流れ者のソウタ

緋野 真人

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互いの赤心

互いの赤心

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「御家方様……そうは仰っても、先の一語と口調からして、楽しんでもおられるのは見え見え――」

「――当たり前でしょう♪、"息子"の伴侶が、ついに定まるかもしれない瀬戸際な上に、幾つになっても女子の大好物とも言える、恋バナ恋愛話ですよ?、思わず顔が緩んでしまうのは、後生ではありませんか♪」

 アオイが絞り出したツッコミも、アヤコは受け流す体で一蹴し、目を輝かせて誰かが口火を切るのを、笑みを讃えて待っている……


「――御家方様も、御存じである様に……私の場合は、床に押し倒された以上の進展などは、一切ございませんよ……

 わっ!、私の恋慕と取られ兼ねない行動は、全て友であるヒカリの事を思ってのモノ……言うなれば、煮え切らぬ上に、次々と別の女を侍らせている、ソウタ彼奴が悪いのです!」

 ――と、臣下である故の責任感からか、口火を切る役を買って出たのはアオイ。

 彼女は、あからさまに頬を紅潮されながら、猛々しくそう言い切った。


「床に押し倒――っ!?、でっ!、ではアオイ、貴女もソウタと……?」

「はっ!、早合点はするなよっ!、私はまだ、ちゃんと操は守っておる――"ヒカリとは違って"」

 予想を上回る口火であった事に驚いてみせたサトコは、驚愕を醸した口調でその意味を問い返し、アオイは友情が揺らぐ一言を付けた弁明を口にする。

「あ――っ!?、その言い方はヒドいよっ!、それじゃあ私の事を、"尻軽女"って言っている様なモノじゃない!!」

「……あまり拒んだり、抵抗したりはしてなかったであろうよ?

『ソウちゃんなら、良いよ……』とな」

 ――と、珍しく怒りの感情を表したヒカリに対し、アオイはモノマネも交えて、軽蔑も微かに纏った指摘を投げ付ける。

「……アオイ?、貴女――どうして、そんな詳しい事を?」

「屋根裏に忍び込んで、全部観てたんだよ!、私とソウちゃんの"秘め事"を!!!」

 やり取りを不思議に思ったサトコが、躊躇いながらツッコんでみせると、間髪入れずヒカリが、アオイがやらかした恥垢を暴露する。

 それに因り、アオイに対する場の空気は一変――軽蔑混じりな視線の矢が、彼女に向けて一斉に振り注ぎ、指し物御傍衆頭領も、表情からは血の気が失せ、完敗と言った態で黙り込んだ。


「ふふふ……良いですよ、良いですよ♪

 こうして、内に溜まったモノを全部吐き出してしまえば、ギスギスとした互いへの憂いも、薄らぐコトでしょうから♪」

 ――と、アオイとヒカリの対峙を見据えたアヤコは、満足気にそう呟いて、湯を肩口へと掛ける。

「――人心の鬱積を、巧みに払ってみせようとされている、その発想――流石に存じます」

 そう――世辞めいた文言と共に、アヤコへと近付いたのは、片手をレンへと預け、ゆっくりと湯船での位置取りを移したユキである。


「こうなっては、私も明かす事と致しましょう――ソウタさんとは……"幾度"か、"情を交わした"経緯がございます……」

 ユキが、サラリと言ってのけた新事実に、全員の表情が一斉に凍り付く。


 場に居る者たちの品位に合わせ、"情を交わした"などと、高尚めなオブラートに包んではいるが……要はソウタと、"幾度かの肉体経験"があるコトを指している!


「――ですが、"元"は付きますが、私の生業はご存知のとおり"娼婦"。

 言わば、"買って頂いた"末の情事ゆえ、皆様のお話とは毛色が異なってしまいますけれど……」

「――でっ!、でも確か……オウビの娼婦ひとたちからは、実はソウちゃん、結局誰にも"手を出していない"って、聞かされたんだけど……?」

 気恥ずかしそうに、自虐めいた口調を交えて語るユキへ、ヒカリは困惑した様で、そう問い返す。

「――なので、ココがオウビの街だったならば、明かす事が難しい事実なんです……私との情事は、イロイロと"特別"なので」

 ユキは、含みある口調でそう告げると、彼女は例の"目隠し"を徐に外し、悲惨な"あの形相"を場の皆へと晒す.


「――っ!!!???」


 ――ユキとはこれまで、特段の接触が無かった、レン以外の者たちは一様に絶句し、雰囲気は真の意味でガラリと一変した。

「ソウタさんとのコトは、この顔となってからの事――つまり、客を取れなくなった私へ、文字どおりの"情け"として、慈善的な意味合いで"買って"おられただけなのです。

 最初は……本当に”形だけ”、ナニもせずに一晩一緒に過ごしただけだったのですが……既に、その清廉な心持ちに魅かれていた私は、次の機会の折――"ナニもしないのならば、お金は受け取れない"などと、策略めいた我儘を言って……」

「――ふふ♪、なるほど……半ば脅す恰好で、カンケイを求めたという事ですか?」

 照れているのが丸解りな、躊躇いが滲んだ言い澱みを覗かせるユキに、アヤコが助け舟的に先の展開を邪推すると、ユキは小さく頷いて、実質の肯定を示す。

「――ホント、ソウちゃんらしいや……

 それに、オウビに居たんじゃ、秘密にしとかなきゃマズいってのも納得かも……モテモテだもんね、知られたらみんなに恨まれちゃいそう」

「"心持ち"――かの地の者たちの言葉を借りれば、"侠気"というヤツか。

 確かに、あの外連味無き優しさこそが、彼奴の取柄なのかもしれん……」

 ヒカリとアオイは、中空へと目線を向け、苦笑を推しながらそう頷き合う。

「うん……ソコが、取柄っていうより”魅力"なんだよね――それにしても、何か"告白止まり"のアタシたちは、場違いな気分だね……」

「そっ、そうね……何時か、カオリが言っていた――『刀聖である事すら隠していた様な者が言う、"ナニも無かった"だなんて、信用に価しない』――というのは、悲しいけれど本当だったわ……」

 タマとサトコの"諦めた同盟"は、ヒカリやユキの顔を見やり、言い様に難しい"格の違い"を感じて、恥ずかしそうに口元を湯に漬けて隠す。


(もっと場違いで、更に恥ずかしいのは、私の方ですよぉ~っ!

 はっ!、裸を観られた程度で、先程までは"最も深いカンケイなのでは?"――などと、勝手に思っていたんですからぁ~っ!!)

 ――と、口にこそは出していないが、心中ではそんな後悔を吐露しているシオリは、相変らず話題の中心からは目を逸らそうと、火照った顔を背け続けていた。
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