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祖国へ
無礼
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モトハルが発した意外とも言える主張に、四人は顔を見合わせ、困惑した体で場に些かな沈黙が漂った。
「おいおい――それをアンタが、いや、"アンタら"が言うか?
師――いや、先世とトーオウ楼でやり合った、当時の若手将校の象徴みてぇなアンタがさ?」
その沈黙を破る態で、口火を切ってみせたのはソウタ――彼は、毒づく様でそう言い、ズイッとモトハルに詰め寄った。
「先世、リョウゴ様の事を"師"と申されたという事は……やはり、光刃を継がれたのは、去りし日にリョウゴ様が連れておられたという少年……名は確か、ソウ――」
「――!」
モトハルが、動じる事無く淡々とやり取りの感想を呟いてみせると、ソウタは咄嗟に手刀を形成させ、それに界気まで纏わせ、モトハルの首筋に突き付ける!
「――大将さん、そいつぁ"不敬"、極まりなくねぇかい?
畏れ多くも、当世刀聖サマの素性を勘繰ってみせるってのはさ?」
――と、ソウタは殺気を隠す事無く、怒気も纏わせた口調でそう呟いた。
「――"御傍秘伝"『陰牙』まで使われるか……つまり、かのムネヒラ殿やショウゾウ殿にも師事された事があるという事。
増々ツツキに、御宗家と御家方様に縁をお持ちの御方であると、お見受け致します」
ココに至っても、モトハルは冷や汗一つ垂らさず、そう応じて平伏したまま微動だにしない。
(コイツ――殺されたとしても当然、承知の上って覚悟で来てやがるな……)
ソウタは面の下で苦虫を噛み締めた様な渋い表情を浮かべ、手刀の切っ先を震わせる。
”御傍秘伝”『陰牙』とは――ソウタが今見せている、手刀に"微細な"界気を纏わせた無手の技の事である。
暗衆――その中でも、ハクキが誇るエリート集団である御傍衆、"更に"その中でも、ショウゾウの様な卓越した技量を持つ者しか、扱えないと言われている必殺の暗殺技法だ。
以前、タマがオロチ戦で見せていたモノと決定的に違うのは、先に微細なと強調していた様に、大事なのは纏わせる界気の量で、巧に調整された鋭利さを以て、血しぶき一つも発てずに"一命のみを刈り取る"とまで言われている秘技。
かの"トーオウ楼事件"の際を含めた、先の大戦の決戦において……この秘技を用いて、単純な殺傷数ではリョウゴをも上回る数を叩き出したというのが、件の技の名がショウゾウの異名の冠となっている由縁である。
「お生憎様――師事したというよりも、只の見様見真似でな?
本家本元の様に、"血しぶき一つ発てず"とは行かねぇ……この白い天幕を真っ赤にされたくねぇなら、その横柄な態度は、そろそろ止したらどうだい?」
ソウタはそう毒づくと、毛皮に覆われたモトハルの首筋へ手刀を更に近づけ、ジュッと毛先を炙る恰好で、燻る臭いを場に漂わせる。
「"ソウタ"――そこまでになさい。
一定の素性を、暗衆絡みで探られているであろう事は、想定内な事柄のはずでしょう?」
――と、ソウタに向けて、そんな諫める言動を放ったのはアヤコ。
彼女もまた、物怖じなどまったく見せない素振りで、それを言い終えると、何事も無かった様に茶を啜ってみせる。
「……素性を勘繰ってるコトを怒ってるってのに、本名もバラしながら、そういうコト言います?」
「”ソウ――"まで、言い当てられては、既に相当量の情報を得ているのは明らか。
それに素性知れたとて、"覇者"たる者がそんな情報を軽率な扱いするとは思い難いのではなくて?」
不満気に手刀を退いたソウタが、そう言って抗議染みた様子を覗かせると、対するアヤコはニヤリとした"したり顔"で、そう応じてみせる。
「大武会での事とはいえ――それは、刃を交えた者として、私が保証致しますよ。
あの様な真っ直ぐな剛剣を振るう者に、腹芸の類は出来かねると推察しますので」
そう、アヤコへの援護に周ったのはヒロシ――彼も、得意な飄々とした素振りでそう述べ、ニヤリと笑みを浮べる。
