流れ者のソウタ

緋野 真人

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聖狭間退却戦

変転

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「――隊長!、三軍将殿!、ご報告でありますっ!」

 一人の八番隊員が、背に差した旗印を揺らしながら跪き、休憩を取っている、両将の前で畏まった。


 その八番隊員の顔を観た八番隊長ヤヒコは、茶を咽元に煽り、行軍の間に覚えた渇きを潤しながら……

「――ふはっ!、どうだったよ?、刀聖やミスズたちの動きは?」

 ――と、ふてぶてしく尋ね、報告を促した。

「はっ!、刀聖は、不平学徒の捜索を行っていたオウレン風紀方と遭遇し、それらを蹂躙。

 そして、東砦を放棄した三番隊は、北方砦へと入り六番隊と合流――刀聖もその後、それに加わった由との事……」

 八番隊員は淡々と、物見や暗衆筋から渡った情報を伝える。


「ふむ……共に砦に入って篭城の構えか?

 まあ、そう見るのが定石であろうな」

 ヤヒコと並び、報告を聞いていたタカヨシは腕を組み、そう言って数度頷いて見せる。

「けっ!、こう言っちゃあ何だが――天警ウチの各砦は、どれも隊員宿舎に毛が生えた程度のモノ――篭城して、持ち応えられるシロモノじゃあねぇっスよ」

 ヤヒコは、首を横に振りながら、タカヨシの推察を全否定し――

「――それに、三番隊が合流を果たしたって事は、他からの援軍のアテもねぇんだ。

 打って出て来る"しか"、単に打てる手がねぇはずですよ」

 ――と、自信満々に持論を被せた。

「なるほど――流石は、士団の内実を心得ている、ヤヒコ殿ゆえの意見だな……感服である」

 タカヨシは、世辞も込めた言い方でヤヒコの意見に同調し、ニヤっと側に座る直属の部下と目を合わせる。

「あいつらには、打って出るしか策は無ぇんだから、このまま進んで、真っ向から討ち取ってやるのが一番っスよ」

 ――

 ――――

 その翌日――このまま行けば、いよいよ明日には接敵かという場所で、野営を敢行したヤヒコたちの下に、新たな情報が飛び込んで来た!


「――たっ!、隊長っ!、三軍将殿っ!、大変でございますっ!」

 昨日とは違い、血相を変えた恰好で告げる、報告係の八番隊員に――

「――どうしたっ!?、奴らの夜襲かっ?!」

 ――と、鎧を脱ぐのを止め、ヤヒコは臨戦態勢を取ろうとしながら、報告を急かした!


「いっ、いえ……まず、敵襲などの火急の報せでは、ございませんのでご安心を……」

 八番隊員は汗を拭いながら、平伏して許しを請う。

「――ったく、驚かせやがって。

 それで、一体何が大変なんだよ?」

 ヤヒコは、勘違いを呼んだ八番隊員を責める事はせず、渋い顔をして再度尋ねた。

「はっ――物見からの渡りに因りますと、北方砦に入った刀聖を加えた三、六番隊の出陣を確認――ですが連中は、我らの方へではなく、"北西へ"と行軍を始めた由。

 連中が発った北方砦は、蛻の殻と化し、東砦と同様に放棄された体との事……」

 八番隊長は、不思議そうな面持ちでそう答え、冷や汗を額に滲ませた。

「――北西だと?!、つまり……八番隊おれたちの砦、ホロミネ砦を狙ってやがるのか?!」

「はい――故に、"大変"と申した次第でございます」

 戦況を見据えたヤヒコが、険しい表情でそう応じると、八番隊員も似た様な表情で、大変と述べた経緯を明かした。


 ホロミネ砦とは、八番隊の管轄である翼域北西部の山岳地帯に設けられている砦。

 その辺りを根城にしている、山賊の類に睨みを効かせている、士団の治安維持活動における重要拠点であり、各砦の中で唯一、"ちゃんとした"名も付いている砦だ。


「――ちっ!、ホロミネ砦は山の上にあるから、いわゆる天然の要塞としても使える場所と造り――確かに、裸に近い他の砦に篭るよりは、ずっとマシだ。

 それに、こうして隊の大半を連合軍コッチに回してる――砦に残ってる戦力は乏しいから、その隙に奪って、自分たちの拠点にしようって思惑はらは道理だ!」

 悔しそうに舌を鳴らし、あからさまに苛立ちを見せたヤヒコは、陣幕に掛けた地図を睨む。

「ふむ――刀聖が加わっているとはいえ……彼奴は恐らく、コウオウ戦役に義兵として参じていた点から言っても、箆棒な武勇を誇ってはいても、軍を率いる立場に座ったとは思えない。

 つまり――指揮を取っているのは、ヒロシやミスズの隊長格と思うのが妥当……どちらにしても、局面をしっかり見据えた、なかなかの策を取って来たな」

 タカヨシは小さく唸り、同様に地図を眺めながらニヤッと笑った。


「――タカヨシさん、進路を変えましょう。

 今から、先に進路を西に取って、早駆けを仕掛ければ――あいつらを"聖狭間"辺りで、迎え撃つ事が出来ます!」

 ヤヒコは、血気を帯びた表情で、地図を見やるタカヨシにそう提案をした。

「ヤヒコ殿――我らの目的は、翼域の解放運動に応じない三、六番隊が勢力を敷いている、東部と北部の制圧のはず。

 その拠点である二つの砦が、言わば空き城と化したのだから……まずは、それらを抑える事の方が肝要では?」

「それも大事だけど、あいつらを討伐しちまう方が、もっと大事っスよ!

 あいつらを討てば――それで、翼域の中の火種は『完全』に消える!

 そうすれば、チョロチョロし出したっていう、ハクキやスヨウへの対応に専念出来るんだから!」

 変わった戦況を察し、タカヨシはまず、軍略上の地盤を固める事が肝要だと諭すが、ヤヒコはこれを好機と捉え、更なる攻勢を主張する。


 ヤヒコが触れた様に、ハクキは先の占報を機に挙げ、士団へ宣戦を布告する用意があるという旨を発表――後は、議会の承認を待つばかりと言った様相で、スヨウの方は、混乱状態の南コクエ軍を相手に、コウオウへと再侵攻――手薄となっているコウオウ南部を一気に制圧しそうな勢いであるという情勢。

 それが成れば、七番隊が抑える翼域南東部への侵攻も懸念されるので、故に謀反一派は、ヒロシたちの討伐と、北部や東部の確保を急いでいるのである。


「奴らがホロミネを抑えて、北西部からテンラク様の奪還を狙ってるってのは、状況的にマズイ――解るでしょ?」

 ヤヒコは念を押す様に、攻勢の意図と効果を伝えて、タカヨシの返答を待つ。

「――解り申した、ヤヒコ殿の物言いとて尤も。

 何よりも、此度の将はそなただ――援軍に過ぎぬ我らは、それに同調すべきであろう」

 タカヨシは目を瞑り、黙って二度頷いてからそう呟き、答えを待つヤヒコの肩にスッと手を置いた。

「――ありがとうございますっ!

 皆ぁっ!、野営は中止だぁっ!、夜を徹して西へと向かい、奴らを迎え撃つ!」

 ヤヒコは、手を挙げながらそう叫び、皆を鼓舞して行軍を急ぐ事を告げた。
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