流れ者のソウタ

緋野 真人

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仁義

仁義(後編)

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「おめぇ――何者だ?」

 チョウゴロウは、利き腕の片割れに置いていた、鍔のない拵えのドスに手をかけ、立って下目に自分を見ている、議場に入って来た、編み笠を深く被った男に対し、睨みを効かせて凄んで見せる。

「――こいつぁ、失礼しましたね。

 笠を被ったまんまな上に、見下ろす体で立ってるのは、確かに無粋でした」

 ――と、その返答の声色と、覗く下顎の風情から若い男だと解かるその者は、正座をしながら飄々とした返事をして、同じく編み笠の下から覗く口元を緩め、チョウゴロウと対する。


「――おや?」

「!?」

 その風体を見た、フミとオリエは表情を変え、フミはニヤッと笑みを溢し、オリエも驚きを混ぜた笑顔を見せる。


「――オウビ商工組合、代議員の『ほとんどの』皆々様、お初にお目にかかります。

 私は、ソウタという駆け出し者にございます」

 若い編み笠男――いや、ソウタは編み笠を脱ぎ、不敵な笑顔で代議員たちを見渡す。


「!!!!!!、ソッ!、ソウタって?!」

「とっ――刀、聖っ!?」

 初見である代議員たちは、顔を見合わせ、ザワザワとした喧騒を振り撒き――

「――ソウタぁ!、久し振りじゃないかい!」

「アッ、アンタ……アンタわぁっ!」

 ――と、彼の人となりを知るフミは破顔して喜び、オリエは何故か感極まり、涙を溢して俯く。


「ほう――話のとおり、若ぇな」

 腕組みをしながら、体格で上回るチョウゴロウは、対しているソウタの姿を見下ろす体で、彼はソウタの風体を眺めた。

「ヘっ、オウビの衆は助かりますよ。

 俺が刀聖だからって、変に諂ったりしねぇから話し易い」

「――たりめぇだ、てめぇが自分で言ったろ?、『駆け出し者』だってな」

 自分の凄みに、臆する事無く堂々とした態度で接して来るソウタに、チョウゴロウは好感の意味を込めた笑みを付けてそう応えた。

「――で?、リュウジに案内させて、寄り合い中のココに乗り込んで来る程、大事な用件ってのは一体何だ?、刀聖おきゃくじん

 チョウゴロウは、ソウタの提げた鞘を指差ししながら、彼に用件を尋ねる。


「用があるのは――俺じゃないです。

 どうぞ、入ってください」

 ソウタが小さく手招きをして、そう言って呼び寄せる仕草をした先から、細かな花柄の頭巾を被った女が現われ――

「――皆様、私はクリ社神官頭、シオリと申す者にございます。

 まずは、大事な合議の際への非礼をお許しください……」

 ――と、その女……シオリは、議場の畳の真ん中に座り、深く礼をして会議を中断させた事を詫びた。


「だっ!、大神官って――あのっ?!」

「うわぁ、ホントに綺麗だんなぁ……」

 代議員たちは、初めて直に見る、絶世の美女の登場に――驚きと溜め息を漏らしながら、シオリの姿を見やる。


「こいつぁ、魂消たね……

 女のアタシが界気鏡越しに観てても、女神の彫刻や美人図に命を吹き込んだみてぇな娘だとは思ってたモンだが、直に近くで観たら、背に怖気が奔るぐれぇな美貌だね……それにソウタ、ついに大神官様まで、たらし込んだってのかい?」

 ズイッとシオリの方に寄り、彼女の姿を見回したのはフミ――その呟きの末尾には、ソウタへの皮肉も混ぜた戯れ言を投げる。

「――ったく、フミさん!

 ここは、享楽な駄弁りが出来る場じゃあねぇでしょうが……それに、シオリさんは生粋のカタギなんスから、戯れ言を本気にしちまいますよ」

「へっ!、違いねぇ――で?、そのクリ社のお偉いさんが、アタシたちみてぇな"爪弾き者"の寄り合いに、一体何の用だい?

