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世界への宿題
世界への宿題(前編)
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「――先日との因果関係があると思い、承認しましたが、少し、いや――"かなり"過激な占報でしたな……」
途切れた界気鏡を見据えながら、眼鏡を外して疲れた目頭を揉み、そう呟いたのは中年痩躯の優男。
彼は、ハクキ合衆連邦、"統領"の任に着いている、ノブユキという男だ。
場面は、また大きく変わっており、ココはハクキ連邦の首都、コウランにある統領官邸――ハック城と呼ばれる、旧ハクキの国守一族が居城としていた、城の天守閣である。
「我が国の民には、観るに絶えないモノを見せてしまいましたね。
それに、明日以降の州長議会で、承認した意図を追究されそうかと思うと、既に気が滅入りますよ……」
ノブユキは、後悔した様で界気鏡を睨むと、額を抑えて細かく首を振った。
「代替わりを経た者との事でしたが、流石はあの光刃を受け継ぎし者――それを頭数で屈し様とは、南コクも実に浅はかと言えましょう」
ノブユキとは対面した座に座る、首から上が獰猛な熊の容貌をした、軽甲冑を纏った大柄な男は、そう言って酒が入った猪口を手に取り、それを咽元に呷って、険しい表情で口から垂れた酒を舌なめずりで拭う。
この熊男――正しくは、熊族と呼ばれる亜人種で、その名はモトハル――合衆連邦軍、総大将の座に着く、屈強な武人である。
熊族は、平均でヒトの2倍はある大柄な体躯と、それに因る卓越した腕力から裏打ちされた、高い戦闘力が特性で、その特性を活かし、傭兵や軍事など戦闘を生業をする者が多い。
大武会優勝者――"覇者"を輩出した数は、ヒトよりも多く……このモトハルは、四大会前の覇者であり、その勝利に因り、まだ敗戦からの復興途上だった、ハクキ連邦に歓喜を齎した英雄でもある。
「大将殿がそう仰るのは――やはり、貴公が『トーオウ楼事件』で、間近にリョウゴ様の武勇と畏怖に触れた故……ですかな?」
ノブユキは皮肉めいた表情で、モトハルにそう話を振った。
「イタいトコロを突いてくれますなぁ……我が、若気の至りを」
モトハルは、細かく背を振るわせ、申し訳なさそうに頭を垂らす。
ノブユキが挙げた『トーオウ楼事件』とは――先の大戦の最終決戦となったココ、ハック城攻防戦の末期に起きた事件だ。
ハック城の東側に設けられていた、次期国守アヤコの私室――通称『トーオウ楼』に篭る、アヤコその人と御傍衆を捕縛しようと、スヨウを始めたとした連合軍の支援の下、ハクキ宗家に対して反旗を翻した、ハクキ軍若手将校たちがトーオウ楼を攻撃――その将校たちの中には、若きモトハルの姿もあった。
戦況としては、既に国守ハクキノ・ヤスミツの自害も確認され、彼から死に際に白半玉が引き継がれたアヤコが篭る、このトーオウ楼は――ハクキ宗家にとっての最後の領土。
その小さな館を落とす事で、将校たちが戦後の立場や待遇を良くしようとする魂胆は見え見えであった。
その将校たちの前に立ち塞がったのは、暗衆界隈では最強と恐れられている御傍衆に加え、当時の刀聖――リョウゴだった。
大戦勃発の当初こそは、スヨウら連合軍側に味方していたリョウゴだったが――戦況が連合軍側に傾いた所で、彼は陣営から突如出奔。
暗ましていた行方が、やっと知れたのがなんとこの時――連合軍にとっては、まさに寝耳に水の反逆であった。
リョウゴは御傍衆を従え――いや、当時の目撃者が言うには"たった一人"で、千人は居たはずの若手将校たちが形成した抵抗勢力を蹂躙し――
「――俺は、トーオウ楼に居る、姫さんに惚れたぁっ!
そんな俺の恋人を捕まえて――ましてや、殺しちまおうとする連中は、俺が許さねぇっ!!!!
何だったら、コウランを囲んでる、十万はくだらねぇ連合軍諸共、光刃で蒸発してやっても良いんだぜ!?」
――そう、トーオウ楼の屋根の上に立って一喝!
