流れ者のソウタ

緋野 真人

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聖狭間退却戦

蹂躙

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「!、弓矢隊!、界気隊を前へぇぇぇ~っ!、刀聖一人だろうと、射掛けるのだぁぁぁぁ~っ!

 むっ!、無駄撃ちなどと言っては居れん!!!!、矢と界気術の幕を張るのだぁっ!」

 我に返ったタカヨシは、慌てて下知を始めるが――

「――敵襲ぅ~っ!、敵襲ぅぅ~っ!!、敵両翼、本陣に向かっておりますっ!!!」

 ――という報せが、北コクエ陣内に轟いた。


「――さあ、僕たちも動くよぉっ!、北コクの連中に突撃だぁっ!!!!」

 ヒロシが、抜き放った刀を中天の向けて掲げ、突撃の下知を飛ばすと、右翼の三番隊が揚々と動き始めた。


「!?、くぅ~~っ!!!、両翼の狙いは!、中央に寄った敵を各個包囲する事ではなく、後方の我らへの牽制――いや!、我らと三番隊を両方から突き崩す魂胆かぁっ!!」

 タカヨシは悔しげに、そう奇声を荒げると、ワナワナと両手を震わせながら俯き――

「――"刀聖"という、"一騎当千"……いや、"一騎当万"、いやいや――"一騎当億"の戦力がある故に成せる、離れ業中の離れ業……この場はもはや、戦場に非ず"天災"!

 我らは、その最中に居ると思うが適当――撤退の布れを出せぇ!、天変地異に等しき者と戦をしても、何も得られはしないっ!!」

 ――撤退の決意を固め、指示を変えようとした……その時!


「――うわああっ!?」

「ぐっ――なっ、んだ……?!」

「ぐわっ!?」

 小さな、斬撃の音、爆発音、兵の悲鳴が、あちこちから木霊し始める。


「――!?、どうした事かぁっ!、敵影はまだ遠方のはずっ!、接敵はまだ……」

 タカヨシは指示を中断し、またも転じた状況の確認を急かす。

「――申し上げますっ!、陣内に奇襲の模様っ!

 更なる後方の物資方が襲われ、荷が焼かれておりますっ!」

「!!!!!、ひっ、退く事すら、間々ならぬというのかぁ!」

 タカヨシは両手で頭を抱え、八方塞がりとなった現状に憤って見せた。


三名さんびき暗衆むしを、陣内に放り込むだけで――こうも敵を策謀に嵌め、退路を断ち、士気も徹底的に削いで見せるとはな。

 本当に、我らは喰えない御仁の下に付いたものだ」

 物資方の大半を駆逐し、荷車に点いた火の手を眺めるヨシゾウは、光刃の持ち主を遠目に見やり、そんな皮肉めいた言葉を呟いた。

「ふん――ならば、我も呆れられておるのだろうな?

 そんな"喰えないオトコ"に、惚れている女子が隣に居って」

 遠隔暗器で、周辺の北コクエ兵を一掃して見せたアオイが、そんな同様な返しをヨシゾウに送った。

「その様な者の下だからこそ――暗衆われらは、自分の技量を存分に発揮出来るのよ」

 ――と、ショウゾウは露わにしていた暗器を仕舞いながら、表情を変えずに二人の会話に相槌を打った。


 動き出した両翼の動きと、それへの北コク勢の対応を遠目に見やったヤヒコは――

「ひっ!、ヒロシたちは後方に回ったんだ!、相手はたった一人なんだ――らっ!、楽なのはコッチの方!

