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説明回というか種明かしというか、とにかくなかつの腹黒さをアピールしてみた
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今までで一番短い異世界での撮影時間だったと思う。まぁ、一番と言ってもまだ数回程度だが。
特に何か派手なことをするでもなく、ただ喫茶店で美女、もしくは美少女と呼ばれるであろう見た目の女神と話をしているだけで今日の動画は終了である。
そもそも今回は他に目的があったから仕方がないといえば仕方のないことだろう。
異世界の動画をYouTubeに上げたところ、超人気米歌手ジャスティス・モモンガがSNSで拡散したことも合まって、尋常ではない反響があった。
もしかすると異世界の秘密を探ろうと黒服さんたちがやって来て、俺たちに身の危険が迫るかもしれない。
しかし神様からの手紙でなんとかしてくれるという話だったので、とりあえずカメラを持って異世界に向かったのが今日の朝だ。
まぁ、確かにアテナを名乗る神様と話している途中、そのことについては記憶の片隅に追いやられていたわけだが、結局身の危険に関して何の解決も見ないまま帰宅している。
何故ならなかつがいつも悪巧みをする時にする、超悪そうなラスボス的な表情を浮かべたからに他ならない。
きっと面白いことになる、そう思ってあの場では空気を読んだが、そろそろ何を考えてるか教えてもらわないと気になって夜も眠れないことだろう。
自力でなかつが何を考えているのか考えたらどうかとも思うが、どうせ無理であろうことは小学校からの付き合いの俺がよくわかっているので、さっさと聞くことにした。
「それで、そろそろ話してくれるんだろうななかつさんよぉ。今回はどういった悪巧みをするつもりなんだ?」
「……めんどいなお前に説明するの」
顔を見ればわかる、これは本気でめんどくさがってる時の表情である。
だからと言ってはいそうですかと言うわけにもいかない、こっちだって命が懸かっているかもしれないのだ。
「いやいや、頼むよ説明してくれって。それに普通に部屋でくつろいでるけど大丈夫なん?黒服やって来るって話で異世界の神様に助けを求めに行ったわけだろ。それにそれにファミリアに入ってっていう話も断ってよかったのかよ。他の神から勧誘されてるなんて、俺のところには話きてないぞ。それからそれから───」
「わかったから。順を追って説明するから五分黙れ」
俺は口を真一文字に結んで首だけ縦に振って頷く。
そしてなかつは|俺にも(・・・)わかるよう、噛み砕いた説明を始める。
そうしてしばらくの間、六畳一間の少し散らかった手狭な部屋は、なかつの声以外音すら立つことはなかった。
なかつの説明はこうだ。
身の安全が確保されていると確信した理由、他のファミリアから勧誘があるとアテナに嘘をついた理由、そもそもなんで異世界に呼ばれたのかという理由。
それらを|異世界(あっち)の世界の神の都合と合わせてきっかり五分間で説明してくれた。
ちょうど俺の気になっていた疑問全てに答えてくれたのである。
横でタイマーを使い時間を測っていたオタが、スマホの画面をこちらに向けペタペタと拍手をしているので間違いない。
説明しつつ頭の中で秒数を正確に数えるという、相変わらずのなかつの脳内スペックは半端なさには改めて驚かされる。
ともあれ、ようやくだいたいの事情を理解できたわけである。
そして確認のため自身の中でさらに噛み砕いて、なかつに確認を取る作業へと移行する。