それを請けた、連合軍の面々は慌てふためき……一気に、終戦へと舵が切られた逸話は、ツクモでは子供でも知っている事件であり、これがリョウゴとアヤコの恋仲が知れ渡っている理由でもある。
「――刀聖様の、畏怖に満ちた御姿を目の当たりにし、それと対した抵抗勢力は目が覚めた……この世界には、決して触れてはいけない、侵してはならない一線があるのだと。
それを、超えようとした先に待っているのは――"光刃に因る滅び"という、逃れようの無い戒めであるとな」
モトハルは、身を正してそう言うと、何かを思い出して居るのか、大きな体躯を縮める様に身を震わせる。
「端から見聞きすれば――男女の色恋沙汰から派生した、一人の男のワガママに感じたかもしれない。
だが、それを聞いた大巫女様や、スヨウとコクエ――残りの国守様たちの動揺ぶりと、軽率だった我らの行動への叱責は凄まじかった」
当時は自分も、レジスタンスに加担していた立場のノブユキも身を震わせ、それを誤魔化そうと、注いだままとなっていた猪口の中身を呷る。
「『貴方たちは、"破壊の神"の逆鱗に触れたのだとお解かりですか?、それが、この世界に滅びを招く行為でもあるという事も!』
――そんな大巫女ユリ様からの叱責は、今でも目を瞑れば思い出してしまう程だ……」
「あの時の事や、そんな刀聖様という存在の真の恐ろしさを知らない、所詮は学問にかぶれた思想家集団に過ぎない、南コクの輩には良い薬――いや、苦過ぎる妙薬となるでしょうな」
ノブユキは、壁に掛けられた大きなツクモ図の南コクエの版図を睨み、呆れた物越しで手にしていた猪口を卓に置いた。
「――して、統領。
我を、今この時に官邸へと呼んだ意図とは、これ如何に?」
モトハルは、口元の大きな牙を晒し、ノブユキにそう尋ねた。
「我が軍の総大将殿への御用ならば、限られておりましょう?」
ノブユキは不敵に笑い、まずはそう茶化してから――
「もはや、世界の敵と化した南コクに対した派兵の用意と、それに因るコウオウ北部への侵攻の策を、進言して頂きたい」
化したと、鋭い眼光をモトハルに向け、衝撃的な要請を口にしたっ!
「!?、なぁっ!」
モトハルは思わず息を呑み、一時言葉を失い――
「しょっ!、正気か?!、統領よ!
大戦の終結を機に、我らは……ハクキ連邦軍は、皇軍と同様に専守を旨とする軍へと改編し、他国の争いには不干渉の立場を貫いていたのだぞ?!」
――と、捲くし立てる様に言って、ノブユキの前に立ち上がる。
「その事は百も承知――なれば同様に、皇様、及びコウオウ国との同盟の契りについても、熟知しておりますでしょう?」
ノブユキは卓の上で手を組み、上目遣いにモトハルの顔を見やる。
「――無論だ。
故に我らは、先の戦役においても、各国の中では最大量の物資と、多くの義兵を派遣した」
「ですが――此度の南コクの侵攻に対しては、"州長議会"の反対もあって、援護の提供は間々ならず……結果、皇軍の敗因の一端を担った。
それも、総大将でしたらご存知でしょう?」
モトハルの反論に、ノブユキは間髪入れずに述べて論破を謀る。
「まあ、その原因は――議会を一枚岩に出来ない、頼りがいの無い統領の求心力の無さ故ではありますがね」
――そんな、語尾には自虐の弁も加えて。
「それは、統領の失態ではござらん。
南コクの思想に呼応している面が垣間見える南部の"州長"たちと、北コクの体制を真似ようと主張する、東部の州長たちが手を組み、反対に周られては……今は議会制、多数決を意思決定の旨としている国体である以上は、どんなに必要な政策だろうと成すには至らない――それがたとえ、どんな国難の折だろうとな」
モトハルは苦虫を噛んだ様な渋い表情を見せ、また大きな牙を晒す。
説明が少し遅れたが、合衆連邦と名乗っているとおり――今のハクキは、全てで33の州が集まって構成された連邦国家であり、連邦全体規模に関わる政策を決めるには、"州長"――言わば、各州の知事が議員となって参じる『州長議会』を通さなければ成立、実行されない。
春分から秋分に掛けてまでの『非召集期間』の有事ならば、ある程度の決済は統領宰相の裁量で行えるのだが、今は丁度、翌年の連邦予算などを審議する季節に当り、州長議会には各州の長が勢揃い。
