流れ者のソウタ

緋野 真人

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鬼面の道化師

鬼面の道化師(前編)

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「――さあっ!、忙しくなるよっ!

 界気に長けた街の衆を、片っ端から集めなっ!、動かすには頭数が必要なんだからっ!」

「――あいよっ!」

 フミの下知が、代議員の皆に響き渡り、各代議員たちは蜘蛛の子を散らす体で議場を発ち、一斉に行動を開始した。


「あっ!、フミさん!」

「ん?、ソウタ……改まってなんだい?」

 気張って駆け巡り始めようとするフミを、咄嗟に呼び止めたソウタが、何を言おうとしたかは、後の講釈にカンケイするので少し待って頂こう。




「まったく、ヒカリは……本来なら、いの一番に怒るべきなのはお前であろう?」

 娼街の入り口から少し遠のいた街角を、二騎が並んで行く最中、アオイはそんな愚痴を溢しながら馬を駆っていた。

「もうっ!、まだ言うの?

 アオイちゃんのお説教は、ホントしつこいんだから……」

 彼女の背中に身を任せている、当のヒカリは、面倒臭そうに頬を膨らます。

「悔しいが……あれが『本妻』の余裕という事なのだろうな」

「えっ?!、何ソレ?、どーいう意味?」

 何気無く、アオイが漏らした意味深なフレーズに、耳聡く反応したのは、並んで鞍上を行くハルである。

「意味も何も――言葉どおりよ。

 ヒカリは既に、ソウタと"身の契り"も交わした事がある立場だという事だ」

「!?、!!!!!!、えぇぇぇぇぇっ?!、マジっ!?、そうなのヒカリっ?!」

「???、『ミノチギリ』?、何それ?」

 アオイの暴露に、ハルは仰天して興奮し、彼女の後ろに居るタマは、アオイの遠回しな言葉の意味が理解出来ず、頭を横に傾げる。

「もうっ!、アオイちゃんは直ぐそうやって……ソウちゃんにも言われたでしょ?、『ああいう事』は『秘め事』なんだから、軽々しく言うなって」

 ヒカリは頬を赤らめ、困った様子で更にその紅潮した頬を膨らませる。

「そっ、その言い方ってぇ……否定、してない……よね?

 じゃあ、ソウタ様とヒカリは……うわっ!、うわわわっ!!!」

「今度は『ヒメゴト』?、みんな、ちゃんとツクモの言葉で喋ってよ!」

 ヒカリの返答に、ハルは流石に恥かしくなって、口を覆った手をワナワナと震わせながら、顔を紅潮させて興奮し、語意が解せないタマは、不満気に三人へ愚痴を溢す。

「"一度だけ"――だよ?

 それも、ソウちゃんが、フツーの気持ちじゃなかった時だし……私としても、あの時を"初夜"だなんて、数えるのはイヤだもの」

 ヒカリが恥かしそうに、そして、悔やむ表情でそう呟くと、ハルは――

「そっ、『そういう時』ってぇ…そりゃあ誰でも、"フツーな気持ち"じゃあないでしょうよ……

 ――で?、どっ!、どうだったのっ?!」

 ――と、下卑た笑顔で鼻息荒く、拳を力強く握ってヒカリに迫る。

「――ダメっ!、もう、そんな話は終わりっ!

 アオイちゃんが、余計な事を言うから悪いんだよぉっ!」

 ヒカリは、珍しく怒りの意思を示し、更なる暴露をと食い下がるハルの願いを一蹴すると、眼前のアオイの背中を強く叩いた。


 その時――市街に響き渡る程の音量で、占報を告げる鐘の根が鳴った。


「――始まるか?、交渉は成った様だな」

 アオイは半身で振り向き、元来た街路の先にあるという、議場が建つ方の空を見上げた。



「これは……」

 場所は替わって、ココはツツキのクバシ城。

 占報受信の鐘の音を聴き、夕餉を食べ様と箸を持ったトコロだったアヤコは、箸置きへとそれを戻した。

「――村の皆に、広場に集まる様にと伝えなさい。

 恐らく……シオリ次世大巫女様からの報せでしょうから」

 ――と、側に控えていたタマキにそう命じた。



「――何処からか?」

「はっ!、発信地は――おっ!、オウビ?!」


 再び場は転じ、ココはスヨウの都――ヤグリ城の天守。

 鐘の音を聞いたノブタツは、側近であるシゲマルを呼び、仔細を報せる様に命ずるが、シゲマルは渡された書面に書かれた次第の意外性に戸惑い、思わず狼狽した。

「――ほう?、珍しい事もあるものだ。

 これも……世が乱れている証か?、よし、占報認証――繋げ」

「はっ、はい!」



 更に更に転じて、場所はテンラク――御船板の館。


「準備の……進捗は?」

 頭を抱えたままにうな垂れ、辺りにそう問うたのは――謀反一派の主格であるショウ。

 彼は、苛立ちが覗ける表情で、落ち着き無く何度も指を鳴らしている。

「ええ、偽の神具は、界気鏡越しならば、十二分に誤魔化せる出来でしたし、継承者に奉る娘も、演説の覚えが良いとの事――なんとか、切り抜けられるでしょう」

 側で茶を口にしながら、ショウの問いに答えたのはルイ――彼は落ち着き払って、状況への見解を述べた。

「明日――占報を用いて、その娘への継承……まあ、正しくは"偽の継承"を発布する事とはなりますが、新しい大巫女様の誕生に立ち会えるのは、誉れにございますよ……くっくっくっ♪」

 ――と、その二人の会話に相槌を入れたのは、北コクエの国守であるヒコザ。

 彼は、支援を買って出た謀反――いや、北コクエの側から言えば『解放の志士たち』への表敬として、このテンラクへと訪問していた。


「二刀烈警の足取りを掴む事が出来ず、本物の御神具の所在も解からず終いではありますが、この儀礼さえ成せれば――とりあえずの大義を得る事が出来る!」

「本来――大巫女様とは、宗教上の象徴に過ぎないのですから、偽物だろうと何だろうと、御神具はそれなりに見える装飾品を着けていれば充分。

 民とは所詮、容易く騙されてくれる、阿呆な存在モノ――その程度で充分なのですよ、くっくっくっ……」

 偽りの神事を行おうとしている事への背徳なのか、それとも武者震いなのか――ショウは、頭を抱えている手を震わせていた。

 対して、そんなショウを宥める様にヒコザは――北コクエの真っ当な有権者たちが聞いていたら、大問題となりそうな発言をして、いつもの下卑た笑いを響かせる。


 ――ゴォォォン、ゴンッ!、グゥオン……


「!」

「――なんでしょうねぇ?、こんな、もう夜にもなろうという時分に」

 鳴り響いた占報の鐘の音に、ショウは顔を引き攣らせ、ヒコザは不満そうに文句を言いながら、とりあえず咽を潤わそうと、茶を一杯咽に煽った。



 そんな者たちが、各地にて見詰める、界気鏡に最初に写ったのは、顔に"憤怒相の鬼面"を着け、刀身が付いていない、刀の柄を握った男だった。
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