転校生

なかとし

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第5章

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 季節は冬になり、師走に入った。今年も残すところ、あと僅かである。
 直が不登校になってから今日までに、中野家はもっと悪い方向に変わってしまったように思う。直が不登校になって母親の妙子が家事を休むようになったのだ。父親である泰造は、相変わらず仕事仕事で家のことは取り繕ってくれない。直も不登校になってからは、自分の部屋から、あまり出てこないようにしていた。引きこもりではないと、直は思っている。これが精一杯出来る直の抵抗だった。
 そんな折、担任の川本先生から「一度、直君と話したいことがある」という電話があって、その時は妙子が応対したのだが、結局、直は川本先生との電話を拒否したのだった。
 直はそれから川本先生がどうなったかは知らないが、今日の朝、母から、
 「直、今日は担任の川本先生が家にいらっしゃるのよ。相談してみましょ」と言ってきた。
 「なんだよ、今更。散々俺を苦しめてきて。今さら相談して何になるんだよ」
 「いいから。話だけでもして今の直の苦しい思いを伝えてみましょうよ」
 「だから今さら何だよ。苦しみ苦しみって、他人に俺の苦しみがわかるのかよ」直は、机を拳で叩いた。
 「親父だって仕事仕事って、ウゼーんだよ」
 「お父さんのことも相談してみるから」
 妙子は直の肩に手をおいた。
 直の興奮が治まり出した頃、家のインターホンのチャイムが鳴った。
 「ごめんください、中野直君の担任をしております川本ですが」
 川本先生が来たみたいだ。今までもそうだったから担任が来たところで何も変わらない。今回もきっとそうだろう。直は、「早く帰ってくれ」と呟いた。
 母の妙子と川本先生は何やら玄関先で話しているようだ。
 「ありがとうございます、ありがとうございます……」
 「先生が……担任で……はい」
 「直君の力になります。だから一度、直君と話させて頂けませんか」
 直は片耳を澄まして聴いていた。母と川本先生が居間にやってきた。

 ※ 

 川本先生と話が出来た。自分の思いも伝えることが出来た。川本先生は相槌を打ちながら真剣に聞いてくれた。時折、川本先生は涙を見せることもあった。
 「直、一度学校に戻ってみないか。それで、勇気を出して皆の前で自分のこと、伝えてみなよ。三年ニ組の連中は、君が思っているほど心が冷たい奴らじゃない。君が学校に来なくなって皆んな心配してるんだぞ。私たちのせいで中野君が学校に来れなくなったんじゃないか、って先生んとこに相談に来た子もいたんだよ」
 川本先生は涙を拭い、僕を真っ直ぐに見て、
 「直、君は本当は優しい人間なんだ。その優しさを自分で殺してしまっては可哀想だと思わないか。先生は君と話せて、君は本当は明るい子なんだって思った。だから、これからはその明るさで周りの困っている人を助けてあげられる、そんな優しい優しい人間になって欲しいんだ」
 僕は下を向いていたが、先生の話は一音一音しっかり耳に届いていた。
 「直、明日のホームルーム。直の苦しくてどうしようもなかった思いを皆んなに伝えてみよう」
 川本先生は帰り際、玄関先で僕を真っ直ぐに見て、力強くそれでいて優しい口調で僕を後押ししてくれた。
 「じゃあ、明日待ってるからな」
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