ノブユキの裁量で決する事が出来る事柄は、僅かでしかないのだ。
「――ですが、そんな情勢も、一気に動くやもしれません。
遠きオウクが地にて、当世刀聖様が――"果たして、それで良いのか?"、そう我々に、この世界自体に"宿題"を示した今ならば」
ノブユキは、そのモトハルの表情に応じて、悔しげな苦笑いを見せてうな垂れた後、決意を感じる面持ちでそう言い放った。
途切れた界気鏡を見据えながら、眼鏡を外して疲れた目頭を揉み、そう呟いたのは中年痩躯の優男。
彼は、ハクキ合衆連邦、"統領"の任に着いている、ノブユキという男だ。
場面は、また大きく変わっており、ココはハクキ連邦の首都、コウランにある統領官邸――ハック城と呼ばれる、旧ハクキの国守一族が居城としていた、城の天守閣である。
「我が国の民には、観るに絶えないモノを見せてしまいましたね。
それに、明日以降の州長議会で、承認した意図を追究されそうかと思うと、既に気が滅入りますよ……」
ノブユキは、後悔した様で界気鏡を睨むと、額を抑えて細かく首を振った。
「代替わりを経た者との事でしたが、流石はあの光刃を受け継ぎし者――それを頭数で屈し様とは、南コクも実に浅はかと言えましょう」
ノブユキとは対面した座に座る、首から上が獰猛な熊の容貌をした、軽甲冑を纏った大柄な男は、そう言って酒が入った猪口を手に取り、それを咽元に呷って、険しい表情で口から垂れた酒を舌なめずりで拭う。
この熊男――正しくは、熊族と呼ばれる亜人種で、その名はモトハル――合衆連邦軍、総大将の座に着く、屈強な武人である。
熊族は、平均でヒトの2倍はある大柄な体躯と、それに因る卓越した腕力から裏打ちされた、高い戦闘力が特性で、その特性を活かし、傭兵や軍事など戦闘を生業をする者が多い。
大武会優勝者――"覇者"を輩出した数は、ヒトよりも多く……このモトハルは、四大会前の覇者であり、その勝利に因り、まだ敗戦からの復興途上だった、ハクキ連邦に歓喜を齎した英雄でもある。
「大将殿がそう仰るのは――やはり、貴公が『トーオウ楼事件』で、間近にリョウゴ様の武勇と畏怖に触れた故……ですかな?」
ノブユキは皮肉めいた表情で、モトハルにそう話を振った。
「イタいトコロを突いてくれますなぁ……我が、若気の至りを」
モトハルは、細かく背を振るわせ、申し訳なさそうに頭を垂らす。
ノブユキが挙げた『トーオウ楼事件』とは――先の大戦の最終決戦となったココ、ハック城攻防戦の末期に起きた事件だ。
ハック城の東側に設けられていた、次期国守アヤコの私室――通称『トーオウ楼』に篭る、アヤコその人と御傍衆を捕縛しようと、スヨウを始めたとした連合軍の支援の下、ハクキ宗家に対して反旗を翻した、ハクキ軍若手将校たちがトーオウ楼を攻撃――その将校たちの中には、若きモトハルの姿もあった。
戦況としては、既に国守ハクキノ・ヤスミツの自害も確認され、彼から死に際に白半玉が引き継がれたアヤコが篭る、このトーオウ楼は――ハクキ宗家にとっての最後の領土。
その小さな館を落とす事で、将校たちが戦後の立場や待遇を良くしようとする魂胆は見え見えであった。
その将校たちの前に立ち塞がったのは、暗衆界隈では最強と恐れられている御傍衆に加え、当時の刀聖――リョウゴだった。
大戦勃発の当初こそは、スヨウら連合軍側に味方していたリョウゴだったが――戦況が連合軍側に傾いた所で、彼は陣営から突如出奔。
暗ましていた行方が、やっと知れたのがなんとこの時――連合軍にとっては、まさに寝耳に水の反逆であった。
リョウゴは御傍衆を従え――いや、当時の目撃者が言うには"たった一人"で、千人は居たはずの若手将校たちが形成した抵抗勢力を蹂躙し――
「――俺は、トーオウ楼に居る、姫さんに惚れたぁっ!
そんな俺の恋人を捕まえて――ましてや、殺しちまおうとする連中は、俺が許さねぇっ!!!!
何だったら、コウランを囲んでる、十万はくだらねぇ連合軍諸共、光刃で蒸発してやっても良いんだぜ!?」
――そう、トーオウ楼の屋根の上に立って一喝!
