流れ者のソウタ

緋野 真人

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祖国へ

憤り

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「――して、我の放逐を、今更になって詫びてなんとする?

 それは、これもまた過ぎし日の事……何か、"特段な意図"があっての申し出か?」

 アヤコは、座った目つきで、平伏のままなモトハルを凝視し、そう言って彼の思惑を堂々と尋ねてみせる。

「生憎、今の私は、クリ社よりツツキ領主の任を与る身であり、此度に至っては、皇様から勅使の任を賜りし文官の類――明日の会談への根回しのつもりで訪ねて来たのならば、何も特別な権限など持たぬ私に詫び、遺恨を取り払おうとするは、些かお門違いであろう?」

 嘲笑気味に口元を緩めながらそう言い、茶碗へと手を伸ばすアヤコに対し、モトハルは――

「……別に、"特段な意図"などはあり申しませぬ。

 ただ、件の放逐は、決して"ハクキが民の総意"などでは、決して無かったという意思を、御家方様にお伝えしたかっただけにございます……」

 ――首を上げ、毅然とした気概が篭った表情でそう言い、再び深く平伏してみせた。


 その後――数分、数度たわいもないやり取りをヒロシと済ませた後、モトハルは立ち上がって、天幕を後にした。


「――結局、"ホンネ"は出さぬまま帰って行きましたか……"覇者"と言えども、武勇偏重の愚雄ではなく、ハクキが軍は、良い将を頭に据えてられている様で……」

 ――と、モトハルが去った後、開口一番にそう言ったのはアヤコ。

 彼女は再び、満足気な"したり顔"を見せながら、小さな茶菓子を口内に放る。

「まあ、"無双国守"然り、先の天警士団長然り――愚雄じゃあなれねぇのが、"覇者"ってシロモノらしいしね」

 続いてソウタも、ニヤリと笑いながら、菓子が入った籠に手を伸ばす。

「僕は――"ホンネ"を言わせてしまうモノだと思ってましたよ。

 それに追随した方が、解かりやすいし手っ取り早くコトを進められそうですしね」

 次に、ヒロシが戯言めいた口調でそう言い、手元の茶碗を啜る。

「あのぉ……みなさん?、"ホンネ"がどうとか……一体、何のお話をされているんですか?」

 最後に――当惑した表情で、首を傾げてみせたのはレン。

 彼女は、遠くに置かれてしまった気持ちで、縋る様な目線を三人へ送る。


「ん?、まあ……大将殿は、俺たちに袖にされてしまって、落ち込んで帰ったってトコかな?」

 ――と、ソウタは"はぐらかし感"タップリな、如何にも抽象的な説明をレンにする。

「ソウタぁ~?、感心しませんねぇ……その『キミは別に知らなくても良い』みたいな物言いで返すのは」

 そのやり取りを聞いていたアヤコは、眉をひそめながらそう言うと、レンの肩に手を置き――

「――レン、よく覚えておきなさい。

 ソウタはきっと、浮気の類だって、こぉ~んな風にはぐらかすのでしょうから」

 ――と、諭す様な口調でそう告げ、ソウタにジト目を向ける。

「ちょっと!?、言いがかりは止めてくださいよ!

 だいたいなんですか?、話題の辻褄と噛み合わない言い分を垂れ始めて……」

 ソウタはまず、アヤコの軽口に向けて抗議の意思を示した後、渋い表情を造り――

「――コイツぁ、政治的、軍事的に関する"高度な腹の探り合い"って領域……本来なら、市井に暮らしてるはずのレンにとって、本当に知る必要無い事柄でしょうよ?」

 ――ジト目を返す形で、彼女へと反論を示す。

「あら?、その市井から、この娘を"高度な領域"に引き揚げる事となってしまう、"伴侶様"へと据えたのは、紛れもなく貴方――刀聖なのではなくて?」

「ぐっ……だっ、だからこそ、俺のそーいうややこしいトコには、なるべく触れなくて済む様に心を配ってんのに、ココにだって"連れて行く"と言い出したのは、"どこのどなた"だったか解かってて言ってます?」