 びっ!、ビビる必要はねぇっ!、刀聖を押し潰せぇっ!」

 ――と、刀を振り上げ、攻撃続行の下知を下す。


「うっ!、うわあああああああっ!!!!」


 隊長の口から放たれた下知に呼応し、八番隊員たちは突貫を再開する――"死を覚悟した"と言っても過言ではない、達観した表情で。

(恐れちゃあいるが――臆病風に参ってるてぇワケじゃない。

 流石は、天警士団の武士ってトコか……良い面構えだぜ)

 ソウタは、そんな印象を心中で呟きながら、光刃を構え直し――

「さあ、ならば敬意を払いつつ、死合おうかいっ!!!」

 ――と、彼は突進して来る一団へと向けて駆け出した。


 ――ワアァァァァァァァァァッ!!!!!!


 ソウタが駆け出すと同時に、聖狭間のあちこちで鬨の声が挙がり、刃と刃がぶつかる金属音で満たされた。


「はっ、放てぇぇぇっ!」

 天警士団では――専従としての弓隊や界気隊は設けられていないのが伝統。

 弓矢や界気を士団員が扱うのは、個人の裁量で装備した少数の者に限られ――故に、士団対士団の戦ともなれば、弓を挽く音が戦場に響く事は稀と推考出来た。

 士団、最大の弱点は遠距離からの援護――それを踏まえてタカヨシは、迫る両翼のヒロシたちの足止めを前線に徹底させ、改めて後方に下げた射手部隊の働きに活路を見出そうとした。


「うっ!、うわぁぁぁっ!?」

「――ぎゃぁぁぁっっ!」


 だが――突如、後方の射手部隊の頭上に、"大きな火の玉"や"氷の塊"が出現、降り注ぎ始め……頼みの遠距離戦法も、水泡に帰し始める。


「こっ、今度は!、何だと言うのだぁぁぁっ!?」

 情けない声を挙げ、頭を抱えて見やったタカヨシの遠目には――

「こっ!、ココで『流洲の魔女』だとぉ!?

 皇や大神官の護衛を、しているのではなかったのかぁ……」

 ――両手を白昼の空へと翳し、その中空に浮いた火の玉や氷の塊を、操り人形でも動かす様に弄ぶ、ヒカリの姿が写った。


「――ソウちゃんに頼まれた、両翼の皆さんの支援って、コレで良いのかなぁ?」

 サトコとシオリが乗る籠馬車を引く、テンの御手として鞍上に跨りながら――北コクエ軍への界気攻撃を一手に担っていたのは、"流洲の魔女"こと、ヒカリ。

 彼女は、不満気に頬を膨らませ、戸惑いも見せながら、それを淡々とこなしている。


「皇様――本当に『鬼』として、恐れるべきなのは……」

「ええ……ソウタよりも、寧ろヒカリの方――かもしれませんね」

 馬車の窓から戦況を窺がう、シオリとサトコは顔を引き攣らせ、冷や汗も額に滲ませながら、小声でそんな戯れ言を交わす。


「御二人共、すいませんねぇ~……ソウちゃんったら、とっても偉い御二人を、"釣りの餌"みたく扱って……」

 ヒカリは、掲げた両手からは目線を離し、解り易く言えば……ブラインドタッチの要領で界気を扱いながら、囮の様な立場の二人に詫びた。


 ――アキトを始めとした、オウビ大の学生たちなどの二人以外の非戦闘員は――聖狭間からは少し離れた、更なる後方に控えており、本来で言えば、二人もその中に居るのが妥当であろう。

 しかし二人は、士気高揚のために出陣して欲しいという、ソウタからの提案を二つ返事で受け入れ、この場に居るのである。


「いえ――戦の役に立てないからこそ、私たちはこの場に出張るべきなのです……それが、味方の士気を揚げるためや、敵方を引き付ける囮だとしても。

 寧ろ、後方でハラハラと報せを待っている方が、よっぽど辛いのですしね」

「――そうですね。

 いざとなれば、紫珠輪の守を敷く手もございますし――貴女やカオリ様、ハヤト様、何よりも武の象徴たる刀聖様が護る、この籠馬車は――今や、この世界で最も堅牢な城と言っても、過言ではございませんし」

