や垂れ下がる自分の長い黒髪を用いて、どうにか隠そうともがいて見せる。

「これっ!、女人の裸身は、まじまじと眺めるべきモノではありませんよ?」

 その様子を見やり、アヤコは顔をしかめて、ソウタの姿勢を叱る。

「はっ!、すっ!、すいませんっ!」

 ソウタは、慌てて目線を逸らし、恥かしそうに顔を赤らめる。


「さあ――シオリ、紫珠輪を首にはめてください。

 ソウタ……私たちは、彼女の後ろへと回りますよ」

 そのアヤコの指示通り、シオリは紫珠輪を首にはめ、アヤコとソウタは彼女の背後に立つ。


(うわぁ……)

 シオリの背後に立ったソウタは、彼女のうなじから背中――そして、尻に至る完璧なラインに目を奪われ、また息を呑んだ。


「では、この紫珠輪の後方部分にある、二つの宝玉に神具を近付けますよ」

 アヤコはそう言うと、おもむろに懐から白い勾玉――『白半玉』がトップに付いたペンダントを取り出し、紫珠輪の宝玉へと近付ける。


 すると、宝玉の一つが淡く光り出し、キィィィィィンッと、小刻みに震える様な音が鳴る。

 ソウタも、それに準じて、光刃の柄を宝玉へと近付けると、もう片方の宝玉が同じく淡く光り、震える様な音を鳴らす。


「さぁ、始まりますよぉ~♪」

 チヨが、嬉しそうに呟くと同時に、シオリが首にはめた紫珠輪から、歯車が噛み合う様な音が発せられ始めると――彼女は急に悶え始め、苦しそうに喘ぎ出した。

 これは、紫珠輪が契約の証として、彼女の首の血管へと挿入した、契約者の生死を判別するセンサーの役割を果たす種子状の生態装置が、血管内を蠢く痛みからのモノである。

 シオリは、その痛みに30秒ほど悶え喘ぎ――

「――はぁ、はぁ……」

 ――興奮気味に息を荒げ、顔は熱でも催した火照った様で、苦しそうに俯いていた。


 その30秒ほどの様子は――幾分、表現が憚られる様子であったため、彼女の尊厳も考慮すれば、こうして割愛するのが妥当であった。

 シオリは、徐々に痛みが和らぎ、どうにか呼吸を整える程となったのと同時に、彼女はそんな姿を晒した恥かしさに負け、今は酷く落胆している……


「――うん、しっかりと紫珠輪の刻印が浮き出ていますね、継承は成功です」

 アヤコは、シオリの心臓の位置に浮き出た、筆文字状の痣を見やって一つ頷いた。

「ソウタ、ほら、あなたも見なさい。

 刻印を確認するまでが、承認者の責務ですよ?」

 更にアヤコは、その刻印を指差して示したまま、ソウタにも確認を迫る。

「ええっ!?、でっ、でもぉ……これ以上、男の俺が見るのはぁ……

 アヤコ様が確認したんだから、それで良いでしょ?」

 ソウタは、羞恥から落胆しているシオリの気持ちを慮り、刻印の確認を躊躇する。

「なっ、成りません!

 かっ、覚悟を決めて、裸身すべてを晒したのですから、私の羞恥への忖度は、もはや無用にございます!」

 ――と、確認を即したのはシオリ本人。

 彼女はなんと!、ズイッとソウタの側へと身を寄せ、縋る様に潤んだ瞳を彼に向けた。

「はっ!、はいっ!、ちゃんと確認しますっ!、しますからっ!」

 ソウタはシオリの勢いに気圧され、顔面を真っ赤に染めながら、裸の彼女の胸を凝視する。


「チヨ先生――こうして、継承の儀に参じてみて思ったのですが……首筋の紫珠輪に神具を近付ける事と、胸元の刻印を確認するだけなら、少し肌蹴させるだけで、事は成るのではありませんか?」

 アヤコは、チヨの隣へと寄り添うと怪訝な表情で、裸身を晒しているシオリと、恥ずかしがりながらそれを確認をしている、ソウタの姿を見やり、チヨへそう尋ねた。

「あら?、気付いてしまいました?

 そうなんですよぉ~♪、それで済むはずなのに、何時の間にか、こーいう慣例になっていたのよねぇ……」

 チヨは、わざとらしく微笑むと、顎に人差し指を当てて首を捻って見せた。

「皇様こそは、必ず女性ですが――三大国守は、殿方だった例の方が多いはず。

 ですからきっと、良く見えないとか、難癖を付けて……全て脱ぐ慣例としたのでは?」

「あら?、それにも気付きました?

 うふふ♪、男というのは、どこの世界でも、何時の時代でも、助平だというコトよ♪」

 アヤコの鋭い指摘に、これにもチヨは楽しげに認めて、ニヤッと笑う。


「ええっ!?、そっ!、それでは私の覚悟はぁ……」

 二人の会話が聞こえたシオリは、呆気に取られて立ち竦み、泣きそうな顔をする。

「うふふ♪、まあ、良いではありませんか♪

 継承失敗となれば、儀を請けた者の命に関わるのですから――裸身を晒した上で儀を行うのは、決して間違った行為でもないのですし♪」

「さあ、見せているのが恥かしいのなら、早く纏いなさい。

 もう、儀式は済んだのですから」

 チヨは、安全面での慣例の重要さを説き、アヤコは床に無造作に置いていたシオリの着物一式を指差して、それを着る事をシオリに促す。

「はっ、はい」

 シオリは、その一式を抱え、部屋の隅へと移る途中――

「――ソウタ様」

 ――と、ソウタにか細い声を掛けた。

「えっ!?、あっ!、おっ、俺、向こう向きますね?、すっ!、すいませんっ!」

 突然のシオリからの声掛けに、一連の儀式に狼狽しっぱなしなソウタは、混乱気味に目を逸らす。

「――いえ、その……わっ!、忘れてくださいね?、いっ、今の私の醜態は……」

 シオリは、頬を赤く染めて俯き、背中合わせに立つソウタに、一連の次第の忘却を願う。

 その願いを聞いたソウタは、壁面を見上げ――

「……努力します」

 ――という、意味深な一言だけを返した。
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