「……えー、つまりー。昔々あるところに、日本とかギリシアとかエジプトの神話が混ざったようなカオスな世界で神様が喧嘩しました。しかし神様同士で戦って怪我するのもアレなので、人間達に戦わせようと思いました。そこで選ばれたのが超鬼むずいダンジョンのある世界で、そこの人間達の中で最初にクリアした人間の所属しているファミリアの勝ちにしようとなりました。そこから結構時間も経ち、喧嘩とかどうでもよくなったものの、楽しいのでダンジョン攻略の手伝いを口実に神様が遊び呆けています。そして先程会ったロリ巨乳のアテナ様もそんな神々の娯楽に興じていた一人。そしてある時彼女がYouTubeを見ていて目に止まったのが、YouTube史上最高に面白いと評判のKKKというYouTuber、なんか気になったので異世界に来るよう手紙を書きましたとさ。なので命を懸けて戦うよね?よね?めでたしめでたし。ってことでいい?」
「なんで日本昔話の語り風なのかは知らんけど、だいたいのそれで合ってるな。苦労して説明した甲斐があったよ」
「なるほどぉ。あの短い時間でよくここまで推理って、相変わらずとんでもない推理力だぜ。お前なら見た目が子供の名探偵とタメ張れるな。でもなかつは一番大切なこと忘れてるみたいなんだよなー。いやぁ残年。なかつの説明に点数をつけるなら、まぁ100点くらいだが、まだ101点を取ることはできなかったようだね」
「お前のことだ、どうせまたどうしようもないこと言い出すんだろ」
THE白い目と言いたくなるような、お手本通りの白い目のなかつに俺は言い放つ。
そもそもいつも白い目向けられているので、今更ショックなんて受けないのだ。
「俺達の動画を見てくれてコメントまでくれたんだろ神様が、つまり俺達のファンってことだ。それならやっぱりあの時ファミリアに入るって言ってあげるべきだった。なかつ君、君には愛が足りないのだよ!」
しかし、白い目は変わらずである。驚きの白さを謳うCMに抜擢されるレベルである。
そうは言ったものの、何か胸のどこかに引っかかるものを感じた。
ただいつもみたいに白い目を向けられているのとは違い、何かちゃんとした理由があるような気がした。
これまでの出来事で不可解だったいくつかを思い浮かべ、なかつほどではないにしろ集中力を最大限まで高める。
思い出せそうで思い出せないモヤモヤとした感情から一転。
なかつの気持ちになって考えてみようと思った瞬間、スルスルと流れるように答えが纏まり全てが繋がっていく。
なんというか、なかつに頭脳で対等に渡り合えたような気がして、無性に嬉しかった。
「わかった……わかったぞ!なんでなかつがファミリアの勧誘を、嘘をついてまで断ったのか。そして明日また話し合う時間をわざわざ用意したのかがな」
「へぇ……じゃあ言ってみ。多分外れてるから言っても平気だろ」
「平気?まぁいいや、えーごほん、では説明しよう。まず俺がずっと引っかかっていた点、今思い出してみると、さもあらんって感じだな。キーポイントはなかつがツンデレだということ、そして好きな相手をいじめる癖があるということ。例えば俺とか俺とか俺とかに。それらを踏まえて出た結論はなかつがあの神様に惚れ、意地悪しようとしたということで間違いない。性格はともかくあの見た目は認めざるおえないからな、世界一可愛くて世界一美しいって感じだったし」
なかつと神様に対してのフォローも忘れないあたり、流石は気配り上手のケンさんであろう。
しかしなかつだけでなく、オタからの視線が今世紀最大に冷たいような気がしたのは気のせいだろうか?
