流れ者のソウタ

緋野 真人

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刀聖軍

刀聖軍(前編)

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「にっ、逃げるぅぅぅ~~~~っ?!」


 指揮室に呼ばれた、タマたち待機中の面々は、ソウタから告げられた意外な方針に、目を見開いて一様に驚きの声を挙げた。


「――そうだ、俺たちは、ツツキに戻る」

「そして、私たちは、その北の果てに篭るのです」

「世断ちの樹海という、容易には開ける事が出来ない――"岩戸"の中に!」

 皆の前でソウタ、シオリ、サトコの順に、三人が至った結論をそんな比喩も加えて言い放った。


「ちょっ!、ちょっと待ってよ!

 ココに来たのは、テンラクを取り戻すために、士団の人たちと一緒に戦うからじゃないの!?」

「猫族の嬢ちゃんの言うとおりだな……俺ら、オウビのヤクザ者だって、そのつもりで、てめぇの舎弟をしてろって言う、大親分の指図を請けたんだぜ?」

 憤慨して、ソウタに詰め寄るタマに、リュウジが援護する体でその真意を尋ねた。

「テンラクを牛耳ってる、謀反を起こした連中とは、ツツキに帰るために一戦交えにゃなんねぇ事は替わりません。

 やり合うのが、聖なる都の膝元でまとめてか、樹海の入り口で、横槍を入れて来そうな八番隊単隊とやり合うのか――その違いだけってハナシですよ」

 ソウタは、淡々と持論を展開し、反論の声を挙げたリュウジたちを言い含める。

「――でもっ!、ソウタが、刀聖が……テンラクを、元に戻してくれるって信じてる、ミユの気持ちはどうなるんだよぉっ?!」

 タマは、どうしても納得出来ず、声を荒げて更に詰め寄った。

「――タマさん、ミユを始めとした皆の思いは……私たちも、重々承知です。

 ですが、今は"その時"ではない、そう至ったのですよ……」

 シオリは、悔しげにそう言って、タマとソウタの間に割って入った。

「よせ、タマ――その気持ちを、痛いほど知ってるシオリが決めた事なんだ……解ってやれ」

 ギンは、タマの肩をポンと叩き、彼女の憤慨を諌める。


「――その話し合いの場に、この砦を選んだという事は、僕ら士団にも、"一緒にツツキに篭れ"――そう、仰っていると思っても良いのかな?」

 ――と、憤慨でも反対でもなく、ソウタたちの思惑の意味を、そう解釈して述べたのはヒロシだ。

「そうです――三番隊と六番隊、計七千有余の戦力を、俺はまとめてツツキに引き入れてぇと思ってます」

 ソウタは、ヒロシの指摘を認め、一分の否定も無くその意図を認めた!


「!?、ソウちゃんっ!、それはマズイよぉ~っ!」

「――だな。

 ツツキが、延いては御家方様が、そもそも"特級戦犯"である我らが――それだけの戦力を領内へと迎えたとなれば、ハクキ連邦との軋轢は必至ぞ?」

 ソウタが、更に暴露した腹の内に、次に異論を挙げたのは、ヒカリとアオイだった。

「んなコト言ってる場合じゃあねぇだろ?、んなモン”刀聖様の御意思"とでも、言っときゃあ黙んだろ?」

「あぁ~っ!、ソウちゃんのズルっ子ぉ~!

 普段は、刀聖様扱いするなって言ってるクセにぃ~!」

 ソウタの短絡的な返しに、ヒカリは頬を膨らませて抗議する。

「――誤魔化すな、そこな隊長の含み笑いを観ていれば解る。

 もっと、重大な戦略的意向があるのだろう?、そして、御家方様もそれはご承知と勘ぐるが?」

 対してアオイは、ソウタの腹の中の先を読み、そう言って更なる開示を求める。


「そこまで言われちゃうと、僕が推察しちゃおうかなぁ?

 ソウタ殿の思惑は、翼域や皇様の威厳を基に、旧三大国に向けて敷かれた"旧来のモノ"とは違う――新しい"三竦み"の状況を造って、互いの勢力が思う様には動けなくするてコトじゃあないかい?」

 アオイの言うとおり、含み笑いで斜に構えていたヒロシは、自ら口を開き、ソウタの思惑をそう推察して見せる

「――そうです。

 今のツクモは、古いとされる考え方を守って、君主を頭に頂いた政治を続けるべきだという、保守派のスヨウ。

 とにかく、そんな古い考え方や君主制を根絶やしにして、民の意思が全てを決める様にすべきだって言う、革新派の南北コクエ。

 その二者に対して、どっちつかずにウロウロせざる負えない、中道派のハクキ連邦――この、三つの勢力がある。

 んで、ハクキは今、俺の起こした騒動のせいもあって、どっちかって言うと保守に傾いているっていう状況だ」

 ソウタは、順に今の現状を並べ、まずは皆にその理解を求め――

「――ってぇなると、南北コクエの分が悪くなって、それに俺らも加わって取っちめれば、テンラクも取り返せて、"悪いコト"を企んでた、南北コクエが倒れて万々歳っ!――とは限らねぇのが、世の中ってモンの厄介なトコなのよ、コレがね」

 ――と、彼は講談師よろしく、卓を平手で叩いて仰々しく語り出す。

「一旦、新しい考え方を覚えちまったら――その甘美で、理想的な考え方を忘れられるワケがなくて、それに不満を残すヤツが必ず出て来る。

 その繰り返しで、結局刀聖おれたちが、滅ぼさなきゃならなくなっちまうのがオチだ」

 ソウタは、切なそうに、腰に差した光刃の鞘を覗き――

「――だから、とりあえず、てめぇらの好きな様に、俺たちが思う様な『邪』なやり方で、好きなだけやらせてみるのさ♪

 俺たち……滅びの執行者である刀聖、調律者である皇、先導者である大巫女――それらが、一斉に世の中の動きからそっぽ向いてやるんだよ。

 本当にそれが良いのか?、果たして、それが正しい、素晴らしい事だと思えるのか?、それを――じぶんたちの意思と、目と、実感で確めさせるのさ。

 でも、何でも好き勝手にやられちまうのも良くはねぇから、何時でも、北の果てから睨みを効かせてる必要はあるから、皆にはツツキで、目を光らせてる事を頼みてぇのさ」

 ――と、外した柄を弄びながら、彼は不敵に笑い、そう言葉を結んだ。


「つまり――保守と革新の二派の動きに、日和見に傾向するハクキとは、違う意味の"中道"。

 即ち、"完全な中立"に立ち、両派の横暴を監視する立場……言わば『刀聖軍』として、政治的な思惑は省き、只々このツクモの乱れを鎮めるため"だけ"に動く――と言ったトコロかな?」

 ソウタ以上のしたり顔で、ヒロシは不敵に笑いながら、そう話を纏める。

「ええ、コウオウやテンラクを取り返すのは、悪ぃが後回しにさせて貰って、まずはツクモの"空気"を入れ替えてやらねぇと、何度も言うが堂々巡りでしょ?

 だったら――無いモノ強請りをして喚くより、素直に待ってみようってぇコトさ♪」

「ふふっ♪、それで自らを、横暴に殺戮を繰り返す悪役――いや、言うなれば"ある種の災害"として、占報という万座の舞台に立ったワケか。

 まったくキミは、本当に酔狂な千両役者だよ」

 ソウタが、屈託のない笑顔で言った楽しげな響きの言葉に、ヒロシは呆れた物言いでそう応じた。
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