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世界への宿題
畏怖
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『ぐわあああっ!、痛いっ!、イタイィィィィ!』
「――これで、私たちの思惑はほぼ達しましたね」
オウビの広場にある界気鏡越しに、オリエと並び占報で一部始終を確認していたシオリは、徐に目を瞑りそう呟いた。
「そうだね――ソウタは、共佑党の本性を晒すと同時に、新しくて素晴らしい考え方として持て囃されてる、民主主義の裏に隠れる弊害までも暴いた。
これが、当世刀聖が世界に向けて伝えたかった事――なんだね?」
オリエは険しい表情で、シオリの横顔を見詰める。
「はい、"人という獣"が暮らしを営む社会に、彼らが言う様な万能な主義思想は存在しない。
それが、私とアヤコ様――そして、ソウタ様との共通な現状への懸念であり、それが今の世に示したかった事なのです」
シオリは噛み締める様に、チヨから聞かされた『かつての人々』の思いを、自分たちの考えとしてそれを伝えた。
「さぁて、とりあえずの思惑を果たせたとはいえ、アンタはソウタに、次の一手を任されてるんだろ?」
「ええ、ソウタ様は仰っていました――"刀聖が出来るのは、沢山殺して滅ぼす事『まで』、政変や反乱を起こして、世直しが出来るワケではない"。
その『まで』の後を、成すための受け皿を用意するのが肝要であると」
オリエの含みある尋ねに、シオリはそう応えて、首にはめた紫珠輪を触り唇を噛む。
「つまり――今回、"悪さ"に及んだ南北コクエを取っちめる事は、てめぇ一人の人ならざる力でも簡単だが、その後、死人の躯だけが残ってるんじゃあ、取っちめた意味がねぇ。
コレを糧に、人々たちが何故、光の刀に滅ぼされそうになったのかを、自分から気付いてくれなきゃならねぇってコトだね?」
「はい――それに気付いた人々の受け皿となり得る勢力を構築する。
それが、この世界の"先導者"の証――紫珠輪を継いだ、私の責だと思っております」
オリエの補足に、シオリは小さく頷いてから、既に夜闇を纏い始めたオウビの空を見上げた。
「こっ、これが……あの、ソウタ様がされた事?」
場面は大きく移り、ここはツツキの広場。
オウクからの占報受信に応じ、広場へと集まっていた使節団の面々の中で、その映像を見守っていたミユは、声を震わせ、恐怖に満ちた弱々しい声でそう呟いた。
「ソウタさんが――怖いの?、ミユちゃん」
――と、辺りに漂う、畏怖の雰囲気を感じた、盲目であるユキは……訝しげに、そして、不思議そうに、ミユへ解説を求めた。
「怖い――でしょうね。
今の……鬼面を被り、その様どおりに、鬼神が如く――人々を蹂躙する。
そんなソウタの姿は、普段の優しさを知る者ほど、信じられない光景でしょうね」
解説に応じたのは、問われたミユではなく――今回は、皆と共に広場で占報を観ていたアヤコだった。
「目が見えない私にも、それは皆さんの界気の"色"で感じています。
ですから、それがとても驚きで……」
ユキは、切なそうにそう言って、両目を覆った眼帯に悔しげに触れた。
「これが、刀聖様――ソウタさんが、今のツクモへ向けて見せるべき、畏怖の姿なのですね」
ユキの隣で、共に占報を観ていたレンは、これも切なそうに下唇をグッと噛み締めた。
「ソウタは――この世界に刀聖を、光の刀を、自分を恐れさせるために、あの場へと到り、こうして多くの命を奪った。
でも――あの子の養母として、これだけは言わせて?
せめて、このツツキの民――いいえ、私と貴女たちだけでも、彼を殺戮者や破壊者として恐れるのではなく、彼が再び、この地に戻ったならば――私は母として、貴女たちには友人として――または、"想いを寄せる者"として、今までと変わらず、接して欲しいと」
アヤコは、そう得々と語り、レンとユキの顔を覗き込みながら、そう話の尾を切った。
「――もちろんです!、あの優しさを、真のお姿を知っているからこそ、私たちは……」
「ふふ♪、そうね。
アヤコ様――私たちにとって、それは愚問にございます」
レンとユキは、広場を覆う張り詰めた雰囲気には似合わない微笑を浮かべ、界気鏡に映る、鮮血に覆われたソウタの鬼面を、優しく見据えながらそう返した。
「領主様や、お二人だけではありませんっ!
