流れ者のソウタ

緋野 真人

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誓いの一歩

前触れ

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 そして、迎えた公開裁判の日――その日は皆、何時もよりは少し早く労役を終た。

 夕焼けが、遠くの空へと滲み、少し辺りが薄暗くなり始めた時分、オウクの広場には、"集まった"というよりは、"動員された"と言う方が適当な、多くの人々が鈴なりに列挙していた。


 その列挙した群集の周りには、武装した数百名に及ぶ南コクエ兵。

 彼奴らは、それを囲うように2列に立ち――片方は、その集まった群集と、広場に簡易的に設けられた、白州が敷かれた野外法廷の中を見やり、もう片方は、背を合わせて立ち、広場へとやって来る者を監視する体勢である。


「同志ユキオ――同志の皆が広場へと集まり、それを警護する役目のみなの配置、完了した次第との事にございます」

 その様子を、御所のバルコニーから見据えるユキオの下に、現状の報告が届いた。

「ご苦労様です。

 さて、いよいよですねぇ……この世界に数千年に亘って蔓延った、詐欺師一族が糾弾される時が」

 ユキオは、周りに同じく居る他の皆導志七人衆へと目配せをして、確かめ合う様に頷き合う。

「それにしても、同志ヨシミツと、共に発った同志たちがよもや、オウビの恥者たちに遅れを取るとは……」

 頷き合いながら、昨日――オウビ軍に手痛く敗れ、オウクまで逃げ帰って来たヨシミツと、南コクエ軍の事について、カズオが触れる。

「尾花栗毛の馬に乗って現われた、鬼面を被った刀聖と、その後ろに連れた界気使いの女人――その女人が放った、天変地異規模の界気術に因って、五千はいたはずの同志たちが殲滅されてしまうとは……正直、にわかには信じ難い話ではありますが、戻った同志たちの誰もが、挙ってそう述べた以上、真実と思うしかないのでしょう」

 ミズホは、その話題になると、額に冷や汗を滲ませ、身震いして群集の人並みを見詰める。


 そんな二人が述べた、彼らにとっては良くない話題を遮る様に、ユキオは目を瞑ったまま、パンと手を叩く。


「御二人ともお止めなさい――これから始まるのは、我らの悲願である共営社会実現への革命が、次の段階へ移る大事な道程。

 民のモノであるべきこの社会に、我が物顔で蔓延る――"君主"という、害虫の駆除を始める慶事なのですから」

 ユキオは渋い顔をして、不満気で苛立ちも覗く態度で、側に置かれた盃を手にし――

「――同志たちの死を悼むのは当然ですし、それを悔やむのも当たり前。

 ですが皆様は、一体何を脅えているのです?、我らの背と傍らには、この歪な社会からの解放を望む、多くの同志たちの思いがある――そんな崇高な我らと、その思いを我らに委ねた同志たちが、恥者の様な俗物の味方をしている、刀聖とその一党に屈す道理が無いでしょう?」

 ――そう言って、注がれている酒を咽元に煽った。

「ふっ♪、天変地異規模の界気術?

 どうせ、前以って仕掛けていた、爆薬の類に引火させた、子供地味た手品に過ぎませんよ。

 界気は、個々に行える限度と上限がある能力ちから――それこそ、そこの席で裁かれ様としている者が言う様な、"神"とやらの所業だとでも言うのですか?」

 盃を卓に戻しながら、ユキオは完全に馬鹿にした体で、不敵に笑ってグッと拳を握る。

「その、鬼面の手品師――刀聖は必ず、この公開裁判に現われるはずっ!

 あの詐欺師を捕らえ、それを今まで生かしているのも……全てはこのため。

 我らが成す革命が後の世には、神格された英傑など、必要無いのですからっ!」

 ユキオは、ギリっと歯を軋らせ、遠くに見えるオウクの街並みを見据えた。



(――さぁて、お望みどおり、来てやったぜ。

 このわざとらしい、サトコを餌にしたお招きに応えてな)

 まるで、バルコニーでの会話を聞いていた様に、民衣を着て群集の中に紛れたソウタは、ユキオたちの様子を睨み、その鋭い眼光で見上げていた。


 その他にも、広場近くの3階立ての宿の屋上には、弓を構えたギンも居た。


(一昨日の夜から潜むのには、少々骨が折れそうだとは思ったが――この、あからさまに潜まれては困る場に、人員はもちろん配せず、警戒している素振りも無いとは、"南コク軍はやっつけ武士の集まりだ"という戯れ言は、どうやら本当だったな)

 ギンは、野外法廷を眼下に見据えた体制で弓を構え、その効く遠目で、広場を警備している南コク兵の姿に、呆れた表情を向けながら、心中ではそう呟く。

(まあ何より、この宿の亭主が、シュウイチと恩顧の者だというのが、楽に事を運べた最大の理由ではあるがな)

 ギンは、側に置かれた、宿の名前が塗られた茶碗を見てニヤッと笑う。


(ふう……民衣を着ていただけで、武器の類の検査も無かったな。

 これで良く、一介の軍と名乗れたモノだ)


(ダサくて着たくはなかったけど、民衣のおかげで楽々だね♪)


 ソウタからは、少し離れた人並みの中には、タマやヨシゾウも潜んでおり、合図があれば、何時でも動ける体勢でその時を待つ。


「皆――手筈は心得ておるな?」

「ええ、何時でもっ!」

 同じく――群集に紛れたシュウイチたちと、彼らがこっそり募った、南コクに反抗する意思のある者たちも、この広場へと集まり、小声で頷きながら、ソウタたちの決行を待っていた。



「さあ――来いっ!」

「くっ!」


 そんな状況の最中に、法廷へと連れて来られたのは――件の裁判の被告人であるサトコではなく、険しい表情で周りを取り囲む、傍聴者たるオウクの民たちを見渡すカオリだった。


 カオリの民衣は、この寒空に半袖――そして、そのスラリと長い脚を惜しげもなく晒した、膝上までしか隠れない造り。

 恐らく、女性としては大柄な体躯であるから、用意出来る民衣の寸が足りないのだろう。

 それに、顔には殴られ、蹴られたと思うべき痣が多数見受けられ、晒している腕や脚にも生々しい傷痕。

 何より、ツクモの女性にとって、膝を晒すのは、観念的に恥辱に値する恰好である。


(カオリさんっ!)

 そのカオリの様を観たソウタは、悔しげに唇を噛む。


(それに、後ろから付いて来てるのは――っ!)

 同じく、カオリの様を見やるタマの視線の先には、カオリを見張る様に、短槍を担いで付いて来ている猫族の女。

 彼女にとっては、母であるスズの姿があった。


(うふ♪、うふふふ――っ!

 ついにアタシ、本気で母さんとり合えるんだぁ……これが、"ムシャブルイ"って奴なのかなぁ?)

 タマは、スズの姿を凝視し、震える拳を抑えながら不気味に微笑むのだった。
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