流れ者のソウタ

緋野 真人

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助っ人

巧妙

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「――というワケで、俺が別件で居ない間に、イロイロと大変だったってコトね?」

 ――その翌日、一日遅れで北方砦に到着したソウタは、何度も頭を下げるシオリを前に、難しい顔をしながらそう呟いた。


「申し訳ございません――"先導者"という立場の者が、この様に決断力に乏しいのは、お恥ずかしい事だと思います」

 シオリは、自分の不甲斐無さを悔いて涙を滲ませ、またソウタに頭を下げた。


「――アキト!、よく息災で!」

「姉上――お久しゅう、ございました」

 また一方では、姉と弟の再会が催され、互いに力強く抱擁し合っていた。


「サトコ、これで安心だな?」

 その嬉しそうな姉弟ふたりの様子には、ソウタも顔を綻ばせ、抱き合う二人の肩にそっと手を置く。

「ええ、これで俗世における憂いは消えました――ソウタ、ありがとう」

 サトコは、アキトの肩に置かれたソウタの手を握り、嬉し涙を滲ませた眼差しを送る。


「姉上……ソウタ殿との事、深くお察しいたします……」

 その様子を、同様に見ていたアキトは、その様子に悲哀を感じ――姉に慰めの言葉を送った。


「えっ!?、もしかして――聞いたのですか?、というか、教えたのですか?!」

 サトコは、アキトに送られた言葉に、弟その人へではなく、ソウタに向けてそう尋ねた。

「"成り行き"でな――つーか、お前が『後の義兄あに』だなんて、言ってたのも悪いだろう……」

 不満そうに頬を膨らませ、アキトに経緯を話した事に抗議するサトコに、ソウタも頬を膨らませながら、ツンと彼女の額を小突く。


(やはり――同い年である皇様なら、ソウタ殿と並んでも似合って見えるわ……

 それに比べて、六つも年上の私では……)

 見詰め合う恰好のソウタとサトコの姿を観て、胸に何かが刺さった様な気がしたシオリは、それを感じた所をサッと抑える。


「ねえねえ?、そろそろ良いかなぁ?

 その『イロイロ』の、当事者たちを連れて来たんだけど……」

 ――そう、ソウタに声を掛けて来たのはハル、その側にはヒロシとミスズが並んで立ち、ハルが持った縄の先には……一応は拘束されているハヤトが居た。


「ソウタ殿――お久し振りにございます」

「どうも……ミスズさん」

 儀礼的な挨拶をして来たミスズに、ソウタは会釈で返した。

「ツツキ――行きたくないっスか?」

「私のわがまま、どうかご容赦くだされ……」

 渋い表情で問うソウタに、ミスズは神妙な面持ちで平伏する。

「――んじゃあ、別に良いっスよ」

「えっ!?」

 ソウタが放った、幾分思いも寄らないアッサリとした応答に、その場の者が皆驚いた声を挙げる。


(――へぇ?、なかなか面白ぇアンちゃんみてぇだな、当世の刀聖サマってのは)

 その中でも――腰紐に縛られているハヤトは、楽しげに笑みを漏らす。


「無理強いじゃ、この策を謀った意味がねぇからね――皆に、それで良いのかと気付かせるっていう、大事な意味が。

 だから、ミスズさんと一緒に、俺らに付いて行きたくねぇて人が居んなら、連れて行ってやりゃあ良いし、無理強いにつき合う必要はありませんよ」

 ソウタは、さも当然の様にそう言って、ミスズに微笑みかけた。


「でっ、では――」

「――ただしっ!」


 ――ビシッ!、などという効果音までが聞こえそうな勢いで、ソウタは、何かを言い掛けるミスズに向かい、人差し指を立てた。


謀反一派れんちゅうを少数で迎え撃って、砦を枕に皆で討ち死にとかはナシです!

 俺らが翼域を出るまで、ツツキに向かうまでは、一緒に来て貰いますよ?」

 ソウタは、笑顔を厳しいモノへと変じ、鋭い眼光でミスズに圧迫感を浴びせる。

「翼域と樹海の境――"聖狭間"まで、俺らに付いて来てください――それが条件です」


 聖狭間とは、ソウタが触れたとおり、翼域と世断ちの樹海との境に拡がる――小規模な湿原を現す呼び名だ。


「――んで、どこででも、何をしてても良いっスから、俺らが"コトを起こす"まで、生きていてください……そんで、俺らの味方をしてくださいよ?」

 ソウタは、今度は縋る様に、ミスズへ懇願染みた願いを言う。


「――ソウタ、殿ぉ……」

 その姿と表情を見たミスズは、平伏したままフルフルと拳を握り――

「――いや、刀聖様に!、その様な御言葉を頂いた以上は、この不肖ミスズ――必ずや!、その際には参陣仕りまする!」

 ――ボロボロと光栄の涙を溢し、背を小刻みに震わせた。


(――上手いね。

 ミスズみたいな堅物には、コレは相当効くよ……)

 そのやり取りを見届けたヒロシは、苦笑いを浮かべながら、妙な頷きを見せた。


「ふぅ――さて、次は……」

 ソウタは、気恥ずかしそうにこめかみを掻きながら、ハヤトの方へと目線を移す。

「――初めましてっスね、二刀烈警……ハヤトさん」

「へへ♪、そうだねぇ……刀聖サマぁ♪」

 ソウタは少し、威圧する様な表情と気配を放って声を掛けたが、ハヤトは飄々と、それを受け流す様な返事で応じた。


(へぇ?、流石は――大武会で師匠と渡り合ってたって御仁だ。

 コレぐらいじゃあ、ちいとも動じねぇかい……)

(良い後継者を育てたみてぇだな?、リョウゴの野郎め……)


 ハヤトの反応を見たソウタが、嬉しそうに笑みを溢すと、ハヤトもそれを悟った様に、似た意図を匂わす笑みを返す。


「助っ人――してくれるんスか?」

「ああ、もう、おっさんに成っちまった年齢としじゃあるが――ソコソコは働けると思うぜ?」

 二人は、同じ表情のままそう会話を交わし――

「――じゃあ、お願いしますかね」

「おう、任しとけ♪」

 ――ソウタの率直な要請に対し、ハヤトは大きく首を縦に振って応えた。


「ソッ、ソウタ殿!」

「ミスズさん?、一緒に行かない事は許したんだから――ソコはさ、"手打ち"でしょ?」

 また――何かを言いかけたミスズを制する形で、ソウタが振り向き様に人差し指を立てると、彼女は塩を降られた菜の如くうな垂れる。


「……お見事です、大神官様」

「えっ?」

 昨日までの懸案が、とんとん拍子に決着していく様を見終えたヒロシは、満足気に同じ様を見渡していたシオリへ、そんな賛辞を投げた。

「"ソウタ殿ならば、上手く治めてくれる"――そう思ったから、この様な丸投げめいた裁可の委任だったのでしょう?」

 ヒロシが、ニヤリとしたり顔でそう言うと、シオリはフルフルと首を横に振り――

「――いいえ、単に結論を窮しただけでございますよ。

 まあ確かに、その様な期待が微塵も無かったと言っては、偽りの言葉となってしまいますが」

 ――そう返して、安堵の情が滲み出る笑みを浮べた。
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