「……解りましたよ、俺が大人げ無かったってコトで良いっス!」
ソウタが、捨て台詞気味にそう言って能面を外すと、それらのやり取りを見守っていたレンも、微笑ましそうに口元へ笑みを覗かせた。
(――情報の統合から、若者であろうとは推測してはいたが、この身空であれ程の"鬼気"を纏うてみせるか……末恐ろしいな)
――とは、仮面を外したソウタの顔を観た瞬間のモトハルの心中。
彼は、ゴクリと大きな生唾を飲み込み、一筋の冷や汗を首筋の毛先から滴り落とした。
「……察しが如く、当世刀聖様が"ツツキが子"であれば、我らや合衆連邦に対して怒りの感情を催すは、至極当然な事にござる。
敬愛されておられるであろう御家方様を、犯罪者扱いしての放逐に及んだ我らと我が国は、不俱戴天の仇と言っても、過言では無かろうと思いますので」
モトハルは、震えてしまいそうな自分の身体を叱咤する体で、下唇をギリっと噛み締めてから、そう言ってソウタの機嫌を伺う。
「まあ、ソウタの場合は、そなたらが言う"ツツキが子"とは、些か毛色が違いますが……それにしても、意味深な言い回しをしていましたね?
ソウタの事を、"リョウゴ様が連れていた少年"などと……」
「ああ、きっとそれは、師匠に盗賊から助けられて直ぐの事か、あちこち連れ回されてた頃の事でしょ。
その目撃情報――恐らく、統領ノブユキ、その人からなんでしょうし」
アヤコが、頭を傾げながら呟いた疑問に、淀みなくそう答えたのはソウタ本人。
彼が”そうだろ?”、という意味合いで、モトハルに向けて顎をしゃくると、熊の様な首が縦に頷いてみせた。
「二度ほど――件の統領サマとは面識あるんスよ、俺。
師匠が、故あって訪ねた時に連れられてね……まあ、当時は"統領"なんかじゃなく、コウランの都の市長だったけど」
ソウタが、指を二本立てながら、そう言って発言の意図を述べると、アヤコは目を見張り――
「それは……初耳ですね、一体、何用で訪ねられたのです?」
――と、訝し気な表情で、ノブユキとの接点の意義を尋ねた。
「別に……深い意味合いの訪問じゃあなかったと記憶してますよ?
"同じ女に惚れたよしみ"――なぁ~んて、カッコつけた理由ぐらいしか、聞いた覚えはありませんしね」
ソウタが、呆れた様を交えた手振りを見せてそう言うと、アヤコは軽い狼狽を覚えて、薄っすらと頬を染めてみせる。
アヤコとノブユキ――この二人、実は若かりし頃に、婚約まで交わしていた間柄なのである!
――とは言っても、いわゆる"許嫁"……家や親同士の関係性から結ばれた政略結婚計画の類であり、当人であるアヤコにとっては、ノブユキに対しての恋愛感情などは微塵も無かったし、彼女がリョウゴと出会い魅かれた事と、ハクキ宗家が凋落の憂き目にあった時点で、その婚約は自然消滅的に破談となっている。
だが、相手に当たるノブユキからすれば、"そのつもり"で育って来た事もあって、そんな事情抜きで"まんざら"でもなく――リョウゴとの事が明らかになった時などは、心底からショックを受けていた程であった。
そのリョウゴとも、トーオウ楼の件を始めとした、戦後処理に関する経緯から顔を合わせる中で意気投合し、ソウタが触れた様な"男の友情"を交わしていたのだった。
「――若い者に、その様な若気の至りまで教えるだなんて、まったくリョウゴ様は……」
――と、アヤコは頬に浮かんだ"テレ"を隠す様に身を捻り、口を尖らせながら俯く。
「それで――その"かの少年"か否かを確かめて来いって、統領サマに言われたワケかい?
「いえ、確かに統領は――"二度目に観た時のかの少年が纏った雰囲気は、まさに武人のソレ”、継承者したのは、かの少年に違いない"――と、仰っておりましたが、先程までの無礼は私個人の興味に因るモノ……平に、ご容赦願いたく……」
ソウタから不遜な目線を浴びながら、モトハルは改めて身を正し、深く平伏して一連の言動を詫びるのだった。
「おいおい――それをアンタが、いや、"アンタら"が言うか?