 二人は、含みが満々に篭った皮肉をぶつけ合う恰好で、レンを間に置いたまま、討論の体勢で向かい合う。

「ソウタさん――私は、伴侶様という立場がどうとかではなく、"妻として"ソウタさんとお考えや悩みや苦労を、ちゃんと分かち合いたいです」

 ――討論へと至る前に、状況へ決定的な楔を打ち込んだのは、アヤコへ身を寄せたままに告げられたたレンの言葉。

 ソウタは、観念した表情を浮かべ、得意気なアヤコに顔を向け、首を縦に下げて説明を一任してみせる。


「簡単に言えば――"自分たちの企て"へ、刀聖軍……そして、ハクキが守護者たる私から、"お墨付き"という名の後ろ盾を得たかったのですよ。

 クーデター謀反という、暴挙への容認を……」

「――?!」

 冷ややかに――そして、淡々とアヤコの口から紡がれた驚きの見解に、レンは思わず目を見張る。

「聖狭間の後――ハクキ連邦は、"刀聖軍"の所業に呼応しようと動いたものの……首長議会の反対に会って断念を余儀なくされ、それに不服を抱いた軍の一部は次々と出奔――それが、現在の連邦軍の状況。

 要は、利略や主義主張ばかりに感けて、目前の大局を見ようとしない――議会制や文民統制下の柵に憤っている、軍部内の武人らを抑える事に必死なワケですよ……彼や統領殿は」

 ――と、アヤコを援護する体で、口を挟んで来たのはヒロシで、彼は小さな溜息を吐き、おかげで茶で喉を潤す間を得たアヤコに手を向け、再び語り手の任を明け渡す。

「私を"再び、国守として擁立する事も、やぶさかでない"――それが、彼が並べた口上や言動に含まれていたのは見え見えでした。

 "抑え続けるのはもう限界、いっそ加担しての革新派一掃も考えているので、その際は刀聖軍の支援と、国守としての再臨を願いたい"――それがノブユキ様、モトハル殿のホンネなのでしょう……」

 アヤコは、渋い表情でそんな見解を語り、悔し気に下唇を噛む。

「……俺が、アヤコ様の復権のために動いてると思われてんのが、浅はかで癪に障る解釈だってんだよ!

 大局見えてなくて、俺の考えも解せてない、浅はかな野郎なのはハクキてめぇらじゃねぇか!」

 ソウタは、苛立った様でそう声を荒げ、茶碗に残っていた茶を喉元へと呷る。

「まあ、モトハル殿も愚者ではなさそうですから、貴方のその憤りは伝わっているでしょう」

 ソウタを宥める口調でそう言ったアヤコは、ニヤリと口元を緩めながら、東の夜空から零れる星の光を眺めるのだった。



「――やはり、継承者は"かの少年"であったか……」


 その、東の夜空の先――ソットの町にある、とある屋敷の居室にて、書状を手にそう唸り気味に独り言ちているのは――ハクキ統領、ノブユキである。

 彼は、ソウタたちとの会談のため、数日前からこのソットの町に滞在していた。

 手にしている書状は、モトハルがソウタたちとの単独接触の後、急ぎ書き上げて子飼いの暗衆を奔らせて届けた、極秘裏の報告である。

「そして……大将殿の企みも、"やはり"袖にされたというワケか」

 ノブユキは、口元を緩めながらそう呟くと、側に置いた猪口を口にする。

(当世刀聖は"ツツキが子"――なれば、恩人であるアヤコ様の復権謀るは道理……そう考えるのは、実に浅はかなのだよ。

 彼女は……その様な育て方などは決してしないし、ソレはリョウゴ殿の手も加わったとなれば尚更……返って怒りを買ってしまったのは、当然の流れよな)

 酒の味と香りを、口内と鼻腔に燻らせながら、そんな黙考に入ったノブユキは、怪訝とした表情で書状の中身をそう評する。

(それにしても……あの裏びれた瞳の少年が、今や当世刀聖様か……)

 ノブユキは、少年時代のソウタの姿を思い浮かべ、これにもニヤリと口元を緩めながら……

「……流石だよ、リョウゴ殿は。

 ちゃんと、彼女の力にもなり、護るに得る者を継承者に据えて逝くとはね」

 ――と、完敗な態で両手を拡げ、書状を顔の上に載せて天井を仰ぐ。


 そして――その書状の端に綴られた"伴侶様"の文言を、目線の端に置き、気を取り直す態で身体を起す。


("名や素性などの詳しき事柄は得られなかったし、マトモに言葉を交わす機会も無かったが――風体思えば、かの"ヤマカキの少女"を娶られたのではないかと推測致す"――か。

 コレも――"因果"にござるのかな?、リョウゴ殿よ……)

 ノブユキは、心中でそう呟き、またニヤリと口元を緩めた。
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