流れ者のソウタ

緋野 真人

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互いの赤心

冬支度

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「――んっしょ!」

 ソウタは、数本の丸太を肩に担ぎ、それを集積場となっている荒地へと置いた。


 場面は、ツツキ中央部に切り開かれていた小規模の荒地。

 ココでは今、聖狭間撤退戦を経て、辿り着いていた士団の面々の生活基盤を整えるための施設――翼域各地あった様な、"砦"と呼称すべきモノだと呼ぶには些か憚れる、規模や戦略面の利点においては心許ない、言わば"兵舎"と呼ぶのが妥当な、簡易施設の建設が急がされていた。


 "北の果て"――そんな地理状の特徴下にあるツツキは、他の地よりも冬が訪れるのが早い。


 秋分祭――つまり、現実世界に準えれば……9月下旬辺りに、かの謀反やカツトシの暗殺が起こり、10月初旬~中旬には、南コクエのコウオウ侵攻、大巫女ユリの自死などがあった事となり、それに対応した、ソウタたちが関与した各事件や戦いが行われたのが、11月中であったという事が容易に推察出来るかと思う。

 ――という事は、時季は既に12月……年の瀬を迎え、訪れ迫る寒さへの対応としての冬支度も、理想を言えば佳境どころか、終えていなければならない時分である。

 あくまでも"架空異世界"の事とはいえ、日本――いや、"ジャーペン"がモデルであったという、このツクモ……その北国における"12月"と例えれば、気候面の想像は難くないはずである。

 現に、この荒地の辺りも"チラホラ"、"薄っすらと"ではあるが、積雪の形跡が残っており、一昨日などは、なかなかの量の降雪に因って、建築作業も中断を余儀なくされた程だ。

 そんな厳しめな気候状況の中、士団の面々は未だ野営を強いられており、この兵舎建設は急務な事業――故にこうして、ソウタも作業に勤しんでいるのだった。


「ソウタ殿――ご苦労様です」

 ――と、声を掛けて来たのは、作業を監督していたヒロシ……彼は、小さな茶碗に満たされた、湯気がほんのりと立つ茶を差し出し、ソウタを休憩へと促す。

「――ありがとうございます」

 ソウタがそれを受け取ると、ヒロシは側に放置されている、ごつごつとした岩場へと手を向け、無言で座る事を求めてみせた。

「――内装面には、まだまだ不備があるそうですが、降雪や寒さを凌ぐには事足りる程度に至る目処は付きました。

 我らの到着よりも前以て、建設資材の支度を命じておられた事などの、ご領主からの手厚い支援に対して、三番隊長が礼を言っていた。

 そう、お伝え願いたく――」

「はは♪、んな"畏まり"は、とりあえず止しましょうよ。

 これから皆さんとは、それなりの間"同胞"ってヤツになるんだ――今から、んな遠慮を決め込んでちゃあ、気持ちが擦り減っちまいますよ」

 ソウタは、既に温くなっていた茶を一口に飲み干し、屈託の無い笑顔をヒロシへと向ける。

「ふふ――そうだね。

 "この手"のお堅い仕事は、ミズズに任せるつもりだったのに、こーいう"隊長らしい"役目のお鉢が周って来て、僕もちょっと気が滅入るよ」

 ヒロシは気恥ずかしさが滲む様でそう呟くと、側で焚火に掛かっている薬缶を持ち上げ、空になって置かれたソウタの茶碗へと、二杯目となる熱々に煮出った茶を注いでみせる。

「――"らしい仕事"、かぁ……」

 ソウタは、熱々の二杯目をチビチビと啜り、年の瀬としては珍しく、よく晴れてはいても寒風吹きさむ空を見上げ、そんな反復を呟くのだった。



「――ダメですっ!」

 そんな一言が、クバシ城内の一室に響いた。


 その一言を言い放ったのは――サトコ、シオリ、アヤコの3名……彼女らの声は、宛ら合唱団のハーモニーが如く、ピッタリと揃い合った様で、一人の男――ソウタへと向けて、浴びせかけられていた。


「いや――ちょっと待ってください、この事には……」

「――"いや"は、コチラのセリフです!、ダメと言ったら、ダメなのです!!!」

 ――と、ソウタは何やら、弁明気味に食い下がったが……問答無用な勢いで、サトコが語彙を強めて、再びそう言い放った。


 そんな激しいやり取りを目の当たりにする事となった、件の計4名へと茶を手向けに来ていた、ヒカリとレンも――普段なら、やり取りへの反応は控えている立場であったが、サトコたち側の主張には深く賛同した様子で、先程から数度の頷きも示していた。


「『俺は、雪に覆われる前に、ツツキからは発とうと思っている』――ですってぇ~~っ!?

 そんな言い分!、おいそれと承伏出来るワケがないでしょうがぁっ!!!」

「皇様が仰るとおりだと思います――ようやく、とりあえずの懸念が取り除かれた形に落ち着いたのです。

 それに、既に時は年の瀬も迫る頃合い――政略、軍略に疎い私でも、今は動くべき局面ではないと思っているのですが……」

 サトコの、烈火の如き怒りが混じった追求に続いて、シオリは冷静に、そして実に的確な言い分を並べ、文脈の柔らさの中に、追及していると解るニュアンスを込めた疑問を、ソウタへと投げ掛ける。


 そう――彼が、3名の前で批難の怒号を浴びせられている理由とは、せっかく辿り着いたツツキから、"自分だけ"は去り、元の流れ者な身の上へと戻ろうとしている事を明かしたからだった。


「だっ!、だからぁ……ちゃんとした意図があって、言ってるんですって!

 俺みたいな、戦う事しか能のねぇモンは、ココで安穏と冬跨ぎをシケ込んでいるよりも、翼域での小競り合い辺りで、義兵傭兵、暗衆まがいの仕事でもしてた方が――いざ、コウオウやテンラク様を取り返そうって時のためを思えば、ソッチの方が有意義だと言ってるんですよ!」

 ――と、ソウタはそんな熱弁を振るって、自分の意図を3人へ向けて、プレゼンテーションめいた形で、自分の意図を明かした。


「――確かに、一理はありますね」

 そう、最初に好意的な反応を示したのは、アヤコ――彼女は目を閉じて、得々と彼の主張を噛みしめる様子で頷いてみせる。

 アヤコが示した反応に、ソウタは頬を綻ばせ、サトコやシオリ――それに、ヒカリやレンの表情には、目には見えない暗雲が拡がり始めた。

「ですが……皇様が仰る"ダメと言ったらダメ"の方が、その一理を悠に凌ぐ、ご尤もなご意見だと、私は思いますけれど?」

 ――ソウタの熱弁へと対しているが如く、アヤコは冷徹……いや、冷酷な程に、感情なんぞ微塵も乗らない冷ややかな口調で、そう彼の主張を一蹴してみせる。

「なっ!?、アヤコさ――」

「――尤もな意図を掲げたとて、貴方の本心は……」

 ソウタが、喰い下がる気配で弁明を始めるが、アヤコは手を翳し、それを遮る意思を示しながら――

「――単に、自分への好意を覗かせている女性たちが、このツツキに勢揃いしている状況が、息苦しいだけではなくて?」

 ――という、ある意味では決定的な一点を突かれ、彼は一気に顔色を蒼ざめさせた。
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