いやいや、多分気のせいに違いない。
「人には101点がどうの言って、お前は0点以下だな」
「期待もしてなかったけど期待を下回る男、それがケン氏だから」
散々な言われようである、その後なかつとオタで俺を無視しての会話が始まるまでがいつもの流れである。
「ところでなかつ氏ぃ?一つ解決していない疑問あるけど、わざと説明してないっしょ。何故?」
解決してない疑問あったっけ?と俺は心の中で呟いた。
「この部屋が安全かどうかって話だろ?それなら問題ない、ただし説明してくれる証人がまだ来てなくてな。そろそろ来る頃だと思うけど……」
と、なかつが玄関の方へ目を向けると同時、掠れた音のインターフォンが鳴った。
部屋に走る緊張感、しかしなかつは顎をクイっと動かし、俺に行けと指示する。
まぁ、家主だし当然といえば当然なのだが、誰が来たか分かってそうななかつに出てほしかったというのが本音である。
恐る恐る足音を殺し玄関へと向かう、なんていうかつい最近もこんなことがあったなとデジャブに襲われながら、玄関へと辿り着く。
後ろにはなかつとオタも付いて来ている。
そしてドアスコープに写っていたのは、今回で4度目の出場となる配達のお姉さんである。
いつも通り帽子を深々と被っており、作業着は胸とお尻の辺りが窮屈そうにしている。
見慣れた光景に安心した俺は、返事をして扉を開ける。
「お届けものです、サインを」
「あっ、どうも」
と、決まった挨拶を交わし、ペンを受け取ろうとした瞬間だった。
ペンを取ろうとした俺の右脇の隙間から、白い人の手が真っ直ぐ伸びた。
お化けではない、日に焼けていないなかつの手である。
その手は躊躇なく伸び、受領印のサインを書く紙を掴むと、なんの抵抗もないかのようにするりと引き抜いた。
「あっ、ちょっとまっ───」
「もういいよ、配達員のフリなんてしなくてもね。ア、テ、ナ、さ、ま」
なかつは奪った紙を摘んでヒラヒラと動かしているのだろう、耳元ではペラペラという紙の揺れる音と僅かな風が吹いている。
しかし俺の目は目の前の女性に釘付けになっていた。
「アテナ?えっ、なんで?」
隠しても無意味だと悟ったのか、帽子を脱ぎ捨てる。
どうやって帽子の中に入れていたのかは謎だが、空に舞う帽子と同時に腰まで届く鳶色の美しい髪がたなびいた。
「まさか気づかれるとは思わなかったよ、この完璧な変装がな」
そう答えた女性の顔は、確かに先ほど見た女神アテナの顔である。
文句があるなら言ってみろと言わんばかりのアテナの視線は俺の後ろに立つなかつへと向き、脳内が疑問符だらけ俺もようやく背後のなかつへと顔を向けた。
なかつは奪った紙を見つめ一言。
「なんて書いてあるか読めん」
と、言ったもののその顔に困惑の色は微塵もない。しかしその言葉を聞いたアテナは勝利を確信し、やや見下すような形まで顎が上がる。
「読めないだろうな、当然この世界の国の文字ではないからな。ま、まぁ、他愛もないメモ書きだ早う返せ」
「読めない……確かにそう言ったが、なんて書いてあるかわからないとまでは言っていないぞ。だいたい察しはついているからな」
俺はなかつの言葉を待った、何も知らぬ俺が言葉を発する場面ではないことくらい容易に理解できるからだ。
そして、なかつはいつものようにあまり唇を動かすことなく、冷静に、いや冷ややかに語りだす。
「ファミリアへの加入用紙だろ?配達員のフリをして、裏には契約書の書かれた紙を渡し受領印を受け取り契約を結ぶ。冒険者組合への加入なんかも同様の手口でやっていたんだよなぁ。全く困った人、いや困った神だ。やはりあなたのファミリアに入るのは辞めておこうかな」
なかつは既に悪い顔モード全開。
薄ら笑みに全く笑っていない瞳。
相手の弱みに徹底的に付け込み、じわじわと追い詰めていく気満々のようだ。
対するアテナの額からは一筋の汗が滴っていた。
野球だったら既に五回コールドの勢い、しかし相手は仮にも神である。
