流れ者のソウタ

緋野 真人

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答え

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 場面は、しつこい程にまた転じ――今度は、朝もやが煙るツツキ、クバシ城の側。

 そこの草むらの上に寝転び、鬼面を顔の上に乗せ、その目開きから、大空を見上げているのはソウタである。


「――うふふ♪、鬼面の破壊者殿は、朝がお早いのね♪」

 そこに、例の不気味な笑い声と共に、寝転んでいるソウタに声をかけたのはチヨだ。

「皆さん――あなたを探していましたよ?

 旅立つ私を、見送ると伝えておいたのに来ていないと」


 そう――今日、チヨは、このツツキから離れる。

 表向きの理由は、新たな神代文字の文献が見つかったという、彼女の表向きへの偽装……放浪学者としての理由ではあるが、真の理由とは、ソウタたち三者――いや、アヤコを含めた四者の現況への介入が、一段落着いたという判断からである。


「今朝――発つと聞いてましたからね、貴女をココで待ってましたよ」

 ソウタは寝転んだまま、鬼面も顔に乗せたままで、チヨの声かけにそう応じる。

「あらあらあらぁ~?、こんな人気の無い所で待っているだなんて……もしかして、愛の告白かしら?

 困るわぁ~っ!、あなたを好く方が沢山居るから、私は恨まれてしまいますぅ~!」

 チヨは身をよじり、両手を組んで困った体で首を傾げて見せる。

「――無視、して良いっスか?、それ」

「ううっ……冷たい返しですねぇ。

 神様の冗談を、これ見よがしに踏み躙るだなんて」

 ソウタの、一瞬すら笑みが無い返しに、チヨは頬を膨らませる。


「これが――俺が、"俺たち"が、辿り着いた答えです」

「――ですね。

 光刃の畏怖を示しておきながら、それを唐突に退かせる事で、"緩和"と"緊張"の二つの感情を刺激し、それを互いの争いの種として植え付ける。

 同時に、そのための人の営みを阻害するため、モノとカネの流れを断つ――人々を、疲弊と減退へと誘う、えげつない策謀ですね」

 ソウタが告げた言葉の意味を、噛み砕くように並べたチヨは、批評を込めた結論を笑顔で述べた。

「逆に――気持ち良いですね、そこまでハッキリ言われると」

 ソウタは苦笑いをしながら、顔に乗せた鬼面の位置をずらす。

「だけれど――荒療治という意味では、最善の策とも言えましょう。

『人の目覚め』を『真なる目覚め』へ――"知恵を得た赤子"を、早期に大人へと昇華させるには」

 チヨは、含み笑いを覗かせながらそう呟くと、ソウタの横をすれ違う様で通り――

「――貴方の思惑が、この世界の行く末をどう誘い、どんな決断をするのか、楽しみにしていますわ♪」

 ――と、相変わらずの妖艶な笑みを振り撒き、その場から去って行こうとする。

「これから――どこへ行かれるんです?

 やっぱり……テンラク、天船の中っスか?」

「うふふ♪、神話の一節として標榜されている"ソレ"を、素直に信じているワケではないでしょう?」

 チヨの背に向けて、ソウタがそう呼び止めると、彼女は振り向かぬまま、そんな戯れた返答をする。

「へへ♪、やっぱり、そうですか――いえね?、本当にあの一節のとおりなら、流石に止めにゃあならんだろうと思って尋ねたんです。

 謀反一派がいきり立ってる、あそこに帰すのはマズイだろうってね」

 ソウタが、そんな意図を明かすと、チヨは顎に手を当て、数度頷いてから――

「――とはいえ、かの一節はまったくの嘘でもないのです。

 彼女――貴方たちが、アマノツバサノオオカミと名付けた者の身体は、かの"朽ちた次元航行船"の中枢にて、今も万年規模の冷凍睡眠の中にありますからね。

 私――"謎の放浪学者チヨ"とは、あくまでも"彼女であれば、こうするのであろう"という、植え付けらた行動原理の基に、それを模倣して遂行する自立型AIに過ぎませんから、根本的に言えば別人なので、拠とする地もまた別なのですよ」

 ――彼にとっては、理解が難しい単語を幾つも並べ、けむに巻く気満々な態度の相づちを打つ。

「えっと……まあ、拠としてるトコロ、一応あるんですね?

 だったら、ドコなのかを教えておいてくれません?、何かと"連絡、必要かなぁ~?"って、場面も出て来そうですし」

「それはダメですよぉ~っ!

 何かにつけ、私が意見を述べたり、ちょっかいを出したりする様になってしまう事は、"全てを委ねる"という、"彼女"が掲げた鉄則に触れてしまいますから!」

 ソウタからの、今後に関した提案を、チヨは大手を振って拒否を示す。

「それに――そんな"女神さまの秘密の拠点"を知りたいだなんて、ナニか"いかがわしい事"を企んでいるのでは?」

 チヨは、口元を抑えながら半身で振り向き、幾分下品な眼差しをソウタへ向けた。

「いや、ソレは無いです――アンタ、外見的な年齢設定って、アヤコ様世代でしょ?

