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仁義
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「――さて、偉そうに宣言したものの……課題は山積みだね」
ソウタは、座椅子の背凭れに身を委ね、クバシ城の天井を見上げながら、大きく溜め息を吐いた。
翌日の正午――ソウタは昼食も兼ね、アヤコやシオリと席を同じくし、昨日刀聖の名において宣言した、シオリを正式な大巫女の座に着けるため、彼女をテンラクに帰還させる事と、そのための謀反一派への対処についての議論へと入っていた。
「ええ、しかも……これほど早期に、コウオウが南コクエに降伏する事態となるだなんて。
チヨ様の――いえ、かつての人々の懸念を知る者としては、更なる『目覚めた人々』の台頭までをも絡んでは、先導者がテンラク様に戻るだけでは、事が収まらなくなってしまいました」
シオリは、前に並ぶ膳から茶碗を取り、一口茶を啜った。
この日の午前――ツクモ中に、衝撃的な占報が発せられていた。
コウオウが……侵攻して来ている南コクエに対して、降伏を宣言するサトコの姿である。
『皆さん――私はここに、皇軍の皆に武装解除の皇命と、コクエ共生共和国軍に対しての降伏を宣言いたします……
我が国の皆さんには、敗戦という――堪えるに難い、苦難な憂き目を与えてしまう事となるでしょう。
ですが……現在、臣下公者がその苦難を極力和らげ様と、コクエ共生共和国との折衝に入り、私もその為なら、身命も厭わない覚悟で臨む思いです。
ですから、どうか――心静かに、この大事の末を見守ってください……』
――そう言ったサトコの瞳には、満々と湛えた涙が見え、それを溢さない様に堪えて言葉を紡ぐ、悲壮な彼女の思いが、界気鏡を通じて世界中を駆け巡っていた。
「――まあ、先にチヨさんから聞いていたとはいえ、こうなるまで放って置いた、自分の阿呆ぶりには呆れてる……」
天井を仰ぐソウタは、両目を手で覆って、小さく溜め息を吐いて押し黙り、微かに覗ける口元では、悔しげに歯を軋らせていた。
「皇軍敗退の報を、チヨ様から先に聞いておられていたと………お二人とも、新参の私にも早々に教えて頂けないのは、少々お人が悪うございます」
シオリは、情け無さそうにそう呟き、茶碗を茶托に置きながら苦笑する。
「――これ、守を敷いていないのですから、神言の秘密に関わる話はお止めなさい。
もうすぐ、ヒカリたちが膳を片付けに来ますよ?」
そう、アヤコが言い終えるかどうかという時に――
「――失礼致します、膳を下げてもよろしいでしょうか?」
――と、食事をしている部屋にヒカリの声が響いた。
「――構いませんよ、お入りなさい」
アヤコのその言葉を合図に、部屋に入って来たのは――ヒカリ、レン、ミユの三人。
三人は、給仕用の割烹着風の服を纏い、テキパキと膳を片付け始める。
「レン――ヒカリの手伝いをしているのか?」
「はい、お世話になっているだけでは、心苦しいので……」
自分の膳に手を掛けたレンに、ソウタは現われた理由を尋ねた。
「貴女とユキは、言わばオリエさんからの預かり物なのですから、気にせずにと言ったのですがね。
手伝わせて欲しいと、退かないそうです」
「今日の炊きつけは、レンちゃんのお手製だよ♪、お料理上手で、私たちもビックリ!」
二人の会話を聞きとめたアヤコは、レンが給仕に加わる経緯を話し、そのアヤコの膳を片付けているヒカリは、レンの料理の腕を褒めた。
「――ミユ、あなたも……」
「はい、身体を動かしていた方が気が紛れますし、一ヶ月ぶりに大神官様のお世話がしたいと、ヒカリさんに頼み込んだのです」
ミユは、嬉しそうに作業をしながら、シオリの尋ねに笑顔で応える。
「さて――山積みの課題を、片付けて行くためには、何から手を着けるべきかを、しっかり見定める事が肝要です」
三人が膳を片付ける様子を前に、その様から連想する様に、アヤコはソウタとシオリを見渡して語り始める…
「当座の喫緊事項は――謀反一派が各国家に対して秘匿している、テンラク様の不当占拠とユリ様の死……そして、その謀反一派もまだ知らない、シオリへの御神具継承の事実を、白日の下に世界中へと発表する事でしょう」