このまま終わるようにはとても思えないが、ここまで追い詰められてはアテナが可哀想に思えてきてしまう。
「まっ、まぁ一旦落ち着こ。アテナちゃんも悪いことしたわけだけど、なかつもあんまり責めてやるなよ。な?」
「甘いなケンは。しかしこの紙は破棄させてもらいますよ、それじゃあまた明日お会いしましょう」
なかつがそう言うと、力強く握られていたドアの縁から手が離れ、ゆっくりと扉が閉まったのだった。
翌日、なかつの指示に従った俺達は、何事もなかったかのようにアテナファミリアへの加入を申請。
驚きのあまり頷くしかできなかったアテナの顔は、しばらく経っても思い出せるほどポケーっとしていた。
相手の弱みを握り精神的に優位に立ち交渉に挑むのが、なかつの目的だったらしい。
なかつ曰く、ファミリアを会社として考えた場合、あの|神様(ポンコツ)に舵取りされると不味い。
神様がいなければファミリアを立ち上げられないから、簡単に操れそうなアテナと最初から契約を結ぶつもりではいたらしい。
しかしファミリアの決定権をこちらで全て奪うために一芝居打ったというのが、今回なかつの暗躍した計略だったそうな。
というところで、今回の話のオチを終わるとします。
特に何か派手なことをするでもなく、ただ喫茶店で美女、もしくは美少女と呼ばれるであろう見た目の女神と話をしているだけで今日の動画は終了である。
そもそも今回は他に目的があったから仕方がないといえば仕方のないことだろう。
異世界の動画をYouTubeに上げたところ、超人気米歌手ジャスティス・モモンガがSNSで拡散したことも合まって、尋常ではない反響があった。
もしかすると異世界の秘密を探ろうと黒服さんたちがやって来て、俺たちに身の危険が迫るかもしれない。
しかし神様からの手紙でなんとかしてくれるという話だったので、とりあえずカメラを持って異世界に向かったのが今日の朝だ。
まぁ、確かにアテナを名乗る神様と話している途中、そのことについては記憶の片隅に追いやられていたわけだが、結局身の危険に関して何の解決も見ないまま帰宅している。
何故ならなかつがいつも悪巧みをする時にする、超悪そうなラスボス的な表情を浮かべたからに他ならない。
きっと面白いことになる、そう思ってあの場では空気を読んだが、そろそろ何を考えてるか教えてもらわないと気になって夜も眠れないことだろう。
自力でなかつが何を考えているのか考えたらどうかとも思うが、どうせ無理であろうことは小学校からの付き合いの俺がよくわかっているので、さっさと聞くことにした。
「それで、そろそろ話してくれるんだろうななかつさんよぉ。今回はどういった悪巧みをするつもりなんだ?」
「……めんどいなお前に説明するの」
顔を見ればわかる、これは本気でめんどくさがってる時の表情である。
だからと言ってはいそうですかと言うわけにもいかない、こっちだって命が懸かっているかもしれないのだ。
「いやいや、頼むよ説明してくれって。それに普通に部屋でくつろいでるけど大丈夫なん?黒服やって来るって話で異世界の神様に助けを求めに行ったわけだろ。それにそれにファミリアに入ってっていう話も断ってよかったのかよ。他の神から勧誘されてるなんて、俺のところには話きてないぞ。それからそれから───」
「わかったから。順を追って説明するから五分黙れ」
俺は口を真一文字に結んで首だけ縦に振って頷く。
そしてなかつは|俺にも(・・・)わかるよう、噛み砕いた説明を始める。
そうしてしばらくの間、六畳一間の少し散らかった手狭な部屋は、なかつの声以外音すら立つことはなかった。
なかつの説明はこうだ。
身の安全が確保されていると確信した理由、他のファミリアから勧誘があるとアテナに嘘をついた理由、そもそもなんで異世界に呼ばれたのかという理由。
それらを|異世界(あっち)の世界の神の都合と合わせてきっかり五分間で説明してくれた。
ちょうど俺の気になっていた疑問全てに答えてくれたのである。
