流れ者のソウタ

緋野 真人

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継承

継承(前編)

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「光の刀"以外"の神具の継承には、二人の神具所持者――つまり、三大国の国守と皇、刀聖の五名の内、二人の立会いと承認が無ければ、行えない仕組みになってる――って事は、"神職の頂"に任じられてる大神官あなたなら、よくご存知でしょう?」

 廊下をしばらく歩き、もうすぐアヤコの私室という所で、ソウタは改めて、認識を確める体でシオリにそう尋ねた。


 ソウタの言うとおり、これからシオリに継がれようとしている、紫珠輪の継承を行うには――

 サトコ――皇が受け継ぐ『黄玉眼』

 アヤコ――『本来の』ハクキ国守が受け継ぐ『白半玉はくはんぎょく

 ノブタツ――スヨウ国守が受け継ぐ『朱縁鏡しゅえんきょう

 現在は、継承者も所在も不明である、旧コクエ国守が引き継いでいた『黒半玉こくはんぎょく

 そして、ソウタ――刀聖が受け継ぐ光の刀。

 正式な呼び名としては『邪滅大太刀じゃめつのおおたち』を持つ者の内、二人以上の承認と立会いが無ければ、継承は行えない。

 これは、紫珠輪のみにある制限で、その理由は――旧三大国の国守や皇の様に、血を用いての血統に因る継承者判別が出来ないため、紫珠輪を託すに相応しいかどうかの判断を、他の神具保持者に委ねるという仕組みである。


「――はい、勿論知っております。

 ですから、やらなければならないと仰ったのは、承認と立会いの事で……白半玉を今でもお持ちである、アヤコ様にもその旨を告げに向かっているのでしょう?」

 シオリは、神妙な面持ちで答え、ギュッと強く、繋いでいるソウタの手を握る。

「ですが――本来ならオウク、神言の間にて、神具所持者全員……あっ!、所在が不明な例がほとんどの刀聖様を除いて、皇様と国守様全員が、神言の封の中で立ち会うのが通例だと、書物で読んだのですが……この場合は?」

「俺に聞かないでよ。

 俺はその、"所在不明がほとんど"なヤツなんだし、アヤコ様に教わったハナシのうろ覚えで向かってるんですから」

 シオリの不安な問い掛けに、明確な答えを持たないソウタは、渋い顔をしてこめかみに冷や汗を垂らす。

「でも、そーいう細かいコトを、"全部ひっくり返せそうな人"も、丁度ココに来てますからね.