アヤコは目を瞑り、現在の状況を整理する体で言い並べ、語尾に溜め息を混ぜて言う。
「そうですね――どれも本来なら、遅滞無く世界中に知れ渡っていなければならない、世界規模の重大事」
「占報を使ってでも、知れ渡らせるべき事柄だが……ツツキには如何せん、占報を"送信"出来る設備も、それを操れるだけの人数の界気使いも居ねぇ」
シオリとソウタも、渋い表情を浮べてアヤコの発言に応じ、喫緊の課題の詳細を並べ直す。
占報の"受信施設"は、それこそ小さな村レベルにまでも行き渡っている、ある意味ツクモの"ライフラインの一種"なのだが、"送信施設"に関しては、旧三大国の首都やオウク、テンラクなど、大規模な都市にしか設置されていない。
それに"界気鏡"という名のとおり、占報は界気を用いる特殊技術。
それを操れるほどに界気の使用に長けた人物――しかも、送信に用いるに必要な界気量は、途方も無く莫大な量が必要なため、人一人で成せるモノではなく、そういう人物が相当数必要である。
送信施設から離れた場所から、占報を行うための"中継機器"も、あるにはあるが――それらは、大国の五軍規模の軍隊にしか存在しない。
ちなみに、ノブタツがヤマカキ村の虐殺現場から行った占報は、その中継機器を使用したものだ。
「――旧ハクキ君主の娘である、私の言動や行動は政治的な影響力を持つ故、合衆連邦は、このツツキに占報の送信機器を設ける事は認めなかった。
それが、こういう形で仇となるとはね……」
アヤコは、苦虫を噛んだ様な表情をして、悔しげに下を向く。
「やはり、日数が掛かったとしても、ハクキの都――"コウラン"へと向かい、連邦の送信施設を間借りするしか、方法は無いと考えますが……」
シオリは頭を捻り、最良と思えた策をアヤコたちに告げる。
「それしか――手は無いでしょうね。
現在の連邦宰相である、ノブユキ様は聡明な好人物で、私の古い友人でもあるので、この事態の危急さは、忖度して頂ける事柄でしょうし」
アヤコは小さく頷いて、シオリの意見を支持する。
「――いんや、今のハクキじゃ、頼んで直ぐに送信施設を貸してもらえる体勢じゃねぇでしょ?
こっから急いでコウランへ向かうには、俺が早馬にシオリさんを乗せたとしても、樹海も通る事を考えれば、五日はかかる……そう仮定しても、きっと、宰相に会うだけでも更に数日――決定機関である"議会"の議題に挙げて貰い、その承認を得る事に、更に更に数日――と、時間ばかりが掛かっちまうがオチだろうし、アヤコ様が一枚噛んでるってだけでも、反対だと駄々を捏ねる輩も出てくる。
何時、謀反起こした連中が、偽の神具を持った大巫女を奉るか解からねぇんだ――サッサと、シオリさんの事を知らしめねぇと、民を困らせる事になっちまいますよ」
――と、ソウタはアヤコとシオリの意見に異を唱え、諦め気味に手を振って見せる。
「では、他に方法があると?
この危急の時に、対案無き反対をされては困りますよ?」
アヤコは、不満気にソウタを見据え、厳しい表情で彼を睨む。
「アヤコ様――レンたちは、"風聖丸"に乗って来たんですよね?」
「ええ、それが何か?」
自分の尋ねに対して、明朗にアヤコが応えると、ソウタはニヤっと笑い――
「――んで、確か今、風聖丸は……不具合があった箇所の整備のために、まだツツキに停泊してる……」
――と、試す様な眼差しをアヤコに向けた。
「――っ?!、では、まさか……」
ソウタの思惑に気付いた、アヤコは目を見張り――
「――風聖丸ならば、早馬でコウランへと行くのと、ほぼ同じ日数で――オウビまで行く事が出来る。
そのオウビの送信施設を、使うと言うの?」
――と、驚きの眼差しでソウタに返した。
「――そうです。
オウビの流者たちなら、ハクキの公者たちよりもハナシは早ぇだろうし、オリエさんっていう、街のお偉方への伝手もある――サッサと事を運ぶには、最良の策だと察しますけど?」
ソウタは言い終えると、自分の前にある茶碗に入った茶を、呷り気味に飲み干した。
「風聖丸からは、明朝発つとの連絡が届いています――乗船交渉を急がないと!」
アヤコは、ソウタの意見への支持の意を込め、更なる意見を被せた。
「俺が行きますよ……タツゴロウのおっさんとは、顔見知りだしね♪」
ソウタはスッと立ち上がり、フラッとそよ風の様に部屋を後にする。