 サトコとシオリは、馬車の窓から側に居る三人を見回して、そんな労いの言葉を送る。


「次世大巫女様!、勿体無き御言葉にございます!」

 その言葉を請けたカオリは、長槍をくるりと回しながら、シオリに向けてその場へ平伏、拝礼し――

「へへ♪、ユリも――随分とモノ解りが良い後継者を育てたみてぇだな♪」

 ――と、ハヤトはニヤッと笑うと、照れ臭そうに鼻頭を掻いた。


「さぁて――ソウタは、コッチを狙った伏兵とかを警戒して、俺らを置いたみてぇだが……あの様子じゃあ、居たとしても、コッチに回す余裕は無ぇな?」

 そう言って、ハヤトが指を差した先には、数百人が四方八方に渡って取り囲んでいる一団の姿があった。


「――ぎゃああああっ!」

「うわぁぁっ!!!!」

 その中から漏れ聞こえて来るのは――光刃が軌跡を描く際に発たれる、金きり音に近い不気味な音と、それに列なって響く、断末魔らしき絶叫である。


「恐らく――この場で待ってても、ただ暇なだけだ。

 どうだいカオリちゃん?、俺らも……出張らねぇかい?」

 ハヤトは、二刀を暇そうに弄び、カオリに討って出る旨を提案をした。

「そうですね――その方が、早くケリが着くでしょうし、戦場を前にして、ただ呆然と立ち尽くすは……武人の名折れっ!

 ヒカリさんっ!、籠馬車をお任してもよろしいかっ!?」

 カオリも同調し、鞍上のヒカリに確認を請うた。

「どうぞぉ~!、もう、両翼の皆さんが接敵寸前ですから、私はもうすぐ、馬車の警護に専念出来ますぅ……んでぇっ!」

 ヒカリは相変らず、界気を操っている両手とは明後日の方向へ余所見をしながら、二人の参戦を了承。

 彼女が、そのついでとばかりに、力を込めた声を上げると――既に無数の負傷者が発生している、北コクエ軍が天に仰ぐその頭上に、合わせて数百に及ぶ火の玉と氷の塊が新たに現われたっ!


「――うんっ!♪、火力や大きさを抑えたら、数は増やせた♪、これなら――良い支援になるよね♪」

 ――と、ヒカリがご機嫌に独り言めいた呟きを溢すと、カオリとハヤトも頷き合って、前方の包囲陣に向けて駆け出した。


「まっ、まだ……現われるというのかぁ?」

 跨っていた馬も、降り注いだ氷の塊に因って負傷したため、下馬をして采配を振るっていたタカヨシは、愕然として膝を折り、上空のヒカリが造った界気群を見上げた。


「――いっけぇっ!」

「うわああああっ!?」

 ヒカリが指を鳴らすと、彼女が自慢げに生成した界気群が、北コク兵たちへと降り注ぎ、射手部隊に決定的な打撃を見舞った、その頃――

「――へへっ♪、流石は"火の玉の嬢ちゃん"だぁ!♪、箆棒な仕事だぜぇっ!」

 左翼の先鋒に立った、リュウジ率いるオウビのヤクザ者たちが、逸早く北コクの歩兵隊を駆逐し、戦線に風穴を空けてみせていた。

「おらぁっ!!!、野郎どもぉっ!、エセ侍どもを、ぶっちめるぞぉっ!」

「――へいっ!、御頭ぁっ!」

 オウビ衆はゆったりと歩みを進め、タカヨシが膝を折っている場へ着々と近付いて来る。


「さっ……三軍将、様ぁ……」

 タカヨシの隣に畏まった側近たちは、彼の顔を覗き込み――

「――左翼に続き、右翼も突破されるは時間の問題――もはや、"これまで"と存じます……」

 ――と、降伏を勧める進言を告げると同時に、背に差した北コクエの旗印を、その場に投げ捨てるのだった。
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