 "放浪学者"っていう設定である以上、風格を醸すためには、妙に若くしとくと信憑性が薄れるんだろうしね」

「うっ……じっ!、実は、どの様にも設定し直す事が出来るんですよ?!、何でしたら、若く瑞々しい外見に替えても――」

 ソウタから、冷徹なツッコミを喰らったチヨは、悔し気にそう喰い下がる――

「――とは言いつつも、戯れた会話はそろそろ止めましょう……何かと不毛ですので」

 ――が、自らハッとなって、少々咳払いも交えて、再びソウタへと背を向ける。


「それでは、失礼致します――本来なら"また、いずれ"とでも、再会を願う別れをする方が"人間らしい”のですが、正体を知る貴方には無用でしょうから、それは辞めておきます。

 寧ろ、私の様な"神の傀儡"が――延々と拠に留まって居られる様な世である方が、何かと望ましいのですしね」

 チヨは、そんな捨て台詞を残して、樹海へと続く道をすごすごと去って行った。




 チヨが、そのまま向かったのは――なんと、樹海南側……しかも、ソウタたちがオロチと相対した場所よりも、更に奥深い場所。

 解り易く説明すれば――"樹海見聞録"にも未掲載で、刀聖子弟がオロチ狩りの際に踏み入った事すらない、まったくの未開地域である。

 "未開"であるのは、寧ろ当然とも言えた――何せココは神言の間よろしく、重度な結界が敷かれた、異空間に等しい領域。

 レプリカとはいえ、2つの神具を同時に持つ、チヨだけが自由に出入り出来る場所――つまり、ココが彼女が言う"女神さまの秘密の拠点"なのである。


「――うふふ♪、"オロちゃん"、何時もご苦労さま♪」

 ――と、可愛げなニックネーム付きで、チヨが労いの言葉を向けたのは……まさかの"オロチ"!


 そう――オロチを筆頭に、この南側に生息する獰猛で特異な獣たちは全て、この秘匿領域を守り隠すための守護獣だったのだ!


「あらあら……皆、なかなか手酷くやられたのね。

 "ツツキが子たち"――以外にも、猫さんや狼さん、案外強かったのね……」

 チヨは、たっぷりとオロチ母に頬擦りされた後、自分の帰還を祝して集まって来ていた、オロチ以外の獣――件の、タマやギンと対したという、熊や虎の頭や背も撫でてみせる。

(――高純度で濃密な性質を持つ、ツツキ産の星石に因って育まれた、ヒカリやアオイが突出した能力に開眼するのは……ある意味規定傾向。

 ココの守護獣たちを養うために生まれた、樹海埋蔵の特殊な星石――その力が、隣地に当たるツツキへと流れ込んでしまった。

 この"ある種のバグ"は……"かつての人々"の言葉を借りれば――ツツキは"チートキャラの苗床"なのですからね)

 次にチヨは、ほぼ半数の首数にされてしまい、後継首の育成に勤しんでいる、オロチの悲惨な姿を見やって、そんな心境や真相も吐露していた。

「――さて、私はしばらく、この領域から出る必要は無いでしょう。

 だけれど――ツツキ自体が、世界情勢を左右する場となってしまった以上、通り道に当たるこの樹海も、騒がしくなってしまうのでしょうね……ですから皆、その時は――イロイロとよろしくお願いしますね?」

 チヨが、纏っていた着物を静々と脱ぎながら、そう告げると……獣たちは、各々の嬌声を挙げてその言葉に応え、その場から去って行った。


 一人になり、全てを脱ぎ捨てて全裸となったチヨは、相変わらずの妖艶な笑みのまま、目の前にある泉へとゆっくりと足を入れ、そのままドンドンと更なる深みへと進み――ついには、頭の先まで全てを泉の水に委ね、沈んでいく……

 生物ではない彼女は、呼吸ならない水中なんぞ、まったく苦にせず、泉の最深淵――それこそ、水圧も凄まじいモノであろうと推考出来る程の深みへと至り、ついに現れた泉底へと立ってみせる。


(――っ!?、えっ?!)

 その瞬間――何かを感じたチヨは、顔付きを思いっきり険しくし、困惑の表情をみせた。

(いっ……今、"コレ"が起きてしまうというの!?

 ソウタたちが――今の三者たちが、意を決して荒療治に臨んだ、この最中に……"コレ"が起きてしまうのは、流石に酷だわ……神としては、間違っている感想なのかもしれないけれど)

 ――と、チヨはそんな心境を吐露しながら、哀れみの表情をツツキがある北の方角へと向けるのだった。
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