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Prologue
しおりを挟む閑散とした公園。風に舞う紅葉の数が秋の訪れを告げていて、遊具の横を染めていく。
空を見上げると、目に入るのは紅い夕焼け。雲はセピアに色付いて、高層マンションの影が長く伸びている。隣道を車が通る度にそれが揺れている気がした。
放課後。時刻は十八時を回っていた。ベンチに置かれた学生鞄を挟んで、そこに二人の学生が座っている。
その内の一人、莎崎蓮人は見遣る景色から視線を戻し、隣の少女に目を向ける。
不思議な少女だった。名前は、杠葉佳織。高校生。
長い黒の髪が夕暮れを受けて仄かに朱を感じさせている。白い肌に端正な顔立ち。制服に合わせたカーディガンが大人びて彼女を魅せていた。
「どうしたの?」
首を傾げた佳織と目が合った。肩にかかった髪を舞い落とし、見上げるように顔を向けている。それに首を振ると、蓮人は再び空を見上げた。
秋の斜陽。それはどこか静謐で、手を伸ばしても届かない月のような儚さを赤い光の中に秘めている。
彼は沈みゆく陽光を眺めながら、そっと瞼を落とす。
公園のベンチでは、佳織とあまり多く言葉を交わさなかった。それはこの時間が、この夕日のように静謐で、貴重なもののように感じるから。
だから、二人は景色を見ている。そこを包む音を聞く。時には目を閉じて、夜にするのだ。隣に聞こえる息遣いだけが、意識をこの世界に留めていた。
「……ふぁあ」
大きく、欠伸を零した。自分と自然の境界が曖昧になって、眠気が訪れたのだ。
次第に意識は薄れゆき、景色が微かに滲んでいった。音も少しずつ遠ざかって、自分の居場所が分からなくなっていく。
ベンチの背もたれに預けた重さが傾いて、横に滑った。視界がゆっくりと回り始め、冷たい感触がそれを止める。
そのまま、意識を沈めたくなった。目を閉じて、音が聞こえなくなった世界の中で。彼女の代わりに頭を支えた、学生鞄の硬さがひどく胸の奥を締め付ける。
……もう、いないのか。
秋の夕暮れにしては珍しく、雨が頬を伝っていった。
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