流れ者のソウタ

緋野 真人

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祖国へ

出迎え

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「刀聖様、お初に御目にかかりまする――ハクキ連邦軍総大将、モトハルにございます」

 大柄な熊族――モトハルは、正式な武人としての作法で、鬼面を被ったソウタに向けてかしずいてみせた。


(よもや――かつての大武会覇者にして、連邦軍最高責任者サマが自ら、この"樹海くんだり"にまで出張って来るたぁ……確かに、よっぽどハクキはの様だねぇ……)

 ソウタは、モトハルからの拝礼に応じながら、驚きの人物の登場に仮面の下の素顔を歪ませる。


 膝まづくモトハルの後ろには、10人前後の兵装を纏った武者らが居て、彼ら彼女らは整然列挙とした体で居並び、モトハルに殉ずる形で拝礼に加わる。

 それらの容姿を見渡すと解るのは、その殆どが――モトハルと同じ熊族や狼族、ハクキ北部に多い鳥族などの亜人種で、どうやらこの者たちが"出迎え"の使者の様だ。


「更に――ヒロシ殿よ、久しゅうござる……何時ぞやの"四傑戦"、以来であろうかな?」

「ええ――そうなりますね。

 僕にとっては、悔しい敗戦の事ゆえ、不躾ながら懐かしむ事は憚れるが……」


 この二人――実は大武会にて、対戦履歴を持つ間柄である。

 話に挙がった"四傑戦"とは、モトハルが優勝した四大会前――16年前の準決勝の事で、互いに全盛期とも言える二十代半ばで迎えた一戦であった。

 長槍の先に戦斧の刃を取り付けた、長大で重い得物を怪力を利して操るモトハルと、打ち刀による突きを主体とした、巧みな試合運びで鳴らすヒロシ。

 この対照的な二人の対戦は、大武会の歴史の中でも、玄人好みな名勝負として語り継がれている一戦である。


「――あの時は僕が四傑戦、ジョウケイ殿が八傑戦で、キミに敗れてしまったからね……士団としてはまさに天敵、"天警狩りのモトハル"との再会が、この様な経緯で叶うとは思わなかったよ」

 ――と、ヒロシは朗らかな笑顔を見せながら、モトハルからの会釈に応じる。

「ジョウケイ殿……か、貴公とは、こうして再会が叶ったが……な。

 この世界は、彼の様な稀有で無類な好漢を亡くしてしまった……それはこの当世に生きる者の"罪"とも言えるかもしれない」

 モトハルは、ジョウケイとのかつての対戦に思いを馳せながら、彼の死を悼む思いを、その言葉とギュッと装いの襟を掴む事で表現してみせる。

「ふっ……"総大将"などという、柵めいた立場でなければ、我も義兵が一人として、聖狭間での戦に参じたかったトコロよ。

 軽挙妄動に奔り、正道から外れた愚輩どもに、誅を下すためにな」

 小声でのモノではあったが、モトハルは外連味無き澄んだ口調で、樹海の果て――その先にある、聖狭間が地までを見据える目線を向けて、そう言い切っていた。


(……なぁるほど、この人、個人としては――"コッチ"だってコトかい)

 耳聡く、そんな言葉をちゃんと聞き取っていたソウタは、仮面に隠れた目線をモトハルに向け、心中ではそんなコトを呟いていた。


「さて――」

 続いてモトハルは、気を取り直す態でそんな一言を吐き、徐にソウタたちの後ろ――アヤコの前へと立つ。


 巨躯で鳴らす熊族のモトハルが、ヒトの女性――その中でも小柄な部類と言えるアヤコが立ち会ってみると、宛ら巨人が小人を見下ろしている様と言ってしまった方が、描写としては解り易いのかもしれない。


「……」


 立ち合ってから、瞬き一つ程度の合間を挟み、モトハルは無言のまま――アヤコの前へと跪いた。

「!」

 その様に対し、騒めきで応じたのは――モトハルの後ろに控える、彼の側近や付き従った亜人種兵たちだった。


 ある意味――当然な反応であったと言えた。

 兵ら殆どの年頃は、いずれもソウタやハルと大差無い若輩な者か、ある程度の地位に立っていると思しき者とて、シオリやカオリなどと近い年齢……つまり、"先の大戦"は生まれる前の事であり、"特級戦犯"としてのアヤコの事しか知らない年齢の者ばかりである――そんな彼女に対し、"国が誉れたる覇者"であり、"総大将"でもあるモトハルが頭垂らすは、彼ら彼女らにとっては驚愕の光景である。


「――使様、足労痛み入りまする……以降は、我らがハクキが武士もののふが道行、仕りまする」

 モトハルが、妙な程に格式張った口調で、そう言上すると、アヤコは――

「――ありがとうございます、よろしくお願いいたします」

 ――と、文官風の作法でその言上を請け、卒無くそんな邂逅を果してみせる。


「――と、そちらは、勅使様の……?」

 続いて、立ち上がり様にモトハルが目に留めたのは、アヤコの隣で畏まっているレンだった。

「はっ、はいぃぃっ!!、あっ、あのぉ……」

 別に――威嚇めいた素振りが、モトハルからあったワケではないが、レンは些かおののいて、返答が言い淀んでしまう。


 それはそうであろう――ヒトからすれば、相手は箆棒な巨躯を誇り、獰猛さを醸す熊の容貌をした者である。

 萎縮せずに、応対せいと言うのは、些か難儀と言えよう。


「――"俺の妻"だ。

 故あって、随行させている」

 ――困っているレンに、助け舟としてソウタが投げた、その一言は……これまでに一番とも言える衝撃を奔らせるのに充分であった。


「――!!!!、しっ!!、失礼仕ったぁ!!!」

 モトハルが、そう言って慌てた様で、レンの前へとは跪くと、同じく動揺に満たされた様の兵たちも、それに連なりって、レンの前へと跪く。


(えっ?!、えぇぇぇぇぇぇぇぇっ?!!)

 "刀聖の妻"、ともなれば――コウオウにおける"皇夫"、各国守の配偶者と同等な身分として扱われるのが、ツクモにおける儀礼上の通例である。

 今、それを改めて悟ったレンは、ヒカリが殊更"妻扱い"を避けたがっていた理由が解かった気がしていた。

 慰める素振りで、同時にわざとらしく見せつける態で、直ぐ様に肩を抱き寄せてくれる、ソウタの優しさは正直嬉しいが、自分はとんでもない御仁との結婚を応じたのだなと、レンはまたも改めて自戒するのだった。


 その間に――

「おい――皇様と恋仲なんじゃなかったのか?」

「ああ……『同じ思いが故に』の、再来を期待していたのになぁ……」

「いやいや――実は、シオリ様ともって噂も……」

「オウビまで、正月に遊びに行った時に聴いたハナシじゃ……街の娼婦、総ナメにしてるっていう"豪傑"だぜ?、きっと、何人も居る内の一人なんだよ」

 ――などの、ひそひそ話が兵士の中から漏れ聞こえていた事は、あえて聞き流そうとするソウタとレンであった。



「――さて、挨拶はこれぐらいにして、そろそろ出発致しましょう。

 ソットまでは、この荷の加減ならば、概ね一日半の道程……よろしくお願い致しまする」

 モトハルは、そう言ってソウタたちを促し、自分は側に控えていた、黒光りする鹿毛の馬へと跨った。
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