流れ者のソウタ

緋野 真人

文字の大きさ
174 / 207
答え

奇特な結末

しおりを挟む
「ひっ――退いただと?」

 ショウは冷や汗をこめかみに滲ませ、自分の耳を疑う体で問い返した。

「ええ――"この様な有様"ではございますが」

 ショウの目の前に畏まった、タカヨシは痛切な面持ちで、傷だらけの自分の甲冑と、連れ立った少ない手勢を示して苦笑いをする。


 ここは――天警本陣の大広間。

 時としては、あの聖狭間での激戦から10日を経た夕刻である。


 ソウタたちとの戦いに因り、全軍に大打撃を被ったタカヨシ率いる北コクエ第三軍は、事実上の敗走という形で翼域を南下しココ、テンラクへと至ったのが、今日の午後であった。


「刀聖と三番隊、六番隊は――戦には大勝しながらも、樹海の向こうに退いた。

 そう……申されるのですか?」

 ショウの側に同席するルイが、ショウの呟きを補完する体の尋ねを、再度タカヨシに投げる。

「奇妙な報告、奇特な結末と思われるのは当然にござる。

 しかしながら、"そのとおり"だと述べる事しか出来ん……」

 当惑している両人の態度には理解を示しながら、タカヨシは更に表情の渋さを増し、相応しい語彙が見つからない事に苛立ちながらそう答えた。


 聖狭間での大敗と三軍敗走の報せ――そして、天警八番隊全滅の一報は、既に早馬に因ってテンラク、及び北コクエの各地へともたらされてはいたが、その仔細を、タカヨシの様な立場ある者の口から、公的に告げられたのはコレが初めて。

 とはいえ――勝った方が砦を放逐して僻地へと逃れ、敗れた方が凱旋を果たす恰好で出陣地に帰還する。

 そんな奇特な結末だったと聞いて、初耳のショウたちも当惑しか出来なかった。


「ショウ殿――ルイ殿へ、率直に伺いたい。

 この戦……"勝ち"と思うか、"負け"と思うか――両人の見解は如何に?」

 ため息交じりにタカヨシは、二人にそんな禅問答めいた意見を請う。


「抵抗勢力から各地の砦を奪還し、それらを勢力圏から追い出した点は――満了の戦果と言えます」

「――しかしながら、最大で一万にも迫った兵力を擁していながら、それを数百にまで追い込まれての戦果では……"勝ち戦"と胸を張れませんでしょうな」

 ルイは、得た益に着目し、"勝った"と言える部分を抽出して挙げ、ショウは、結果として失ってしまった、貴重な戦力の消失を挙げて、両者の相対的な結論としては――"敗戦"と決して頷き合う。

「ご尤も――明察にござる。

 当事者ではあるが、我も同様の見解……負け戦も負け戦、徹底的に負けてしもうた」

 タカヨシは悔し涙をも見せ、フルフルと両手を震わせる。

「こっ!、これを武者震いと言えたなら良いが……これは、まるっきりに違う震えだ!

 これは、刀聖とそれに組する者たちとの圧倒的な力量差への恐怖の念――脅えておるのよ!、このいい歳をした武人がな!」

 タカヨシは、歯も噛み合わなくなる程に震え、それを恥じて彼は両手で顔を覆う。


(オウレン風紀方出のタカヨシ――と言えば、先の解放戦争でも猛将として鳴らした武人。

 それを、ここまで追い詰めるとは……)

 ショウは、ゴクリと息を呑み、武勇で鳴らすタカヨシの想像だにしない脅えっぷりに目を見張る。

「三番隊長は、我にこういう意味合いを申した――"何時でも、刀聖と自分たちは樹海の奥から、我らを殺しに戻って来る"と。

 我らは……我らは!、この世界の触れてはならない部分に触れてしまったのだっ!

 もう……もう!、止めるべきなのだよぉっ!、自国の改革を成しただけでっ!、十分なはずだぁっ!」

 タカヨシは錯乱し、狂った様にそんな事を喚き散らし――

「――そうだ!、民守様にご進言せねばならん――この戦の末に、利など生まれないっ!

 生まれるのは、刀聖に蹂躙された後に積まれる、屍の山だけっ!

 そうだ――そのための"民主主義"ではないかっ!、我とて民の一人――きっと、この恐ろしさを解ってくださるっ!」

 タカヨシは、ふらつきながら立ち上がると、呪詛でも唱える様にそんな事を呟き、彷徨う亡者の如き表情で、大広間を後にしようとする。


「――ショウさん、もし、北コクが手を退くとなったら……」

 ルイは顔色を変え、去ろうとするタカヨシの背を見やり、そう問い掛けながら、ショウに目配せをする。

「ええ――既に、侵攻を始めているスヨウ、武力介入が議論に挙がっているハクキ連邦。

 この二国と、我らが単独でことを構える事になってしまう!」


 小声でそう返答したショウは、腰に提げた長刀の柄を握り、居合の体でそれを抜き放ち、タカヨシの背に斬りつけたっ!

「――っ?!!!!、ぐぅぅぅぅっ?!!!!」

 タカヨシは、事態を把握しないまま倒れ込み、長刀を振り切ったショウの顔を睨んだまま絶命する。


「!!!!、ショウ殿ぉっ!?、何のつもり――」

 タカヨシの手勢が、振り向いて激昂し、一斉に抜刀するが――


「?!!!!、ぐわぁっ!!!」

 先手を打つ形で、ルイは風の界気で手勢を攻撃――完全に不意を突かれた形で、次々と致命傷を負って倒れ込む。


「勝手に――止められては困るのだよ!

 我らに謀反をけしかけ、それを利用してクリ社の実権を握り、経済規制を取り除かせようとしたのは貴国の民守!

 "邪の烙印"を押されて、刀聖に駆逐される事とて、もはや一蓮托生であろうよ!」

 ショウは、倒れた手勢たちに次々とトドメを刺し、続いてタカヨシの御首を切り離し、それを長刀の先に刺し――

「――三軍将殿はっ!、敗将の憂き目を悔いて腹を召されたっ!

 不肖――この士団二番隊長ショウがっ!、介錯仕り候っ!」

 ――と、声高に叫びながら、その御首を掲げ、北コクエ三軍の敗残兵が待つ本陣の広場へ向かう。

「手勢の列士各々も、見事に殉じたぁ!

 ツクモ武士に相応しき、立派な御最後にござったぁっ!」

 ルイも、ショウに追従し、その偽りの切腹劇を、共に言い触らすのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

処理中です...