流れ者のソウタ

緋野 真人

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聖狭間退却戦

策謀

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「――って、コトになってると、俺は思ってる」

 夜闇に包まれた野営地の陣内で、ソウタは、ニヤニヤと笑いながらそう呟いた。


 ココは――翌日の昼には聖狭間へと入らんとする地点に、野営を張った三、六番隊――いや、ココはあえて『刀聖軍』の陣であると言っておこう。


 その陣に集まったヒロシ、ミスズ、ハルの隊長格三名と『二刀烈警』ハヤト。

 そんな猛者たちの博覧会の様な光景を前に、ソウタは現在の戦況を見据えた見解を語っていた。


「――納得だね、ヤヒコの気性なら……そう来るんだと思うよ」

「そうそう――あのバカの頭ん中は、きっとソウタ殿への復讐と、姉様を捕らえて『モノ』にしようって言う、下心しか無いんだろうし」

 ソウタの講釈を聞いた、ヒロシとハルは何度も頷き合い、互いの見解を被せた。

「『モノ』にするだなんて――その様な下卑た戯れ言を、若い乙女が軽々しく口にしては……」

 ミスズは、恥ずかしそうな目線をハルに向け、彼女の言動を諌める。


「時にソウタ殿――そんなヤヒコたちの動向を見越した上で、私に聖狭間までの同行を命じたのですか?」

 そして、ミスズは少し話題を変えて、ソウタの腹の中を探る様な尋ねをする。

「ええ――だって、ミスズさんはこう言ったんでしょ?

 "謀反一派に、一矢も酬いずにおめおめと退くワケには"って?、だから――その場を用意しようと思ってね♪」

 ソウタはそう言うと、ニヤッと笑って三人の隊長の顔を見た。

「ええ、言いましたし、それも本懐の内と心得ております」

「うん……ソウタ殿の退却策の意図は解るけど、本心としてはアタシもそれが心残りだった」

「――だね、だからあえて、謀反一派と一戦交えてから、退く手筈をしている――ってワケだね?」

 三人はそう言うと、互いに目配せをしながら頷き合う。


「俺の意図は、北の果てから睨みを効かせてやる事――そのためには、ただ逃げる様に退くんじゃ、意味が無ぇ。

 "何時でも、てめぇらを取っちめられる勢力が、樹海の向こうで牙を研いでる"――そう思わせるのが、一番重要なんだ」

 ソウタが、そう口火を切ると、続けて――

「――だから、連中を聖狭間で叩きのめして、"とりあえず、これぐらいで見逃してやるか"――ってな感じの、余裕を咬ましてやろうってコトかい?、アンタの思惑はらの内は?」

 ――と、楽しげな笑みを見せながら、ハヤトが口を挟んだ。

「悪さをするガキを大人しくさせるのに、それは良い苦ぇクスリになる――アンちゃん、その策、俺も乗ったぜぇ♪」

「へへ♪、ありがとうございます。

 流石は、師匠みてぇな人と馬が合う人だ――話の理解が早ぇや」

 ソウタとハヤトは微笑み合い、拳を軽くぶつけ合って合意の意思を示す。


「そのために――私に"仮病"を使わせて、敵方を"先に聖狭間に布陣させる"ための、"時間稼ぎ"をしているというのですね?」

 ――と、嫌味っぽくソウタの横から口を出したのは、寝巻きとして長襦袢を羽織る恰好をしているサトコだった。


「そうだ――"敵を欺くには、まず何とやら"ってコトで、この仮病を知ってるヤツは、限られてるからね」

 額には、治療用の界気を込めた星石まで仕込んである額宛をした、重病人風のサトコの頭を、ソウタは優しく撫でてやる。


 ショウゾウからの渡りで、このままのペースで進んでは、敵を待ち構える形となってしまう事を知ったソウタは、先の幽閉の影響で、サトコが体調を崩したというシナリオを造り、この野営地を設けて数日足止めを喰らったために、行軍が遅れたという自作自演を敢行したのである!


「――って、初めて知らされたのが、やっと面会が許された今って!

 アタシたちって、そんなに信用出来ないのかなぁ?」

 ハルは皮肉っぽく、そして、不満気にソウタの極秘作戦を揶揄する。

「――で?、この策はもう……皆に伝えても良いって事だね?