私だって!、刀聖様の真の姿を知っていて、お慕いしている者の一人なのですっ!」
――と、ミユは小さな身体を、レンとユキの間に割り込ませ、口を尖らせて抗議の意思を示した。
「――そうだそうだっ!、お嬢ちゃんの言うとおりだぁっ!」
「ああっ!、アヤコ様だけじゃねぇ――ソウタは、あたしたちにとっても息子ですよ!」
「共に、この地へと旅をして来た、我らにとっても愚問にございますぞ」
ミユの言葉に呼応する様に、ツツキの民や、使節団の者たちの中からも、そんな声が挙がった。
「ふふ♪、ミユちゃん偉いっ!、みんなの『色』が変わったわ♪」
「でっ、でも――『お慕いしてる』は、ちょっと早いんじゃないかなぁ?」
ユキとレンは、間に立ったミユに、賞賛と注意の言葉を投げた。
「えへへ♪、ありがとうございます♪」
そんな戯れ言までが出る、柔らかい空気に変わった広場を見渡し、アヤコはただ、笑みだけを浮かべて、その先にオウクがある、南の夜空を見据える。
(たとえ――全てがあなたを恐れたとしても、あなたを心から慕う私たちは、この北の果てにて、あなたの帰りを待っているわ)
「――そろそろ、良い頃合いでしょう……皆さん、退きますぞ?」
オウクでは、腕を切断されたユキオが痛みに苦しむ様子を、界気鏡のレンズ越しに見届けていたヨシゾウが、界気使いたちに撤退を促す。
「はっ、はい、では――」
界気使いたちが界気の供給を止めると、界気鏡は輝きを失い、プッツリと占報は終わった。
「――これで、私たちの思惑はほぼ達しましたね」
オウビの広場にある界気鏡越しに、オリエと並び占報で一部始終を確認していたシオリは、徐に目を瞑りそう呟いた。
「そうだね――ソウタは、共佑党の本性を晒すと同時に、新しくて素晴らしい考え方として持て囃されてる、民主主義の裏に隠れる弊害までも暴いた。
これが、当世刀聖が世界に向けて伝えたかった事――なんだね?」
オリエは険しい表情で、シオリの横顔を見詰める。
「はい、"人という獣"が暮らしを営む社会に、彼らが言う様な万能な主義思想は存在しない。
それが、私とアヤコ様――そして、ソウタ様との共通な現状への懸念であり、それが今の世に示したかった事なのです」
シオリは噛み締める様に、チヨから聞かされた『かつての人々』の思いを、自分たちの考えとしてそれを伝えた。
「さぁて、とりあえずの思惑を果たせたとはいえ、アンタはソウタに、次の一手を任されてるんだろ?」
「ええ、ソウタ様は仰っていました――"刀聖が出来るのは、沢山殺して滅ぼす事『まで』、政変や反乱を起こして、世直しが出来るワケではない"。
その『まで』の後を、成すための受け皿を用意するのが肝要であると」
オリエの含みある尋ねに、シオリはそう応えて、首にはめた紫珠輪を触り唇を噛む。
「つまり――今回、"悪さ"に及んだ南北コクエを取っちめる事は、てめぇ一人の人ならざる力でも簡単だが、その後、死人の躯だけが残ってるんじゃあ、取っちめた意味がねぇ。
コレを糧に、人々たちが何故、光の刀に滅ぼされそうになったのかを、自分から気付いてくれなきゃならねぇってコトだね?」
「はい――それに気付いた人々の受け皿となり得る勢力を構築する。
それが、この世界の"先導者"の証――紫珠輪を継いだ、私の責だと思っております」
オリエの補足に、シオリは小さく頷いてから、既に夜闇を纏い始めたオウビの空を見上げた。
「こっ、これが……あの、ソウタ様がされた事?」
場面は大きく移り、ここはツツキの広場。
オウクからの占報受信に応じ、広場へと集まっていた使節団の面々の中で、その映像を見守っていたミユは、声を震わせ、恐怖に満ちた弱々しい声でそう呟いた。
