終末のダンジョンアカデミア

三國氏

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デスイーター その1

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「真司君大丈夫っ!」

 両手を膝についた体勢で胃の中のもの全て逆流させた俺に一番早く近づき、背中をさすってくれたのは意外にも杏花だった。
 杏花は左手で背中をさすりつつ背を屈め、心配したような顔で覗き込んでいる。
 しかしそこで俺の頭には一つの疑問府が浮かぶ。

(杏花は憶えていないのか?5年前のことを……いや、むしろ俺よりはっきり憶えていたような……)

 そんなことをふと思いながら、俺は右手を軽く挙げ大丈夫だと杏花と他のみんなに示す。
 その間にも場の緊張感はさらに張り詰め続け、太田という隊員の言い放った死神というモンスターの名前が重くのし掛かる。

「死神……だと。なんでこんな時に。と、とにかく君達はすぐゲートから出て行くんだ、いいね。後は大人の仕事だ」

「えぇ」

 そう言い残し去って行く笹田三等陸尉の背中は、最初に会った時より少し頼りなく見えた。

 そして笹田三等陸尉は駆け足で隊列の中央に消えていき、声を張り上げいくつもの指示をすぐさま出していく。
 隊は索敵班が発見した死神のいる方向の森の奥を向きつつ、ゴブリンなどは最小限の魔法攻撃で撃退。全く無駄のない動きと言っていいだろう。

「それで私達はどうする?あの男の言う通りゲートを通って戻るのか?」

 抑揚の少なくあまり大きな声ではないながら、通りやすい凛とした声が右側で聞こえた。
 何度も地面に唾を吐いたおかげで、少しだけ口の中がマシになった俺は顔を上げ、その声の主である柳生を見つめる。
 しかし柳生と目が合うことはない、何故なら彼女は自衛隊員らと同じ森の奥を鋭く睨みつけているからだ。
 どうやら柳生は戻る気など無いようだ。

 そして俺が口を開こうとした直後、前方に広がる生い茂った緑の木々の隙間からモンスターが現れる。
 大鎌を持ち、フード付きの真っ黒なローブを被り、そのローブよりもさらに暗く見える闇をそのまま抉り出したような体。ただし左手の部分は無い。
 そして足はなく鎌を持ったまま木々の間を縫うようにジグザグ浮遊した状態で迫る。

「今外に出るのは危ない。特に奴が現れた今は余計にヤバイ」

 先に吐いてしまったお陰で逆にスッキリした様で、なんとか|死神(ヤツ)を見ても冷静さを失わずにいられた。
 そんな冷静な状態で下した決断は、ダンジョンの中にいた方が生存の確率は上がるというもの。

「それを簡単に説明できるか?」

 そう俺に促した柳生の表情は、自分をというよりも、杏花達他のメンバーを説得してくれと言っている様にも聞こえた。

「俺は前に|死神(ヤツ)に会ったことがある」

 そこまで言うと数人が顔を顰めたので、一旦言葉を区切り再考した後口を開く。
 あの出来事を簡潔かつわかりやすく説明するというのは、なかなか難しいというか。ほぼ不可能のような気がする。

「まぁ、色々細かいことは省くけど。とにかくあれには現実世界にある銃火器じゃ効かない……気がする。おそらくここから出て行ったら戦う術は無くなるわけだろ、だったらここで戦った方がいい。それに|死神(ヤツ)の左手を見てくれ、見ろというか左手が無いんだが、あれは俺が切った」

 正直に言おう。
 はっきり言って確信を持てることなんてほとんどない。
 |死神(ヤツ)の左手を叩き切ったのが俺だろうということくらいしかわからない。
 だからたぶんとかおそらくとかばっかりなのは大目に見て欲しい。
 そう思いつつ視線を巡らせれば、それぞれ言いたいことが沢山ありそうな顔をしている。

「できれば全部聞いてから結論を出したいんだが時間がない。もうここはあれだ。多数決で決めよう、文句はなしだぞ───」

「いいよ別に」
「そうね、やりましょ」
「わたくしも賛成ですわ」

 口々に賛意を示すクラスメイト達の言葉に、まさに開いた口が塞がらない状態に陥る。
 恐怖というものはこいつらには無いのだろうか。
 しかも積極的な性格の東や|鍵束(かぎたば)だけでなく、お淑やかなご令嬢のイメージのある|絵汰(えた)まで同意しているのだ、これで驚かない奴は普通じゃない。

