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一冬の閑話
握り飯
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労働へと気を向けたのは、今の色づいた雰囲気を紛らわすのには、最適な選択と言えた――ソウタもレンも、とりあえずの生活環境を築く事に没頭し、ヒカリらの尽力で手入れこそは行き届いているが、3年もの間誰も暮らして居なかったこの小屋にも、幾分かの生活感が拡がり始める。
一通り荷を解き終え、"整然と片付き"とまでは言えないものの、当座の暮らしには充分な段階にまで達した頃には、既に空は蔭り始め、太陽が隠れてしまうまでには、さほど時は要らない時分となっていた。
二人は、こうなる事を想定して持参して来た弁当を広げ、遅すぎる昼食を始める。
「はは……とはいえ、空を見上げたら、もうこの時分だもんな――昼飯も喰わずに」
「そうですね……頑張り過ぎてしまいましたね」
二人は、薄皮に包まれた握り飯を取り出し、それの封を解き、揃って握り飯を頬張り始める。
「そういえば、助けて貰った"あの時"も――こうして二人で、遅めの食事を摂っていましたね」
レンは、懐かしむ様にそう呟くと、口元に一粒だけ付いてしまった、米粒を舐めずりながら、虚空を見上げる。
「――だったな。
こんなに立派な握り飯じゃなくて、粗末な粉餅だったし――おかずだって、こんなに上等なモンではなく、干し肉を炙っただけだったのは、振る舞った方としては、思い出されると情けないトコロだが」
――と、ソウタは別途持参していた箱を開け、そんな自虐を込めた文言を述べながら、そこから串に刺さった小振りの焼き魚を取り出して、レンに差し出す。
「……これまで、ちゃんと話す機会が無かったけど――どうだった?、オリエさんトコでの暮らしはさ?」
「そうですね……結局、短い期間とはなってしまいましたけれど、良い経験が出来たと思っています。
特に、こうして海産物を味わったり、その調理法などを知り得る事は、山間部だったヤマカキに居たなら、きっと経験出来なかった事ですしね♪」
ソウタからの問い掛けに、レンはそんな教養に富んだ口ぶりで答えると、語尾の頃にはその焼き魚へと噛り付き、幸せそうな笑みを浮べてみせる。
「私はオリエさんを始めとしたオウビの皆さんや、アヤコ様やツツキの人たちにも、とても親切にして貰いました。
時折り――私はこんな風に、幸せな思いをしていて……苦しんで、悔しい気持ちで逝ったであろう、父さんや母さん――村の皆の事を思うと、何だか申し訳ないです……」
その笑みは当初、寂しさを醸す乾いたモノであったが――話題の流れからか、レンの脳裏にはあの惨劇の事が思い起され、彼女の手に有った握り飯の欠片には、頬を伝って涙が滴り落ちる。
彼女は、それらを振り払おうと首を横に振って、かかった涙の分だけ塩味が増した、握り飯の欠片を口中へと放り入れ、勢いを付けてそれを喉元へと落とす。
これまで気丈に、そして、明るく振る舞う事を努めて来たレンではあったが――あの惨劇の仔細を知るソウタと二人きりになったからか、ある意味では"封印"していたとも言える、件の事変を経た故の心情を吐露したのだった。
その様子を観ていたソウタは――
(――自分の厚遇を喜ぶ事よりも、不遇の死を遂げた父母や、同郷の者たちの無念さの事を思うか……
"例の事実"を知って、改めて解かる――この娘は、たとえ育ったのが平民の中であっても、その根底にある心根はまさに"貴族"……なるほど、"血は争えない"とはよく言ったモンだ)
――と、脳裏に浮かんだアヤコの表情と、今のレンのそれを重ね、微かに口元を綻ばせる。
続けて、そのソウタの脳裏には先日、例の謀議が明かされた場面が浮かび――
「――本人に、レンに事実を明かす気は無いんですか?