 明日の朝にココを発つと、陽が昇り切った頃には、奴らが迎撃体勢で待っているはずの聖狭間へ――ってコトになるはずだから、皆にも覚悟はさせておきたい」

「ええ、細かい策はお任せしますんで、城や砦じゃあないが――聖狭間を攻略する様な気でお願いしますわ」

 ヒロシからの作戦にまつわる尋ねに、ソウタは不敵な笑みを見せながらそう伝え返した。


 そして、翌日の昼――

「へへ♪、ね?、言ったとおり――待ち構えていたでしょ?」

 ――ソウタは、昨晩と同じ不敵な笑顔のまま、聖狭間に居並ぶ1万に迫る連合軍の軍勢を見やった。



「――うわぁぁぁっ!?、八番隊の旗印だぁぁっ!」

「とっ!、砦を狙っているんじゃ、なかったのかぁっ!?」

「くっそぉっ!、こんな所で足止めかよぉっ!」

 そんな怒号が響く聖狭間に着いた、士団三、六番隊の面々の蒼ざめた表情と、浮き足立った様子を観たヤヒコは、馬上でほくそ笑んでいた。


「みんなぁっ!、うろたえるなぁっ!、早く陣形を整えるんだよっ!」


「――へっ!、ザマぁねぇな、ヒロシのおっさんもよ♪」

 特に――慌て気味に馬上から下知をする、ヒロシの様子を呆れ気味に見やって。



(――ソウタ殿からの指示で、一芝居を打ってみたけど……我ながら、迫真の演技だね♪)

 当のヒロシも――心中では彼もほくそ笑み、実に楽しそうに、この一計に及んでいた。

(他の皆も――なかなかの役者ぶりだしね)


「みっ!、皆さぁ~んっ!、おっ!、落ち着きなさぁ~い!」


 少し離れた場所に居る、引き吊った表情のミスズが、わざとらしい演技を見せる様を、横目に見たヒロシは、それからは顔を背け――

(――ミスズちゃんの性格じゃ、演技は無理かと思ってたけど、芝居をする事自体に動揺してるから、逆に信憑性を醸す演技だね♪)

 ――笑い声を吹き出しそうなのを堪え、馬上からの下知を続ける。


「へへ――上々だ♪、じゃあ、コッチも動き出そうか」

 思惑どおりの展開に笑みを見せる、ヒロシたちよりは後方に居るソウタは、テンの馬首を前方へと向けながらそう呟く。


 ソウタを始めとした、ヒカリやタマ――ギン、サスケ、カオリ……それにハヤト、リュウジが率いるオウビのヤクザ者たちは、サトコとシオリの護衛に付く形で、この後方へと身を置いていた。

 ちなみに――アオイ、ショウゾウ、ヨシゾウの暗衆三名は、戦端が開かれた後の事を見越し、破壊工作や援護のため、既に別途展開済み――ハルは、ミスズの副官を務める体で六番隊の中へと加わっている。


「タマとギンは、右翼に回る手筈のヒロシさんの隊――サスケと親分たちは、左翼に回るミスズさんの隊の遊撃を務めてくれ。

 ヒカリとカオリさん――ハヤトさんは、サトコたちの護りな?」

 ソウタは、集まった皆を見渡し、開戦に備えての指示を出し始める。


「――えっ?、サトコたちの護衛……三人だけって、ちょっとマズくない?」

「そうだな――数では勝る相手ゆえ、大勢を回す余裕が無いのは解るが……」

 ――が、異議アリとばかりに、タマとギンが口を挟んだ。


「天変地異規模の界気術が使える『流洲の魔女』と『皇軍の女傑』に『二刀列警』の三人組だぜ?

 離れたトコから、観てるだけでもビビるだろうし、ヒカリには、前線への援護も頼むつもりだから、近付くのも難しい――心配はいらねぇよ♪」

 ソウタは、並んで立っているヒカリとカオリの顔を見やり、楽しげな笑みを浮かべる。


「――うんっ!、任せて!、サトコ様と大神官様を、絶対に危ない目には会わせないんだからっ!」

「ヒカリ嬢の界気術の前では、暇になりそうなのが、惜しむらくではありますがなっ!」

「へへ――腕が鳴るじゃねぇか♪、このぐらいの方がよぉ!」


 ヒカリは、逞しげに拳を掲げ、カオリは長槍の柄をを肩に乗せ、ハヤトは抜いた脇差の峰を舐めて、漲る戦意を示した。


「へへ♪、そんな恰好を見ちゃうと――アタシも負けていられないね!」

「ふっ……まったくだ」

 タマは笑みを浮かべながら、正拳の素振りを見せ、ギンは弓の弦をピンと張って開戦に備える。


「そういえば――私たちは、"常軌を逸した猛者の中"に、身を置いていたのでしたね」

「へへっ♪、こいつらだったら――確かに、お偉いさんたちの心配は要らねぇな♪」

 サスケは苦笑いをしながら、護衛班三名の顔を見渡し、リュウジはキセルの煙を燻らせながら、似たような呆れ顔を見せる。


「――で?、刀聖……おめぇは、何処に陣取るつもりだ?」

 そんな、ハヤトからの尋ねに、ソウタは――

「――俺?、俺はねぇ……」

 ――また楽しげに、彼は不敵な笑みを浮べた。
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