 強面のヤクザ者が相手したんじゃ、話し難いだろうから、まずはこの婆さんに話してごらんよ?」

 ソウタは、困った体で頭を掻き、フミは彼の最もな意見に破顔を見せて、座の中心に居るシオリにも、その表情のまま用件の説明を促す。

 シオリは、仕切りを直すつもりで、コホンと一つ咳払いをして――

「――実は、オウビの衆の皆様に、お願いがあって参りました」

 ――と、用件の仔細を話し出した。

 ――

 ――――

「――占報をするために、わざわざ北の果てから……そいつぁ、ご苦労な事だったね」

 フミは何度も頷いて、まずはシオリにここまでの旅に至った苦慮を労う。

「そうかい、ユリちゃんは逝っちまったかい……悔しいね」

 フミは天を仰ぎ、唇をへの字に結んでうな垂れる。

「大巫女様と……何か?」

「ああ、例の"駆け落ち"ん時に、ちいとね……」

 ――と、フミの言葉に察するモノを感じた、シオリからの尋ねに、彼女は沈痛さが滲む微笑で応える。

「やっぱり――テンラクに、只ならぬ動きがあったか……"ウワサ"は、本当だったみたいだね」

 フミの横で、シオリの話を並んで聞いていたオリエは、話した言葉のとおり、妙に納得した表情をして腕組みをする

「――ウワサ?、では……」

「――ああ。

 定かなネタじゃあなかったが……全報の発行が滞ったり、翼域を主に周ってる行商人から聞いたハナシじゃ、どうにもオカシイってね。

 商人ってのは、その手の情報に敏くしとかねぇと、いけねぇ生業だからね」

 シオリの驚いた様での返しに、オリエは腕を組んだまま、数度頷いて気付いた経緯を吐露する。


「確かに、こいつぁ世界の一大事だ……皆の衆、さぁ、意見はねぇかい?」

 フミは、両手を左右に翳して、まるで丁半博打の壷振りよろしく、代議員の皆に意見を求めた。

「どうもこうも――貸して欲しいってのは、議場この奥で埃を被ってるだけの送信設備シロモノだ。

 ただでさえ、使う機会がねぇ様なモンを貸す事に、誰も異論なんてねぇんじゃねぇのか?」

「そうだね、だけど……」

 シオリの頼みに応じる体で、代議員たちの意見が決しかけたトコロで――オリエはふと、ソウタの方へと向き直る。


「ソウタ――アタシたち流者に、"モノゴトを頼みに来た"ってぇコトは……それ相応の"代価"を払う、必要があるってのは、道理として解かってるね?」

 ――と、真剣な表情で彼にそう言った。


「えっ?、もっ、もしかして機材や施設の賃料――ですか?」

 オリエの要求に反応したのは、直接問われたソウタではなく、その隣に座るシオリだった。

「いや、金じゃあなく、一つ、アンタに仕事を頼みてぇのさ」

 オリエは、据わった目線をソウタに送り、その彼は黙ったまま、真っ直ぐに彼女とその交える。

「えっ!?、でっ!、では、外に立っていた、女性たちの様に……」

「――心配しなさんな、いくらなんでも、これから大巫女様になろうって御人に辻達させて、客を取れだなんて言えるワケがあるかい。

 それに――ヨクセの嬢ちゃんが仕事を頼みたいのは……"刀聖"の方さね」

 早とちりをして狼狽するシオリに、フミは楽しそうな笑顔で、その早とちりにツッコミを入れる。


「この街が、南コクに攻められる様な事になったら――刀聖アンタの力で、この街を護って欲しい。

 それが、アンタたちの頼みを引き請ける条件だよ」

 その、オリエの提案に、ある者は驚いたり、またある者は目を瞑ってニヤリと笑い、更にある者は、おもむろに咥えたキセルに火を点け、煙の香りを鼻腔に燻らせる。

最初ハナから――そのつもりですよ。

 ダチサトコや、世話になったコウオウの皆に因縁を掛けて、明らかに『世』を乱してる事は明白――そろそろ、刀聖として"お灸"を据えてやらねぇといけねぇって思ってたトコだ。

 同じく世話になってる、この街の皆に戦をチラつかせてビビらせてるってんなら、尚更解からせてやらなきゃいけねぇ……」

 ソウタはそう言うと、側に置いた鞘をから柄を外し、光刃を抜き放って議場の真ん中に立ち、それを掲げる。

「――その仕事、請けますよ。

 オリエさん……いや、代議員の皆さん」

 ソウタは、決意を示した厳しい表情を見せ、大きく頷いた。
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