無粋に言わせて貰えば、自分が狙われてる立場だと自覚してくれた方が、警護する上ではやり易いんですがね?」
「ソレは……何があっても、"ならぬ"と心得てください。
私だって、こうしてメグミたちが逝ってしまった以上は、本当の事を明かしてこのまま側に――と、考えなかったワケではありません。
ですが、あの娘の人となりや言動に、そこはかとなく漂う件の夫婦からのあの娘への慈しみを思うと、それこそ今は冥府より見守る二人に対して、ソレに及ぶはそれこそ無粋であり、非礼でもあろうと思うのです……」
――という、アヤコとのやり取りをが思い出され、彼は哀れみを表情に載せながら、握り飯の最後の一口を口中へ入れる。
(……もどかしいな)
ソウタは、幾ばくかの苛立ちを模様しながら、側に置いていた湯飲みを手に取り、ソコに淹れられていた茶を一口を含む……
(――っ?!、そうだっ!、いや、でも……)
――と、彼はふと何かへと思い至ってハッとなるが、直ぐに悩んだ素振りで目線を細める。
ちなみに、ソウタが何かのヒントとして、先に見止めていたのは、レンに向けて淹れられた茶が入っている湯飲み。
コレは食事に際して、持参して来た茶葉から淹れた茶であったが――使用されている湯飲みは、旧事から棚に置かれていたモノ……彼女に向けられていたのは、リョウゴが生前使用していたモノであった。
特段、意図した割り振りを企んだワケではなかったが、それが、ソウタに何かを決断させた。
一通り荷を解き終え、"整然と片付き"とまでは言えないものの、当座の暮らしには充分な段階にまで達した頃には、既に空は蔭り始め、太陽が隠れてしまうまでには、さほど時は要らない時分となっていた。
二人は、こうなる事を想定して持参して来た弁当を広げ、遅すぎる昼食を始める。
「はは……とはいえ、空を見上げたら、もうこの時分だもんな――昼飯も喰わずに」
「そうですね……頑張り過ぎてしまいましたね」
二人は、薄皮に包まれた握り飯を取り出し、それの封を解き、揃って握り飯を頬張り始める。
「そういえば、助けて貰った"あの時"も――こうして二人で、遅めの食事を摂っていましたね」
レンは、懐かしむ様にそう呟くと、口元に一粒だけ付いてしまった、米粒を舐めずりながら、虚空を見上げる。
「――だったな。
こんなに立派な握り飯じゃなくて、粗末な粉餅だったし――おかずだって、こんなに上等なモンではなく、干し肉を炙っただけだったのは、振る舞った方としては、思い出されると情けないトコロだが」
――と、ソウタは別途持参していた箱を開け、そんな自虐を込めた文言を述べながら、そこから串に刺さった小振りの焼き魚を取り出して、レンに差し出す。
「……これまで、ちゃんと話す機会が無かったけど――どうだった?、オリエさんトコでの暮らしはさ?」
「そうですね……結局、短い期間とはなってしまいましたけれど、良い経験が出来たと思っています。
特に、こうして海産物を味わったり、その調理法などを知り得る事は、山間部だったヤマカキに居たなら、きっと経験出来なかった事ですしね♪」
ソウタからの問い掛けに、レンはそんな教養に富んだ口ぶりで答えると、語尾の頃にはその焼き魚へと噛り付き、幸せそうな笑みを浮べてみせる。
「私はオリエさんを始めとしたオウビの皆さんや、アヤコ様やツツキの人たちにも、とても親切にして貰いました。
時折り――私はこんな風に、幸せな思いをしていて……苦しんで、悔しい気持ちで逝ったであろう、父さんや母さん――村の皆の事を思うと、何だか申し訳ないです……」
その笑みは当初、寂しさを醸す乾いたモノであったが――話題の流れからか、レンの脳裏にはあの惨劇の事が思い起され、彼女の手に有った握り飯の欠片には、頬を伝って涙が滴り落ちる。
彼女は、それらを振り払おうと首を横に振って、かかった涙の分だけ塩味が増した、握り飯の欠片を口中へと放り入れ、勢いを付けてそれを喉元へと落とす。
これまで気丈に、そして、明るく振る舞う事を努めて来たレンではあったが――あの惨劇の仔細を知るソウタと二人きりになったからか、ある意味では"封印"していたとも言える、件の事変を経た故の心情を吐露したのだった。
その様子を観ていたソウタは――
(――自分の厚遇を喜ぶ事よりも、不遇の死を遂げた父母や、同郷の者たちの無念さの事を思うか……
"例の事実"を知って、改めて解かる――この娘は、たとえ育ったのが平民の中であっても、その根底にある心根はまさに"貴族"……なるほど、"血は争えない"とはよく言ったモンだ)
――と、脳裏に浮かんだアヤコの表情と、今のレンのそれを重ね、微かに口元を綻ばせる。
続けて、そのソウタの脳裏には先日、例の謀議が明かされた場面が浮かび――
「――本人に、レンに事実を明かす気は無いんですか?
無粋に言わせて貰えば、自分が狙われてる立場だと自覚してくれた方が、警護する上ではやり易いんですがね?」
「ソレは……何があっても、"ならぬ"と心得てください。
私だって、こうしてメグミたちが逝ってしまった以上は、本当の事を明かしてこのまま側に――と、考えなかったワケではありません。
ですが、あの娘の人となりや言動に、そこはかとなく漂う件の夫婦からのあの娘への慈しみを思うと、それこそ今は冥府より見守る二人に対して、ソレに及ぶはそれこそ無粋であり、非礼でもあろうと思うのです……」
――という、アヤコとのやり取りをが思い出され、彼は哀れみを表情に載せながら、握り飯の最後の一口を口中へ入れる。
(……もどかしいな)
ソウタは、幾ばくかの苛立ちを模様しながら、側に置いていた湯飲みを手に取り、ソコに淹れられていた茶を一口を含む……
(――っ?!、そうだっ!、いや、でも……)
――と、彼はふと何かへと思い至ってハッとなるが、直ぐに悩んだ素振りで目線を細める。
ちなみに、ソウタが何かのヒントとして、先に見止めていたのは、レンに向けて淹れられた茶が入っている湯飲み。
コレは食事に際して、持参して来た茶葉から淹れた茶であったが――使用されている湯飲みは、旧事から棚に置かれていたモノ……彼女に向けられていたのは、リョウゴが生前使用していたモノであった。
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