流れ者のソウタ

緋野 真人

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互いの赤心

湯浴み

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 その日の晩――場面は、クバシ城近郊にある、"公設大浴場"である。


 これまで、ツクモにおける入浴文化に関して触れたのは、オウビのオリエ邸やヨクセ商会オウク支店にて、ソウタが内風呂を拝借する件ばかりであったが……こうした公設大浴場こそが、ツクモの一般的な入浴手段だ。

 前出した描写が、奇しくも何れもヨクセ絡み、流者絡みであった事からも解る様に、内風呂式は流者――特に、オリエの様な富裕層のみが取っているスタイルで、以前触れたツクモ独特の"総公共住宅制"という観点から言っても、内風呂が設置された住宅というのは稀有な部類、特殊な部類と言え、民者公者の間に至っては、一般的とは言えないスタイルなのである。

 故にこうして、"公設"――つまり、自治体レベルの組織が運営する大浴場が、集落ごとに設置されており、皆が各々の仕事を終え、日が落ち切った頃には、近隣の住民が面突き合わせて入浴に及ぶ――とはいえ、流石に混浴ではなく、開場時間を区切る形で、男湯ならぬ"男時間"、女湯ならぬ"女時間"として、振り分けられているのだった。


 その中でも、このクバシ城近くの浴場においては、三日に一度を"領主入浴日"として、アヤコが実質"貸し切り"で、入浴する日と定めており、これから語るのはそんな場面からである。


「ふぃ~っ♪、ココのお風呂って、何時入っても、気持ちイイよねぇ~~♪♪」

 ――と、まさに極楽気分で湯に浸かっているのは、ニヤけた顔で猫耳を震わせているタマだ。


 "領主入浴日"とはいえ、何も大浴場にアヤコがポツンと一人、入浴しているワケではない。

 主に、アオイら女性の御傍衆が警護を兼ねて、ヒカリら侍女たちが介助を行う事情から共に入浴する他、半ば"招待"とでも言った態で、それらとは無関係な人々も入浴を共にする事もあり――今回はタマの他にも、レンやユキも招かれていた。


「――ツツキの各浴場は、総じて沸かしたモノではなく、"温泉"ですからねぇ~♪

 この気持ち良さは、格別ですよぉ~♪♪」

 ――と、同じく湯船の中から、親し気にタマの独り言に応じてみせたのはサトコ。


 件の撤退戦を経て、ツツキへと入ってからは……いわゆるVIPに当たるサトコやシオリは、この領主入浴日に合わせて、この施設を利用している――無論理由は、警護上の便宜を考慮したためだ。


「ふふん♪、そうだろう、そうだろう♪♪

 他の地の者からすれば、"温泉"は珍しきモノなのだろう?」

「ええ――温泉の利用は、山間部で稀に見受けられる程度ですから、こうして人里の最中で利用されている様子は、非常に希少ですね」

 湯船周りで身体を洗いながら、自慢げに会話へ入って来たのはアオイ――それに応じて、他地域との違いを簡素に解説してみせたのは、共に並んで座っているシオリだ。


「……」

 ――それら、この場の顔触れを、近習の一人として、アヤコの隣で見渡したヒカリは……

(――この顔触れって、もしかして……"昼間の話題"と、ナニか関係が?)

 ――と、そんな邪推をして、顔色を曇らせるのだった。


 何時しか、場の全員が湯へと浸り、宛らアヤコを基として円卓を囲む様な恰好となった。


「――ふふっ♪」

 ――その状況をまじまじと見据え、アヤコはまず、そんな微かな嬌声を漏らしながら、小さくほくそ笑む。


(――っ!?)

 その微かな嬌声に、場の皆が総じて、温かな湯の中のはずなのに、背中に怖気を奔らせる。


「――ところで、"せっかく"こうして、開放的なこの状況の下に集ったのです。

 良い機会なので、訊いておきたいのだけれど……皆、ソウタとは"ドコまで"進んでいるのかしら?」

 ――と、アヤコがニヤっと微笑を浮べ、そう問うてみせると……場の者全員が一斉に絶句する。


「アッ!、アヤコ様っ!?、突然ナニを……」

「――ほら、昼間はつい、有耶無耶と話を濁してしまったでしょう?

 それに……相手ソウタ当人が場に居ては、話し難い面も多いでしょうし――こうして、"全てを曝け出した"場の方が、よりホンネを聞き出せるかと思いましてね♪」

 狼狽気味なシオリからの指摘に、アヤコは楽し気にそう答えると、再び"したり顔"で場の皆の顔を順に見渡す。


「一体なんだ――その"昼間云々"とは?」

「ああ……ソレはね――」

 昼間には居なかった、アオイからの声を潜めた問いに、ヒカリは呆れ気味に答えた事で、彼女らも事情を理解する。


「――なるほど。

 しかしながら御家方様……無粋を承知でお伺いいたしますが、何故に今、この場でその様な話題を?」

 ――と、アオイは恥ずかし気に俯きながらも、臣下に相応しい控えめな物言いで、アヤコへその意図を問い返す。


「――私の目から見て、どうにも貴女方の間には、ギスギスとした雰囲気を感じるのです。

 この、団結して臨むべき難局が、先に控えている盤面を前にしても尚……」

 そんな、意味深で壮大さも滲むアヤコからの答えを聞き、サトコとシオリ――VIP2名はハッとなり、顔付きを変える。


「――『諦めた』とは言いながらも、事ある毎に恋慕の火を点けたり……」

「――っ!?」

 アヤコが続けた、身に覚えのある一例に対し――アオイ、タマ、サトコの表情は、合わせた様に揃って硬直する。


「――秘めた想いを、隠し通そうと躍起になるばかりで、煮え切らない態度に終始する……」

「――っ?!」

 ――続いた次の言葉が、槍が如く心に突き刺さった、レン、シオリ、ユキ、そしてヒカリまでもが言葉を失い、互いに目を逸らそうと、各々様々な方向へと顔を向ける。


「――ふぅ……この様な有様ですから、一度こうして、互いのコトを話し合ってみるのも一興――基い、一考かと思いましてね♪」

 アヤコが、そう意図を述べ終えると、周りの皆は大層困った様子で黙り込み、無言に満たされた浴場には、天井から滴り落ちた水滴が、湯の中を撥ねる音だけが響いた。
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