流れ者のソウタ

緋野 真人

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祖国へ

野営

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 人通りなぞ皆無な程に裏びれた、樹海からソットの町へと繋がる街道を黙々と歩き進めた頃――いよいよ、辺りの暗さが増す時分となった処で、今晩はそろそろ野営を張るとの事と、ソウタたちへも告げられた。

 春めき出した時節とはいえ、ハクキの地は北国の部類である――本来、野営は避けたいのがホンネではあるが、"終点宿"たるソットを過ぎてしまっては、コレも致し方無しである。


 幸い――先まで見渡してみると、野営の手筈は既に整っており、ハナからこの位置で野営を張る事は、モトハルの計画どおりであった様だ。

 仔細を訊いてみると、"出迎え部隊"は昨日の内にココへと着いて、野営用の陣を前以て張り、そのままココで一夜を過ごした後の今朝、ココから樹海へと向かったそうだ。

 練兵、計画の緻密さが垣間見える、隙の無い用兵――流石は、連邦軍総大将の指図と言った手配りである。


「――うん、暗衆が忍べそうなトコロも見当たらないし、陣の造りも強固……とりあえず、人心地着けそうだ」

「提げてる物、荷の中の物、共にこの場にある武器の類は、全て"打ち刀"――"陣幕ごと突き刺せる"長槍や、弓矢なんかの飛び道具を携行してる様な兵は皆無……"疑われる事すらならず"、そんな徹底、周到ぶりだねぇ」

 兵が犇めく、出迎え部隊の本陣からは、少し離れた場所へ別途設けられた、アヤコたち専用の陣の中を見定めたソウタとヒロシは、そんな感想を溢しながら、先程届いた茶や菓子を口にし……

「――毒、ってぇ線も、この分なら無さそうだな……食べて良いよ」

 ――互いに"毒見"まで行って頷き合うと、ソウタはレンに茶菓子が入った籠を渡す。


 ソウタは――アオイら御傍衆との交流から、毒の有無の判断やそれらへの耐性において、暗衆寄りな知見を一定有している。

 それはヒロシ――天警士団員らとて、基礎的な危機管理として心得ているため、二人の対応や様子は、堂に入ったモノであると言えた。

「――随分、警戒されるのですね……お会いした時の様子では、総大将様という御方は、剛毅実直な御仁に見受けられました。

 警戒されている様な謀殺を図る様には、とても……」

 レンは、菓子の入った籠を受け取りながら、そんなモトハルに対しての評を述べてみせる。

「……ほぉ?、当世の"伴侶様"とは、よく目鼻が効く御方の様だね。

 それにしても……皇様然り、次世大巫女様然り――ソウタ殿は、聡明な婦人を惹きつける魅力をお持ちの様だ」

 ――と、ヒロシはニヤリとした微笑を浮かべながら、今度は彼がレンに対しての評を述べてみせる。

「そっ!、"聡明"だなんて……私は、只の田舎娘にございますよぉ……」

 それを受けたレンは、菓子の籠をアヤコへと先に向けながら、恥ずかしそうに俯いて困惑を示す。

「――謙遜も、行き過ぎると嫌味へと変じてしまいますよ?

 貴女は、その皇様や大巫女様でも射止められはしなかった、"当世伴侶様"なのです――もっと胸を張り、毅然としているべきですよ」

 アヤコは、そんな訓示をレンへと向けながら、籠から一つ菓子を摘まんだ。


「――お寛ぎの処、失礼致します」

 ――その時、天幕の中に野太い声が響いた。


「――モトハルにござる……故あり、些かの歓談、よろしいですかな?」

 名乗った、その野太い声の主――モトハルからの申し出に、アヤコたちは頷き合って応じてから……

「……どうぞ、お入りください」

 ――と、アヤコが言って、彼を陣内へと招き入れた。


 入って来たモトハルの様子に、まずはアヤコが置いた一拍の間に面を被り直したソウタと、ヒロシのこめかみがピリッと震えた。


 モトハルは、既に鎧や兜などの軍装から解かれ、ラフな着流しの態――何よりも驚いたのは、鞘すらも提げておらず、帯刀も勿論していない"丸腰"であるというコトだった。

(やれやれ――ソコまでしなくても、僕らは"君個人"への疑義は持っていないってば)

 ヒロシは、苦みを模様した笑みを浮べ、心中ではそんな呟きを溢し……

(――"こう"までされちゃあ、コッチも"こうする"しか無いよね……)

 ――などと思いながら、置いていた鞘を遠ざけてみせて、ヒロシもそれに倣った。

「……"丸腰"、そして、直衛までを遠ざけての来訪というコトは――」

「――はい、コレは"将という公人"としてではなく、"ハクキが国の私人"としての来訪にございます……"御家形様"」

 モトハルは、アヤコからのその出で立ちの意図の確認からは先立つ体で、彼女の眼前で畏まり、"その尊称"で呼んでみせる。

「……では、コチラもそれに応じましょうか――大義である、総大将よ」

 ――と、アヤコもモトハルの様子と言動の意味を察して、そう返事してみせる。


(――おっとぉ……こりゃあ、俺やヒカリたちには、見せたコトのねぇ表情だねぇ。

 コレが、"国守"ってモンが、臣下に見せるべき顔ってコトか……)

 ソウタは、見事な豹変ぶりである、アヤコの厳然とした表情をそう評した。


「――とはいえ、既にそなたやハクキが民は、我が"宗家の頚城からは放たれしモノ達"――コレはこの度、一度きりのやり取りと心得なされ」


 ――アヤコが、モトハルに言った意味深な表現には、ちゃんとした理由がある

 今、挙がった"宗家の頚城"云々とは――ハクキ合衆連邦、建国宣言の序文に記されている言葉なのだ。

 即ち――"呼ばれたから応じたが、自分は既にそういう立場ではないので、以後は止めなさい"と、窘めているのである。


「はっ――!、それは熟知しておりまする……しかしながら、私個人として、御家形様へ詫びねばならぬ事柄がある故に、この場にまかり越したにございます」

「その事柄――よもや、"トーオウ楼"が事か?

 確かに、そなたがあの若人たちの中に居た事は承知しているが、もはやそれは過ぎし日のコト……国家の誉れへと大成果たしたそなたを、今更その様な"若気の至り"を理由に咎める気など、毛頭微塵もありませんよ?」

 平伏したまま、低頭を続けるモトハルに対し、アヤコはそんな窘めを挙げながら、茶を一口啜る。

「――確かに、トーオウ楼が事も含まれまするが、我……いや、"我ら"が詫びるべきは他でもなく、畏れ多くも御家形様に、"特級戦犯"なる蔑称を背負わせた事、その一点にございます……」

 モトハルが発した、立場的には意外過ぎるとも言える言葉の羅列に、この場に居る者は一様に目を見張るのだった。
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