横でタイマーを使い時間を測っていたオタが、スマホの画面をこちらに向けペタペタと拍手をしているので間違いない。
説明しつつ頭の中で秒数を正確に数えるという、相変わらずのなかつの脳内スペックは半端なさには改めて驚かされる。
ともあれ、ようやくだいたいの事情を理解できたわけである。
そして確認のため自身の中でさらに噛み砕いて、なかつに確認を取る作業へと移行する。
「……えー、つまりー。昔々あるところに、日本とかギリシアとかエジプトの神話が混ざったようなカオスな世界で神様が喧嘩しました。しかし神様同士で戦って怪我するのもアレなので、人間達に戦わせようと思いました。そこで選ばれたのが超鬼むずいダンジョンのある世界で、そこの人間達の中で最初にクリアした人間の所属しているファミリアの勝ちにしようとなりました。そこから結構時間も経ち、喧嘩とかどうでもよくなったものの、楽しいのでダンジョン攻略の手伝いを口実に神様が遊び呆けています。そして先程会ったロリ巨乳のアテナ様もそんな神々の娯楽に興じていた一人。そしてある時彼女がYouTubeを見ていて目に止まったのが、YouTube史上最高に面白いと評判のKKKというYouTuber、なんか気になったので異世界に来るよう手紙を書きましたとさ。なので命を懸けて戦うよね?よね?めでたしめでたし。ってことでいい?」
「なんで日本昔話の語り風なのかは知らんけど、だいたいのそれで合ってるな。苦労して説明した甲斐があったよ」
「なるほどぉ。あの短い時間でよくここまで推理って、相変わらずとんでもない推理力だぜ。お前なら見た目が子供の名探偵とタメ張れるな。でもなかつは一番大切なこと忘れてるみたいなんだよなー。いやぁ残年。なかつの説明に点数をつけるなら、まぁ100点くらいだが、まだ101点を取ることはできなかったようだね」
「お前のことだ、どうせまたどうしようもないこと言い出すんだろ」
THE白い目と言いたくなるような、お手本通りの白い目のなかつに俺は言い放つ。
そもそもいつも白い目向けられているので、今更ショックなんて受けないのだ。
「俺達の動画を見てくれてコメントまでくれたんだろ神様が、つまり俺達のファンってことだ。それならやっぱりあの時ファミリアに入るって言ってあげるべきだった。なかつ君、君には愛が足りないのだよ!」
しかし、白い目は変わらずである。驚きの白さを謳うCMに抜擢されるレベルである。
そうは言ったものの、何か胸のどこかに引っかかるものを感じた。
ただいつもみたいに白い目を向けられているのとは違い、何かちゃんとした理由があるような気がした。
これまでの出来事で不可解だったいくつかを思い浮かべ、なかつほどではないにしろ集中力を最大限まで高める。
思い出せそうで思い出せないモヤモヤとした感情から一転。
なかつの気持ちになって考えてみようと思った瞬間、スルスルと流れるように答えが纏まり全てが繋がっていく。
なんというか、なかつに頭脳で対等に渡り合えたような気がして、無性に嬉しかった。
「わかった……わかったぞ!なんでなかつがファミリアの勧誘を、嘘をついてまで断ったのか。そして明日また話し合う時間をわざわざ用意したのかがな」
「へぇ……じゃあ言ってみ。多分外れてるから言っても平気だろ」
「平気?まぁいいや、えーごほん、では説明しよう。まず俺がずっと引っかかっていた点、今思い出してみると、さもあらんって感じだな。キーポイントはなかつがツンデレだということ、そして好きな相手をいじめる癖があるということ。例えば俺とか俺とか俺とかに。それらを踏まえて出た結論はなかつがあの神様に惚れ、意地悪しようとしたということで間違いない。性格はともかくあの見た目は認めざるおえないからな、世界一可愛くて世界一美しいって感じだったし」
なかつと神様に対してのフォローも忘れないあたり、流石は気配り上手のケンさんであろう。
しかしなかつだけでなく、オタからの視線が今世紀最大に冷たいような気がしたのは気のせいだろうか?