 そう思うと同時にふと思い出したのは数年前に見た何かのテレビ番組だ。
 世界の命知らず特集とかでやっていた、その番組では200mの超高層ビルでの命綱無しのアクロバティックや、パラシュート無しでの空からのダイビング。
 誰がどう見ても頭のネジを数本何処かに忘れて来てしまったような人間ばかりだった。

 しかしその中の1人、見事に太陽光を反射する頭の外国人の中年男性が、高らかに笑ってこう言ったのを今でもよく覚えている。

「確かに俺は命知らずの馬鹿野郎に見えるだろうな。でももっと頭のおかしい奴らがいるだろ?そうだよ、ダンジョン攻略者達だ。あれに比べりゃ、俺なんてちょっと高いところが好きなだけなその辺のおじさんだぜ」

 つまりだ。ここにいる俺とたぶん杏花を除く6人の同級生方は、誠に残念ながら死にたがりのおじさんから見ても異常に見える、ぶっ飛んだ集団ということを認めねばいけないようだ。

「決定だな。それでどうする?今すぐ加勢するか」

 前髪を軽く払い流し目でこちらを見る柳生はどうやらいつでも行けるらしいが、流石にこのタイミングで行けば邪魔になるのがオチだろう。

「いや、待とう。あの人らが倒せるならそれでいい。ヤバそうなら俺らで仕留める」

 そう言っている間にも|死神(ヤツ)は降り注ぐ、赤や青や黄色に光る魔法攻撃をゆらりと躱し、ダンジョン特科の自衛隊員の一人に鎌を振り下ろす。
 自衛隊員の一人は肩口から下腹部を切られ鮮血が飛び散る。
 隊長の笹田も必死に声を出し鼓舞しているが、そもそも浮き足立っている彼らでは時間稼ぎが精一杯かもしれない。

「行ったほうがよくね?あれじゃ全滅すんぞ
 」

 東の言った通りだ。一人また一人と鎌の餌食になり既に4人が地面に伏している。
 実践を想定しての訓練が幾度行われたかはわからないが、本物の実践が明らかに不足している。
 さらに|死神(ヤツ)の反対側の隊員がオークの振り回した、辺りの木をそのまま引っこ抜いたような棍棒で殴られ吹き飛ぶ。

 一言で言うなら、もう見てられない状態である。

「わかった、行こう」

 俺はようやく決心を固める。
 別に|死神(ヤツ)にビビっていたわけじゃない。
 ほんのちょっと5年前の遭遇がトラウマで、たまに悪夢に魘されたりして、近づいて来ていることを聞いて嘔吐してしまった程度。
 他の誰かに倒されてしまうくらいなら、俺が雪辱戦を挑んでやりたいと思っていたのだ、本当だ。

「先頭は俺と柳生でいく。東は他の雑魚を引きつけてくれ。慶瞬と蘭丸は遠距離で援護、杏花達はヒールを頼む。攻撃を受けてからじゃなく、受ける直前には発動してくれ」

「わかった、難しそうだけどやってみる」

「まぁ……3人なら、ね?」

「えぇ。任せてください」

 杏花、鍵束、絵汰の3人の同意は得られた。
 東は不満そうな顔を見せているがこの際仕方がない、いくらあいつの攻撃耐性のタレントでもあの大鎌を防ぐのは厳しい。
 だったら剣を使える俺と柳生が前線なのがベター。

「いくぞ、左側から仕掛ける」

 7人目か8人目の自衛隊を倒したところで、一度左に外れ距離を取った|死神(ヤツ)目掛けて駆ける。
 20mが15mになり、数瞬後には|死神(ヤツ)10mを切る。
 まだこちらに気付いてはいない、目の前の|自衛隊(えもの)を吟味し、誰から鎌の餌食にしようかというようにユラユラと浮遊している。

 そして5m切ろうかというところで、待ち構えていたとでも言わんばかりに、死神が反転し鎌を振り上げる。

(……あれ?こんなシーン前にもあったような……)

 その直後俺の剣と死神の鎌が耳をつんざくような金切り音が鼓膜を揺さぶり、目の前には派手な火花が飛び散った。
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