師――いや、先世とトーオウ楼でやり合った、当時の若手将校の象徴みてぇなアンタがさ?」
その沈黙を破る態で、口火を切ってみせたのはソウタ――彼は、毒づく様でそう言い、ズイッとモトハルに詰め寄った。
「先世、リョウゴ様の事を"師"と申されたという事は……やはり、光刃を継がれたのは、去りし日にリョウゴ様が連れておられたという少年……名は確か、ソウ――」
「――!」
モトハルが、動じる事無く淡々とやり取りの感想を呟いてみせると、ソウタは咄嗟に手刀を形成させ、それに界気まで纏わせ、モトハルの首筋に突き付ける!
「――大将さん、そいつぁ"不敬"、極まりなくねぇかい?
畏れ多くも、当世刀聖サマの素性を勘繰ってみせるってのはさ?」
――と、ソウタは殺気を隠す事無く、怒気も纏わせた口調でそう呟いた。
「――"御傍秘伝"『陰牙』まで使われるか……つまり、かのムネヒラ殿やショウゾウ殿にも師事された事があるという事。
増々ツツキに、御宗家と御家方様に縁をお持ちの御方であると、お見受け致します」
ココに至っても、モトハルは冷や汗一つ垂らさず、そう応じて平伏したまま微動だにしない。
(コイツ――殺されたとしても当然、承知の上って覚悟で来てやがるな……)
ソウタは面の下で苦虫を噛み締めた様な渋い表情を浮かべ、手刀の切っ先を震わせる。
”御傍秘伝”『陰牙』とは――ソウタが今見せている、手刀に"微細な"界気を纏わせた無手の技の事である。
暗衆――その中でも、ハクキが誇るエリート集団である御傍衆、"更に"その中でも、ショウゾウの様な卓越した技量を持つ者しか、扱えないと言われている必殺の暗殺技法だ。
以前、タマがオロチ戦で見せていたモノと決定的に違うのは、先に微細なと強調していた様に、大事なのは纏わせる界気の量で、巧に調整された鋭利さを以て、血しぶき一つも発てずに"一命のみを刈り取る"とまで言われている秘技。
かの"トーオウ楼事件"の際を含めた、先の大戦の決戦において……この秘技を用いて、単純な殺傷数ではリョウゴをも上回る数を叩き出したというのが、件の技の名がショウゾウの異名の冠となっている由縁である。
「お生憎様――師事したというよりも、只の見様見真似でな?
本家本元の様に、"血しぶき一つ発てず"とは行かねぇ……この白い天幕を真っ赤にされたくねぇなら、その横柄な態度は、そろそろ止したらどうだい?」
ソウタはそう毒づくと、毛皮に覆われたモトハルの首筋へ手刀を更に近づけ、ジュッと毛先を炙る恰好で、燻る臭いを場に漂わせる。
「"ソウタ"――そこまでになさい。
一定の素性を、暗衆絡みで探られているであろう事は、想定内な事柄のはずでしょう?」
――と、ソウタに向けて、そんな諫める言動を放ったのはアヤコ。
彼女もまた、物怖じなどまったく見せない素振りで、それを言い終えると、何事も無かった様に茶を啜ってみせる。
「……素性を勘繰ってるコトを怒ってるってのに、本名もバラしながら、そういうコト言います?」
「”ソウ――"まで、言い当てられては、既に相当量の情報を得ているのは明らか。
それに素性知れたとて、"覇者"たる者がそんな情報を軽率な扱いするとは思い難いのではなくて?」
不満気に手刀を退いたソウタが、そう言って抗議染みた様子を覗かせると、対するアヤコはニヤリとした"したり顔"で、そう応じてみせる。
「大武会での事とはいえ――それは、刃を交えた者として、私が保証致しますよ。
あの様な真っ直ぐな剛剣を振るう者に、腹芸の類は出来かねると推察しますので」
そう、アヤコへの援護に周ったのはヒロシ――彼も、得意な飄々とした素振りでそう述べ、ニヤリと笑みを浮べる。
「……解りましたよ、俺が大人げ無かったってコトで良いっス!」