 まっ、何とかなるでしょ……」

「?」

 鼻頭を掻きながら、そう呟くソウタの言葉の意を解せないシオリが、首を傾げたトコロに――

「――うふ♪、それって、私のコトかしらぁ~♪」

 ――と、相変らず妖艶で不適な笑みを称えて、チヨが姿を現わした。

「本当に出ましたね……鉄則無視を出来る人が」

 ソウタは顔を引き攣らせ、睨みながらチヨに会釈をした。

「あらまぁ、人聞きの悪い……

 その鉄則を設けたのは、そもそも私――あら、"守"を敷いていない今は、この先を言ってはダメよね♪」

 チヨは、これもまた相変わらず、楽しげにそう呟くと、唇を隠してニヤッと笑う。

「あっ、あの刀聖様?、この方は……」

 チヨの不敵な態度に気圧されながら、シオリは不安そうに、ソウタへ疑問を投げる。

「この人はチヨさん――で、その正体は、アマノ――!?」

 ソウタが、そこまでを言い掛けると――

「――ですからぁ、その先は今、ココで言ってはダメですよ?」

 ――彼の顔の前に、チヨの人差し指が立てられ、彼女は不敵な笑顔のまま、そう言ってソウタを諌めた。





「テンラク様での謀反ことの仔細については、既に御傍アオイを通して、聞き及んでおります」

 私室に居たアヤコは、側に控えていたタマキを部屋から下げ、残ったソウタとシオリ――そして、チヨと自分だけとなった所で、悲痛な表情を浮べて話の口火を切った。

ツツキこちらと縁があるという、士団員様の訃報もあったとの事――クリ社を統べる大神官として、此度の次第は、真に遺憾に堪えません……」

 シオリはまず、スグルの戦死に対して遺憾の意を表し、アヤコに頭を下げた。

「いえ、彼とて、士団の門を叩いた時から、覚悟を持っていたはず―寧ろ、士団員としての任と本分を貫いた、立派な最後だったとも思えましょう」

 アヤコは目を瞑り、声を震わせながらそう応じると、その目尻から一筋の涙を溢した。

「――して、チヨ先生。

 よろしいですか?」

「うふ♪、ええ、良いですよぉ~♪」

 アヤコは涙を拭った後、チヨに目配せと何かを確認する声掛けをした。

「――大神官様、私室ここに訪れた理由は、ユリ様が亡くなられた事についてですね?」

 アヤコは、両手を組み合わせ、シオリの大きな瞳をジッと見据えながら、来訪の意図を尋ねた。

「はい、じっ、実は……」

 シオリは、緊張に満ちた面持ちで――

「――大巫女様より、ごっ!、御神具を……私に継がせるという旨の、書状を頂きまして……」

「!?」

 ユリの遺言が記された書状を差し出し、そこに書かれた内容の一部を吐露した。

「貴女が……そうですか」

 アヤコは、当初こそは驚いたが、納得した表情で頷くとそう呟いた。

「――ソウタ、あなたは書状を?」

「ええ、読ませていただきました。

 ユリ様御本人の指名ですし、『私も』神具保持者の一人として、異論はございません」

 ソウタは、アヤコの意を酌んで、質問よりも踏み込んだ内容の返しをした。

「……私は、そこまで尋ねたつもりでも、継承者としての賛否を表したつもりも無いのだけれど?」

表情かおを見りゃあ解りますよ。

 コトは、急を要するかと思います――グズグズしている場合ではないと思いますが?」

 困惑した表情で顔をしかめるアヤコに、ソウタは叱咤でもする様に、険しい表情で言葉を強めた。

「うふふ♪、アヤコ、これはソウタの勝ちね♪

 彼の言うトコロの、掟破りな私がココに出張って来ているという事が、急を要する最もな根拠ではありませんか?」

 少し、険悪な空気を醸した、二人の間に入る様に――チヨは、得意な不敵な笑顔を浮べながら、軍配を振るう体でソウタの方に手を挙げた。

「アヤコ様……この、チヨ様という御方は、一体……?」

 シオリは、更に強まったチヨへの疑念をあからさまに出し、あの不敵な笑顔を睨みながらアヤコに尋ねた。

「チヨ先生は――アマノツバサノオオカミ様が、自ら操っている生きた傀儡なのです」

「!?」


 ――

 ――――

 ――ソウタの時と同じく、チヨの衝撃的な正体を知ったシオリは――

「まっ!、萬神に仕えるクリ社が者としてぇっ!、これ以上の誉れと喜びはございませんっ!」

 ――と、敬謙な萬神道信者である彼女らしく、ソウタとは違って過剰なまでに平伏し、声を震わせながら言上を挙げた。


「うふ♪、解って貰えたのなら、それで良いのですよぉ~♪」

 チヨは、満足気にそう言うと、ソウタとアヤコの顔を凝視し――

「――それで?、"執行者と守護者の一人"が……このシオリを、"新たな先導者"として、承認するというコトで良いのですね?」

 ――と、二人の意思を問うた。

「ええ、白半玉預かる"守護者の一人"として――このシオリを、新たな先導者として承認致します」

「ああ、飛び切りの美女が先を導いてくれりゃあ、この世界の未来さきも、明るくて綺麗なモンになるだろうから、承認するぜ」

 アヤコは、畏まった言葉で卒なく、ソウタは、粗暴ではあっても、最大限の敬意と賞賛を返答として、シオリへの継承を認めた。

「うふ♪、解りました。

 私の模造品を使って、この部屋を"仮の神言の間"とし、私が自ら、新たな先導者に"真実"を伝えましょう」

 チヨは、そう言うと、タクトでも用いる様に指先を振るい、レプリカ紫珠輪が敷いた結界を強めた。

「では、シオリ。

 少し、大事な報せがあるので、私の側へ……」

「――はっ、はい……」

 アヤコが、神妙な面持ちで、そう言ってシオリを手招くと、彼女もそれに応じて一歩前に出る。

「――うっ!、ううんっ!

 ソウタ……貴方はちょっと、振り向いていなさい」

 シオリが側に寄った矢先に、アヤコはわざとらしい咳払いをして、ソウタを蝿でも追い払う様に顔を背けろと言う…

「いきなり何ですか?、アヤコ様。

 刀聖おれだって、継承の儀式には立ち会わなきゃダメなんでしょ?」

 ソウタは、アヤコの態度の意味が訳解からず、ムッとして抗議する。

「そっ、それはそうですが……まず、シオリに、"それ"を同意出来るかを尋ねないと……」

 アヤコは、モジモジと困った様にそう言うと、哀れみが滲む表情をシオリに向ける。

「どうされたのですか?

 紫珠輪を受け継ぐ大任と向き合う覚悟ならば、既に出来ております――気を病んで頂く必要はございません」

 シオリは、凛とした迷いの無い表情で、心配そうにしているアヤコに堂々と答える。

「でっ、では言いますが……紫珠輪の継承の儀を行うには、継承者に――はっ!、裸になって貰わなければならないのです!

 承認役に――"年頃の殿方"である、ソウタが居るという事を、果たして同意出来るのかと……」

「!?」

「――っ!?、!!!!!!!」

 頬を赤らめたアヤコの口から告げられた、衝撃の儀式次第に――ソウタは目を見張って驚き、シオリは驚天動地と言った様子で、瞳からは光が消え失せた。
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