「わっ、私も行きます!、交渉がまとまれば、乗船させて頂くのは私なのですから!」
シオリは慌てて立ち上がり、ソウタの後を追った。
ソウタは、座椅子の背凭れに身を委ね、クバシ城の天井を見上げながら、大きく溜め息を吐いた。
翌日の正午――ソウタは昼食も兼ね、アヤコやシオリと席を同じくし、昨日刀聖の名において宣言した、シオリを正式な大巫女の座に着けるため、彼女をテンラクに帰還させる事と、そのための謀反一派への対処についての議論へと入っていた。
「ええ、しかも……これほど早期に、コウオウが南コクエに降伏する事態となるだなんて。
チヨ様の――いえ、かつての人々の懸念を知る者としては、更なる『目覚めた人々』の台頭までをも絡んでは、先導者がテンラク様に戻るだけでは、事が収まらなくなってしまいました」
シオリは、前に並ぶ膳から茶碗を取り、一口茶を啜った。
この日の午前――ツクモ中に、衝撃的な占報が発せられていた。
コウオウが……侵攻して来ている南コクエに対して、降伏を宣言するサトコの姿である。
『皆さん――私はここに、皇軍の皆に武装解除の皇命と、コクエ共生共和国軍に対しての降伏を宣言いたします……
我が国の皆さんには、敗戦という――堪えるに難い、苦難な憂き目を与えてしまう事となるでしょう。
ですが……現在、臣下公者がその苦難を極力和らげ様と、コクエ共生共和国との折衝に入り、私もその為なら、身命も厭わない覚悟で臨む思いです。
ですから、どうか――心静かに、この大事の末を見守ってください……』
――そう言ったサトコの瞳には、満々と湛えた涙が見え、それを溢さない様に堪えて言葉を紡ぐ、悲壮な彼女の思いが、界気鏡を通じて世界中を駆け巡っていた。
「――まあ、先にチヨさんから聞いていたとはいえ、こうなるまで放って置いた、自分の阿呆ぶりには呆れてる……」
天井を仰ぐソウタは、両目を手で覆って、小さく溜め息を吐いて押し黙り、微かに覗ける口元では、悔しげに歯を軋らせていた。
「皇軍敗退の報を、チヨ様から先に聞いておられていたと………お二人とも、新参の私にも早々に教えて頂けないのは、少々お人が悪うございます」
シオリは、情け無さそうにそう呟き、茶碗を茶托に置きながら苦笑する。
「――これ、守を敷いていないのですから、神言の秘密に関わる話はお止めなさい。
もうすぐ、ヒカリたちが膳を片付けに来ますよ?」
そう、アヤコが言い終えるかどうかという時に――
「――失礼致します、膳を下げてもよろしいでしょうか?」
――と、食事をしている部屋にヒカリの声が響いた。
「――構いませんよ、お入りなさい」
アヤコのその言葉を合図に、部屋に入って来たのは――ヒカリ、レン、ミユの三人。
三人は、給仕用の割烹着風の服を纏い、テキパキと膳を片付け始める。
「レン――ヒカリの手伝いをしているのか?」
「はい、お世話になっているだけでは、心苦しいので……」
自分の膳に手を掛けたレンに、ソウタは現われた理由を尋ねた。
「貴女とユキは、言わばオリエさんからの預かり物なのですから、気にせずにと言ったのですがね。
手伝わせて欲しいと、退かないそうです」
「今日の炊きつけは、レンちゃんのお手製だよ♪、お料理上手で、私たちもビックリ!」
二人の会話を聞きとめたアヤコは、レンが給仕に加わる経緯を話し、そのアヤコの膳を片付けているヒカリは、レンの料理の腕を褒めた。
「――ミユ、あなたも……」
「はい、身体を動かしていた方が気が紛れますし、一ヶ月ぶりに大神官様のお世話がしたいと、ヒカリさんに頼み込んだのです」
ミユは、嬉しそうに作業をしながら、シオリの尋ねに笑顔で応える。
「さて――山積みの課題を、片付けて行くためには、何から手を着けるべきかを、しっかり見定める事が肝要です」
三人が膳を片付ける様子を前に、その様から連想する様に、アヤコはソウタとシオリを見渡して語り始める…
「当座の喫緊事項は――謀反一派が各国家に対して秘匿している、テンラク様の不当占拠とユリ様の死……そして、その謀反一派もまだ知らない、シオリへの御神具継承の事実を、白日の下に世界中へと発表する事でしょう」
アヤコは目を瞑り、現在の状況を整理する体で言い並べ、語尾に溜め息を混ぜて言う。