ソウタが、捨て台詞気味にそう言って能面を外すと、それらのやり取りを見守っていたレンも、微笑ましそうに口元へ笑みを覗かせた。
(――情報の統合から、若者であろうとは推測してはいたが、この身空であれ程の"鬼気"を纏うてみせるか……末恐ろしいな)
――とは、仮面を外したソウタの顔を観た瞬間のモトハルの心中。
彼は、ゴクリと大きな生唾を飲み込み、一筋の冷や汗を首筋の毛先から滴り落とした。
「……察しが如く、当世刀聖様が"ツツキが子"であれば、我らや合衆連邦に対して怒りの感情を催すは、至極当然な事にござる。
敬愛されておられるであろう御家方様を、犯罪者扱いしての放逐に及んだ我らと我が国は、不俱戴天の仇と言っても、過言では無かろうと思いますので」
モトハルは、震えてしまいそうな自分の身体を叱咤する体で、下唇をギリっと噛み締めてから、そう言ってソウタの機嫌を伺う。
「まあ、ソウタの場合は、そなたらが言う"ツツキが子"とは、些か毛色が違いますが……それにしても、意味深な言い回しをしていましたね?
ソウタの事を、"リョウゴ様が連れていた少年"などと……」
「ああ、きっとそれは、師匠に盗賊から助けられて直ぐの事か、あちこち連れ回されてた頃の事でしょ。
その目撃情報――恐らく、統領ノブユキ、その人からなんでしょうし」
アヤコが、頭を傾げながら呟いた疑問に、淀みなくそう答えたのはソウタ本人。
彼が”そうだろ?”、という意味合いで、モトハルに向けて顎をしゃくると、熊の様な首が縦に頷いてみせた。
「二度ほど――件の統領サマとは面識あるんスよ、俺。
師匠が、故あって訪ねた時に連れられてね……まあ、当時は"統領"なんかじゃなく、コウランの都の市長だったけど」
ソウタが、指を二本立てながら、そう言って発言の意図を述べると、アヤコは目を見張り――
「それは……初耳ですね、一体、何用で訪ねられたのです?」
――と、訝し気な表情で、ノブユキとの接点の意義を尋ねた。
「別に……深い意味合いの訪問じゃあなかったと記憶してますよ?
"同じ女に惚れたよしみ"――なぁ~んて、カッコつけた理由ぐらいしか、聞いた覚えはありませんしね」
ソウタが、呆れた様を交えた手振りを見せてそう言うと、アヤコは軽い狼狽を覚えて、薄っすらと頬を染めてみせる。
アヤコとノブユキ――この二人、実は若かりし頃に、婚約まで交わしていた間柄なのである!
――とは言っても、いわゆる"許嫁"……家や親同士の関係性から結ばれた政略結婚計画の類であり、当人であるアヤコにとっては、ノブユキに対しての恋愛感情などは微塵も無かったし、彼女がリョウゴと出会い魅かれた事と、ハクキ宗家が凋落の憂き目にあった時点で、その婚約は自然消滅的に破談となっている。
だが、相手に当たるノブユキからすれば、"そのつもり"で育って来た事もあって、そんな事情抜きで"まんざら"でもなく――リョウゴとの事が明らかになった時などは、心底からショックを受けていた程であった。
そのリョウゴとも、トーオウ楼の件を始めとした、戦後処理に関する経緯から顔を合わせる中で意気投合し、ソウタが触れた様な"男の友情"を交わしていたのだった。
「――若い者に、その様な若気の至りまで教えるだなんて、まったくリョウゴ様は……」
――と、アヤコは頬に浮かんだ"テレ"を隠す様に身を捻り、口を尖らせながら俯く。
「それで――その"かの少年"か否かを確かめて来いって、統領サマに言われたワケかい?
「いえ、確かに統領は――"二度目に観た時のかの少年が纏った雰囲気は、まさに武人のソレ”、継承者したのは、かの少年に違いない"――と、仰っておりましたが、先程までの無礼は私個人の興味に因るモノ……平に、ご容赦願いたく……」
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