流れ者のソウタ

緋野 真人

文字の大きさ
169 / 207
聖狭間退却戦

衝突

しおりを挟む
「――おっ!、来るみたいだねぇ♪」

 総突撃の布れを聴いたソウタは、足踏みをしている八番隊の姿を見やり、楽しげにほくそ笑んだ。


「まあ、俺も手合わせの感じで解っちゃいたが――ヒロシさんたちも言う様に、あのヤヒコって隊長は、ホントに直情しちゃうクチなんだな。

 俺みてぇな、素人の浅はかな策に、まんまとハマっちまうなんてよ♪」

 ソウタはポリポリと首筋を掻き、呆れ気味にそう呟くと、既に抜かれている光刃を、素振りの要領で振るい、その眼光を鋭いモノへと変える。

「――んじゃ、そろそろ動きますか。

 いくらかは討ち溢しが出ると思いますから、カオリさんとハヤトさんは、それをお願いしますね?」

 後ろに居るカオリとハヤトに、ソウタは振り向かないまま、突撃の号令を待つ八番隊を見据えながら、確認の尋ねをする。


「――心得ました」

「おう、任しとけ――当世刀聖サマの戦いぶり、特等席で見物させて貰うぜ♪」

 カオリは、長槍を構え直しながら、緊張した面持ちでそう答え、ハヤトは相変らずの不敵な笑みのまま、背渡しの二刀をサッと抜き放つ。


「ソウタ、どうか無事に……」

「ソウタ殿――ご武運を」

 籠馬車の中に居る、サトコとシオリも幌から顔を出し、心配そうにソウタの顔を見詰める。

「そんなに心配しなさんな――大丈夫っスよ。

 寧ろ心配なのは、俺のえげつない戦いっぷりで、二人に怖がられそうなコトの方かな?」

 二人の、不安に包まれた表情を和らげ様と、ソウタは軽口を叩く。

「こっ!、怖がったりする事など――無用な懸念にございます!」

「ええ――例え、貴方がそれを望み、それが破壊者たる理だとしても、この場に参じた者にとっては、貴方を恐れるなど、無用というよりは無理な言い分です」

 シオリは拳を握り、怒る体でソウタの言い分に反論し、サトコは目を瞑って、シオリの言葉を噛み締める様に諭して聞かせた。

「へへ――あんがとよ♪」

 二人の優しい言葉に、照れ臭そうに率直な礼を込めて、ソウタはそう呟くと……二人の側に居るヒカリに、そっと目配せを送る

「……」

 それを、ヒカリが無言の頷きで返すと、それに何となく気付いたシオリとサトコは――

(これが――幼馴染ゆえに出来る、阿吽の疎通なのかしら?)

(ヒカリやアオイを――羨ましく思ってしまう所よね、こういうのって)

 ――と、二人は心中で、悔しげにそう呟いた。



「――全隊っ!、突撃ぃぃぃぃぃっ!」


 ――ワアァァァァァァァァァッ!!!!!!


 その時!、ヤヒコの号令が聖狭間に轟き、八番隊の皆が唸る様な怒号と共に、突撃を始めた!



「よし――じゃっ!、行って来まぁ~すっ!!!」


 ソウタも――光刃をダラリと下段に垂らしながら、たった一人の突貫を開始した。


 湿地帯が拡がり、視線を遮る物もロクに見当たらない、この聖狭間で始まった――三千を超える、八番隊の旗印を背に差した一団に対し、たった一人で……ましてや笑顔のまま、突貫するソウタの姿は、まるで荒れ狂う大波に抗う、波乗りの如くであった。


(これが――戦か?、我は……一体、何を見せられ様としているのか?)

 その、呆れるしかない眼前の光景に、タカヨシは大いに困惑していた。

「――将軍!、友軍への弓矢や界気の援護は如何に?」

「――無用であろう。

 たった一人に、無数の矢を射掛けたり、広範囲に界気を浴びせるは、無駄撃ちにしかならんと思うのが正論」

 部下が、指示の催促をすると、タカヨシは一蹴する体でそう命じた。


 ――ワアァァァァァァァァァッ!!!!!!


「――さぁて、まずは、ちいっと減って貰おうかねぇっ!」

 ソウタは、楽しげにそう叫ぶと、『突き』の恰好で光の刀を前へ突き出す――すると、光刃は一気に太く、長い形態へと変形!

 突撃して来る、十五~二十名で編成されたと見受けられる八番隊の一小隊に向け、グングンとその刀身を伸ばして行くっ!


「――ひっ!、光のぉ……っ!?」

 小隊員たちは、個人の判断で散開を始めるが、伸び進んで来る光刃の先を行く、三名ほどの者は――そんな素振りも無く、いや、"間に合わず"に突進を続ける。

 その三名ほどは、もちろん解っていたはずだ――このまま進めば、間違いなく自分たちは、この光刃の威力で五体は蒸発し、命も失うと。

 だが、その三名は光刃の威容に気圧され、迫る死の瞬間を脅える事すら忘れ、ただ只管に前へと進んだ。

 不気味な音を発て、その三名を飲み込んだ光刃は――それに構う事無く伸び続け、次々と後ろの隊員たちの身も、"美しくて禍々しい"――そんな光柱に包まれて行った。


「よっ――とっ!」

 ソウタが、そう呟いて光の刀を打刀サイズへと戻した時には――その一閃の軌跡に居たはずの、数十名の八番隊員の姿は忽然と消え失せており、これまた数十名の上下左右の半身だけが失せた遺体が転がっていた。

 その中でも、首から先があり、まだ息もある者は――失った肢体から伝わる幻肢痛ファントムペインに因り、苦悶の表情を浮かべていた。


「!?、なっ――!!!」

 後方で、その光景を見やったタカヨシは、搾り出す様な驚愕の声を挙げ、その驚きと共に、持っていた騎馬の手綱をダラリと放した。


「!!!!!、なんだよ――何が起きたってんだよぉっ!?」

 接敵した先鋒を見据えたまま、突撃に加わっていたヤヒコとその直衛たちも思わず足を止め、目の前で展開された、考えられない光景に、ヤヒコは只々苛立ち激昂する。


「!!!、凄まじい――そんな在り来たりな言葉だけでは、片付けられないわね。

 これこそが、刀聖様の"人の了見を超えた"御力……」

 ソウタが見せた光景に驚いていたのは、敵方ばかりではない。

 左翼に展開した六番隊の面々も、一様に愕然とし、その中心に居るミスズは、牙を湛えた口を覆って、その手を震わせていた。


 右翼の三番隊の面々も、同様に啞然とした眼差しを、遠目に居る鬼面を被ったソウタの威容――いや、彼が造った、"異様"と言って良い光景を見据えて、他と同じ様に驚く事しか出来ずに居た。


(そう――これが、刀聖様の逆鱗に触れた者たちの末路なんだよ。

 せいぜい……自分たちの浅はかな選択を悔いる事だ、ヤヒコくん)

 ――が、ヒロシだけは驚きはせずにほくそ笑み、ゆったりと抜刀して見せた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

処理中です...