流れ者のソウタ

緋野 真人

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一冬の閑話

一冬の閑話

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「――?、はい……何でしょうか?」

 その声に応えて振り向いた手には、葛籠を弄る上で手に取った大根――ソウタは、その様を見やって……

(うっ……これから言わんとする事の内容を思うと、ちょっと間抜けな機会となっちまったが――ココで一旦、話の腰を折るのも不自然か……)

 ――と、苦笑いを模様しながら、そのまま口を開こうとする。

「うっ!、ううん……!

 実はレンに、話しておきたい事がある――これからしばらく、ココで一緒に暮らして行こうという上では、ハッキリ……自分の言葉で伝えておかなきゃダメだって思う事の話だ」

 ソウタの声音から伝わる、これから始まる話の真剣味を察し、レンは持っていた大根を一旦葛籠へと仕舞い、今へと上がって畏まった態で座る。

「多分、ツツキの皆には、当に知れ渡ってる事だから、既に知ってるのかもしれないが……俺はココで、"ヒカリを抱いた"――それも無理矢理、いわゆる"手籠めにする"って恰好でだ」

「――っ!?」

 ソウタの口から出た、思わぬ方向からのカミングアウトに、レンは驚いて顔を硬直させる。

「――俺は、そんな"ろくでもない野郎"だ……そんなヤツとキミは、これから夜を迎えようとしている。

 正直に言って欲しい――実は、怖いんじゃないのか?」

 ソウタはそんな、自虐めいた言葉を並べながら、憐れむ様な眼差しをレンに向ける。

「……はい、知って、います――でも、ヒカリさんから直に聞いたお話では、仰る様な非道な行為だなんて無かったと聞いていますし、あの野宿の時だって、ソウタさんは私に酷い事なんてしませんでした。

 怖くなんてありません――寧ろ、私は……」

 レンは、薄っすらとした笑みを浮かべ、諭す様な口調で――

「――私は、そんなソウタさんの優しいトコロが、好きなんだと思います」

 ――と、言い澱みも無く極々自然に、世辞や外連味などもまったく醸さずに、言ってのけた。


「あっ…………!!!!!、わっ!、私!、急にナニを言い出してるんだろ!??!」

 咄嗟に口走ってしまった自分の本心に、レンは驚いて激しく狼狽――意味も無く、それを言ってのけた自分の口を隠す様に覆って、今の言動を誤魔化そうとする。

(……でも、この状況、この流れで、こんな話題を言い出したのは――きっと私に、このお役目を引き請けた事への"覚悟"を問うているんだと思う。

 覚悟だけなら、あの野宿の時に既にしていたし、焦がれてもいる今は……恥ずかしいけれど、寧ろ"期待"をしている自分が居る――言ってしまって、良かったのかもしれないなぁ……)

 レンは、恥ずかしそうに俯きながら、上目遣いにソウタの顔を見詰め、心中ではそんな思いにも行き着いていた。

「――ははっ♪、いや……笑っちまうトコじゃないよな、ゴメン」

 ――と、レンの狼狽ぶりに対して、ソウタは破顔を見せながら、些か無礼な自分の反応を恥じ、詫びてもみせた

「ありがとう――素直に、嬉しい……そう思えるのは、俺もキミの事が――"好き"、だからなんだろうな」

「――っ???!!!、ふぅぇぇぇぇっ?!」

 ソウタの口から漏れた――予想だにしない言葉に、レンは瞳が飛び出しそうな程に目を見開いて驚き、全身を震わせる。


 レンの脳裏に、件の入浴日の帰りに、ヒカリとユキが呟いていた事が過った。

『――"カンケイ"こそは、なし崩し的に持ったものの……一度も、"好き"とか"愛してる"とかは、言って貰ってないんだよね……』

『あっ……ヒカリさんもなんですね。

 "最中"に、コチラを気遣う言葉はあっても、その手の甘い言葉は私にもありませんでした……

 てっきり、私とは一応、"お金を介したカンケイ"となるだけに、一線を敷いておられるだけだと思っていたんですが……"本妻"と思しき、ヒカリさんにもそうだったんですね』

 ――などという、二人の艶っぽい雑談を、耳をそばだてて聞いていたモノではあったが、この会話には重大な意味がる。


(すっ――"好き"って、言われたってコトは……もしかして、私は実は"最下位"なんかじゃない――ってコトなの?!)

 レンは、そんな状況把握の後に至った結論を心中で反復し、あわあわと更に身体を震わせる。


「――コレも、既に知っているんだろうと思って話すが……俺は奇しくも、それに幸運にも、多くの女性に慕って貰い、そんな気持ちを伝えても貰った。

 だけど――今日、今のキミからの言葉には、それまでと違った"嬉しさ"を覚えたんだ」

(――"件の事実"を知った今なら、何故そう感じたのかが解かる……俺はキミに、俺が思う刀聖としての理想、そんな力を持つに相応しい清い心根を持つに足りる者の姿を重ねていたんだと思う。

 似ていて当たり前だものな……その二人の間に生まれた人なんだから)

 そう言うと、ソウタは照れ臭そうに頭を掻き、穏やかな苦笑を口元に湛え……

「あー……この言い方じゃ、その気持ちを伝えてくれた娘たちに、"嬉しくなかったの!?"って怒られちまうな。

 それも多分、誰なのか知ってるんだろうけど……内緒にしてくれれば助かる」

 ――と、おどけ気味に合掌を示して、渋い表情をみせる。

「それに、この状況で、こんなコトを口走るのも狡いよな……

 傍からみれば、宛ら巧言用いて"色欲の捌け口"を確保しようとしてる、最低最悪な下衆男だぜ……」

 ソウタは続けて、脅えて震えている様に見えるレンの姿を横目に、そんな自虐めいた自らへの評を並べて、小さく溜息を溢す。

「結構、勇気を絞って、初めて自分で"告白"したんだが……フラれる展開かな?」

「――どうして、そうなるんですか……先に告白しちゃったのは、私の方のはずですよ?」

 そんな奇妙な尋ね合いをみせたソウタとレンは、互いに何だか可笑しくなり、次にはケラケラと笑い合っ


「――レン、とにかくまあ……これからよろしくな」

「はい――こちらこそ、よろしくお願いします」

 二人は、笑い合った楽し気な表情のまま、そう言い合ってみせる。


 これから――この世界に、そして、"この物語"に、新たな起点が訪れるまでの三ヶ月の間に……この二人はきっと、ココで"違った物語"を綴るのであろうが……わざわざそれを語り、それをいちいちと描くのは――無粋と言えるので止めておこうと思う。

 そんな事など、所詮『一冬の閑話』に過ぎずと一笑に付すのが適当な、誰も予期せぬ激動がこの先に待っているのだから――
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