流れ者のソウタ

緋野 真人

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動き出す世界

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「――っ!?、アッ……アヤコ様!、今、何と……」

 アヤコからの提案に、真っ先に応じたのはサトコ――彼女は驚いた様で、唇を震わせている。

「……会談の場は、北部、ソットの町――即ち、それは……」

「"特級戦犯"が、わざわざ捕まりに祖国へ足を踏み入れる――ってワケだって、解かってて言ってるんですか?」

 ――と、続けて口を開いた、シオリとソウタも、否定的な口調でそうアヤコに問いかける。


 シオリが触れた様に、ノブユキが会談の場として提示して来たのは――ツツキや世断ちの樹海からは最も近い位置にある宿場……何時ぞや触れた"終点宿"とも呼ばれる、ハクキ北端の港町、"ソット"の町だった。

 そして、ソウタが続いて言った様に、アヤコがそこへ向かうというコトは……先の大戦後にハクキ連邦がアヤコへ下した――"終身国外追放"という処分を無視、反故とする形で、ハクキへと入国するという意味なのである!


「ええ――それこそ、"刀聖様のご威光"を盾とすれば、それも可能ではないかと思いましてね♪

 それに……ヒロシ殿やソウタを指名して来たとはいえ、向こうのホンネを想起すれば――真に、思惑を知りたいのは、私の"腹の内"であろう事は見え見え。

 今の世界情勢を鑑みれば、その様な腹芸を続けている暇は無いと言えるのですから、私が直接赴いて、早々に"ケリ"を付けるべきと判断したのです」

 ――と、アヤコは饒舌に発言の意図を並べ、目前の3人に向けて、ニヤリとした笑みを溢す。

「はぁ……"腹の内"とか"ケリを付ける"とか――ソレ、師匠の受け売りでしょ?

 国守宗家のお姫様が、そんな下品な言葉遣いをしちゃってさ」

「ふふ♪、そうですね。

 ――だけれども、そんな粗暴なリョウゴ様と触れ合った事で、私はその様な"根回し"に重き置く慣習こそが、即断を遮る愚行である事を学び、このツツキが地の領地運営に際しても、それらの教訓を活かす事で、運良くこの時まで恙なく責務を果たす事が出来ました。

 此度の、士団二隊を受け入れる決裁においても、それを決したのは私なのですから、その意図、思惑を訊きたい――いえ、一息に言えば、それらに因っては『"刀聖軍"と盟を約す用意がある』、そして『盟を約す事で、ヨクセからの制裁を剥がしたい』――という、ノブユキ様のホンネを、早々に引き出したく思っているのです」

 アヤコは、政治的決裁においての持論を並べた後、此度の提案に秘めた意図も明かして、3人に同意を求める決意に満ちた表情を示した。

「まあ、確かに刀聖が連れて来たと言えば、向こうも文句は言えねぇとは思うが……」

「――ソットの町がある、北部地域と言えば……先の"大獄"の場であった事からも、ハクキ宗家への反感が最も深く根を張っている地方。

 ソウタや、三番隊長が周りに居たとしても、その様な場での会談に赴くは、些か危うく思えますよね……」

 ソウタが困った様子で頭を掻きながら、懸念を纏う口調で呟いた言葉に、サトコがそんな補足を挙げて唇を噛む。


 "先の大獄"――それは、以前にミスズが、刀聖軍参加を躊躇った際にも触れた、当時の抵抗勢力への一斉掃討の事を指している。


 大戦後期……ハクキの敗色が次第に濃くなり始めた時分に、ソットの町にあった軍部の食糧庫が突如、何者かに襲われ、前線への兵糧供給が滞る事態が発生。

 その犯人は、ソットの町に起こった自警団の意味合いを兼ねた民兵組織で、その襲撃の目的は……困窮を極める地元、北部地域の住民たちへ食糧を配給するためであった。

 一見、慈善の志を纏う尊い行為であったと言えるが――ソコは戦時下の気運満ち、軍需優先、いざ総動員との声もチラホラ挙がる状況、戦況の当時のハクキである。

 彼らの行為は、敵性行為と見なされて糾弾の対象となり、彼らは次々と逮捕、処刑の憂き目にあった。

 これは旧ハクキ国、汚点的失政の代名詞となっており、この事を"ソットの大獄"とも呼んでいるのである。


「――"かの町"であるからこそ、赴く意味があると思うのですよ。

 ミズズ殿の様に、私が関わっているばかりに、此度の企みへ批判的な立場を取る者は少なくない――それは刀聖、ソウタには勿論の事、皇様、大巫女様に対しても、それは実に申し訳なき処……」


 ――聖狭間の戦いの後、当初の約束のとおり……ミズズは一旦、刀聖軍からは袂を分かち、今はそれこそ、ソットの町からは差ほど離れてはいないという故郷に身を寄せ、承伏の時を過ごしているそうだ。

 とはいえ――ミズズはそのまま、危険な側の樹海通過にも同行し、日程的にはたった"一泊二日"程度の間ではあったが、彼女もツツキを訪れ、何と因縁深きアヤコとの対面も行っていた。


「――"あの時"、ミズズ殿からぶつけられた、ハクキが民からの怨嗟を浴びた際に思ったのです……避ける様に、逃げる様に、二十五年前からの柵を甘んじていたのでは、進展が遅するのみであろうと。

 三者の威を借る形ではあろうとも、まずは自ら動き、私への遺恨、疑念とは別にして、刀聖軍という企みに接して欲しい旨を、ノブユキ様やハクキが民たちに示したく思うのです」

 ――アヤコは、一息にそう語ると、ソウタの手を両手で握り、真っ直ぐな瞳を彼に向けた。

「……解りましたよ。

 貴女が"そーいう顔"をする時は、梃子でも意思を曲げねぇってコトは、"師弟共々"、よぉ~く知ってますからねぇ……その線で話を進めて下さい。

 それに――どうせ、ショウゾウさんに持たせた返書には、内々に"自分も行く"と伝えてあろんでしょ?、こりゃあ着いた頃には、きっとコウランでも"てんやわんや"だぜ……」

 ――と、ソウタはそんな茶化す逸話や文言を付けながら、アヤコの決断を了承し、目線を送る態で、サトコら二人にも意見の表明を促す。

「……向こうが、頑なに拒んで来た場合は諦める――それに同意して頂けるのなら、私も認めると致しましょう」

「私も、皇様と同じく――」

 サトコとシオリも、続けて同意の意思を示すと、アヤコは幾度も小さく頷き、続けて3人に向け、深く頭を下げるのだった。
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