「そうですね――どれも本来なら、遅滞無く世界中に知れ渡っていなければならない、世界規模の重大事」
「占報を使ってでも、知れ渡らせるべき事柄だが……ツツキには如何せん、占報を"送信"出来る設備も、それを操れるだけの人数の界気使いも居ねぇ」
シオリとソウタも、渋い表情を浮べてアヤコの発言に応じ、喫緊の課題の詳細を並べ直す。
占報の"受信施設"は、それこそ小さな村レベルにまでも行き渡っている、ある意味ツクモの"ライフラインの一種"なのだが、"送信施設"に関しては、旧三大国の首都やオウク、テンラクなど、大規模な都市にしか設置されていない。
それに"界気鏡"という名のとおり、占報は界気を用いる特殊技術。
それを操れるほどに界気の使用に長けた人物――しかも、送信に用いるに必要な界気量は、途方も無く莫大な量が必要なため、人一人で成せるモノではなく、そういう人物が相当数必要である。
送信施設から離れた場所から、占報を行うための"中継機器"も、あるにはあるが――それらは、大国の五軍規模の軍隊にしか存在しない。
ちなみに、ノブタツがヤマカキ村の虐殺現場から行った占報は、その中継機器を使用したものだ。
「――旧ハクキ君主の娘である、私の言動や行動は政治的な影響力を持つ故、合衆連邦は、このツツキに占報の送信機器を設ける事は認めなかった。
それが、こういう形で仇となるとはね……」
アヤコは、苦虫を噛んだ様な表情をして、悔しげに下を向く。
「やはり、日数が掛かったとしても、ハクキの都――"コウラン"へと向かい、連邦の送信施設を間借りするしか、方法は無いと考えますが……」
シオリは頭を捻り、最良と思えた策をアヤコたちに告げる。
「それしか――手は無いでしょうね。
現在の連邦宰相である、ノブユキ様は聡明な好人物で、私の古い友人でもあるので、この事態の危急さは、忖度して頂ける事柄でしょうし」
アヤコは小さく頷いて、シオリの意見を支持する。
「――いんや、今のハクキじゃ、頼んで直ぐに送信施設を貸してもらえる体勢じゃねぇでしょ?
こっから急いでコウランへ向かうには、俺が早馬にシオリさんを乗せたとしても、樹海も通る事を考えれば、五日はかかる……そう仮定しても、きっと、宰相に会うだけでも更に数日――決定機関である"議会"の議題に挙げて貰い、その承認を得る事に、更に更に数日――と、時間ばかりが掛かっちまうがオチだろうし、アヤコ様が一枚噛んでるってだけでも、反対だと駄々を捏ねる輩も出てくる。
何時、謀反起こした連中が、偽の神具を持った大巫女を奉るか解からねぇんだ――サッサと、シオリさんの事を知らしめねぇと、民を困らせる事になっちまいますよ」
――と、ソウタはアヤコとシオリの意見に異を唱え、諦め気味に手を振って見せる。
「では、他に方法があると?
この危急の時に、対案無き反対をされては困りますよ?」
アヤコは、不満気にソウタを見据え、厳しい表情で彼を睨む。
「アヤコ様――レンたちは、"風聖丸"に乗って来たんですよね?」
「ええ、それが何か?」
自分の尋ねに対して、明朗にアヤコが応えると、ソウタはニヤっと笑い――
「――んで、確か今、風聖丸は……不具合があった箇所の整備のために、まだツツキに停泊してる……」
――と、試す様な眼差しをアヤコに向けた。
「――っ?!、では、まさか……」
ソウタの思惑に気付いた、アヤコは目を見張り――
「――風聖丸ならば、早馬でコウランへと行くのと、ほぼ同じ日数で――オウビまで行く事が出来る。
そのオウビの送信施設を、使うと言うの?」
――と、驚きの眼差しでソウタに返した。
「――そうです。
オウビの流者たちなら、ハクキの公者たちよりもハナシは早ぇだろうし、オリエさんっていう、街のお偉方への伝手もある――サッサと事を運ぶには、最良の策だと察しますけど?」
ソウタは言い終えると、自分の前にある茶碗に入った茶を、呷り気味に飲み干した。
「風聖丸からは、明朝発つとの連絡が届いています――乗船交渉を急がないと!」
アヤコは、ソウタの意見への支持の意を込め、更なる意見を被せた。
「俺が行きますよ……タツゴロウのおっさんとは、顔見知りだしね♪」
ソウタはスッと立ち上がり、フラッとそよ風の様に部屋を後にする。
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