流れ者のソウタ

緋野 真人

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誓いの一歩

決起

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「――これよりっ!、被告サトコへの判決を、皆に全権を委ねられし、皆導志七人衆が厳正にな審議に入るっ!」

 訴状を読み終え、サトコの罪状を全て挙げたユキオは、書状をたたみ、側に集まる他の七人衆と話し合いを始めた。


 その様を、無言のまま見詰めるサトコの耳に――

「ふん――"革命"などと、仰々しく並べてはいるが、全てが権力者への妬み、怨み、嫉みの類ではないか……実にくだらない」

「――っ!?」

 ――という小声の呟きが、背にした陣幕の後ろから聴こえてきた。


 サトコは、恐る恐るその声の主を確かめ様と振り向く――

「おっと、動くな――まだ、怪しまれるワケには行かぬのでな」

 ――事は許されず、彼女も、それに応じて目線を正面へと戻す。


「……何者です?」

 サトコも小声で、その"背後の者"へと尋ねる。

「そうさなぁ……面と向かえたならば『久し振り』だと、"旧友との再会を喜べる"――とだけ言っておこうか♪」

 背後の者はそう言って、口元を緩めて微かに笑っていた。



「なぁ――シロ」

 カオリを抑えているスズが、ふいに隣へ控えているシロに声を掛けた。


「あの宿の屋上――南コクなり、ウチの連中なり、誰か配されていたかい?」

 スズは怪訝な表情で、その顎を向けて指した宿の屋上――ギンが潜んでいる場所を気にして、警備状況の説明を求めた。

「あそこは……南コクの連中の管轄っスね」

 シロは顎に手を置き、同じく怪訝な表情で共に屋上を見上げる。

「"様子観てこい"――てぇコト?」

「ああ、イヤな感じがしてね。

 アタシが、この場で"何かをやらかす"としたら――絶対、あそこを抑える。

 それが、あのハンパ侍どもの管轄だと聞くと、一悶着の気配も当然だからね」

 スズは、屋上へ向けて顎をしゃくり、その暗黙の指示を受け取ったシロは、渋々とその宿へと駆け出した。



「オウクに生まれし娘、サトコよ――判決を言い渡すっ!」

 被告席やスズたちの懸念を帯びた会話を他所に、皆導志七人衆の『自称』厳正な審議が終わり、その七人衆の筆頭たるユキオがまた、書状を持ってバルコニーへと立った。


「……」

 ユキオの顔をジッと見据えていた、被告席に座るサトコは――厳しい面持ちで、その眼を閉じた。


(さて――"頃合い"か?)

 例の宿屋の屋上から、書状を開こうとするユキオの姿を見やるギンは――そう、心中で納得して頷き、矢を番え始めた。


「――ったく、南コクの連中が素人ばっかだから、アタシに仕事のシワ寄せがぁ……」

 そんな愚痴も溢し、不満気にその宿へと向かうシロの耳に――

(――っ?!、コレ……弓の弦を引き絞る音?)

 ――ギンが引く弦の音が微かに聞こえ、何かを察したシロが、目を凝らして屋上を見上げる。


 そこには――夕日の光が鈍く反射した、ギラッと光る刃物の閃きがっ!


「!!!!、姐さんの言ったとおりっ!」

 シロは、慌てて足を速め、別の建物の屋上へと昇り、屋根伝いに矢尻が閃く場所へと急いだっ!


「汝は――先に挙げた、罪に因り……」


 ユキオが前文を読み上げる中、宿の隣の建物の上にまで達したシロは――

「――アンタぁっ!、一体何者……」

 ――とりあえず射手の気を逸らそうと、大声で呼ばわり、同時に刀を抜いて戦闘態勢に入るっ!

「――おや?、気付かれたか……だがっ!」


 ――ビュンッ!


「――悪いが、もう『詰み』だ!」

 そう、微かにほくそ笑み、ギンは矢を放ったっ!


 ――グサッ!


「――!?」

 バルコニーの上――それも、判決文を読むユキオの足下へと矢が突き刺さり、その当人たるユキオはたじろいで、書状を読むのも止めて一歩下がるっ!


 ――おぉぉぉぉぉぉぉっ!


 その様を観た観衆からは、大きなどよめきが起こって、一気に騒然と化したっ!


(よし!、さっすがギン――満点の仕事だっ!)

 その騒ぎの最中に居るソウタは、ニィっとまずは満面の笑みを浮べると、混乱を極める周囲からは一切気付かれず、例の鬼面を被って、その群集を掻き分けてバルコニーの前へと進む。


「――なっ!?、何が起きたというのですっ?、いっ!、今の矢は……」

「ざっ!、残党の襲撃かあっ?!、敗軍の小物どもが性懲りも無くぅ!」

 七人衆の中にも動揺が拡がり、浮き足立つ声がバルコニーに響く中――

「――ふっ!、"奴"しか居ないでしょう!、ついに……ついにぃっ!」

 ――ユキオだけは、嬉しそうにそう呟き、どこだどこだと周囲を見回していた。



「――その裁判、異議あ~りっ!」


「!?」

 バルコニーの前、騒然とする観衆を抑えようともがく、南コク兵たちの眼前に、手を挙げてそんな事を言わばる――"鬼面を被った者”が現われたっ!


「なっ!、なんだ貴様はっ?!」

 悠然と進んで来る鬼面の者に、脅える様子も覗かせながら、南コク兵の一人が顕然と呼び止め、その素性を問うた。

「この裁判の重要な証人――かな?

 テンラクまでの路銀を、公金で出して貰ってた、"刀聖"っていう、ケチなモンでございます♪」

 鬼面の者は、袖に隠した柄から光刃を抜き出し、バルコニーに佇むユキオへ向けて掲げた。


「?!、!!!!!!!!!!」


 掲げられた光刃を観た者たちの反応は、三者三様に別れた。


 まず、広場中に展開していた南コク兵たちは、一斉にバルコニーの前に集結。

 そして、鬼面の者一人を包囲する恰好で、彼に槍を向け、その者たちの後ろでは大勢が抜刀し、バルコニーの上に配された者たちは、素早く弓矢を番え、鬼面の者を狙う。

(へぇ?、動き良いじゃん。

 要は、場数が足りなくて、率いる方に兵法の覚えが無いだけか)

 ――と、鬼面の中のソウタも思わず誉めてしまう、鮮やかな用兵であった。


 見事に対応が分かれたのは、残った観衆の方――片方は、例に因って刀聖という存在を敬い、その場での平伏であったが、そうではない方は立ったまま、嫌悪の表情で掲げた光刃とその被った鬼面を見やる。


「――ソウ、タぁ?、なっ、何故……?」

 被告席から、その様を観たサトコは、嬉しさよりも驚きが先に立って困惑する。


「へぇ、本当に出てきたねぇ♪」

 鬼面の者と、その手から伸びる光刃の光を視認したスズは、楽しげにほくそ笑み――

「まっ、間に合って……くれ、たぁ……」

 ――その足下に抑え付けられているカオリは、泣きじゃくりながら安堵の表情を浮べるのだった。
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