「ソウタさんが――怖いの?、ミユちゃん」
――と、辺りに漂う、畏怖の雰囲気を感じた、盲目であるユキは……訝しげに、そして、不思議そうに、ミユへ解説を求めた。
「怖い――でしょうね。
今の……鬼面を被り、その様どおりに、鬼神が如く――人々を蹂躙する。
そんなソウタの姿は、普段の優しさを知る者ほど、信じられない光景でしょうね」
解説に応じたのは、問われたミユではなく――今回は、皆と共に広場で占報を観ていたアヤコだった。
「目が見えない私にも、それは皆さんの界気の"色"で感じています。
ですから、それがとても驚きで……」
ユキは、切なそうにそう言って、両目を覆った眼帯に悔しげに触れた。
「これが、刀聖様――ソウタさんが、今のツクモへ向けて見せるべき、畏怖の姿なのですね」
ユキの隣で、共に占報を観ていたレンは、これも切なそうに下唇をグッと噛み締めた。
「ソウタは――この世界に刀聖を、光の刀を、自分を恐れさせるために、あの場へと到り、こうして多くの命を奪った。
でも――あの子の養母として、これだけは言わせて?
せめて、このツツキの民――いいえ、私と貴女たちだけでも、彼を殺戮者や破壊者として恐れるのではなく、彼が再び、この地に戻ったならば――私は母として、貴女たちには友人として――または、"想いを寄せる者"として、今までと変わらず、接して欲しいと」
アヤコは、そう得々と語り、レンとユキの顔を覗き込みながら、そう話の尾を切った。
「――もちろんです!、あの優しさを、真のお姿を知っているからこそ、私たちは……」
「ふふ♪、そうね。
アヤコ様――私たちにとって、それは愚問にございます」
レンとユキは、広場を覆う張り詰めた雰囲気には似合わない微笑を浮かべ、界気鏡に映る、鮮血に覆われたソウタの鬼面を、優しく見据えながらそう返した。
「領主様や、お二人だけではありませんっ!
私だって!、刀聖様の真の姿を知っていて、お慕いしている者の一人なのですっ!」
――と、ミユは小さな身体を、レンとユキの間に割り込ませ、口を尖らせて抗議の意思を示した。
「――そうだそうだっ!、お嬢ちゃんの言うとおりだぁっ!」
「ああっ!、アヤコ様だけじゃねぇ――ソウタは、あたしたちにとっても息子ですよ!」
「共に、この地へと旅をして来た、我らにとっても愚問にございますぞ」
ミユの言葉に呼応する様に、ツツキの民や、使節団の者たちの中からも、そんな声が挙がった。
「ふふ♪、ミユちゃん偉いっ!、みんなの『色』が変わったわ♪」
「でっ、でも――『お慕いしてる』は、ちょっと早いんじゃないかなぁ?」
ユキとレンは、間に立ったミユに、賞賛と注意の言葉を投げた。
「えへへ♪、ありがとうございます♪」
そんな戯れ言までが出る、柔らかい空気に変わった広場を見渡し、アヤコはただ、笑みだけを浮かべて、その先にオウクがある、南の夜空を見据える。
(たとえ――全てがあなたを恐れたとしても、あなたを心から慕う私たちは、この北の果てにて、あなたの帰りを待っているわ)
「――そろそろ、良い頃合いでしょう……皆さん、退きますぞ?」
オウクでは、腕を切断されたユキオが痛みに苦しむ様子を、界気鏡のレンズ越しに見届けていたヨシゾウが、界気使いたちに撤退を促す。
「はっ、はい、では――」
界気使いたちが界気の供給を止めると、界気鏡は輝きを失い、プッツリと占報は終わった。
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