いやいや、多分気のせいに違いない。
「人には101点がどうの言って、お前は0点以下だな」
「期待もしてなかったけど期待を下回る男、それがケン氏だから」
散々な言われようである、その後なかつとオタで俺を無視しての会話が始まるまでがいつもの流れである。
「ところでなかつ氏ぃ?一つ解決していない疑問あるけど、わざと説明してないっしょ。何故?」
解決してない疑問あったっけ?と俺は心の中で呟いた。
「この部屋が安全かどうかって話だろ?それなら問題ない、ただし説明してくれる証人がまだ来てなくてな。そろそろ来る頃だと思うけど……」
と、なかつが玄関の方へ目を向けると同時、掠れた音のインターフォンが鳴った。
部屋に走る緊張感、しかしなかつは顎をクイっと動かし、俺に行けと指示する。
まぁ、家主だし当然といえば当然なのだが、誰が来たか分かってそうななかつに出てほしかったというのが本音である。
恐る恐る足音を殺し玄関へと向かう、なんていうかつい最近もこんなことがあったなとデジャブに襲われながら、玄関へと辿り着く。
後ろにはなかつとオタも付いて来ている。
そしてドアスコープに写っていたのは、今回で4度目の出場となる配達のお姉さんである。
いつも通り帽子を深々と被っており、作業着は胸とお尻の辺りが窮屈そうにしている。
見慣れた光景に安心した俺は、返事をして扉を開ける。
「お届けものです、サインを」
「あっ、どうも」
と、決まった挨拶を交わし、ペンを受け取ろうとした瞬間だった。
ペンを取ろうとした俺の右脇の隙間から、白い人の手が真っ直ぐ伸びた。
お化けではない、日に焼けていないなかつの手である。
その手は躊躇なく伸び、受領印のサインを書く紙を掴むと、なんの抵抗もないかのようにするりと引き抜いた。
「あっ、ちょっとまっ───」
「もういいよ、配達員のフリなんてしなくてもね。ア、テ、ナ、さ、ま」
なかつは奪った紙を摘んでヒラヒラと動かしているのだろう、耳元ではペラペラという紙の揺れる音と僅かな風が吹いている。
しかし俺の目は目の前の女性に釘付けになっていた。
「アテナ?えっ、なんで?」
隠しても無意味だと悟ったのか、帽子を脱ぎ捨てる。
どうやって帽子の中に入れていたのかは謎だが、空に舞う帽子と同時に腰まで届く鳶色の美しい髪がたなびいた。
「まさか気づかれるとは思わなかったよ、この完璧な変装がな」
そう答えた女性の顔は、確かに先ほど見た女神アテナの顔である。
文句があるなら言ってみろと言わんばかりのアテナの視線は俺の後ろに立つなかつへと向き、脳内が疑問符だらけ俺もようやく背後のなかつへと顔を向けた。
なかつは奪った紙を見つめ一言。
「なんて書いてあるか読めん」
と、言ったもののその顔に困惑の色は微塵もない。しかしその言葉を聞いたアテナは勝利を確信し、やや見下すような形まで顎が上がる。
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なかつは既に悪い顔モード全開。
薄ら笑みに全く笑っていない瞳。
相手の弱みに徹底的に付け込み、じわじわと追い詰めていく気満々のようだ。
対するアテナの額からは一筋の汗が滴っていた。
野球だったら既に五回コールドの勢い、しかし相手は仮にも神である。
このまま終わるようにはとても思えないが、ここまで追い詰められてはアテナが可哀想に思えてきてしまう。
「まっ、まぁ一旦落ち着こ。アテナちゃんも悪いことしたわけだけど、なかつもあんまり責めてやるなよ。な?」
「甘いなケンは。しかしこの紙は破棄させてもらいますよ、それじゃあまた明日お会いしましょう」
なかつがそう言うと、力強く握られていたドアの縁から手が離れ、ゆっくりと扉が閉まったのだった。
翌日、なかつの指示に従った俺達は、何事もなかったかのようにアテナファミリアへの加入を申請。
驚きのあまり頷くしかできなかったアテナの顔は、しばらく経っても思い出せるほどポケーっとしていた。
相手の弱みを握り精神的に優位に立ち交渉に挑むのが、なかつの目的だったらしい。
なかつ曰く、ファミリアを会社として考えた場合、あの|神様(ポンコツ)に舵取りされると不味い。
神様がいなければファミリアを立ち上げられないから、簡単に操れそうなアテナと最初から契約を結ぶつもりではいたらしい。
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