それを請けた、連合軍の面々は慌てふためき……一気に、終戦へと舵が切られた逸話は、ツクモでは子供でも知っている事件であり、これがリョウゴとアヤコの恋仲が知れ渡っている理由でもある。
「――刀聖様の、畏怖に満ちた御姿を目の当たりにし、それと対した抵抗勢力は目が覚めた……この世界には、決して触れてはいけない、侵してはならない一線があるのだと。
それを、超えようとした先に待っているのは――"光刃に因る滅び"という、逃れようの無い戒めであるとな」
モトハルは、身を正してそう言うと、何かを思い出して居るのか、大きな体躯を縮める様に身を震わせる。
「端から見聞きすれば――男女の色恋沙汰から派生した、一人の男のワガママに感じたかもしれない。
だが、それを聞いた大巫女様や、スヨウとコクエ――残りの国守様たちの動揺ぶりと、軽率だった我らの行動への叱責は凄まじかった」
当時は自分も、レジスタンスに加担していた立場のノブユキも身を震わせ、それを誤魔化そうと、注いだままとなっていた猪口の中身を呷る。
「『貴方たちは、"破壊の神"の逆鱗に触れたのだとお解かりですか?、それが、この世界に滅びを招く行為でもあるという事も!』
――そんな大巫女ユリ様からの叱責は、今でも目を瞑れば思い出してしまう程だ……」
「あの時の事や、そんな刀聖様という存在の真の恐ろしさを知らない、所詮は学問にかぶれた思想家集団に過ぎない、南コクの輩には良い薬――いや、苦過ぎる妙薬となるでしょうな」
ノブユキは、壁に掛けられた大きなツクモ図の南コクエの版図を睨み、呆れた物越しで手にしていた猪口を卓に置いた。
「――して、統領。
我を、今この時に官邸へと呼んだ意図とは、これ如何に?」
モトハルは、口元の大きな牙を晒し、ノブユキにそう尋ねた。
「我が軍の総大将殿への御用ならば、限られておりましょう?」
ノブユキは不敵に笑い、まずはそう茶化してから――
「もはや、世界の敵と化した南コクに対した派兵の用意と、それに因るコウオウ北部への侵攻の策を、進言して頂きたい」
化したと、鋭い眼光をモトハルに向け、衝撃的な要請を口にしたっ!
「!?、なぁっ!」
モトハルは思わず息を呑み、一時言葉を失い――
「しょっ!、正気か?!、統領よ!
大戦の終結を機に、我らは……ハクキ連邦軍は、皇軍と同様に専守を旨とする軍へと改編し、他国の争いには不干渉の立場を貫いていたのだぞ?!」
――と、捲くし立てる様に言って、ノブユキの前に立ち上がる。
「その事は百も承知――なれば同様に、皇様、及びコウオウ国との同盟の契りについても、熟知しておりますでしょう?」
ノブユキは卓の上で手を組み、上目遣いにモトハルの顔を見やる。
「――無論だ。
故に我らは、先の戦役においても、各国の中では最大量の物資と、多くの義兵を派遣した」
「ですが――此度の南コクの侵攻に対しては、"州長議会"の反対もあって、援護の提供は間々ならず……結果、皇軍の敗因の一端を担った。
それも、総大将でしたらご存知でしょう?」
モトハルの反論に、ノブユキは間髪入れずに述べて論破を謀る。
「まあ、その原因は――議会を一枚岩に出来ない、頼りがいの無い統領の求心力の無さ故ではありますがね」
――そんな、語尾には自虐の弁も加えて。
「それは、統領の失態ではござらん。
南コクの思想に呼応している面が垣間見える南部の"州長"たちと、北コクの体制を真似ようと主張する、東部の州長たちが手を組み、反対に周られては……今は議会制、多数決を意思決定の旨としている国体である以上は、どんなに必要な政策だろうと成すには至らない――それがたとえ、どんな国難の折だろうとな」
モトハルは苦虫を噛んだ様な渋い表情を見せ、また大きな牙を晒す。
説明が少し遅れたが、合衆連邦と名乗っているとおり――今のハクキは、全てで33の州が集まって構成された連邦国家であり、連邦全体規模に関わる政策を決めるには、"州長"――言わば、各州の知事が議員となって参じる『州長議会』を通さなければ成立、実行されない。
春分から秋分に掛けてまでの『非召集期間』の有事ならば、ある程度の決済は統領宰相の裁量で行えるのだが、今は丁度、翌年の連邦予算などを審議する季節に当り、州長議会には各州の長が勢揃い。
ノブユキの裁量で決する事が出来る事柄は、僅かでしかないのだ。
「――ですが、そんな情勢も、一気に動くやもしれません。
遠きオウクが地にて、当世刀聖様が――"果たして、それで良いのか?"、そう我々に、この世界自体に"宿題"を示した今ならば」
ノブユキは、そのモトハルの表情に応じて、悔しげな苦笑いを見せてうな垂れた後、決意を感じる面持ちでそう言い放った。
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