流れ者のソウタ

緋野 真人

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一冬の閑話

小屋

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 二人が、各々の回想を辿っている間にも、歩は進み、目的地である小屋が見えて来た。


 外観の恰好としては、切り出した丸太が疎らに剥き出しな簡素な造りの木こり小屋と言った態で、それが断熱材替わりに、萱で覆われている。

 だが、大きさ――特に、居住部分は"小屋"と呼ぶには憚られる規模であり、その点からも、二人で暮らすには充分なモノであろうと推測出来る。


「――見えて来ましたね」

 レンは、馬上から小屋へ向けて指を差し、目的地を無事に視認出来た安堵の表情を示す。

「ん……?、来た事――あるのか?」

「はい――皆さんが、風聖丸に乗ってオウビへ向かわれた後、ヒカリさんから管理を引き継がれた、お城付きの方のお手伝いに」

 レンの言動に訝しさを模様したソウタが、振り返ってそう尋ねると、彼女は笑みを浮べ、そう返答をした。

「そっか……そういう意味でも、適任な人選ってワケね」

(――例の怪情報の件が無くても、ココに連れて来る気自体は、満々だったってコトね……

 まあ、ココはこの娘にとっても、亡き父が長年を過ごしていた場所であり、その父が俺に……"殺された場所"でもあるんだしな)

 ――と、ソウタは顎先に手を置き、考えを巡らす態を見せながら、先に観える望郷を潜る景色に、師と過ごした日々と、件の悲しき継承の場面を重ねて、思わず眉間に皴を寄せる。

(確かに――レンは可愛いし、気立ても良いし、正直に言えば……神川様の畔であの時、"一目惚れ"してなかったと言っては嘘になる。

 ――だけど同時に、俺のこの血濡れた腕には、果たしてこの純真無垢な少女の身を抱く資格は無いとも思えたし、仮に彼女が俺を慕ってくれたとしても、それは"命の恩人"への感謝っていう気持ちが、過分付きで変容しただけに決まってる。

 俺は、この娘に相応しくない――今回の事実を知って、改めてソレを確信した。

 "運命的な恋愛譚"?、いくら何でも、そいつはキツ過ぎる皮肉ですよ……俺はこの娘にとって、"父親の仇"ってコトにもなるんだからな……)

 ソウタは、脳裏にそんな考えが過り、俯きながら身を捩って、両肩に背負っている荷の位置を直した。


「――ソウタさん?、どうかしましたか?」

 ――と、レンはソウタの一連に異変を感じ、彼の顔色を覗き込むように、そう尋ねてみせる。

「ん?、別に何でもないよ。

 懐かしさに駆られて、不意に修業時代のイヤ~な思い出を思い出しちまっただけさ」

 ソウタは、気恥ずかしそうに後頭部を掻きながらそう言うと――

(――くそっ!、こういう目敏さ……母親そっくりだよなぁ)

 ――その心中では、改めてレンという娘の魅力を見止めてしまい、その事を誤魔化そうと歩みを速めた。




 小屋へと着き、とりあえずテンの背から荷を室内に降ろしたソウタたちは、既に冬の弱い日差しではあったが、室内に陽光を迎えようと、閉め切られていた戸を開け放った。


「へぇ……ちゃんと、旅立つ前のままにしてくれてたんだな……」

 ソウタはそう呟くと、土間から上がった畳の中央に置かれている、こじんまりとしたちゃぶ台風の卓に手を添え、懐かし気にその卓上を撫でる。

 続いて彼は、室内を見渡し、目に付くモノ全てに頬を綻ばせた――棚に仕舞われている、"2つずつ"の食器群に始まり、無造作に積まれた、アヤコから勉学のために送られたモノを中心とした書物の類――

「――っ!?、!!!」

 ――その、一番上に積まれていたのは……世界観に沿った呼び名で言えば、なかなかに卑猥なタイトルが付いた"春画集"――ソウタは、顔色を蒼白にして、レンが居る方向へとその蒼ざめた顔を向けると、彼女はそこに、ナニがあるのかを把握していると解る態度で目を背けている。

「すっ!、すいません……実は、以前訪れた際、観てしまいました。

 ほっ!、本来は隠しておくべきモノを、一番上に置いて帰ってしまうなんてぇ……ごめんなさい!」

「……いや、気にしないで――寧ろ、良い機会だから、薪代わりに燃やしてしまおう。

 元々、頼んでもいねぇのに"俺も、お前に書物をくれてやるぜぇ♪"とかヌカして、師匠が行商人から買って来たヤツだから、後生大事に保管しとく様なシロモノじゃねぇからな」

 ――と、恥ずかし気に頬を紅く染め、目を泳がせながら弁明するレンに、ソウタもなかなかに狼狽しながら、コチラも弁明めいた文言を並べる。


 そして、泳いだ二人の目線は、奇しくも並んで部屋の隅に畳まれた、"2組の布団一式"へと揃って移った。

 すると、二人の狼狽ぶりは、焚火に向けて団扇を仰ぐ様に煽られ、互いに居たたまれなくなってしまう……

 特に――ソウタにとって、件の布団が意味するモノは、旅立つ寸前までヒカリと"コト"に及んでいた処……その事は、これまでの流れからして、レンだって当に知るトコロである――もはや、この状況下で、二人が連想出来てしまうのは……"ソレ"一択であった。


「――ううんっ!!!!、このままじゃ寒いよな!、火を熾す準備から始めよう――レン、荷を解いて、持参した分の薪を出しておいてくれ――竈の用意は俺がするからさ!」

 ――と、ソウタはわざとらしい咳払いを、雰囲気の変わり目として立て、いわゆる"空元気"風に手順を言わばり、この流れを誤魔化そうとする。

「――そっ!、そうですね!、解かりましたぁ~!」

 レンも、彼の意図を察して、そうわざとらしく応えると、ぎこちない動きぶりではあったが、頼まれた作業へと取り掛かる。

(ソウタさん――"可愛い"♪

 本当は"情けない男"とかって、思うべき場面だったかもしれないけど……私の場合は寧ろ、ソウタさんのこういう"気遣い"が……)

 ――などと、レンはチラリと横目に、竈の蓋を開ける彼の後ろ姿を眺めながら、そんな事を思っていた。
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