流れ者のソウタ

緋野 真人

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三者会談

三者会談

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「へへ――紫珠輪の扱い、上手くなったねぇ、シオリさん」

 紫珠輪の守が敷かれる様を見届けたソウタは、ニヤリと笑いながらそうシオリを誉めた。

「いっ、いえ……その様な世辞はお止めください、ソウタ殿」

 シオリは頬を赤らめ、恥ずかしそうに俯き…、照れながら、ソウタの顔を上目遣いに覗く。


(なっ――なんて事?!、あのシオリが!、こんな甘い顔をソウタには見せているだなんて!)

 そのやり取りを観ていたサトコは、口を半開きにし、啞然として目を丸くしていた。

(しっ!、しかも……あの恥じらいを醸す物越しと、頬を火照らせて上目遣いに照れる様は――明らかに!、目の前の殿方に、恋焦がれている乙女の表情ぉっ!

 あの女神の如く整った顔で、それをするのはある意味反則よ!)

 サトコは、心中で苦々しく着物の袖を噛み、ソウタと微笑みあっているシオリを凝視する。

(それに――ソウタとのあの親しげな感じ!、もっ!、もしかしてぇ……私よりも"イロイロな面"で、"先"に進んでる!?)


 確かに――このサトコの邪推は、あながち間違ってはいない。

 流石にサトコとて、ソウタに全裸を晒した経験は無いのだから。


(――既に、私はソウタと結ばれる事を諦めている立場とはいえ、この様になる事は想定せず、安易にソウタをクリ社に差し向けた……

 私はやっぱり、愚かで浅はかな女なのね……)

 サトコは次に、ガックリとうな垂れ、絶望的な表情で途方に暮れる。


「――皇様、お久しゅうございます。

 クリ社がシオリにございまする」

 うな垂れているサトコの目の前に立ち、シオリは神官の作法でサトコに拝礼を示した。

「あっ、こちらこそ――久し振りね、シオリ。

 いえ、もはや"大巫女様"と、呼ぶべきでしょうね」

 我に返って、シオリの挨拶の応じたサトコは、彼女の首に輝く紫珠輪を見据えてそう言った。

「いえ……"堅苦しい事を"とは言われますが、テンラク様にて儀式を終えぬ限りは、その名を頭上に頂くは、些か憚れます」

「ふふ、相変らずですね、貴女は」

 シオリは拝礼したまま、面を上げずに襲名を固辞すると、サトコはそれに苦笑いで返した。


「さて――お二人さんのご挨拶は、もう良いかい?

 俺は、チャッチャっとハナシを進めてぇんだが?」

 ソウタは、面倒臭そうに頭を掻き、両者に目配せをして意思を確認する。

「ええ、ソウタ殿――お願いします」

「さて、ソウタとシオリ――刀聖と大巫女が、わたしに伝えたい事とは何?

 まあ、この様な趣向を組んだ時点で、"神言絡みの用件"だとは察っしていますけれど」

 シオリは、ソウタの言葉を受けて深く頷き、サトコは不敵に笑って、対している二人の瞳を凝視する。


「サトコ――俺とシオリさん、それにアヤコ様は、"アマノツバサノオオカミ"と会った」

「――っ!?」


 その後――ソウタたちがチヨ……アマノツバサノオオカミの傀儡から聞いた、この世界の成り立ちに関する事や、今のツクモに起こっている事柄は、"かつての人々"が予期し、懸念していたとおりの状況である事を伝えた。


「――では、スヨウが、ノブタツ様が、ヤマカキでの虐殺に及んでまで、我らコウオウとの戦に踏み込んだのは……」

「――ああ、南北コクエが、翼域を切り取りたくてウズウズしてた。

 だから、てめぇが先に切り取っちまって、奴らを牽制するつもりだったか、もしくはアイツらを誘き出そうとしてたんだろうな。

 翼域っていう、お花畑の花を摘んで見せる事で――その花の蜜を狙ってる、南北コクエっていう"蜂"に、その蜜のニオイを嗅がせて、群がったトコで一網打尽にしようってな」

 聡く話を理解したサトコが、胸の奥に残っていたつっかえが落ちた様な、得心した表情で言いかけた言葉に、ソウタは目を瞑って、それに自論と独特な言い回しを混ぜたモノを被せる。

「――んで、こっからが本題。

 そんな、封権主義と民主主義――古くせぇ考え方と、一癖も二癖もある新しい考え方が、グチャグチャしてきた今のツクモを、んな面倒な頃の刀聖である俺は、一体どうしたいのか。

 先にぶっちゃけちまえば、皆を生き残らせるのか、滅ぼしちまうのか――てぇハナシなワケだ」

 ソウタは、シオリとサトコの顔を順に眺め、ふぅっと一息溜め息を吐き――

「俺は――いんや、刀聖おれたちは、"滅ぼしたくねぇ"ってのが基本線根っこにあるんだと思ってる。

 そのために、"滅ぼさなくても良くなる様に"手を替え品を替え――『邪』なんて名付けて、"かつての人々"の願いとは違った事をしようとしたヤツらを、取っちめたりして来たんだと思うんだ。

 だから、俺の方針もそれを倣うべきだろうし、俺もそれが良いと思ってる」

 ――と、卓に両肘を立て、両手を組んで口を覆いながら言った。

「だけど今は"神言の秘密"を、"かつての人々の思い"を――知る事が許されてる『三人の守護者』が、各国の政治の決定権を持ってる時代じゃあない。

 だから俺が――刀聖が、光の刀で取っちめれば終わるモンでもなくなってる。

 だから、やらねぇといけねぇんだ――この場にいる俺たちがな」

 ソウタは、そう言葉を続け、キッと目を見開き、再度二人の顔を順に眺める。


「俺がオウビやオウクで、占報っていう万座の前で、一騒動起こしたその意味――サトコは解るか?」

「ええ、"南北コクエがしようとしている事は『邪』と呼べる行いなのではないか?"、それを問い掛けているのでしょう?」

 ソウタからの試す様な物言いに、サトコは淡々とそう答えた。

「そうだ――荒療治にはなっちまうが、北コクや南コクがやろうとしてる事の矛盾や愚かさを、こうして万座の前に晒し、それを皆に見せねぇと――『民主主義』の中じゃあ、政変や世直しは起きねぇ。

 だから、それを刀聖おれが見せようと思った」

 ソウタは、サトコの聡さを喜んだ表情で、満足気に言う。

「それを見せる事で、皆に気付かせるための『種』は撒いた――んじゃあ、種を撒いた後にするべき事は……」

「芽吹くのを待つ事――そのために、その芽吹きを阻害する様な事をしてはならない――ですね?、ソウタ殿」

 今度は、ソウタの呟きを遮る様に、シオリが口を挟む。

「――ああ、だから俺は、俺たちは……これから"とんずら"を決め込むのさ♪

 北の果て――"ツツキ"にな」

 ソウタはそう言って、壁に掛かったツクモ図の北端を指差し、したり顔で笑って見せた。
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